歓楽街の喧騒が何処か遠くに聞こえる薄暗い路地裏の突き当たりで、目を硬く閉ざしている早坂は壁に背中を付けてへたりこみながら下を向き、震える身体を押さえるように自分の身体を抱き締めていた。
「良いねぇ、その反応。その怯え方がたまんねぇ訳よ」
早坂をこの場所まで連れ込んだ2人の男が獲物が逃げられないようにジリジリと追いつめながらニヤリと笑い、片方が獲物の前髪に触れると縮こまった体がピクンと小さく動いた。
「さて、と。早速楽しませて貰うか。ちゃんとビデオと同じような反応をしてくれよ?」
「…ビ……ビデオって…一体………どうやって……」
何とか顔を上に上げ、小声を揺らしながら問い掛ける早坂に二人は顔を見合わせて笑った。
「どうやって……って…この街にある裏の店で手に入れたんだよ。お前、藤堂グループって知ってるだろ?あそこの会社が経営しているらしいけどな」
「…………!!」
やっぱり、彼の仕業か。小さく歯軋りをしながらも早坂は心の中で首を傾げた。だが、彼は…藤堂君は僕達を解放する時に約束した筈だ。僕や駿君が犯されているあのビデオを販売する事は無い、と。それなのに…何故………。
「おしゃべりはもう良いだろ?サッサと始めようぜ」
男の手が伸び、早坂の服を乱暴に掴む。その後の展開を容易に予想出来た早坂は、ただ下を向き瞳を潤ませるだけだった。

 身体が熱い。熱でもあるのだろうか。…違う、今……凄く恥ずかしいって思ってるんだ。薄暗い闇の中とは言え、自分が今何をしているのかは相手には充分に分かっている。その証拠に…
「ヤケに手馴れてるな。何時もしてんだろ?」
「……あ…ああぁ………ぅう…」
男達の視線の先で大きく足を広げた早坂の指が艶かしく動き、薄く湿り始めた蕾の周りを丁寧に解している。強要されて行っている自慰行為にも関わらず、早坂の身体は的確に快感を受け止め、口から荒い嬌声と息を吐き出させていた。
「んぅっ……こ…こんな…の………ぃやぁぁ……」
「そんな事言ってる割には指は止めないんだな。……すげ、中指を一気に入れやがった」
「はぁ……はぁ……い、言わないでよ………」
相手の実況に顔の赤を強め、瞳に涙を溜めながらも指を止める事は出来ず、淫靡な音が辺りに響き始める。ゴクッ。生唾を飲み込む音が聞こえた。
「………お…おい……」
ついさっきまで余裕のあった男の声が興奮の所為か震え出し、ゆっくりと足を踏み出すと涙に濡れた早坂の顔が上がり、そのまま息を飲み込んだ。
「もう我慢出来ねぇ。…咥えろよ」
「………んっ……ぅ…」
空いていた右手で突き出されたそれを包み込み、温かく濡れた口内に導く。相手の微かな呻きが聞こえると共に舌の上に苦味が広がった。決して嫌いではないその味に心臓がドンドンとやかましく胸の中で鳴り出し、淫らな本能にノックをする。出ておいで、下らない理性なんて捨てて。快楽への誘いに早坂の瞳がどんよりと曇り始めた。
「はぁっ………はふっ…んっ、んっ………」
ズルズルと這うように男に近付き、獣のように四つん這いになりながら貪欲に咥え込んで啜り、頭を動かして様々な角度から相手のそれを弄ぶ。ついさっきまでの陵辱への恐怖心は微塵も感じられず、寧ろ汚される事を望むかのような振る舞いに男達は互いに顔を見合わせた。
「は……ははっ…こりゃぁイイ。まさか本当にスキモノだったとはな」
動揺を抑えるかのように笑いながら早坂の後頭部を掴んで乱暴に前後させると、焦点がずれつつある瞳が硬く閉じられた。
「もう、こっちの方も欲しいんじゃねぇの?」
「…!や……あぁ…ぁ………」
四肢を付ける事で晒されていた其処に別の男の先端が触れ、嬲るように撫で上げる。触れては離れ、離れては触れると言う感触に、男を求める其処は、今度触れたら離れないように捕まえようと言わんばかりに小さく震え始めた。
「だっ………駄目……焦らさ…ない……で………」
喉の奥まで咥えていたそれから一旦口を離し、視線を後ろに向けながら掠れた声を出すと前後から笑い声が降りかかった。
「何だよ、お前ずるいぞ。先にそっちを取りやがって」
「我慢出来ないで、口でやらせたお前が悪いんだろうが。……にしても凄ぇよコイツ。ヒクつかせてやがる」
「お、お願いっ……早く…入れてよ………――――入れてぇ…!!」
男の前戯に翻弄され、例の媚薬を使用した時のように卑猥な言葉を叫ぶ早坂に男達は再度顔を見合わせて笑い、頭と腰をそれぞれ掴んだ。
「まいったな。想像以上の淫乱だ。……お前、あのビデオでレイプされてる内に調教されたんじゃねぇか?」
「ひぁ……あ、ぁあ……は、入っ………て…」
ニヤリと男がだらしなく顔を緩め、ゆっくりと腰を前進させると思った以上にすんなりと奥まで導かれていく。軽く先端を進入させた時点で、そのまま一気に突き入れると裏返った悲鳴が漏れたが、その悲鳴の全てを吐き出す前に一物が口を塞ぎ、悲鳴を篭もらせた。
「んむっ……ぐっ………ううぅぅぅうーーッッ!!!」
悲鳴を上げる早坂の後ろで膨張しているそれが水音を立てながら暴れだす。乱暴に出し入れを繰り返している筈なのに、それを歓迎するかのように収縮を繰り返す接合部に男は微かに呻き、掴んでいた腰に爪を立てた。
「…こいつの中、すっげぇ熱い……。そ、それに…異様に締め付けて来やがる…っ……!」
自分の身体に対する感想に早坂の顔の赤が改めて強くなったが、篭もった嬌声を漏らしながら前にいる男の相手をしていると口の中に苦味を帯びた液体が流れ込み始めた。
「っ……!!…うっ………んぅ…」
瞳から涙を、口の端からは唾液混じりの相手の露を流す早坂の切なげに顰められた眉に、身体を震わせながら漏らす啜り泣きの声に男達は己の加虐心が一気に煽られるのを感じ、思わず自分達が弄んでいる少年の黒髪や腰を乱暴に掴み上げた。
「この…ガキめっ………いっちょ前に媚びやがって…こうなったら徹底的に汚してやるぜ」
「こっ……媚びて…なんか……あ、あぁ…んっ………!」
否定の言葉を思わず打ち切って顔を横に背けた早坂の頬に生温かい白が飛び散り、緩いカーブを描いた頬を伝って地面に滴り落ちた。その一部始終を見ていた後ろの男がハハッと笑う。
「何だ、顔にかけちまったのかよ。そいつの帰り道の事も考えてやれよ」
呑気に笑う男の腰を掴む手の力が強まり、律動が急激に速まって来ている事に気が付いた早坂が心配そうに顔を後ろに向けるとニヤケ面の男と眼が合った。
「そんな不安そうな顔すんなよ。お望み通り、たっぷり中で出してやるさ。あのビデオのようにな」
「っ!やっ……そん、なっ………嫌だぁああっ!!」
何とか繋がっている身を離そうと必死にもがくが、全て無駄な事だった。耳に聞こえて来る嘲り混じりの笑い声。一瞬、全てが白い光と化した視界。そして大量の熱を感じると同時に同じ熱を吐き出した身体。それらは全て慣れてしまっている事なのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう?地面に爪を立てていた手の甲にポツポツッと涙の雫が落ちて砕け散る。
「……っ………っく…うぅぅ………」
そのまま涙が砕けた両の手の甲に額を付けて啜り泣き始めた早坂を満足そうに眺めながら、二人の男は衣服を整えた。
「ご馳走さん。楽しませて貰ったぜ」
「またヤられたかったら、あの街灯の下に立っとけよ。俺達で良けりゃ相手してやるぜ。…もし次回も相手してくれるんなら、あの薬持って来いよ。俺達も薬使った時のお前とヤッてみたいからよ」
地面を向いたままの早坂の黒い髪をクシャクシャッと掻き回して男達は去っていく。その背中を見送る事も無く、早坂は土下座のような体勢を維持したまま嗚咽を漏らしていた。

 涙でグシャグシャになった顔を漸く上げた時には、空には満天の星が輝いていた。近くに転がったままの鞄をズルズルと引っ張り、中から携帯電話を取り出して幾度かボタンを押した後、耳に当てる。数回の呼び出し音の後、はいと言う声が聞こえて来た。
「……藤堂君………どう言う…事?」
受話器の向こうから聞こえて来た涙混じりの震えた声に藤堂はククッ…と小さく笑った。
「どう言う事って?何かあったのかな?」
「…君がくれた地図の場所に行ったら……僕が犯されてるビデオの事…知ってる人がいて……その人達に………そ、その…犯されて……」
最初は弱々しく震えていた声が少しずつ大きくなっていく。そして、最終的には感情的な叫びに近い声になっていた。
「本当にどう言う事!?おかしいよ!!あのビデオは処分するって……販売はしないって言ってたじゃないか!!それなのに……何で知ってる人がいるんだよ!!」
怒りと、悔しさと、惨めさと。様々な感情が交錯して泣き叫ぶ早坂の耳に入って来たのは、叫びに押される戸惑いの呻きでもなく、謝罪の言葉でもなく、小さな含み笑いから高笑いに発展した藤堂の声だった。
「アハハハハハッ!!それが君の望みなんじゃなかったのかい?」
「えっ…………」
「まずはビデオの事から説明しようか。実は小林君が君達を助けに来る前にね、既に君だけが犯されているビデオは販売されてしまっていたんだ。君達を解放した後に慌てて回収したけど…やっぱり“回収するので返して下さい”って言っても返してくれない捻くれ者もいる訳なんだよ」
「………………………」
黙って聞いているのか、何も言えないのか。とにかく無言のままの早坂の耳に藤堂の説明が続く。
「…で、そのビデオが出回っているのが、君が今いる街。……何故、君に其処を紹介したか教えてあげようか?僕なんかが相手でも淫らに振る舞う君を見て分かった。君が薬を欲しがった理由を」
「…………………」
「君は望月君が好きだったけど身を引き、その心の空虚を紛らわせる為に淫らな行為に身を委ねている。……そして、君が薬によって理性を失っている間、君は自分を抱いている相手を望月君と無意識にダブらせている。…違う?」
藤堂の思わぬ推測に早坂の心臓は一瞬胸を突き破らんばかりに跳ねたが、唾をコッソリ飲み込んだ後、辛うじて声を出した。
「………………違う…よ…………」
「…フッ、その割には自信が無さげな弱々しい声だね。とにかく、僕は君に提供したんだよ?君が性行為をする相手に困らない場所を。感謝して欲しいものだね」
「……余計な事をしてくれたね…」
「そう思うのなら、今後其処に近付かなければ良い事だよ。それを決めるのは君自身だ。まぁ、ゆっくり考えたまえ。それじゃ」
一方的に話し、一方的に電話を切る。早坂が慌てて呼び止めた時には既に受話器からはツーツー…と言う音しか聞こえて来なかった。
「……………」
携帯電話を鞄に戻し、ボンヤリと下を見つめる早坂の虚ろな瞳に白が映る。注ぎ込まれた其処から溢れ出た情欲の熱だった。床だけでなく、内股も濡らしているそれに手を伸ばし、指で掬い取ってゆっくりと舐めるその口は何故か微笑の形を作り、何処か不気味な笑い声を漏らす。
「……フ…フフフッ………アハハハハハッ!!!」
天を仰いで笑いながら、早坂は藤堂の勘の良さに感服した。正解だよ。心の中で藤堂に言う。僕が薬を求めた理由も、僕がコッソリと相手を駿君とダブらせていると言う事も。
 そう、誰でも良かったのだ。自分を抱いてくれるなら、自分に快楽を与えてくれるのなら、自分の大切な人と重ねさせてくれるのなら。より強く淫らな快感を求めて薬を使う自分を受け入れてくれるのなら。
 僕は君に提供したんだよ?君が性行為をする相手に困らない場所を。藤堂の言葉を思い出して身体をゾクッとさせるが、それは恐怖ではなく、期待感が身体を貫く事によって生じた震え。此処に来れば、あの街灯の下に立てば、誰かが僕を抱いてくれる。“獲物”を調達するのに適した場所を意外な形で簡単に探す事が出来た早坂は、再度うっすらと湿った唇を吊り上げて笑った。