優しく掌で掠めるように擦ると、ジョミーは小さく震えて逃げ出そうと肩を押し返してくる。
「やっ……くすぐったいっ」
ぎゅっと目を閉じて、小刻みに震える様子は確かに笑い出すことを堪えているように見える。
ジョミーに言ったとおり、もし本当に射精の仕方を教えるためにということだけなら、このままでも特に問題はない。今ブルーが施している準備の段階は、大別すれば血流の問題なのだから、必ずしも快感を得なければならないというものでもないからだ。
ただ、快感を伴わない射精ではただの作業でしかなく、あまり身につかないだろうとも思う。
「……ふむ……どうしようか」
ハーレイの思念が届いたわけでもないが、まだ成長過程にあるジョミーに無体なことを強いるつもりはブルーにだってない。けれどこれはジョミーがひとりでも自分の意思で吐精できるようにということを教えているのだし、自らの手で快楽を得ることはこちらの方面での第一歩でもある。
少し考えて、ブルーはにこりと笑顔でジョミーに訊ねた。
「ジョミーは、くすぐったいのと気持ちがいいのと、どちらがいい?」
「え……?」
突然の質問にジョミーは困惑するように言葉に詰る。だが下肢を撫でるブルーの手に気を取られて、その意味を深く考える余裕はない様子だった。
「それは、気持ちいいのが好き……だけど……」
下肢を這うブルーの手に、ぴくりと震えて唇を噛み締める様は十分に可愛らしい。けれど、これはくすぐられているむず痒さを耐えてのことだ。
「そうか、気持ちがほうがいいんだね?わかった」
ジョミーが選んだのだからそちらの方向で。
そもそも質問の仕方が間違えているだなんて考えは少しも持たずに、ブルーは腕の中に抱き込んだジョミーの耳朶やそのすぐ下に音を立てて口付けを繰り返しながら手の動きを変えた。
「あ……っ」
下から掠めるように撫でていた掌を緩く丸め、全体的に握り込むと肌と肌をぴたりと合わせる。そうして、根元から先端に向けて少し強く擦り上げた。
腕の中の身体が小さく跳ねる。
「ブルー……?」
「気持ちいいほうが好きなのだろう?」
ちゅっと音を立てて耳朶にキスをすれば、ジョミーはまた僅かに身体を震わせる。
「え、でも……な、なんか……へん……?」
「気持ちよくないかい?」
もう一つ、少し下へずれてキス。
「わかんない……」
ジョミーの耳元で直接囁きかけるようにすると、当然ながらブルーも同じことをされるということになる。
耳に直接吐息をかけて、少し呼吸を乱し始めた戸惑う初々しい声が可愛らしくて、ブルーも腰に重みを覚え始める。
「………少し、まずいかな」
「え………?」
今日の目的はあくまでジョミーに教えることであって、それ以上のことにまで及ぶつもりはない。煽られると後が困る。
あまり強い刺激はまだジョミーにはつらいだろうと思っていたけれど、そうは言っていられなくなって、握った手を滑らせジョミーの先端を指先で少し強めに擦りつけた。
「あっ!いっ……ま、待って……っ」
「少しだけ我慢して。すぐに気持ちよくなる」
強い刺激に逃げようとするジョミーの腰を抱き寄せて、手に強弱をつけて握りながら、指先で先端を刺激し続ける。
宥めるように頬や唇に軽く口付け、抱き込んだ腰を撫で擦る。
「は……っぁ……」
ジョミーは浅い吐息をつきながら、僅かに身体を震わせた。それは笑いを堪えていたときと似ているようで、少し違う。
小刻みに震える身体は、まるで怯えた小動物のようで、けれどその紅潮した頬がそれを否定する。
腰を強く抱き寄せていた手を離しても、ジョミーはもう逃げようとはしなかった。
「ブルー……な……にか、へ……ん……」
「どんな風に?」
仄かに紅く染まった頬を優しく撫でながら、下肢を弄る手は力を強くする。
ジョミーは一瞬息を詰めて、微弱な電流を感じたように小さく身体を跳ねた。
「からだ……あつ……い……」
「身体の、どこ?」
ぎゅっと唇を噛み締めて、息を飲んだジョミーはその両手でブルーのマントを掴んで下へ思い切り引っ張った。
「へん、だよ!だって、こんな……じゃ、なかっ……」
「それは、朝起きたら既に立ち上がっているというのは生理的自然現象だからね。これは人為的な行為だから、少し違う感覚が混じる。さ、そろそろいいかな」
優しく宥めるように髪を撫でながら、瞼に上に軽くキスを落としたところで、ブルーはそっと手を離した。
「え……?」
急に腕の中から解放されたジョミーは、状況が出来ない様子で二度ほど瞬きをする。
「ブルー?」
「さて、ではジョミーはどうしたのか見せてくれるかい?」
掌を上に向けてどうぞと促せば、自分の足元に視線を落としたジョミーは呆気に取られたように口と目を同時に見開き、次の瞬間には顔を真っ赤に染めて慌てたように夜着の裾を握って身を屈めた。
「み、見せるって……っ」
「ジョミーがどうやったのか分からなければ、良いも悪いも分からない。直したほうがよいところを知るためには、ジョミーのやり方を見せてくれないと」
「い、いいいい、いらないっ!教えてくれなくていいっ」
上着の裾を握り締めて、赤く染めた顔を力の限りに左右に振るジョミーの様子は少し可哀想だが可愛らしくてつい笑ってしまいそうになる。
自慰という行為について、その意味をよく知らなくとも見せるとなると場所が場所だけに、強い抵抗を覚えるようだ。
「まあ……ジョミーがどうしてもというのなら、僕は教えずとも構わないが」
軽く顎を擦りつつ、ブルーが譲歩して見せるとジョミーはあからさまにほっとしたように息をつく。
「『それ』を宥めるには、どちらにしろ射精してしまったほうが早いと思うが?」
それと指摘された立ち上がった己の一部に、ジョミーは眉を寄せてブルーを怒鳴りつけた。
「こんなにしたのはあなたじゃないかっ!ぼくはやだって言ったのに!」
「では責任を取ろう。おいで、先ほどの続きをしてあげよう」
「つ、続き……?」
ジョミーの表情が、一瞬だけ期待を写したことを見逃すブルーではない。どうやらそこを刺激することが快楽に繋がるということは、もう既によく理解したようだ。
差し出した手に、腰を浮かしかけたジョミーは慌てたように座り直して再び首を振った。
「だめっ」
「どうして」
覚えたことのない種類の快感に禁忌を覚えたのだろうか。それも無理らしからぬことではあるけれど。
「そのままではシャワールームへも行けないだろう。自分ですることが嫌なら僕が……」
「だ……って、それじゃブルーの手が汚れちゃう……」
上着の裾を握り締めて、眉をハの字に下げて拒絶する理由は、予想だにもしないもので。
「だめ。ブルーの綺麗な手を、ぼくので汚しちゃうのはいやだ。さっき口にしたのだって……ぼく本当は……すごくいやだった」
小さく、消え入りそうな声色は、いっそ哀れに思うほど弱々しいというのに、ブルーの耳には子猫の鳴き声のように愛らしいものにしか聞こえない。
あれほどジョミーの身体に汚いところなどないと言っても、それは汚いものではないと言い聞かせても、己のものでブルーを汚したくないと。
それは、その行為に禁忌を感じているからこそ。
下衣を履かず、下着も着けず、立ち上がらせたものを隠そうと上着の裾を握り締めながら、赤く染めた顔を俯かせて唇を引き結ぶ、恥らうその姿。
ほんの少し悪戯を交えて、けれどジョミーには成長の過程を教えるだけのつもりだったブルーの胸に、その姿はあまりにも魅力的過ぎた。
これが先ほどまで性について何も知らなかった、まだほとんど知りもしない子供の姿だろうか。
本来なら、しばらく時間をおけば収まるものだと教えてあげるべきなのだろう。何も無理に今教え込まなければならないという決まりはない。
判っている。判っていて、その姿に抗えない。
「……では、どうする?」
今すぐにでも手を伸ばして、その身体を隅々まで愛撫して、初めての絶頂を迎えるジョミーを見てみたいという誘惑は、ひどく強い。
けれどもう一つ、とても見てみたいものがある。
「僕に触れて欲しくはないのだね?けれどそのままでは動けないだろう。ジョミー、どちらがいい?僕がこの手で導いてあげようか?それとも僕に教えられて自分の手でするほうがいいかい?」
これもまた一つの誘導だ。
しばらく待てば自然に熱が収まるということを知らないジョミーにとって、ブルーの手を介するか、自分の手で行うか、そのどちらかしかないと思うことは仕方がない。
けれど自慰を行うとして、それをブルーに見せる必要まではない、ということに気づかせないための確認。
ジョミーは困り果てたように僅かに視線を彷徨わせたが、やがておずおずと自らブルーの目の前で下肢に手を伸ばす。
「上手く出来るか、見ていてあげよう」
漏れそうになる笑みを手の中に隠して、あくまでも優しい声色で親切めいた言葉をかけると、ジョミーは一瞬手を止める。
だが赤く染めた顔を俯かせると、金の髪を揺らして小さく頷いた。



恐る恐る下肢に伸びた手は、どうにかブルーから少しでも隠そうと両手で中心を覆うように握る。実際、ジョミーの小さな抵抗だったに違いない。
「ジョミー、それではよく見えない」
俯いたまま、怯えたように小さく肩を跳ねたジョミーに、追い討ちのように姿勢を変えるように要求する。
「膝を立てて。足を左右に開きなさい。上着の裾も捲くって、僕に良く見えるように」
思わずといった様子で顔を上げたジョミーは、ブルーと目が合うと僅かに潤ませた翡翠の瞳を再び伏せて、言われるがままに足を引き寄せてゆっくりと膝を立てた。
「ジョミー」
名前を呼べば、肩が跳ねる。怯えているようで可哀想になるけれど、震えながら俯いたその横顔の朱色に染まった頬が誘惑して、どうしても許してあげられない。
どうしてそんなにも、ひとつひとつ可愛く煽ってくるのだろう。困った子だ。
「そのままはつらいだろう?やはり僕が手伝ったほうがいいかい?」
手を伸ばそうとすれば、ジョミーはふるふると子供のように首を振って、震える足を左右に割り開いた。
俯いたままその手がつと、上着をゆっくりと腹まで上げると、震えながら先端から僅かに蜜を零しかけているその姿がブルーの目にもよく映った。






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ということで今回は、こういうテーマでした。
まだ何にも知らない子供相手に視か……
鬼ですか、長。