ハインケル He111

  

        ハインケル He111 
 
  
 第1次世界大戦に敗北したドイツはヴェルサイユ条約の締結により、航空機の製造が全面禁止されました。兵器に手っ取り早く結びつく航空機を連合国は恐れており、ドイツの挙動には目を光らせていました。

 しかし、戦後3年経った1922年にはその規制は早くも緩和され、軍用機でなければ製造ができるようになり、航空機エンジニアの一人であるエルンスト・ハインケルによってハインケル航空機製造株式会社が設立されました。ヒトラーが台頭するまで、ハインケル社は郵便飛行機や旅客機を開発し、順調に成功を収めていました。やがてドイツ空軍が極秘裏に再興されると、それに合わせて軍用機開発も進められました。

 ドイツ国内では軍用機の開発が行えないため、民間機開発と詐称したり、設計図を持って海外で試作開発したりとあらゆる手段が講じられました。今回ご紹介するこのHe111もそのような方法で連合国の目をかいくぐって開発された飛行機の一つでした。

 先立って開発した高速郵便飛行機He70は当時の水準を大きく上回る高性能を発揮しており、周辺国の航空機エンジニアに大きな影響を与えました。後に名機「スピットファイア」を開発する主任設計技師であったレジナルド・ミッチェルはHe70の主翼に採用された楕円翼の効果を絶賛する手紙をハインケル本人に送ったと伝えられています。これだけ高性能なHe70でしたが、元が高速郵便飛行機であったため、軍用爆撃機としては不適切だという評価がなされました。(一方、偵察機としては優秀という評価もあり「ブリッツ(稲妻という意味)」のニックネームがあった)

 これを受けて1934年、ハインケル社はHe70開発で培った技術をフルに投入した大型高速爆撃機の開発に乗り出しました。もちろん、この頃はまだ軍用機開発は公認ではなかったため、名目は「ルフトハンザ航空向け高速旅客機」とされました。

 1935年2月、早くも試作機が初飛行を迎えました。この時に空を飛んだ旅客機タイプはルフトハンザ航空に就役し、当時としては高速の部類に入る旅客機としてデビューしました。諸外国の目くらましとなった旅客機タイプが完成した後、ハインケル社はこの機をベースに今度は爆撃機タイプの開発に移行しました。

 最初に完成したAタイプは飛行試験の結果、爆撃機としては能力不足とみなされ「旅客機」として中国に売却され、実戦配備されたのはこの後のBタイプからでした。1939年第二次世界大戦勃発のポーランド侵攻をデビュー戦として、ノルウェー、デンマーク、フランスでの作戦に投入され、その当初は高速爆撃機として大いに猛威を奮いました。しかし、対イギリス戦の有名な戦い「バトル・オブ・ブリテン」でその神話は崩れ去りました。

 これまでは「メッサーシュミットBf109」が基地に帰還するまで随伴していたのですが、「バトル・オブ・ブリテン」の戦いではドーバー海峡を超えたイギリス南東部付近までしか護衛することができず、戦闘機が引き揚げたところをイギリスの迎撃戦闘機に攻撃されるという事態になっていました。もちろんHe111にも対空戦闘のための武装は装備されていましたが、あくまで味方戦闘機の護衛が前提の装備でしたので、為す術もなく撃墜されるのが大抵でした。とくに機体下部の銃座はまっさきに狙われることが多く、ドイツ空軍のパイロット達からは「死人のベッド」と呼ばれ嫌がられました。

 バトル・オブ・ブリテン終結後はHe111は最前線の爆撃任務から外され、その後はユンカースJu87が引き継ぐことになっていきます。最前線から退いた後は夜間爆撃やミサイル母機、雷撃、航路誘導、グライダー曳航、輸送などの各種任務へ割り当てられることになりました。また1942年にはスターリングラードで包囲されたドイツ陸軍への補給任務などに従事し、さらに大戦末期には実質的に輸送任務だけに従事することになりました。

 対空戦に弱い大型爆撃機ではありましたが、使い勝手の良さはドイツ空軍内でも折り紙付きで爆撃任務から外れた後も生産は継続されその生産数は7000機を超えました。


性能諸元     

 全長; 16.40m
 全幅;  22.60m
 全高;  4.00m
 正規全備重量; 14000kg
 エンジン; ユンカース「ユモ」211F-2 液冷倒立V型12気筒 1,350馬力×2基
 最大速度; 440km/h 
  武装;  7.92mm機銃×3〜7、13mm機銃×1、20mm機関砲×1、
       爆弾;最大2,500kg(翼下2,000kg+爆弾倉500kgまたは爆弾倉2,000kg)


           



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