「それにしても、あんたがソルジャーとジョミーの仲を取り持ったっていうのは意外だねえ」
ブリッジにて点検作業を行っていたリオは、頬杖をついた航海長にしみじみと言われて首を傾げる。
『そうですか?』
「そうだよ。あんたはジョミーのことを可愛がっていたじゃないか。まだ子供のうちは、悪い虫を追っ払うだろうと思ってたんだけどね」
『ジョミーの幸せが一番大切だと思いますから』
傍で聞いていたハーレイは、ブリッジでするに相応しくない会話に眉を寄せて肘掛けを指先で叩いていた。
ソルジャー・ブル―とソルジャー・シンのソルジャー同士で恋人になってしまっただなんて、他の者に気づかれでもしたら示しがつかないではないか。
「ま、あんたらしいといえばあんたらしいか。意外と言えば、エラとゼルのほうかもね。ジョミーに助言したって話には驚いたよ」
どうやら自分だけがソルジャーの恋について、まったく関わらなかったことが面白くないらしい。騒動と洒落が好きなブラウらしい茶化し方に、ゼルはふんと鼻を鳴らす。
「あんな騒々しい思念を撒き散らした挙句に、くだらん話を聞かされるよりずっとマシじゃ」
「少しハーレイの気持ちがわりかりましたからね」
エラの苦笑に、ハーレイは肘掛けを指先で叩きながら、一方で胃も押さえて少し前かがみになる。
「騒々しい思念は結局押さえられていないようだけど」
今朝も上がった悲鳴にブラウが笑うと、ゼルとエラは同時に溜息をついた。
そう、それもハーレイの悩みの種だ。あれではいつかソルジャーたちが恋人同士だと周囲に知られてしまう。いや、いつまでも隠しとおせるものではないとはわかっているのだが。
「いっそジョミーも青の間に部屋を移ったらいいんじゃないか?そうしたら目を覚ましてベッドにソルジャー・ブルーがいたって悲鳴を上げないだろう?」
「そんなことを認めるわけにはいかないっ」
とうとう肘掛けを叩いて会話に参戦したハーレイに、一斉に視線が向けられる。
「お二人の仲は、まだ公然にすべきではない!」
しばらく沈黙が降りた。
「………あのさ、ハーレイ」
「無駄な努力じゃな」
「ええ……気持ちはわからなくもないのですが……」
「なんですと?」
もうソルジャー同士の恋が広まってしまっているのかと目を剥いたハーレイに、リオは持っていたチェック用紙を挟んだボードで顔を半分隠しながら乾いた笑いを漏らした。
『お付き合いが始まる前に、ジョミーがソルジャーと個人的なことに悩んでいる思念を零していましたし……』
「それで週に一度は朝からジョミーの悲鳴とソルジャーを怒鳴る思念が船内放送だ。これで気づかない方がどうかしているだろう?」
おまけに二人が揃えば間に流れる空気の変化には、否応もなしに気づかずにはいられないだろう。
「まあ、ほら、よかったじゃないか」
がっくりと気を落としたハーレイを慰めるように、ブラウが横に回り込むと肩を叩いた。
「あれだけ仲が上手くいってるなら、ソルジャーがあんたに愚痴を零すこともなくなるだろうしさ」
確かに、あれはただ我が子自慢のように惚気たいというだけではなく、ジョミーのことが可愛くて可愛くて仕方がないのに、気持ちのままに愛でることができない鬱憤を晴らしていたという側面がある。
少しだけハーレイも慰められた気持ちになった。


「確かに僕たちは晴れて恋仲という関係になったわけだが、身体的にジョミーが子供であることに変わりはない。ジョミーの心と身体と、どちらも成長するまで僕は自粛するつもりだ。確かにそのつもりなのだが、あまりに無防備なのでときどき途方もない忍耐を強いられる」
私室で本を読んでいたところでブルーの強襲を再び受けたハーレイは、聞こえないと心で耳に蓋をして答えを返さなかった。
ブルーがベッドに入り込むことに怒りはするが、あれは純粋に驚いたことを怒っているだけの問題で、それ以上のことは未だ気にした様子もない。
キスをしながら、もつれ合うようにベッドに沈んでも、額を合わせてくすくすと可愛く笑うだけだ。
そう話したブルーの持ちかけた相談は、既に今の時点でも耳を覆いたくなっていたハーレイを、撃沈させるに十分なものだった。
「恥ずかしながら僕は今まで特に恋愛感情に振り回されたことがなかったために、耐えるときの気を紛らせる手段にあまり持ち合わせがない。素数を心の内で読み上げたり、このシャングリラのエンジン動力炉の設計を一から思い起こしたり、そういう手段が尽きてしまった。どうしたものだろう、君、何かいい雑念集のようなレパートリーの持ち合わせはないか……ハーレイ?どうした、テーブルで眠ると風邪を引くぞ?」






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ベッドに潜り込むのをやめたらいいと思います、
とは言えないところが辛いハーレイでした。