『ぎゃぁーっ!!』
朝から悲鳴のような思念がシャングリラ中を突き抜けた。いや、悲鳴のようなではなく、正しく悲鳴。
パチリと目を開けて覚醒したリオは、時計で時間を確認して起き出した。
初めてこのジョミーの悲鳴を聞いたときは、飛び起きて部屋まで駆けつけたものだったけれど、今ではいい目覚まし代わりにしか思えない。夜勤明けで眠りに就くところの者にとっては公害以外の何もでもないだろうけれど。


「おはよう、ジョミー」
ブランケットを抱き締めて飛び起きたジョミーに、ベッドに肘をついてまだ寝転んだままのブルーは爽やかに朝の挨拶を述べた。
背中を壁に貼り付けたジョミーはそれどころではない。
昨夜は確かに自分の部屋で、一人で眠った。それなのに、目を覚ましたらすぐ鼻先で笑顔の恋人が寝顔を覗き込んでいたのだ。
起き抜けに麗しい恋人のアップ。
これが驚かずにいれようか。たとえ初めてのことではないとしても。
「ど、ど、ど、どうしてまたぼくのベッドに潜り込んでるの!?とっても立派な自分のベッドがあるくせにっ!」
「僕ならこの部屋にいつ入っても構わないと言ったのは君だろう」
「それは起きているときの話でっ」
「それでは『いつでも』とは言えない」
「部屋に入っていいとは言ったけど、ベッドに潜り込んでいいなんて言ってないっ」
「では君が目覚めるまで、ベッドの傍らに立って待っていろと?」
「起こしたらいいじゃないか!」
「そんなもったいな……いや、可哀想なことはできない。せっかく深く寝入っているのに」
「今もったいないって言おうとしたよね?」
ジョミーはブランケットを抱き締めたまま、溜息をついて寝癖のついた髪を掻き回した。
想いを通じ合わせるまではこの遥か年上の人があんなに可愛く思えたのに、あれは儚い幻だったのだろうか。
あんなに遠慮していたのに、今ではすっかりやりたい放題だ。
何より頭が痛いのは、それでもブルーの楽しそうな顔を見ていると、何となく嬉しくなってしまう自分のほうなのだけど。
努力してしかめ面を保とうとするけれど、毎回結局はジョミーの嬉しいという思念が伝わってしまって、ブルーの機嫌をさらに良くする結果にしかならない。
「ジョミーの温かい体温を感じたいだけなんだよ」
だから許せとでも?
ジョミーはもう一度深く溜息をついて、ふと思い出した。
「そういえば、あなたってスキンシップが好きだよね?」
「そうだろうか?……いや、確かに君に対してのみならそう言えるか」
「……フィシスもでしょ?」
何気なく言ったつもりだったのに、驚いたように目を瞬いたブルーは、おもむろに起き上がって笑顔で両手を広げる。さあおいでと言いたいのだろう。
「ジョミーは可愛いな」
「べ……別に深い意味はないよっ」
「わかっているとも。だがフィシスは僕にとって娘のような存在だ。地球を抱く女神でもある。ジョミーとは意味が違う」
わかってないじゃないか。
嫉妬されて嬉しいですと顔に書いているようなブルーに恨めしげな目を向けても、まったく効果はない。照れ隠しにしか思っていないのだろう。
「娘のような存在だって、でもぼくのことだって最初は息子のように思いたかったって言ってたくせに」
再度手招かれても、ジョミーはブランケットを抱き締めたまま動かなかった。声が拗ねたような響きになってしまって恥ずかしい。
ブルーは軽く眉を上げ、やってこない恋人に仕方がないというような息をついてブランケットを抱き締めるジョミーの手首を掴む。
「でも君は、もう息子のような存在ではない」
強く手を引かれても、踏ん張れば抵抗できたに違いないけれど、結局は素直にブルーの腕の中に収まった。
腰に手が回り、頬を優しく撫でられる。
膨れていたジョミーは、その心地良さに段々と表情を和らげて、次第にはくすくすと笑って目を閉じた。
優しい口付けが、額と、瞼と、頬と、そして最後に唇に降りてくる。
「我が子のように思う相手には、こんな口付けはしないさ」
まだ唇が触れるほどの距離で、少し低く押さえられた声で囁かれ、ジョミーは首筋から熱くなるのを感じた。きっと耳や項が赤くなってる。
「ぼくのこと、好き?」
「ジョミーこそ、僕のことは好きかい?」
質問に質問を返されて、けれど二人でくすくすと笑い合って軽く唇を重ね、また少し離して同時に返す。
「好きだよ」
重ねた囁きを合図に、今度はベッドにもつれ込むようにしてブルーに倒されて、息もつけないくらいに深い口付けを交わした。






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NEXTは振り回された人々の一コマです(^^;)