望月は家の電話の受話器を置きながら唖然としていた。ついさっき自分にかかってきた電話。受話器から聞こえた震える声が今でも耳にこびり付いている。良麻が昨日から行方不明なの、そっちに来ていない?早坂の母親から聞いた一つの単語が頭に引っ掛かっている。行方不明。彼女の話によると彼は学校に行くと言っていたらしい。では、学校に登校する間に何かの事件に巻き込まれてしまったのだろうか。
一体、誰が何の為に彼を?身代金目的の誘拐か?だが、それなら身代金を求める電話の一本もかかって来る筈だ。何かの現場を見てしまって…口止めに殺……いや、それは無い!絶対に無い!あってはならない!!
「まさか………」
受話器に手を添えたままボンヤリと呟き、その後は無言で壁を見つめていた。頭の中に流れるのは行方をくらませた彼が……。…まさか。アレはフィクションだ。そっち系のビデオや本にある“拉致監禁されて犯されまくる”って奴。あぁ言うシチュエーションが燃えるって奴がいるから、あぁ言う作り話が出来る訳で……。
「………良ちゃん……」
行方の見えぬ友の名を呼ぶ。皮肉にも頭の中の危険な想像が実際に行われている事を望月は知る由も無かった。
次の日。朝の授業が始まる前の教室内に竜一の声が響いた。
「行方不明!?」
朝礼をサボって教室の机に突っ伏して寝ていた為に何処となく寝惚け眼だったそれが一気に光を取り戻して望月を捉えた。
「えぇ……。竜一さんも見てない…ですよね」
「あ、あぁ。見てたら、こんなに驚かねぇって。……そうか…学校来ないと思ってたら失踪していたのか…」
はぁっ…と小さく溜め息をつきながら、褐色の前髪を掻き上げる。そして、軽い上目使いで望月の顔を見た。
「とにかく俺も気を付けてみるわ。他校の部下の奴らにも言って置く」
「えぇ、すみませんがお願いします」
「そんなに硬くなんなよ。俺も早坂がいないと困るんだ。宿題写させてくれる奴がいないとな」
望月の無意識な緊張を解すかのように竜一はニッと歯を見せて笑ってみせた。
僕、何時まで此処にいないといけないんだろう。短い仮眠時間を終えて目を覚ました早坂が蹂躙され続けていた箇所を軽く指で撫でると、それに呼ばれたかのように注ぎ込まれ続けた体液が溢れ出て内股を濡らした。あぁ、いけない。濡らしてたら犯されるのを待ち望んでいるみたいじゃないか。……どうせ、今日も悪趣味なビデオ撮影をするんだろうけど。一体誰が観るんだか。僕が犯されてるビデオなんて。
「お。起きたか?良く眠れたかな?」
重たい扉が開く音と共に“バイト”の男達が入って来る。その手には藤堂からの餞別、昨日も自分を締め付けていたロープが握られていた。
「お前、昨日凄かったよな。縛られた状態で何回イッたんだ?……あのお坊ちゃまの言う通り、痛め付けられる方が好きなんだろ」
「…そ、そんな事……!」
バシッ。強い平手が言葉を中断させる。早坂の頬に巨大な紅葉が張り付いた。
「素直に“そうです”って答えとけば良いんだよ。ま、口に対して身体は非常に素直な良い子だけどな」
早坂の身体を包んでいた古毛布を剥ぎ取り、両足首を掴んで無理矢理広げると同時にヒュウッと短い口笛を吹いた。
「何だ、もう濡らしてたのか。待ち切れなくて自分で弄っていたのかな?」
ほら見ろ!コイツらは予想通りの反応をしたじゃないか!自分自身に文句を言う早坂に指が近付き、躊躇無く捻じ込まれていく。
「あっ……や…やめっ………」
掻き回して来る指に合わせて漏れ出る声。その声は昨日のそれよりも熱が篭っているような気がした。まだ中に残っていたらしい体液が滲み出て指を濡らしていく。生温かさを指で感じ取った相手はニヤッと顔を歪めて笑った。
「何か昨日よりも反応良くなったんじゃねぇ?ま、とにかく始めますか」
何となくおどけた口調と共に自分の腰を早坂の両足の間に近付ける。早坂の短い嬌声が響いたのは、それから数秒後の事だった。
下校時間を知らせるチャイムが鳴り響く中、望月は鞄を脇に抱えて教室を後にした。廊下を歩きながらボンヤリと考える。アイツが行く所と言えば何処だろう。市立図書館か、本屋か、それとも意外な方向で繁華街か………
「望月君」
自分を呼ぶ声にハッと顔を上げながら振り向くと、藤堂護が自分に向かって駆け寄って来た。ずっと走って来たのだろうか、何処か顔が赤く、息も荒い。
「はぁ……はぁっ…探したんだよ」
「…俺に何か用でもあるのか?手短に頼むぜ、急いでるんだ」
一刻も早く親友探しをしたい一心で僅かに苛立った声を上げる望月に藤堂は相変わらず息を切らしながら話した。
「早坂君、行方不明なんだってね。それを聞いて、僕も家の使用人や会社の社員を使って探したんだよ。そしたら」
こくん。口の中に溜まって来たらしい唾を一度飲み込んで再度息を荒くする。まさか…と鞄を無意識に抱き締める望月の眼と藤堂の眼が合った。
「見付かったんだ。それを君に知らせて置こうと思って。それで、君を探して走り回っていたんだ」
「えっ……!?」
思わぬ言葉に顔がパッと輝くが、瞬きをする間にその表情はこの上なく真剣になり、前進して藤堂に迫った。
「何処だ!?早坂は…何処にいる!」
「落ち着いてくれたまえ。今、僕の家に保護しているよ。…彼の家に直接帰そうとも思ったけど、僕は彼の家を知らないからさ。君が迎えに行った方が良いだろう?」
付いて来てくれるよね?と付け加え、相変わらず息を切らしながら笑顔を見せると相手の方はコクコクと何度も頷いた。藤堂なら早坂の住所を調べる位は簡単に出来るとか、誰から行方不明の事を聞いたのかとか、疑うべき所は多く存在したのだが、今の望月にはその疑いを抱く余裕等無かった。早坂が見付かった。ただその一言だけが望月の頭を支配し、身体に行動命令を下していた。
校門脇に停まっている黒いリムジンのドアが開き、藤堂の後を望月が続く。普段なら一生に一度乗るのか乗らないのか分からない高級車に子供のように興奮していた筈であろう彼は無言で座席に座り、両手を祈りでもするかのように組んでいた。早坂は…良ちゃんは藤堂の家に保護されている。彼の家にいるのなら安全の筈だ。それなのに、何で妙な胸騒ぎがするのだろう?自分は何を祈っているのだろう?
「どうしたんだい?望月君。少し顔色が悪いよ?酔ったんじゃないかい?」
横から聞こえる声に顔をゆっくりと上げて振り向くと、藤堂が自分の方を向いて心配そうな顔を浮かべていた。
「酔ったのなら少し休んだらどうだい?家に着いたら起こすからさ」
「あ…い、いや、良い。ちょっと考え事していただけだ」
「そんな…遠慮しなくて良いのに」
慌てて首を振る望月に藤堂は二コッと微笑み、そのまま言葉を続けた。
「休みたまえ。…存分に!」
「っ!!うわああぁあああぁっ!!」
爽やかだった笑顔に悪魔の影が見えた瞬間、藤堂の右手が素早く自分の首に触れた。その右手に握られていたのはバチバチと小さな電流音を流すスタンガンだと判断した時には首に激痛が走り、それは一瞬にして全身を駆け巡り、目の前を稲妻が走ったかと思うと視界は黒くなった。黒くなると同時に頭がボンヤリし、後頭部が見えない糸で思い切り引っ張られたかのように感じた。柔らかい座席の上に後頭部が当たった時、藤堂の含み笑いが聞こえて来たような気がしたが、その後すぐに意識が離れてしまったので確認をする事は出来なかった。
闇の中で声が聞こえる。やめて、許して。震えた親友の声。あぁ、良ちゃん。それはこっちの台詞だ。俺、お前の話を聞いてやれなかった。何も考えずにお前を犯してしまった、巻き込んでしまった。水音。嬌声。性交時の生々しい音が声に混ざる。耳に飛び込む音に頭の中で蘇ったのは工場跡での陵辱終了後のシーン。泣いている。早坂が。大粒の涙を零しながら泣いている。ゴメン、良ちゃん、俺………。頭の中にいる親友に両手を伸ばし、声をかけるが相手は反応しない。そんな、頼むよ。何か言ってくれよ。恨みの言葉でも何でも良いから。俺を無視するのだけは止めてくれよ。なぁ、良ちゃん。オイ、聞いてるのか!?聞けよ、俺の話を。聞こえてるんだろ?聞けってば!頭の中の自分の瞳に涙が滲み、そのまま声を限りに叫ぶ。
「良ちゃん!!」
叫び声が自分の耳にも響いた瞬間、光が戻った。まだ何処か痺れるような頭を軽く振りながら、辺りを見回す。確か、俺は藤堂の車の中で……そうだ、スタンガンか何かで………
「お目覚めかい?望月君。よく眠っていたみたいだね」
視界にいきなり飛び込んで来たのは例のニコニコ笑顔のお坊ちゃま。望月は小さく呻いた。
「藤堂……一体、どう言う事………!!」
言葉の途中で息を呑み、身体を硬直させる。闇の中で聞いた親友の声と淫らな水音は藤堂の真横で上映されている映像からの物だった。テレビ画面の中に自分がいる。親友もいる。あの日の情景。拘束された早坂を欲望任せに汚した最低最悪の濡れ場。鎖を激しく揺らしながら喘いでいる早坂に残酷な言葉をぶつける自分。それが画面の中で再現されている。目を逸らす事が出来ずに身体を震わせる望月の肩に藤堂の手がポンッと置かれた。
「素晴らしい出来だろう?」
爽やかな笑顔と悪魔が潜む声を横で感じながら、望月は瞬きもせずにビデオを凝視し続けた。目の前で自分が早坂を抱いて…犯している。
「………こ、これ…は……」
漸く吐き出された声は震えていた。フッ…と耳元に嫌味な笑いが飛び込む。
「見て分からない?君が早坂君の身体を楽しんだビデオだよ。酷いね、君は。早坂君、あんなに泣いているのに滅茶苦茶してさ」
本当に君は彼を親友だと思っているの?と付け加えながら、藤堂はビデオの停止ボタンを押した。
「これだけじゃなくて、君が集団相手に身体を売っているシーンを撮影したビデオもあるけど……観る?知っているだろう?夜の夢見公園で様々な男を相手にして………」
口を微かに開け、一点を見つめる望月の横顔を楽しんで間を空ける。その間を充分空けた後、ゆっくりと唇を開いて続きの言葉を紡いだ。
「最後には早坂君を黙らせようと、その口でイカせていたシーンのビデオ」
フフンッと勝ち誇った様な笑顔を見せながら、開きっ放しの唇に触れようとすると望月の手が鋭い音を立てて手を叩き落していた。
「ふざけるな………!人を何だと思ってるんだ!!」
普段の彼からは想像も出来ない位に怒り狂った獣のような眼が藤堂を捉えるが、相手は全く動じる事無く前髪を掻き上げた。
「何だと思ってるかって?…うーん………僕の新しいペットかな?それか小遣い稼ぎの道具?」
「…………………っ!?」
思わぬ言葉に愕然とした瞬間、両腕を後ろから掴み上げられた。痛みを感じて振り向くと、自分よりも頭一つでかい男二人が自分の腕を一本ずつ掴み上げている。
「な、何だよ、痛ってぇな!!離せよ!!」
ジタバタともがく望月に藤堂は再度嫌味な笑いを見せ、そのまま背中を向けて歩き出した。それが合図であるかのように望月の自由を奪っている男達も後を続く。鉄製の扉が開き、地下へと進む長い階段が続く。何処か薄暗く、ひんやりとした狭い階段に数名の男達の足音が高く響く。藤堂の行動が読めない望月は唾を飲み込んだ。引っ掛かるのはあの言葉。ペット?小遣い稼ぎの道具?一体、どう言う意味だ?
不安げに眉を顰めながら藤堂の背中を見つめる彼が謎の言葉の意味を理解するのは数十分後の事である。
長い階段の先にあったのは、さっきと同じような鉄の扉だった。開かれると同時に目に入ったのは四方がコンクリートと言う奇妙な部屋の内装。いや、壁の一つだけ巨大な布に覆われていた。
「あぁ、やっぱり気になるかな?あの布が。じゃ、君の好奇心を満たしてあげようか」
相変わらず男に自由を奪われたままの望月にニコッと笑いかけて巨大な布に近付き、垂れ下がった紐を掴んで再度笑顔を見せる。望月の不安と疑問の混じった顔に驚愕が加わったのは藤堂が勢い良く紐を引いた直後の事だった。
「良ちゃん!!」
叫びながら男を振り払おうとする望月の視線の先にはガラスの壁。ガラス一枚隔てた向こうには多くの男に囲まれた親友がいた。服は纏わず、その代わりであるかのように麻縄が彼の身体に巻き付いている。両手首は縛り止められて、腰の辺りに回っており、背中には何かに打たれる事によって生まれたらしき数多くの大ミミズ(細い糸ミミズを何匹も生み出しているミミズもいた)が這っていた。首には気管を圧迫していそうな首輪があり、その首輪から伸びた縄を男の1人に犬のように引っ張られながら、早坂は必死に舌を伸ばして他の男の先端を舐っていた。
「りょ…良ちゃん………!!」
望月の体がガタガタと震え、涙が溢れ出始める。もし、腕が掴み上げられていなかったら口の辺りを両手で覆っていたに違いない。
「あーあ、早坂君はあっちに夢中で気付かないみたいだね。ちょっと待っていてくれたまえ。今、こっち向かせるから」
震えながら涙を流す望月を見世物のように見ながら、ガラスに近付いて軽くコンコンとノックする。その音に男達が気付いてニヤリと笑い、数秒遅れで早坂がゆっくりと顔を上げてノックのした方へ目をやる。そして、その虚ろな目は見開かれ、拘束された身体の肩の部分がビクッと一回大きく跳ねた。
「……あっ………あっ……」
ガラスの向こうから小さく聞こえる震えた声。新たな涙を零す瞳は望月の瞳を見つめている。高鳴る心臓。震える身体。全身を駆け巡る羞恥心。見ている。駿君が。僕のこんな所を見ている。僕が犯されている所を見ている。嫌だ、嫌だよ。見せたくない。お願いだから……お願いだから………
「嫌だああぁぁああっ!!見ないでええぇえぇっ!!!」
火が点いたように、狂ったように泣き叫ぶ声と嘲り笑う声が重なり合ってガラスの外から聞こえて来る。望月は激しく頭を振りながら声を限りに叫び、懇願すると辺りに涙の粒が飛び散った。
「なぁ!頼むから許してやってくれよ!良ちゃんは全然関係ねぇんだっ!!だから良ちゃんは放してくれよ!俺が代わりにでも何でもなるからぁっ!!!」
殆ど金切り声に近い悲痛な叫び。ガラスの向こうから聞こえるのは狂い泣きの声。藤堂の耳に入って来る涙の二重奏。いやいや、中々素晴らしいよ二人とも。もっと楽しませて貰おうかな。
「…つまり、君が彼らの相手になるって事なのかな?」
腕を組み、笑顔で問い掛ける藤堂の目の前で涙に濡れた顔が何度も頷く。ガラスの向こうから駿君と言う叫び声が聞こえて来た気がした。叫び声の主を一瞥し、再度望月に視線を戻す。
「とりあえずさ、見学してみたら?いきなり相手になる…と言うのもアレだろう?」
「!!」
ちょっと待て、と叫ぶ前に拘束していた男達が動き、怪力が望月の身体を引き摺っていく。クスクスと笑い続ける藤堂の目の前のガラスの中に望月の姿が見えたのは数十秒後の事だった。
「さぁ皆、望月君に見せてやってくれたまえ」
ガラスを軽く叩きながら笑いかける藤堂に男達がガラス越しで笑顔を返す。望まぬ見学会が今、始まろうとしていた。