1人乗るだけでも大きく軋むベッドに2人の男が乗るとミシミシ…と不穏な悲鳴を上げ始め、青年の眉間に皺が寄る。
「大丈夫なん?このベッド。壊れるんちゃう?」
「壊れた時は壊れた時だ。床でするなり、近所の宿に行くなりすりゃ良いだろ?」
「……お前、そこまでして俺とヤりたいんかいな…。やらしいやっちゃなぁ。」
微かに引き攣り笑いを浮かべても、少年は動じる事無く誘い込むような瞳で見つめて来る。今までの死んだような眼とは打って変わった熱っぽく光る眼。…こんな眼ぇして相手の男挑発したんやろか。そう思うと胸の中に嫉妬のような感情が渦巻き、無意識の内に腕が伸び、少年の身体を引き寄せて唇を押し付ける。ほんの数分前まで同性の人間と口付けをする事に抵抗を感じていたのに。
「…んっ………」
首に手を回し、角度を変えてキスを楽しむ少年の唇は思ったよりも柔らかかった。その感触は女と口付けを交わす時と全く変わらない。自然に青年の方も角度を変えて唇の感触を楽しみ始める。少年は何処となく頬を上気させ、ウットリとした表情を見せ始めた。今まで自分を抱いて来た(“犯して来た”の方が合っているかも知れない)男は皆、獣のような口付けで自分の唇を蹂躙して来た。だが、青年の唇は柔らかくて、優しくて、暖かくて……。
「……ワレン………」
僅かに開いた唇から青年の名を漏らす少年の瞳が濡れ始める。その理由が何であるかは自分でも分からないけれども。その瞳を見つめながら青年は僅かに戸惑った表情で口を開いた。
「…なぁ、ハンニ。男ヤる時って女ヤる感覚でえぇん?よお分からへんわ」
「…………………………」
馬鹿野郎。ムードぶち壊しやがって。まぁ、仕方ないか。お前、男とヤる趣味ねぇ言ってたもんな。心の中で苦笑を浮かべながらも再度首に手を回し、艶っぽい眼で青年を見つめながら鳶色の髪を掻き回す。
「…あぁ。大体大丈夫と思う。とりあえず試してみたらどうだ?」
「とりあえず……かぁ。上手く出来へんかも知れんけど堪忍な」
言うと同時に唇を押し付けて、ベッドに優しく押さえ付けると少年は内心でクスクス笑いをしながらも官能的な反応をしているかのように薄く眼を閉じた。あぁ、面白ぇ。何時も自信たっぷりな態度の癖に男相手のセックスは自信が無いって事かよ。男相手は童貞同然って訳か。何だか笑えるんですけど。
だが、その余裕も数秒後には完全に吹き飛ばされていた。青年の唇が移動して耳朶を甘く噛んだかと思うと、そのまま鎖骨の辺りに移動してカリッと歯を立てる。その心地良い痛みに熱い吐息を漏らしながら身体を捩らせると、青年は一瞬きょとんと目を丸くしたが、すぐにハハッと笑い出した。
「ホンマや、思ったより感度えぇんや?」
「う……うるせぇな…………」
荒くなりそうな呼吸を必死に整えながら青年を睨もうとするが、熱く潤んでしまったその瞳は誘い込む為の瞳に過ぎない。濡れた深夜の蒼を覗き込みながら身体を異性を扱う時と同じ感覚で愛撫する。指が触れるか触れないかと言う際どい場所で少年の身体を指でなぞると、指の下の身体は汗ばみ、胸の上下が激しくなって来た。
「オイオイ、大丈夫かいな?エライ反応しとるやん」
面白そうに眺めながら、上下する箇所に位置する小さな膨らみを悪戯でもするかのように指先で軽く弄ぶとアッサリと嬌声を上げ、膨らみは固い突起物と化した。女を思わせる反応に青年は無意識の内に舌を近付け、少年の性感帯を何度も舐ると少年の腕が伸び、鳶色髪の頭を押さえ付けた。まるで、その行為を繰り返す事を望むように。
「……はぁっ……はぁっ…………」
「何や、もしかして……胸、感じるん?」
何も言えず、ただひたすら激しい呼吸を繰り返す少年の声を聞きながら青年はクスクス笑いを漏らし、どう言う反応をするのか試すかのように舐っていた突起を口に含み、そのまま吸い上げた。
「やぁっ……あ、あんっ…!」
自分自身が恥ずかしくなるような声を漏らしながらも、青年を求めるように身体を捩じらせ、顔を激しく左右に振りながらシーツを掴む。正直な話、胸以上に刺激を求め始めている箇所があり、それも少年が青年に知らせる必要も無い位の自己アピールを始めていた。
青年は先端から露を漏らす屹立に気が付き、そっと身体を離した。あっ…と消え入りそうな声を上げながら起き上がろうとする少年を押さえつけ、その身体をじっくりと観察する。
「あーあ。ごっつ濡れとるやん。大丈夫かいな?」
心配しているような口調だが表情に緊張感はなく、シーツに水滴を落とす少年の下の半身をじっと眺めている。その視線に少年は湯気が出そうなまでに顔を赤く染め、何かに耐えるかのように歯を食い縛った。
「ば、馬鹿……じっと見るんじゃねぇよ!!」
「何や?恥ずかしいんか」
「なっ………当たり前だろっ!」
「アハハハハハハッ!!」
声を裏返しながらキーキー叫ぶ姿に爆笑する青年に少年の赤い顔がムッとした表情を見せる。上目使いで睨みながら、ゆっくり起き上がったかと思うとそのまま膝をついて座り、青年と真正面から見つめ合う。
「うん?睨めっこかいな………っ!」
おどけた口調が途中で止まる。下半身を襲う濡れた熱。時々固い何かが己を挟み込んで来る。熱の正体である舌が舐り、固い歯が甘噛みをしている。何度もしているのだろうが、余りにも拙い奉仕活動。それでも、少年の口の中には独特の味がする露が容赦なく流れ込んで来た。
「……ホラ見ろよ。お前だって反応してるじゃねぇか」
口を襲う苦味に僅かに顔を歪ませながらも、口の端を吊り上げて笑うと青年は決まり悪そうな表情を浮かべた。しゃあないやん、と口の中でモゴモゴ言いながら頭を掻く青年に甘えるように身体を寄せると、きょとんとした顔が返って来た。
「苦しくないか?……俺、結構苦しいんだけど」
「………………………」
少年の台詞の意味が分かったらしく、僅かに戸惑いの表情を浮かべる。…そら、ハンニは何度もヤッとるけどなぁ。男のそれって入れるように出来てへんやろ?分かっとるんやけど…何ちゅーか……壊れるんとちゃう?その表情と心中に目ざとく気が付いた少年は不満そうに唇を尖らせたが、何も言わずに青年を仰向けに寝かせた。
「…分かった。お前、男とヤる趣味無いって言ってたのに俺が無理矢理誘い込んだからな。お前の手は煩わせねぇよ」
「…………え…」
どう言う事や?と質問しようとする青年の目の前で少年はそっと指を後ろに添え、そのまま解すように素早く動かすと、さっきの暴漢達の物であろう体液が指から流れ落ち、短い嬌声を繰り返す少年の太股を伝い、足を伝った。指によって受け入れる準備を整えて跨って来る姿に、あっと何かを理解し、息を呑んだ時には少年は腰を思い切り沈めて青年のそれを飲み込んでいた。
「やっ…やぁ……ああぁぁぁぁあっ!!!」
身体を大きく弓なりにして仰け反らせ、快楽の悲鳴を上げると共に飲み込んだそれを強く締め付け、ベッドを壊さんばかりに勢い良く律動を始める。最初、呆気に取られた表情を浮かべていた青年も急激に襲う快楽の波に全てを飲み込まれていくのを感じ、気が付けば少年の大きく開いた両の太股を掴んで幾度も突き上げていた。
「な、何………すごっ……凄いいぃっ!!」
感じるままの感想を叫びながら、身体を上下させてより深い快楽を得ようとする。内臓の奥まで貫いて来そうな本体の感触にひたすら酔い、青年の身体の上で跳ねる。その振る舞いは青年が今まで抱いて来たどの女よりも淫らであった。
「…はぁっ……くっ……ハンニも……エライ締め付けしてくんなぁ……!」
息を弾ませ、掠れた声で感想を述べながら少年の動きに合わせて腰を上下させる。その動きに再度嬌声を上げながらも少年は娼婦のような…小悪魔のような笑みを浮かべ、クスクスと笑った。
「…す…すっげぇ動き………気持ち良い……んだろ?…あっ………ぅんっ…!!」
逸物が体内で膨張していく事に気付き、目を固く瞑る。まだ、デカくなるのかよ……。ま、その方が俺としても気持ち良くて有り難ぇけど……。
青年は快楽の余り、視界がボンヤリとして来るのを感じた。絶頂の前触れである事に気付き、下半身もそれを促すかのように激しい律動を繰り返す。上にいる少年の嬌声のリズムが徐々に速くなり、相手も自分と同じ状態である事を知らせる。失われていく視界。本体に集中する熱。そして
「…あ…あぁ……あんっ………!」
少年が艶っぽい声を出し、ビクビクッと身体を痙攣させながら注ぎ込まれた熱を受け止めた数秒後、少年も呆気なく青年の胸の上に白濁液を散らした。
「……はぁ…はぁ………ったく…思いっきり中出ししやがって…見ろよコレ」
ゆっくりと腰を浮かせて身体を離すと、吐き出された精が白い糸を引きながら青年の腹やシーツに滴り落ちる。そのまま何歩か後退し、座り込んで足を躊躇無く開くと白く濡れた蕾からドロッ…と粘液が流れ落ち、シーツに小さな溜まりを作っていった。少年の指がその溜まりや白い蕾を弄んでいるのは掻き出しているのか、快楽の余韻に浸っているのか、それとも青年を再度誘い込んでいるのか。
「…うっさいなぁ……。嫌なら嫌って言えばえぇやろ?」
その見るからに淫靡な行動を取る少年から無意識に目を逸らしつつも反論する青年に少年は口の端を吊り上げながら指を止めた。
「別に嫌って訳じゃねぇよ。ただ、すっげぇ量してたからさ」
それに、結構濃くないか?と表情を崩さずに言う少年の視界が急速に動く。止まった視線の先には自分を凝視している青年の顔。その目は理性の感じられない、何処か異様な光を帯びていて…。その異常さに心配の声をかける間もなく押さえ付けられ、乱暴に貫かれた少年は耐えるかのように目を固く閉じた。
「くっ……ぅああっ…………!」
呻き声と嬌声の中間点のような声を出しながら、青年の背中に回された手は自然と爪を立てる。だが、その表情は恍惚を表していた。
「はぁっ……あっ…そんな………急にっ……」
咎めるような台詞を途切れ途切れに吐くが、既に青年の耳には届いていない。聞こえているかも知れないが、理性が受け止める余裕は無い。少年もその激しさに溺れ、数分も経たない内に青年の手の中で乱れて行く。
その後、2人はけたたましく軋むベッドの上で幾度も果てた。
行為が終わってボンヤリと抱き合う2人の内、鳶色の髪の方が目を細めて赤毛の方の脇腹部分を見つめる。そこには何かに射たれたらしき深い傷跡があった。
「ヤッとる間から気になっとったんやけど…何や?この傷。エライ深い傷やなぁ。事故か何かに巻き込まれたん?」「………………あぁ。ガキの時に射たれたんだ。山の中で」
そう言った後、暫く口を噤んでいたが数十秒後には耐え切れなくなったかのように口を開く。一度開いたその口は溜めていた何かを吐き出すかのように話し続けた。
「ガキの時な。親に頼まれて山まで山菜採りに行ったんだ。その時に…趣味で狐狩りなんかしやがってるアバロンの貴族の奴らとバッタリ会っちまって」
“貴族”の一言に青年は唇を噛んだが、何も言わずに少年の話を聞き続けた。
「俺、キレちまってな。泣きながら抗議したんだ。趣味で狐狩りなんてするな。可哀想じゃないかって。そしたら…奴等、俺に弓を向けて来やがってな。…勿論、それが脅しだったって事は俺にも分かった。……だが、無謀なガキだったからな。俺、弓向けられてるのに真っ向から立ち向かおうとしたんだ。ガキの癖に。……そしたら………」
言葉を切らし、脇に手を添えて視線もその方へ向ける。必死に目を逸らしていたが青年には少年が泣いている事が分かった。
「俺の事、射って逃げやがった………!しかも御大層に毒塗ってる矢でだ。きっと、俺が喋るのはヤベェって思ったから殺そうとしたんだろ。……あの時は本気で死ぬかと思った。それ位、苦しくて痛かった…」
過去を思い出しているのだろう少年の瞳から悔し涙が伝い、それを隠すかのように顔を覆う。それでも、少年は話を止めようとはしなかった。青年のもうえぇから、と言う言葉も無視して。
「…結局な。倒れてる所を村の奴が見付けて医者の所まで運んだんだが……小さな田舎の村だ。大した治療も出来ねぇし、術が使える奴もいねぇ。だから傷が残っちまったんだ。…毒の影響かは知らねぇけど……ちょっと左眼が見え難かったりす……」
突如、少年の瞳が丸くなった。自分の顔の横で鳶色髪の頭が埋まり、力の限り自分を抱き締めている。目を固く閉じた青年は半分泣いているような声で謝罪の言葉を繰り返していた。
「……ゴメンな、ハンニ………。堪忍してや…」
「な、何でお前が謝るんだよ」
「えぇんや。謝らせてや。俺もその根性悪い奴らと同じような血の持ち主やからな…」
「…………そ、そんな…ワレンは違うだろ?」
「俺かて貴族の出身や。似たようなもんやわ。貴族嫌いなんはその所為やったんやな、ハンニ」
「…………あぁ…そうかもな」
戸惑いながら答える少年に青年は再度謝罪の言葉を繰り返しながら抱き締めた。彼は知っていた。少年に傷を付けた貴族の事を。何故なら、彼の家族が幼い頃に定期的に催していた舞踏会で、その貴族(幼い頃の青年にとって彼は貴族にしては下卑た笑顔が印象的だった)“ソーモンの山で出会った愚かな子供に制裁を加えてやった”と自慢げに語っていたのを聞き、言いようのない不快感と怒りを覚えたのを記憶していたから。だから、青年は貴族の言う“愚かな子供“に謝罪の言葉を繰り返さずにはいられなかった。クソッタレ。愚かなんはどっちやアホ!幼い頃の記憶を思い出した青年は怒りに肩を震わせながらも、戸惑い顔の少年を抱き締め続けていた。