周りに赤い制服などが乱雑に散らばっている巨大なベッドの中心に座った藤堂が両足の間で動く黒髪に手を添えてサラサラと撫でると、それは一瞬ピクンと動いたが、その後には再び上下左右に動き始めた。御馳走にありつけた餓えた犬。貪欲に一物を舐め、先端を吸う早坂の姿を見た藤堂の感想だった。慣れた風に熱く濡れた舌を絡ませ、下部に手を近付けて軽く揉みしだく“犬”は淫靡な音を立てる口から垂涎し、湿り気を帯びた瞳で時折相手の様子を窺っていた。その瞳から発せられる内心も容易に理解出来る。ねぇ、気持ち良い?まだ入れて来れないの?瞳からの問い掛けに藤堂は口を開いて答えた。
「うん、上手じゃないか早坂君。素直に気持ち良いと言えるよ」
「じゃ、じゃあ…もう入れてよ……藤堂君だって…苦しい…だろう?こんなに硬くなってるし…」
「………フフッ……ハハハハハッ!!本当にいやらしいんだね、君は」
早坂の揺れる懇願に高笑いをしたかと思うと、両端に光る糸を垂らしている口から無理矢理本体を引き抜き、何時の間にか涙が流れていた頬に先端を押し当てると、柔らかな其処に窪みが出来た。
「…な、何だい?急に…。…!……っ…あぁっ!!」
戸惑い混じりの疑問の声を瞬時に悲鳴に似た声に変える早坂の頬には熱い白が飛び、それは藤堂の手が動く事によって範囲が広がった。赤い顔から粘る白がポタポタと落ちてシーツを握る手の甲に落ちて行く。
「悪いね、余りにも気持ち良いから先にイカせて貰ったよ」
「そんな……出すなら出すって…………」
言いたい事を最後まで言えないまま泣きじゃくる早坂の真っ赤な顔を染める白に無色の涙が混じる。だが、その表情とは裏腹にシーツの上に乗せられていた手は顔を濡らした白を丁寧に拭い取り、コッソリと伸ばされた舌に近付けられていた。さっきまで藤堂に快楽を与えていた濡れた桃色の舌の上に精の白を乗せると味わい慣れた、だが自分のそれとは微妙に違う苦味が広がっていった。
「ふぅん………?」
わざとがましく語尾を上げながら早坂の顔を覗き込むと、必死に手を舐っていた瞳がハッ…と我に帰り、慌てて手を口元から離したが既に遅く、覗き込むその顔には満面の笑みが広がっていた。
「自分から舐める位好きなんだ?」
「………………………」
「否定しないって事は好きだと認めて良いんだね?もしかして顔じゃなくて口の中に出して欲しかったのかな?」
「………………うん…………」
気が付けば、視線を下にしたまま小さく頷いていた。普段なら顔を赤くして否定するか得意の皮肉でかわす筈の台詞なのに、今の自分は何かに操られているようだった。
「フフッ…ヤケに素直だね。其処まで素直だったらおねだりも楽に出来るんじゃない?」
求める快楽に操られてしまっている早坂の何処か虚ろになりかけている瞳を見てニコニコと上機嫌な笑みを見せる藤堂に早坂は不安そうに口を開いた。
「…おねだりって………?…まさか……」
「分かってるくせに。…軽く足を広げて、君が僕にして欲しい事をハッキリ言えば良いだけだよ」
「そんなっ…出来る訳な……」
「出来ないのなら良いよ」
狼狽し、拒もうとする早坂の裏返った声を藤堂のハッキリした声が冷たく突き放す。語尾を封じられて固まる相手から軽く目を逸らし、ベッドから離れながら言葉を続ける。
「僕はどっちでも良いんだから。…出来ないのなら、このまま帰っても良いんだよ」
ズキンッ。早坂の胸が鈍く痛み、痛む其処から焦りと言う感情が広がった。このまま帰れば、また自分は空しい慰めをしなければならない。それだけは、それだけは嫌だ。もう、空しいのは嫌だ。中途半端な快楽は嫌だ。このまま終わってしまうのは嫌だ。焦りに突き動かされた感情が早坂の足に命令し、恐る恐る広げさせる。広げる事によって生じた布の擦れる音に振り向いた藤堂は幾度か細かい瞬きをした後、肩を震わせて笑った。
「何だ、出来るんじゃないか」
「……………………」
M字に開く事で全てを晒している己の姿に羞恥を覚え、頬の赤が一層強くなる。瞳も唇も硬く閉じている事に藤堂は少し不満そうに眉を顰めたが、不満は口にせずに再度ベッドの上に乗り、男を求めているであろう其処に指を添えて周りを軽く撫で始めた。
「あっ………はぁっ……」
閉じられていた筈の唇が呆気なく開き、快感を受け止めている証である吐息を漏らす。それでも藤堂は決して指を中には進入させようとせず、ひたすら周りを丹念に、焦らすように撫でていると其処は不平そうに震えだし、部屋の照明にぬらぬらと反射する液体を滲ませ始めた。
「…早坂君、かなり此処を使い込んでいるね。周りを撫でるだけで反応して濡らすなんて。…ずっと一人で弄ってたのかな?」
「お、お願い…も…駄目っ……入れ…てぇ……!」
質問には答えず、望みをそのまま口にする早坂に藤堂は微かに不満そうな表情を再度浮かべたが、その表情をそのまま微笑に変えた。
「…入れて…か。で、何を?」
淫らな滑り気を帯びている蕾に指の先端を軽く入れると短く裏返った嬌声が聞こえて来たが、声の主は顔を赤くしたまま首を激しく振るだけだった。言わせる気?でも、言えないよ。言葉が無くても十分に伝わって来る早坂の内心に藤堂はフッ…と小さく笑った。
「言えないか…じゃあ、無理矢理言わせてしまおうかな」
「!?……あっ………やあぁっ!!」
不思議そうに目を細めたかと思うと、一気にそれを見開いた早坂の鼻腔を刺激したのは甘いジャムの香り。香りの元である赤が付着した指に撫でられ、そのまま中まで塗りこまれる感触が一気に理性を蹴り飛ばそうと試みた。
「ぁっ…ん………あぁっ…」
濡れた瞳は鈍く濁り、己の手が無意識の内に動き出して冷たいジャムに濡れた熱い蕾を刺激し始める。慣れた姿勢で自分を慰めるその姿を藤堂は興味深そうに眺めながらベッド近くの棚に手を伸ばし、甘い香りを出している瓶をコトリと置いた。
「成る程、そう言う風に弄ってるんだ?…かなり慣れてるみたいだね。ま、アレだけ使い込んでるのを見れば納得もいくけど」
以前、あの地下室で見せたのと同じ発情状態に含み笑いを漏らす藤堂の細められた瞳と視線を感じながらも躊躇い無く指を捻じ入れる早坂の焦点がずれつつある瞳が見詰め合う。発情した獣の足が小刻みに震え、その開かれた両足の突き当たりで激しく動く指を確認した藤堂が小首を傾げて口を開いた。
「もう指なんかじゃ足りないんじゃない?もっと良い物をあげようか。…ちょっと目を瞑ってくれないかな」
「はぁっ……な、…何で………?」
「見えない方が余計に感じるだろう?何時入れるか分からないんだからさ」
「……………………」
余計に感じる。その一言に早坂はアッサリと相手の言う通りに眼を閉じ、両足から離した手でシーツを掴んだ。焦らすのは無しだよ、と口の中で呟きながら。
眼を閉じた分、鋭敏になった聴覚が藤堂の行動を隅々まで捉えようとする。少し自分から離れ、また近くまで戻って来て止まる。藤堂と自分の息遣いしか聞こえない事から、藤堂が全く動かない事に気付いた早坂がうっすらと目を開けようとした時、シーツの擦れる音と藤堂の声が重なって聞こえて来た。
「ほら、まだ目を開けちゃ駄目だよ。……心配しなくても入れてあげるからさ」
語尾の方を囁きに変えながら、待ち焦がれているそれに目をやって口の端を吊り上げる。早坂の悲鳴に似た声が轟いたのは次の瞬間だった。
「ひあっ…!?…あっ……ゃああああぁああっ!!」
指とは違う、だが待っていた熱いそれとも違う感触。この感触はよく覚えている。何故なら、自分は“これ”と同じような物によって処女を散らされたのだから。
「やっ……だ…やだっ…よぉ…!!」
シーツを握りしめながら泣き叫び、拒絶するように首を振る早坂の後ろには鈍い振動音を漏らす“玩具”が深々と突き刺さっていた。容赦無く凌辱して来るそれに身体の方は喜んでいるようだが、心の方は正反対らしく、早坂は涙も拭わずに藤堂を見据えた。
「そんなっ……どう…して……こんっ…な………」
「あれ?指じゃなかったら何でも良いんじゃないの?君、その手の玩具好きみたいだしさ。処女までそう言うので捨てたんだから愛着あるのかと思ってたよ」
顎に手を添え、芝居のように目を丸める相手の反応に早坂は“違う”と言う言葉を繰り返し、シーツを再度握り締め直した。
「ちっ……違う…よ……こんなっ…冷たいのやだっ………!」
言いそうだな…どんなに真面目で知的な君も快楽の前ではただの獣だね。藤堂は顔を少し俯かせてクックと笑った。さて、ハッキリ言わせる為にトドメを刺しますか。良いよね?淫乱な秀才さん。
「じゃあ…何が欲しいのかハッキリ言ってくれたまえ。僕にも分かるように」
「………玩具…なんか嫌だ…冷たいし…単調だし…」
舌で唇を濡らした後に口を開く早坂からは躊躇が感じられなかった。ただ欲望に任せて、求める快楽の為だけに言葉を続ける。
「…それに…何も出してくれないから…嫌だ……。だから……藤堂君の熱い―――を…入れて…。ぼ…僕の…淫らな―――に…捻じ込んで…僕の中に……いっぱい…熱いのを…出して…下さい………」
「………クッ…ククッ……アハハハハハッ!!」
藤堂は肩を震わせ、そのまま天を仰いで笑った。あの冷峰学園髄一の秀才が決して上品とは言えぬ言葉で自分に懇願している。それによって感じる優越感に笑わずにはいられなかった。藤堂は笑った。ひたすら笑った。そして、ピタリと笑い止んで早坂の膝を掴むと同時に両足を余計に広げた。
「…最初からそう言えば君も泣く事は無かっただろうに…。ま、良いか。じゃあ入れるよ?君が望んだ通りに」
「ひうっ……!…ぅ………あ…」
玩具を一気に引き抜かれる事によって、短い悲鳴を上げると共に玩具の代わりに押し当てられた熱い先端に息を呑み、唾も飲み込む。既に落ち着き無く跳ねていた心臓がより激しく動いて早鐘になるのを感じながらも早坂は早く、と口の中で小さく言った。
久し振りに入って来る男を迎え入れようとヒクヒク揺れる蕾が藤堂を翻弄する。想像以上の“歓迎”に藤堂は思わず小さく呻き、腰を一気に前進させて早坂を貫いた。
「……あっ……あああぁぁあぁーーっ!」
喉の奥から飛び出す叫び声と同時に突き出された手は、衝撃を少しでも和らげようと相手を突き飛ばす為のものではなく、逆に相手との接触をより求めようと首の後ろに絡めて抱き付く為のものだった。腹の中まで響きそうな圧迫感を感じながら藤堂の肩に赤い顔を埋め、より激しい性交を求める台詞を繰り返す。早坂の身体に完全に呑み込まれているかのように下半身を揺さぶりながら藤堂は辛うじて笑顔を見せた。
「成る程……あの男達が君を気に入るのも分かる気がするよ」
正直、挿入の時は余りにも周りが柔らかく解れていた為に緩んでいるのかと思っていたが、奥まで入ると同時に、あの解れは嘘だったのかと疑ってしまう程に中にいる自分を逃すまいと熱く締め付けて来た。無意識なのか意識的なのかは分からないが、男を喜ばせる技術に長けている“名器”。滅多に味わえないであろうそれを藤堂は貪欲に求め始め、しがみ付く早坂を無理矢理ベッドに押さえつけて全体重を求める箇所に掛けた。一気に襲い掛かる強い衝撃に早坂の手が彷徨い、何とか捕まえたシーツを掴んで皺を深くする。
「い…嫌っ……痛…い………!!」
「“痛い”じゃなくて“良い”だろう?」
顔を歪める早坂の鼻先を軽く指で突付きながら、下の半身の方も容赦無く肉の杭を打つ。肉体の擦れ合う音と水音が広い寝室に響き渡った。
「はぁっ……あん………い…イイ………」
うわ言のように言葉を漏らし、涙まみれの恍惚の表情を浮かべる。ついさっきまで痛がり歪められていた口元は何時の間にか端を小さく吊り上げた微笑の形となっており、幾度も出入りする藤堂に合わせるかのように腰の辺りも激しく揺れていた。シーツを掴んでいた手は相手の背中に回り、両足も相手から離れるのを拒むように絡める。密着して来た熱い汗まみれの身体と激しい収縮を始めた接合部に藤堂はハッと何かに気が付き、顔を緩めた。
「…早坂君……もしかして、もうイキそうなのかな?」
「…っ……ひくっ………ぅんっ………」
泣きじゃくりながらコクコクと何度も頷く様子から見て、絶頂はすぐ其処まで近付いているらしい。奇遇だね。藤堂は言った。
「僕もそろそろイキそうかな…と思ってたんだ。…このまま出しちゃって良いのかな?」
「う、うんっ…だ…出し…出して…いっぱい……熱いの…中っ…中ぁ…!!」
かなり切羽詰っていて言葉を紡ぐ事も出来ないのか、途切れ途切れの単語で何とか己の意思を伝えようとする。理論派で有名な彼らしからぬ意思表現に藤堂は改めて優越感を感じ、肩を小さく揺らして笑った。
「ククッ……出した後で文句を言ったりしないでくれよ?」
相手の開きっ放しの口に自分の舌を挿し入れて掻き回し、ベッドを壊さんばかりに身体を上下させるとベッドに幾度も押さえ付けられている方が淫靡な言葉を躊躇無く叫び、背中に爪を立てて赤い線を描いた。その淫靡な言葉と背中の痛みに反応したかのように藤堂の頭の中が一瞬白くなる。そして、気が付けば限界まで突き出した状態で早坂の奥まで情欲を叩き付けていた。
「はぁっ、あっ、やっ……熱っ……ああぁぁあっ!!」
望んでいた熱が身体の奥にぶつかって来るような衝撃に早坂は歓喜の叫びに似た声を上げ、声と同じくらい派手に藤堂と同じ情欲を辺りに散らした。絡められていた四肢が力尽きたように離れ、ベッドに沈む。2人はただ無言でお互いの顔を見詰め合って息を激しく切らせていた。
「派手にイッちゃったね」
先に口を開いたのは藤堂だった。ゆっくりと腰を引き、赤い媚薬と粘液にまみれた本体を引き抜いて相手の頬に擦り付けると、微動だにしなかった顔が動き、当然であるかのように口に含んだ。
「そうそう。ちゃんと掃除するんだよ、君の舌で」
「はむっ……んっ……うんっ…」
眼をうっすらと閉じ、微かな声を出して“掃除”をする早坂の姿に滑稽さを覚えたのか、藤堂は口元に軽く握った拳を添えて笑い、もう良いよと言いながら口から己を引き離した。
「後はシャワーで洗い流すから。…ちょっと待っていてくれるかな?すぐに戻って来るから。大人しく待ってるんだよ?」
何故か“大人しく”を強めて言いながら、室内にあるシャワールームへの扉を開けて消えて行く。数秒経たない間に激しい水(シャワーだから正しくは湯なのだろうが)の音が聞こえて来た。
「………………………」
両手をシーツに付き、上半身を起き上がらせた姿勢を維持したままシャワールームの方を見詰めていた早坂だったが、そのまま両手を投げ出してベッドに身を沈めて眼を閉じた。
やっぱり、気持ち良いや。瞼の裏で自然と再現される、ついさっきまでの情事に率直な感想を漏らし、フフッと小さく笑う。両手を腹の下にくぐらせて辿り着いた先は藤堂を飲み込み、全てを搾り取ったそれ。扉をノックするように指で軽く突付くと、大量に注ぎ込まれた情欲の一部が溢れ出て蕾の周りや指を濡らし始めた。
「はぁっ……あっ…き、気持ち…いい………」
腰を浮かせ、溢れ出たそれを押し返すかのように指を突き入れると快感が舞い戻って全身を貫き、身体がビクンッと硬直した。
「ふぁ……っ…い……いっ……イイぃ…」
ベッドシーツに沈めた顔が横を向き、口からだらしなく垂れる唾液が、後ろから指を伝って落ちる淫らな体液がシーツを濡らして行く。再度、快楽に堕ちた早坂の耳にはシャワーの音など入って来なかった。入って来るのは自分の漏らす喘ぎと玩弄している箇所から聞こえて来る水音のみ。広いベッドの真ん中で早坂の身体が艶かしく動き、快楽にふける彼のようにベッドシーツも乱れて行った。