「ジョミーのおかげで、僕もとても雪を好きになった」 「と、いうことは、やっぱりあなたは雪が嫌いだったんだ……」 ようやく泣き止んだジョミーは、包まれていた腕から起き上がろうとしてブルーの胸に手をついた。 そっと外されるだろうと思っていた腕は、予想に反してしっかりとジョミーを抱き締めたまま離れそうもない。 「……ソルジャー?」 「嫌いだったわけではないのだが……少なくともジョミーのような視点では考えたことはなかったな」 「ぼくだって考えたわけじゃないよ。そう感じただけなんだから」 「雪に僕を感じた、と?」 「そう………………なるの、かな………?」 抱き込まれたまま赤い瞳に見下ろされて、なんとなく肯定してはいけないような気になって、答えは曖昧になってしまった。 けれどもブルーはそれを気にした様子もなく、うんうんと頷いて、ジョミーを抱き込んだままベッドに倒れるようにして横たわる。 「ソルジャー!?」 「僕は今、感動している。ずっと成長を見守り続けていた僕の幼子が、僕とはまったく違う視点でものを見て考えて……僕に新しいものの見方を教えてくれた」 「いや、だからってこれは一体何の真似なの!?」 どうして様子を伺いにきただけのはずの最長老に抱き締められたまま一緒にベッドに横たわるなんて態勢になっているのか、ジョミーにはさっぱり理解できない。 「君は雪が好きなんだろう?」 「え………ええ、まあ」 「そして僕に雪を感じた」 「…………それで?」 「雪は触れるとすぐに消えてしまうけれど、僕なら触れても消えはしない。僕で存分に雪を堪能してくれたまえ」 「『感じる』の意味が違うよ!」 「だったら、僕に君の目から見た雪を伝えてくれないか?」 「だから、だったらってなにさ!?」 どこまでが本気で、どこからが冗談なのか、ブルーは真面目な顔をしてからかうからわからない。ジョミーはギリギリと眉を寄せてブルーの胸を軽く叩き、腕の力を緩めるようにと要求する。 「雪は『微かな音』で包んでくれるんだからね!?こんなぎゅーっとしてないよ!」 「ジョミー。言ったろう?」 「何を」 「雪は手や足で固めると、驚くほど丈夫になると」 そういえばそんなことも聞いた気がする。ふわふわと落ちてくるだけの雪からは想像も尽かなかったけれど、船を傾けるほどの重量を知った後では納得できる話だ。 「僕の君への心は、君に握り込まれて硬く強く丈夫になる一方だ。どうだい、せっかくだから、硬い雪も経験しておくといい」 「だから、それってもうまったく違う話になっているじゃないか!」 意味がわからない! ブルーの身体を気遣いながら、どうにかその腕の中から抜けようともがくジョミーの耳元に唇が寄せられる。 「困ったね、この雪は簡単には溶けそうにないよ」 その声色が、先ほどまでの強気に押し進めていたものとは違う気がして顔を上げると、ブルーは本当に困ったように微笑んでいた。 せっかく解放されそうな雰囲気だったのに、ジョミーはそれが受け入れ難くて今度は自分からブルーの背中に手を回して、少しぶっきらぼうに返した。 「ぼくはちっとも困らない」 |
強気だけど弱気な最長老様と素直な少年でした。 最終的に背中を押すのはジョミーのほうなんだな、と再確認。 |