「別に目新しい情報は何もない。地球の浄化が進んでいれば大々的に発表されているはずだ。単に行った連中が帰ってくるだけの話だろう」 リオが立ち上げた携帯モバイルのホログラムに無感動に応えたのはキースで、ブルーは振り返りもしない。そのニュースなら、どのソースのものも一通り目を通した。 「これはまた素っ気無いですね。確かキースは地球再生機構への参加を希望しているのではなかったですか?」 それは初耳だ。思わぬところでキースとの接点を知ったブルーは多少興味を惹かれた。 だがすぐにそれも失い、一人歩く速度を上げた。 再生機構への参加は脱落者が続出するという訓練を潜り抜け、厳しい選考とその条件を満たした者のみが参加を許される。 その訓練生になることすらも選考を抜けねばならず、その門の狭さには定評がある。 ならば同じ道を目指しても、キースと同行するとは限らない。いや、恐らく不可能に近い。 「希望はしているが、それは些末な情報に踊らされるという事とは別物だ。一通りのニュースには目を通している」 キースと同じ行動を取っていると知って、ブルーは機嫌は更に少し下降した。それまで気にも留めていなかった相手が、自分と同じものに興味を惹かれ、同じところを目指している。 しかもそこまでへの距離は、恐らくキースのほうが近い。 「ところで、僕はあなたにそんな話をした覚えはない……マツカ」 「は、はい!あの、でも兄さんなら別にいいかと思って……」 「余計なことを」 年少の二人はそんなブルーの様子など気づいた様子もないが、少し足を速めたというのに距離が空く気配がない。恐らくさりげなくリオがブルーに合わせて二人に気づかれないほど自然にペースを上げたろう。 「マツカは君の希望を吹聴して回ったわけではないですよ。この子が急に機構を目指すと言い出したから理由を尋ねただけです。君について、君の手助けをしたいと、そう言ってね」 ブルーは思わず零しかけた溜息を噛み殺して、更に少し速度を上げた。下り坂のお陰で勢いがついた。 「くだらない」 同じ道を目指し、その手助けをしたいという友人の思いをくだらないと切って捨てたキースに、マツカは怒るどころか軽く首を傾げた。 「今日は機嫌がいいんですね、キース」 無関心に先を歩いていたのに、思わぬ感想につい振り返ってしまった。 ブルーと目が合ったキースは不機嫌そうに眉を寄せてふいと横を向く。今朝のキースといえば、相も変わらぬ無表情。どの辺りに機嫌の良さがあるのだろうか。 「余計なことを言うな」 「はい、すみません」 叱られながら、それでも楽しそうなマツカの様子にリオは苦笑して、ブルーは気が知れないと肩を竦めて、リオとマツカをそれぞれ目だけで指し示す。 「ミュウはみんなどこか変なのか?」 「それはまた随分な言い様ですね」 「僕やキースみたいな奴に好んで構う」 「それを言うなら寛大と」 自分で言っていれば世話はない。少なくとも神経は図太いのだろうと結論付けて速度を落とさず歩き続けるブルーの後ろで、答えがなくとも自分で見つけたらしいマツカが軽く手を叩いた。 「ああ!そうか、今日からアルテメシアに移動していたサムが戻ってくるんでしたね」 言いながら自身も嬉しそうに微笑むマツカに、キースは苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、リオが弟に問う。 「サム?」 「キースの親友です。お父さんの仕事の都合で二年前にアルテメシアへ移住していて、今年から帰ってくるはずなんです」 「余計なことを言うな」 聞くともなしに耳に入ってきた後ろの会話に、キースにマツカ以外で友人がいたのかと少し感心してしまった。確かに自分よりはキースの方がまだ社交性は望めるが、世の中は案外お人好しと物好きが多いらしい。 どちらにしても自分には関わり合いのない話だと、大した興味もなく鞄を肩に掛け直した、その後ろでざわめきが起こった。 聞き慣れたそれに振り返りもしないでいると喧騒が大きくなり、悲鳴や怒声までが上がる。 さすがにいつものブルーを見世物にした様子ではないと振り返ろうとした刹那。 「どいてくれー!」 急ブレーキ音に周囲から上がる悲鳴。 その中心にいたはずのブルーは、一瞬の判断で後ろにステップを踏んで振り返りながら道の脇に避けた。 その視界に、茶色の影が過ぎる。 それが人だと認識したのは、飛び込んできた物体を咄嗟に受け止めてからのことだ。 激しい衝突で飛び込んできた物を両手に近くの壁に強かに背中をぶつける。少し先に進んだ向こうでは、尾を引いたブレーキ音が何かに激突する音と共に止まった。 「サム!?」 背中と胸を痛めて軽く咳き込んだブルーに見向きもせずに、いつになく血相を抱えたキースが駆けて行く。その後ろをマツカが追いかける姿を見たところで、ブルーの腕の中のものが動いた。 ぎょっと目を落とすと、目に鮮やかな金色がすぐ傍にあって思わず息を飲む。 「いたた……」 呻き声が上がり、金色がひょこひょこと揺れて驚いた。 「なに……?」 「大丈夫ですか、ブルー!それに君も!」 蒼白の顔色で駆け寄ってきたリオの呼び掛けで、ブルーは腕に飛び込んできたものが、金色の髪を持った茶色のジャケットを着た少年だとようやく認識した。 |