「ではジョミー、君がどうやったのか見せてくれるかい?」
口調はあくまでも柔らかく、欲など滲ませない声で促せば、ジョミーは震える手でまだ薄くすら茂みを持たない立ち上がった己に触れる。
耐えるように唇を噛み締めて俯くその恥じらう様は愛らしくさえあるのに、従順にブルーの言葉に従い自ら足を開いて中心を誇示する姿は、男を惑わし誘い込もうとしているようにしか見えない。
ジョミーはただ早く終わらせようとしているらしく、若さを示すように上に向かって伸びるそれを下に向けようと押さえつける。
なるほど、本当に初めての射精はただ刺激に反応しただけのようだ。
ふるふると先を揺らすその根元へ、捲り上げたシャツが滑り落ちてくる。今度はブルーが促さなくとも、ジョミーは片手を外してまたシャツを上へ上げた。必要なことを見てあげるというブルーの言葉を純粋に信じて、言われたことを忠実にこなそうとしているのだろう。
なんて可愛い。
ジョミーは懸命に硬く立ち上がるものを下げようと単調に押し下げる作業を繰り返す。
「ん……」
眉を下げて、小さく漏れた声には不満がにじみ出ている。
ブルーは知らず上へと角度をつける口の端を隠すように、口元に拳を当てた。
ジョミーの不満の原因は分かる。先ほどブルーに触れられたときのような快感を、自分の触り方では覚えられないのだろう。あんな無機質な触り方では当然だ。
今日はもう既に一度吐精しているし、ブルーから与えられた軽い性的快感を知ってしまった今、なかなか達することができないでいるようだ。
ジョミーがどうやったのかなんて、もう十分に分かった。指導するという名目でジョミーに自ら痴態を披露させたのだから、本来ここはアドバイスをするべきだろう。
けれど、なかなかその気になれない。
痺れを切らせて助言を求めるか、あるいは手伝って欲しいという要請をするか。
そのどちらかを、ジョミーの意思でジョミーの口から言わせたい。
我ながら意地が悪いことだとは思うけれど。
「……っ……ブルー……」
眉根を寄せ、切なそうな表情のジョミーが潤んだ瞳で許しを請うような弱々しい声を上げる。
「ん?なんだい」
返答が多少わざとらしくても、今のジョミーにそれと気づくだけの余裕はない。
きゅっと唇を噛み締めて、苦しそうに目を伏せて小さく首を振った。
「も……いい……?」
「けれどジョミー、まだ君は達してないよ」
「そう、だけど………」
俯いたジョミーは、けれど下を見ると目に映る光景を厭うように僅かに視線を斜めに逸らして白いシーツを見つめる。
しばらく静かな沈黙がベッドの上を流れて、さすがにジョミーから求めさせるのはまだ難しかっただろうかと諦めかけたところで、変化があった。
「……ん……」
ジョミーの手つきが少し変わる。
それまではただ上から下へと押さえて、恐らく硬く反り立ったものを下着に押し込めようとした朝の行動を再現していただけだったのに、掌全体で柔らかく包み込むように握り直す。
ブルーが黙って見ていると、ジョミーはブルーから顔を背けるようにシーツに目を落としたまま、ゆっくりと自分の手でしごき始めた。
「………ぁ…は……っ……」
俯きがちの表情は、ほんのりと赤く色づき始める。
ジョミーが恥じらい、こちらを見ていないのをいいことに、ブルーは引き寄せたクッションに肘を置いて微笑みを浮かべた。
それは見るものには嘲笑のように見えたのかもしれないが、ブルーはただ飲み込みの早い優秀な生徒に満足しただけだ。
先ほどほんの少し触れただけのブルーの手つきを、ジョミーは身体で覚えている。
そうして、ブルーの視線もしっかりと感じている。俯いて頑なに顔を上げようとしないのはそのためだ。
自らが与えるもどかしい刺激に燻っていたものに火が点いたのか、先端からとろとろと溢れ出したものが滲み、伝い落ち始める。
溢れ出した先走りが潤滑油の役割を果たして、手の動きがより滑らかになる。
「あ……あ……ぁん………ふ、ぁ……」
堪えきれずに漏れ始めた小さな声に更に煽られるのか、手の動きが段々と激しくなってきた。
「ブ……るー………」
途切れ途切れの艶めいた吐息の中で、名を呼ばれる、その興奮。
胸に迫る何かを無理やり押さえ込むブルーの耳に、淫らな声が紡ぐ恥じらいの言葉が届く。
「……見な、いで……」
どうするのか教えてあげると言われて自慰を始めたはずなのに、それを忘れているのか考える余裕もないのか、ジョミーは切なげな声で哀れに囀る。
「見、ないで………お願……」
ブルーはそれをじっと眺めながら、掌で覆った唇を僅かに動かして小さく呟く。
「素晴らしい」
まさか、これほどまでとは思わなかった。
今朝まで、ほんの少し前まで、何も知らなかった無垢な子供が。
少し方向を与えただけで、自ら快楽を求めて擦り上げ、それを観察されていることに興奮を覚えて、もどかしそうに緩く腰を動かし始めるなんて。
「ジョミー、目を開けなさい」
目を閉じて、快楽の声を堪えて唇を噛み締めていた肩がびくりと跳ねる。
「目を開けて。君の大事なところがどうなっているのか、その目で見なさい。どうすればもっと気持ちよくなるのか、教えてあげるから、それを覚えるためにも」
ブルーのひどい教えに手が止まったのはほんの一瞬のことだった。ジョミーは震えながら目を閉じたまま、子供のように首を振る。けれどその手は、自らを昂ぶらせ続けることをやめようとはしない。
「いやだ……」
「ジョミー」
「そんなの、できないっ」
今にも泣き出しそうに震えて滲む声に、煽られ続けたブルーの嗜虐心が僅かに揺れる。
もっと追い詰めて乱れさせたい。
もう許して、この手ですぐにでも解放に導いてあげたい。
「……では、顔をあげて僕を見なさい」
「できない」
「できるよ」
「やだ……」
金の髪を左右に揺らして子供のように首を振る、淫らな姿を見せる愛しい恋人に、ブルーはベッドから腰を上げて手を伸ばす。
恥ずかしいと拒絶するその頬を両手で包むと、急に触れられたことにジョミーは反射のように目を開けた。
涙を浮かべた翡翠色の瞳が驚きに見開かれる。
その瞳に優しく微笑みかけ、噛み締め過ぎて赤く染まった唇に優しい口付けを落とす。
触れるだけのキスで少し離れると、ジョミーの吐息が唇をくすぐった。
「……ブ……」
何かを言わせる前に、再び唇を塞いだ。ジョミーは再び瞼を下ろして瞳を隠してしまう。
両手で優しく頬を包み、啄むようなキスを繰り返す。
触れるだけの繰り返しなのに、ジョミーの息と、ブルーの息と、どちらのものが濡れているのか分からなくなるほどにキスを繰り返し、最後に唇を離すと指先でそっと濡れた唇に触れた。
「ジョミー、目を開けて。君の美しい瞳を僕に見せてくれ」
重く濡れた睫毛が震えて、ブルーの願いに応えるようにゆっくりとその宝石のような輝きが隠れた瞼から現れる。
その瞳は、奥にロウソクでも宿しているのだろうかと思えるほどに熱く揺らめいていた。
「ジョミー、快楽を求めることは、決して悪いことではないのだよ。恥じることでもない。恐くなどないから、思うままに身を委ねてごらん」
「ブルー………」
震える声に微笑みかけて、頬を包んでいた手を滑らせて首筋と項を撫で下ろす。
「僕が手伝ってあげるよ。だから、僕の前でもっと乱れなさい。享楽を求めてあられもなく喘ぎ、僕に身を委ねるんだ。僕の前で、僕にだけ、君のすべてをさらけ出して」
掠めるように項を指先で辿ると、小さく肩が跳ねる。首筋を降りて喉を辿り、更に下へと滑らせたほうの手は、シャツの上から硬く腫れた胸を擦り上げた。
「あっ………やっ…」
「指で裏を擦り上げて」
あくまで補助としての愛撫を加えながら、本当に昇る詰めることはジョミーの手でさせたい。
罠に囚われた哀れな獲物のように、ジョミーは目を逸らすことも出来ずブルーの瞳を見つめたまま、身体をビクビクと震わせて指示に従っているのだということをブルーに教える。
「片手は下へ。袋も刺激してあげなさい。そうしながら、先端を指で擦って」
「ふっ……は……あ、ぁ…」
戦慄く唇からだらしなく甘い声が漏れ、切なげに眉を寄せたジョミーは何を強請るような目でブルーを見つめる。
「……ブルー………ぶる……ぅ……」
酸素を求めるように口をパクパクと開き、甘えるような声でただ名を呼ぶその姿は、まるで餌をねだる雛のようだ。
「……餌は、次の機会にあげるよ。だから今日は自分の手で達しなさい」
「……も……むり……」
「どうして。ジョミーは上手くできているよ。あともう少しだ」
「だって……お……お漏らししちゃう……よ……」
もどかしそうに腰を揺らしながら顔を歪めたジョミーに、思わず可愛いと抱きしてしまいたくなる。
「お漏らしではなくて、それが射精だ。いいからその感覚を解放してあげなさい」
「でもっ」
「最後までしないと、補習にするよ?僕の前で毎晩自分の手で乱れてくれるのかい?」
「や……やあだぁ……っ」
ジョミーは子供の駄々のような声を上げて首を振ると、今度こそ自らを追い立てる快楽に集中するように吐息を漏らしつつ眉を寄せる。
「気持ちいいかい、ジョミー?」
「ん………気持ち、い……ブルーの手……も……あっ、あぁ……胸、だめぇ……」
「もっとと言っているようにしか聞こえない。ジョミー、ジョミー、可愛い、僕のジョミー……」
「も、出ちゃ……」
「いいよ、いっぱい出しなさい。僕に、すべて」
ジョミーに煽られて、ブルーの声色からも余裕が消え失せて行く。
その手の中で、小さな身体が一際大きく跳ねた。
「あっあぁっ!」
熱い飛沫が、ジョミーの前に膝で立ったブルーの太股にかかる。服越しに感じるその濡れた熱さに、ブルーはうっとりと微笑み、目の前の戦慄く唇にそっと口付けを贈る。
「はっ………はっ…ぁ……」
「上手だったよ、ジョミー」
浅い呼吸を繰り返し、溢れた涙を一筋だけ零したその頬を撫でて、ブルーは優秀な生徒を褒め称えた。



「ぼく……こんなの……無理だ……」
ベッドに沈んで枕に顔を埋めたジョミーは、弱々しい声で珍しく早々に不可能宣言をした。
「どうして?とっても上手にできていたよ」
その隣に寝そべって、ベッドについた肘に頭を乗せたブルーは、金色の髪を優しく撫でる。
「それはブルーが傍で教えてくれたから………」
ジョミーはもぞりと身動きをして、僅かに顎を逸らすと枕から目だけを覗かせる。
「こんなにハードなこと、ひとりでする自信なんてない。ねえブルー、これって絶対にできないとだめなの?」
「絶対とは言わないが。したくなったとき、やり方を知っているほうが効率がいいだろう?」
「したくなんてならないよ……」
朝から疲れたと呟いて、ごろりと寝返りを打ったジョミーはブルーと向き合うように寝転び直して、その胸に擦り寄った。
先刻までの妖艶な姿はすっかり消え失せて、甘える子猫のようにしか見えない無邪気な行動に、ブルーは微笑みを浮かべてゆらゆらと揺れる金の髪にキスを落とす。
「自信がないのなら、しばらくは僕のところにおいで。手伝ってあげるから、やり方をマスターするといい。そうだな……毎週この曜日は僕の部屋に泊まりに来なさい」
「でも………」
頬を染めたジョミーは、言い辛そうに目を伏せて、ブルーの服に指を絡めた。
「恥ずかしいよ……」
「正しい知識を覚えるだけだ。恥ずかしいことなんてない」
「でも……うー……それじゃあ、リオに教えてもらおうかな……」
その胸に顔を埋めていたジョミーは、優しく髪を撫でる手が止まってブルーから笑顔が一瞬にして消えたことに気づいた様子もなく溜息をつく。
「なんだか、すっごくみっともない姿だったような気がするんだ。ブルーが覚えなさいって言うことは全部覚えたいけど……でもあんなのブルーに見せるのは恥ずかしいし……」
「駄目だ」
間髪入れずに却下を食らわされて、ジョミーは驚いたようにその胸に寄りかかっていた顔を上げた。
ブルーの目が真剣だということを即座に感じたらしく、身体が硬直する。
「いいかい、これは僕以外の者の前ではしてはいけない」
恥ずかしいことではないと、間違ったことではないと言い聞かせたことが、ここにきてこんな効果をもたらすとは思わなかった。
ブルーはその細い肩を掴むと、ジョミーの身体を強く抱き寄せる。
「いいね、ジョミー。リオに教わろうなんて、絶対にしてはいけないよ。必ず僕に教わること。これを破ると厳しい罰が待っていると思いなさい」
「罰って……悪いことじゃないのに?」
「悪いことではないが、色々と制約がついているのだよ。その辺りもちゃんと教えてあげるから、やっぱりしばらくは僕のところに通うように」
「うん……分かった」
素直に頷いたジョミーの言質を取り付けて、ブルーはようやく一心地ついた気分でほっと胸を撫で下ろした。






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それはいけません、ジョミー。
(でもリオならきっと上手く逃げる)
その後の小話がちょこっとあります。
こちらからどうぞ。