ホルテン Ho229
               
            ホルテン  Ho229
 
  
 航空力学では「推進力」「揚力」の二つが揃えば理論的に飛行機は飛ぶことができます。推進力を生み出す「エンジン」と揚力を生み出す「主翼」の二つだけを組み合わせた機種は「全翼機」と呼ばれ、実は飛行機がライト兄弟によって発明された同時期に考案されています。この全翼機の利点は何といっても、材料が少なくて済むことや空気抵抗が少なくなること、尾翼などレーダー波に当たっても反射するものがないためステルス性が高くなることが挙げられます。

 第一次世界大戦終結後、ドイツはワイマール条約で軍用機の製造が禁止されていましたが、民間向け航空機やグライダーの製造は数年後に緩和されていました。ドイツ国内でも民間での飛行クラブがいくつも存在し、その大会は盛んに行われていましたが、グライダー部門の飛行クラブで驚異的な技術力をもって連続優勝を収めていた兄弟がいました。彼らはホルテン兄弟として知られ、その技術力は一般的な航空エンジニアにも引けをとらない高度なものでした。やがて兄のヴァルターはパイロットとして、弟のライマールは設計者として再建間もない新生ドイツ空軍に身を投じることになりました。


 兄弟は空軍勤務の傍らも研究を続け、全翼機の設計・開発に取り組んでいました。この影には後のロケット戦闘機Me163開発のキーパーソンとなるアレクサンダー・リピッシュ博士の協力もありました。第二次大戦勃発直前の1938年までにホルテン兄弟は実験機の制作に成功していました。1941年、戦闘機開発部門に在籍していた兄ヴァルターは弟のライマールを異動で呼び寄せることによって、全翼機実用化に向けさらに注力することになりました。

 この頃、ホルテン兄弟に追い風となる出来事が起きます。ドイツが守勢に転じ始めた1943年、空軍大臣のヘルマン・ゲーリングが3×1000計画という企画を打ち立てました。これは1000kgの爆弾を時速1000キロのスピードで1000kmの範囲を行動する爆撃機の開発を公募するものでした。ホルテン兄弟はこのプロジェクトに「ホルテンⅨ計画」というタイトルで全翼機の開発で公募に応じることを決めました。その内容とは
 

 ・最大速度 時速900キロ
 ・爆弾搭載量 700kg
 ・航続距離 2000km
 ・動力にはジェットエンジンを使用すること
 ・基本設計は全翼機

 というものでした。ゲーリングは兄弟の提案を承認し、ドイツ空軍の協力と開発支度金が約束され、開発はスタートしました。
 1944年3月にはグライダータイプの試作機H ⅨV1が初飛行に成功しました。
 開発を効率よく進めるならば、このグライダー機にジェットエンジンを搭載すれば良かったのですが、予定されていたジェットエンジン「BMW003ターボジェットエンジン」は小型化に失敗し、試作1号機は試験が終了しました。

 同年の1944年12月にはMe262に採用されたジェットエンジンの後継タイプを搭載した試作2号機H Ⅸ V2が完成し、念願の試験飛行が始まりました。設計段階から懸念された安定性(垂直尾翼がないので機体が空中で姿勢制御が難しくなる)に問題はなく、何よりも現行の戦闘機とは比較にならない性能を空軍関係者に見せつけ、ドイツ空軍上層部を狂喜させました。しかし、この試作2号機はテスト飛行中、ジェットエンジンの故障で試作機は墜落、炎上してしまい、機体とテストパイロットの双方が失われました。

 ドイツ空軍はテスト飛行の結果から、この試作機をHo229として正式採用し、量産能力を持たないホルテン兄弟に代わってゴータ社が量産を受け持つことになりました。Ho229の高性能に軍のかける期待は大きく、夜間戦闘機や複座型など様々なタイプが検討されました。さらには大西洋を往復し、アメリカ本土を爆撃する設計プランもあったと伝えられています。


 Ho229はジュラルミンなどの戦略物資を使わずとも、鋼管とベニヤ板で機体を製造することができ、量産にも配慮されていました。特に塗料には炭素粉を使うことが計画されており、もしも実現していればレーダーで探知されにくい世界初のステルス機として連合国にとって厄介な航空機になっていたと考えられます。

 ドイツ敗戦後、ゴータ社で製造中の1機がアメリカに接収され、現在はアメリカ国立航空宇宙博物館で保管されています。

 現在、全翼機はアメリカ空軍に配備されているB-2ステルス爆撃機が有名ですが、機体の価格そのものが高価すぎるため(海上自衛隊のイージス艦1隻の建造費よりも高価)、映画と違って現実の世界ではほとんど表舞台には出てきません。



性能諸元    

 全長;  7.47m
 全幅;  16.78m
 全高;  2.8m
 正規全備重量; 8500kg
 エンジン; ユンカース「ユモ」004Cターボジェット 推力1,000kg×2基
 最大速度; 1000km/h 
  武装;  30mm 機関砲×4
  爆弾; 500kg×2  ロケット弾も装備可能

              
     



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