其ノ弐








「おお、来たか、来たか。待ち侘びたぞ」




でっぷりと下腹の肥えた男の言葉に、京一は伏せた瞼の裏側で舌打ちしたい気分だった。
瞼を上げれば、卑下た言葉のよく似合う男が、座敷の真ん中を陣取っている。

京一がこの男を“狸ジジィ”と言うのは、脂ぎったこの体型と、薄笑いの向こうにある汚泥が見える所為だ。
どちらもこの世界に置いては然程珍しいものではないけれど、それでも皮肉を込めずにはいられない。
この男の性癖に付き合わされて疲れるのもあって、京一はこの男が来る度に憂鬱になるのだ。


今日は一応、お忍び気分らしい。
それなりの地位にいる筈の男だと言うのに、お付の者が誰もいない。

…お付の者の方が此処に来る事に嫌気が指したのかも知れない、三日と開けずにこんな場所に通い詰めるから。
先日、彼と共にこの座敷に上がったお付の者は、どちらかと言うと頭の堅い風だったし。
京一の顔を見た時にも、渋い顔をしていたのを思い出す。



お付の者がいない事など、男の方は全く気にした様子がない。
早く此方へ来いと、酒の杯を揺らしながら命令する。

京一は憮然とした表情を崩さず、愛想も浮かべず、男の言うままに彼の傍らに膝をついた。




「さ、酌をしろ。お前の注ぐ酒が一番美味い」
「……へいへい」




溜息混じりに京一が返事をすれば、男はにやにやと笑う。

誰にも媚びないこの態度が、京一の人気の由縁だ。
それも取り繕っての態度ではないから、魅力の一つとして翳らず、寧ろ男を引き寄せる。
そしてこの高慢な言動を屈服させようと客は躍起になるのである。



酒の入った徳利を手に取ると、既に半分以上は空になっていた。
だったらもう手酌で飲んでろよ、と思いつつ、京一は形式的にのみ則って男の杯に酒を注ぐ。

男は杯の中身を一息に煽ると、臭気の濃い息を京一の顔に吐きかけた。
酒の匂いだけではないだろう臭みのある息に、京一は露骨に顔を顰めて、着物の袖で鼻と口を押さえる。
この男の吐いた空気など吸いたくなかった。


が、男の手が京一の腕を掴んだ為に、抑えていた呼吸を解放させる羽目になる。




「やはり美味い。お前の顔を見て飲む酒がこの世で一番美味いぞ」
「そいつはどーも。同じ台詞をあんたの女房に言ってやれよ、泣いて喜ぶぜ」
「あんな狆クシャを褒めてやる必要なんぞないわ。近頃は儂の面を見る度、顔を顰めよる。まるで獣(けだもの)でも見るようだ。あれは女の顔ではないわ」




そりゃあ、そんな顔もしたくなるだろう。
京一は間近にある、皮膚の垂れ下がった男の顔を見ながら、冷めた表情で思う。

名誉も地位もそれなりにある夫が、昼間から廓通いをしているだけで、女房殿にしてみれば巫戯蹴た話だろう。
その上、夫が入れ込んでいるのは遊女ではなく、陰間と来た。
女として男に負けたのかと思えば己の矜持が傷付き、女房よりも男を愛する夫など顔も見たくないと思うものだ。


此処の夫婦は長く持たねェな─────と思う京一は、目の前で繰り広げられる夫婦の愛憎劇を、丸きり他人事の気分で眺めていた。

眺めるその片隅で、この夫婦を壊したのは自分だと、知っている。




「美味い酒と、綺麗なお前と……そうだな、後は上等な敷布があれば十分だ」
「あんたの欲は判り易いな」




美味い酒と、上等な敷布。
これは京一も吝かではない。

酒は嫌いじゃないし、不味いより美味い方が断然良い。
敷布は薄っぺらいと背中が痛くてろくろく眠れない。
自分の顔が綺麗かは置いて置くとして────普通の男なら、此処で美人の女を望む所だろう。

飲む寝る遊ぶの人間の三大欲求がこれで満たされるのだから、やはり判り易い。


目の前の男は幕府の高官である筈なのだが、妙に人間臭い、こういう欲求に関しては特に。
お偉いさんだから余計に人間臭いのかね、と頭の隅で京一はぼんやりと考えた。
欲と見栄に塗れた世界にいるから、こんな風に露骨で嫌らしい顔が出来るのかも知れない。




京一が男へと手を伸ばした。
男の顔がにやにやと、鼻の下を伸ばしただらしないものになる。
求められているとでも思ったのだろう。

阿呆だな、と思いつつ、京一が手に取ったのは、男の手元にあった杯だった。


奪うように取ったそれに手酌で酒を注ぎ、一息に煽る。
……旨みなんて何もない水が咥内に広がって、京一は判り易く眉根を寄せた。




「うん? 今日の酒は気に入らなかったか」
「……別に」




男がにやにやと笑って、京一の顔を覗き込んでくる。

雪路から聞いていた酒の質は、決して悪いものではなかったし、寧ろ上等だった筈。
だのに横にいるのが狸ジジィだと思ったら、酒も甘味も、ただの泥水に思えてくるから不思議なものだ。



酒は相当度数が強かったようで、京一の頭は少しくらついてきていた。
好きなのに、どうしてか自分は酒宴には向かない体質らしく、時々そんな自分に腹が立つ。


頬を朱色に染めた京一に、男はにやにやと卑下た顔で近付いて来た。
生理的な嫌気から、京一の足が僅かに逃げを打つ。

肩を掴まれて引き倒されると、不味い酒の匂いを含ませた唇が京一のそれを塞いだ。





「ん、ぅ……!!」





舌が咥内に侵入して来て、京一のそれを捉え、絡める。
何度繰り返されても吐き気のする行為。


馬乗りになって襲い掛かってくる男を押し退けようと、京一は全力で男の体を押し上げようと試みた。
しかし肥えた躯は重くて動かず、応えた様子はない。

両手を捕まえられて、頭上で纏めて押さえつけられた。
着物の腰紐が解かれ、細身のその布で両の手首を縛られる。
痕が残る心配などするだけ無駄だ、この男の相手をした後はいつも散々な有様になるから。


暴れた所為で着物の袷が肌蹴、平らな胸板が男の前に晒される。
ようやく唇から離れた男の顔が、今度はその胸へと降りて行き、ねっとりと舌で嬲り上げる。




「………ッ……!」




官能よりもおぞましさが勝る。



足を開かされて、其処に男の躯が割り込んで収まった。
腕は拘束されているし、足はもう暴れさせても意味がない。

まるで強姦されようとしているようで、この倒錯感が、この狸の男は好きだと言う。
気の強い相手を縛り、抵抗を奪い、屈服させるのが好きなのだと。
初めてそれを聞かされた時、じゃあ家じゃうだつの上がらない夫をしているんだろうなと、京一は内心嘲っていた。
どうもそれは外れていないらしい。


前々回だったかは、全身を荒縄で縛られて行為に及ばれた。
縄の擦れる痛みと、生理的な拒絶から涙が出たのを見て、男は随分と興奮していたものだ。

それを思うと、腕を縛っているだけの今日は割りと普通だなと思う。
比べる対象が極端なのは判っている。
でも、そんな事でしか比べるものがないのだから仕方がない。




「……あッ…ん、ふぅッ……」




男の舌が京一の乳首を噛んだ。
ぴくっと若い躯が反応し、仰け反る。



視界の隅で、部屋の隣に設けられている物置代わりに使っている部屋の戸が目に付いた。
ほんの僅かに開き始めたその戸の向こう側に何がいるのか、気付いているのは京一だけだろう。




「ほれ、色が付き始めたぞ。可愛いものだ」
「んッ、ん、あ……うッ……」




男は指先で京一の乳首を摘み、クリクリと捏ね回す。
仰け反った喉の奥から零れる喘ぎ声に、男は鼻息を荒くした。

快楽を覚え込まされた肢体は、与えられる刺激に素直に反応を示す。
そういう風に教育されたから─────本人の意思など、関係なく。




「お前は少々痛い程が丁度良いだろう?」
「うッく……! あッ、あッあッ…!」




捏ねていた乳首を宙へと引っ張り、抓りながら、男は爪先で乳頭を弾く。
敏感な部分から発せられる痛みに京一は顔を顰めたが、同時に確かに快楽を感じている自分に吐き気を感じていた。

腕が自由なら、千切れる程に指でも腕でも噛んでいてやるのに、それも出来ない。
頭上で戒められた両腕は、顔の高さまで下げてみた所で、男によって元の位置に戻されてしまう。
京一には、ただされるがままに全ての陵辱を受け入れ、喘ぐしか道は残されていないのだ。


強姦しているような倒錯感を好むのに、男は決して京一の口を塞がない。
嫌がりながら感じて喘ぐ声が、男にはまた良い興奮剤になるらしい。




「いッ…痛ッ……やめ、ぇ…ッ」
「ほぅれ、ほれ。気持ちいいだろう、もっと良くしてやるぞ」
「ひぎッ……!!」




ぎりり、と強く乳首を抓られて、京一は痛みに顔を顰めて強く目を閉じる。
すると男がずいと顔を近付けて来て、酒気の濃い息を振り撒きながらまた京一の唇を塞いだ。


ナメクジのような舌が咥内を這い回る。
ぞくぞくとしたものが京一の背中を駆け上がる、これは本気の悪寒だ。

胸の上を男の手が這い回り、時折指先が乳首を掠めては抓り、苛む。
口付けられていることは気持ちが悪くて仕方がないのに、胸部の頂からの刺激には酔ってしまう。
だから背中を駆け上がる悪寒も、もしかしたら別のものなのではないかと、錯覚してしまいそうになる。




「んッ…あ、う……うぅん………」




息苦しさに瞼を閉じるのが辛くなって来る。
微かに目を開ければ、間近におぞましい顔があって、京一は眉根を寄せて視線を逸らした。

横へと流した視界に、微かに開いた隣室の襖がある。
灯りのないその部屋の様子は、京一からは窺うことが出来ない。
それでも小さな影が動いているのは見えて────ああ来たか、と。


京一が目線を逸らしたのを、恥ずかしがってのものと勘違いしたらしい。
男はにやにやと悦の篭った目をして、更に深く京一に口付けた。

この男に口付けられる度、この鬱陶しい舌を思い切り噛み千切れたらどんなに気持ち良いだろうと思う。
半分以下になった舌に真っ青になりながら、喋る力を失った男の間抜けな顔を何度想像した事か。
京一には、男に与えられる愛撫などより、その妄想の方が余程興奮するものだった。



口付けが終わったと思ったら、舌で唇の形を散々舐られた。
薄く紅を差していた事など、この男はきっと気付いていない。




「ふぐッ…ふ、む、んん……ッ!」
「お前の肌はまるで蜜のように甘いの」
「んッ、っは……あ、あ……!」




じゅるじゅると音を立てながら、男は京一の乳首に取り付き、吸い上げる。
先程、男によって散々痛みを与えられた其処は、生温い舌の愛撫にも敏感になっていた。




「あッ、んぁッ! や、っは……あひッ……あぁ…!」




右胸ばかりを唇で攻めながら、男は淋しげにふるふると震える左胸を一瞥して笑う。
敢えて其方に触れず、男は執拗なまでに京一の右胸を攻め立てた。




「んぁ、あ、あくッ……はッ! ひ、いあ……あ…!」




逃げを打つように身を捩る京一だが、組み敷く男の下から這い出る事は出来ない。



腰を抱かれて、股間に男の象徴を押し付けられた。
褌越しにも判るほどにいきり立ったそれを、目一杯蹴り飛ばしてやりたくなる。
気色の悪いものを押し付けるな、と。

その気色の悪いものを、この間は口に含んで舐めて、その日はそれから物が食えなかった。
口の中にずっと気持ちの悪いものが溜まっているようで、胃に何もないのに、吐き出したくて溜まらなかった。


京一の記憶にある風景は、最初からずっと、こんな綺麗に着飾った汚泥の世界だけだ。
けれど、それでも、何度繰り返しても、行為を好きになることは出来ない。

いっそ快楽に飲まれて壊れてしまえたら良かったのに─────糸の切れた傀儡のように、光を失った子供の目を見ながら、そう思う事もあった。
それとも、最初から自分は壊れているから、ずっとこんな調子なんだろうか。




「おぅ、勃っておるな。やはり良いか」
「うッあ…あ、あ……」




褌越しで、陰茎を擦り合わされる。

気持ちの悪いものでも、刺激されれば反応するのが男の躯だ。
男の律動の刺激に合わせるように、京一はゆらゆらと腰を動かした。




「んッ、んぁ……あ、は…うぁ……んん……!」




男の手が京一の臀部を鷲掴み、ぐにぐにと揉みしだく。
捕まえられて逃げ場を失った股間に、更に強く男根が押し付けられる。


先走りの液が褌を濡らしている。
気持ちが悪かった。




「あッあッ…、や……うぁ……ん!」
「そろそろ此処にも欲しい頃合だろう?」
「んぁッ…!」




布地の上から触ることがもどかしくなったのか、男は着物の袷を開くと、直に肌に触れてきた。
褌の隙間から手を入れ、京一の菊座に指を這わす。
口を指先で突付く度に跳ねる京一の反応を愉しむように、繰り返し其処を刺激した。




「あッ、やッ…其処は……んッあッあッ…!」
「此処がなんだ? 嫌か? どうだ?」
「んッ…う、うぅ……ひっあ…!!」




去来する感覚を拒絶するかのように目を閉じる京一に、男はヒヒッと笑い、菊座に指を埋め込んだ。
肥えた体躯に比例して、男の手は普通の一般男子よりもかなり太くなっている。
それも脂ぎっていて、洗っているのか疑いたくなる程、時に臭い匂いがするのを京一は知っていたから、余計に気持ちが悪い。

いやいやと頭を振る京一の仕草に、男は加虐心を煽られる。
ついさっきまで憮然としていた太夫が、今は己の手によって乱れ、涙するのだから、男は堪らない。




「ほれ、ほれ。もう二本も入るぞ」
「ひッいあッ! や、んッ! やめッ、やッ、んぁあ……!」
「止めろと言うが、此処は悦んでおるじゃないか。ほれ、見てみぃ」




足を持ち上げられて、肩に突くほどに躯を折り曲げられる。
褌を解かれて露になった京一の雄は、菊座からの刺激によって天を突いていた。



男に抱かれて、菊座を攻められて、勃起する自分に激しい嫌悪感を抱くのを止められない。
そういう風に、心を無視して調教された躯を、皮膚も内臓も捨ててしまいたくて堪らない。
躯に流れる血潮さえも汚いような気がして、全部抜き取って違う物に入れ替えてしまいたい。

いっそ壊れてしまえたら、壊れないなら死んでしまえたら楽なのに。
思いながら、死ぬのは駄目だと、誰に言いつけられた訳でもないのに思うから、小刀を喉に押し当てるだけでいつも終わる。


何もかもなくなってしまったら、こんな気持ちの悪い殻を呆気なく脱ぎ捨てる事が出来るのに。
魂一つが捨てられないから、また喘ぐしかない。




「はひッ、ひッ、ひんッ!」
「ほれ、三本目だ。おお、よく締まるのう」
「いッあッ、あッ、やッ…! んぐッ、うぅッ」




太くて汚い指が皮肉を押し広げる。
外気に晒された其処に、男が顔を近付け、鼻先を押し付けてきた。




「良い匂いだ。雌の匂いじゃ」
「やッやだッ…! やめ、離せ……あ!」




誰が雌だ。
オレは男だ。

叫びたくても、此処では意味の無い言葉だ。
男に抱かれて喘いで、それで金を貰って、生きていて。
……己を雄だと言い切れないなら、自分は結局、雌なのだろう。



足をばたつかせて暴れる京一だが、男には当然届かない。
女で言えばまんぐり返しの格好にされて、秘部も雄も剥き出しにされて、これ以上の屈辱はない。
けれども与えられる愛撫の所為で、この上はないと思った更に上の屈辱に犯される。



ぬるり、先を尖らせた舌が菊座から内部へと侵入した。
おぞましさに息を呑み、京一の足の爪先がぎゅうと丸くなる。

嫌悪感と共に、別のものが全身を駆け巡る。
脳髄まで犯そうと食指を伸ばすそれに、京一は抵抗するという意識を、随分昔に手放した。


壊れることは出来ない。
けれど、理性のままではいられないから。




「ひ、あッ、んはッ…あ、あ、あ、あ、……やめェ……ッ」
「おぉ、甘露じゃ。やはり美味いのう」
「しゃ、べんな…あ、んッ、やぁあ…! ひはッ、あッ、あひぃッ」




甘い声音で喘ぎ声を上げる京一に、男は益々気が大きくなっていくようで、京一の下肢を攻める舌の動きが大胆なものになっていく。
じゅるじゅると大量の唾液を垂らしながら菊座を広げ、侵入させた舌で内部を抉るようになぞり上げるのだ。




「んあッ、あッ…やべ…や…あッあッ!」
「んん? 果てるのか?」
「ひッ、ひいッ! あッ、あッ……も、無理ッ…!」




先走りの蜜を溢れさせる雄に、京一は拘束されたままの腕を伸ばした。
一刻も早く達して、この身に暴れる熱を解放させたかった。

が、男が腕を掴んだ事で、それは叶わない。




「太夫の手を煩わせては、儂の男の沽券に関わるわい」
「はッ…コケンだぁ…? 股間の間違い、ひッ!!」




京一が最後まで毒づく事は出来ず、下部からの激しい痛みと圧迫感に言葉は全て飲み込まれた。


膨張しきった男の摩羅が京一の躯を貫いていた。
指やら舌やらで散々解されたお陰で、痛みは直ぐに退いたが、京一にとってはそれが返って屈辱を煽る。
この躯が男を受け入れる為に作られているのだと、思ってしまうから。

男の方は京一のそんな内情など知らぬもので、締め付ける肉壁に悦に入っている。
圧迫感と湧き上がる快感に口を開閉させる京一の顎を持ち上げ、見下ろし、にやりと笑った。




「本当に良い器だ。誇れ、名器じゃ」
「あ…あ、う…ひ……いぁああ……」




這い上がってくる快楽に、頭の中が犯されていく。


男は京一の躯を折り畳んだまま、足を押さえ付け、上から押しつぶすように律動を始める。
無茶な体制の息苦しさと圧迫感に、京一は息も絶え絶えだ。

掴んだ拘束した腕の輪の中に、男は自分の頭を潜らせた。
縋るかのように男の首に腕を回した格好になった京一の腰を抱き、男は京一の内部を抉る。




「あッあッ、あひッ、ひんッ、んぁあッ! そこッ、深いッ…いああ…!」
「本当に、何度貫いてもよく締まる。おお、此処だ。此処が一番よく締まるぞ」
「ひっい、いあッ! らめ、やめッ! んはッ、あ、んあぁんッ!」




止めろと言いながら。
京一の腰は、男の突き上げに合わせて、誘うように揺れ動く。

仰け反った京一の胸に男が顔を近付け、舌を這わす。
先程は全く触れようとしなかった左胸に歯を立てられ、京一は甘い悲鳴を上げた。



じゅぷじゅぷと卑猥な音が座敷に響き、開かれた足がビクンと何度も痙攣した。
露にされた秘部からは蜜が零れ、濡らし、痛みを和らげ、快楽のみを京一に与える。
理性を手放した頭は、動物の本能を急き立て、京一は夢中になって腰を振っていた。




「んあ、あんッ! や、そこはッ…あッあひぃぃッ!!」
「おうおう、此処が好きか。知っておるぞ、こうだろう」
「やッ、嫌だぁッ!! やめ、はっ、んぐッ!」
「嫌じゃと言いながら此処は儂を離さんではないか。ほうれほれッ」
「いあッ、あッ、や…! やめッ、もう…も、来るッ…来るぅッッ!」




熱を交える前まで見せていた、憮然とした態度は既に其処にはない。
男を咥え、その味を覚えた陰間の太夫が、丸々と肥え太った男の下であられもない姿を晒している。


行為の直前に、少量ではあるが強い酒を飲んだ所為もあるだろう。
それ程酒に強くない体質の所為で、酒を飲むといつもよりも早い段階で箍が外れる事がある。
だから京一の客の殆どは、それを知ると何かと京一に酒を勧めてくるようになる。

酒は好きだが、飲めばこんな風になってしまうから、京一はなるべく気に入らない客の前では飲むまいと思っているのだが────飲まなければやっていられないと思うほど嫌いな客もいるから、面倒臭い事この上ない。
……こんな結果になってしまうと見えているから。



いっそ記憶が全部跳んでしまう位弱かったら良いのに。
それも考えない位、酒に溺れられたら良いのに。

どうしてか、頭の中は必ず何処かが冷静で、酒にも快楽にも沈み切れない自分がいる。




「はッ、あッ! イ、かせ…もうッ、もうイかせろッ……あぁ!!」




悦楽に酔いながら、頭の隅で気持ちが悪いと吐き気を感じている自分がいて。
だから早く行為を終えたくて、京一は解放を望んだ。

そうして縋る相手が目の前の男である事が、また腹が立つ。
この男は京一を屈服させるのが好きだから、こうして懇願するような形になると、実に厭らしい顔で笑うのだ。


今日もまた、男は鼻の下を伸ばして笑い、京一の雄を強く握り、激しく扱き始めた。




「やッ、ひッあッああぁッ! 出るッ、出ちまうッ…!!」
「ぬぅッ……おお、よく締まるぞ、太夫。儂も果てる所であったわ」




いっそ果てろ。
中でもいいから、さっさと出して終わらせろ。

それが京一の心情だった。




「んぁ…あ、あッひぁぁあんんッッ!!」




裏筋を爪を立ててなぞられて、京一は射精した。
ビクビクと若い肢体が波打ち、全身を巡る熱の激しさに京一は身悶えする。

絶頂を迎えて果てる京一の姿に、男は鼻息を荒くした。
射精直後で相手が敏感になっている事を知っていて、いや知っているからこそ、律動を止めずに続ける。
京一は、陸に上げられた魚のように躯を跳ねらせ、男から与えられる激しい快楽に従属していた。




「ひッはッ、あッ、んあぁッ! ひゃめ、あひッ!」
「ほれ、もっと腰を振らんか。愉しませい」
「調子、に、乗んな、ぁッ! んは、ひぁううッ」




卑しく笑う男に憎まれ口を叩いてやれば、乳首を食まれながら肉棒を扱かれる。
更には菊座の最奥を突き上げられ、京一は激しい快感を拒否するように頭を振った。

快感に逆らう術を持たない京一に、男は自分の優勢を確信する。




「何度抱いても飽きぬ躯よ。この顔が快楽に歪む様も、実に良い」
「あッあひッ、いあッ! んは、はぁん…! あぁああ…あ…!」
「どうじゃ、儂の物にならんか。毎日この摩羅で満足させてやるぞ」
「んんッく……!!」




男根の先端が京一の前立腺を刺激し、京一はビクリと仰け反った。
晒された白い喉に男が舌を這わす。
おぞましさと快感がごちゃ混ぜになって、京一は艶の篭った吐息を漏らす。


京一の意識が快楽に跳びかけているのは、誰の目にも明らかだった。

だが、男の言葉に返すのは、はっきりとした意識を持った言葉。




「ぜって、御免、だ…ッあッやッ熱……んあぁあああッッッ!!」




強い光を持って拒絶を示した瞳に、男はにやりと笑みを梳き。
その光を根こそぎ奪わんとするかの如く、敏感な箇所を突き上げ、京一の躯を激しく揺さぶる。




それから、行為が終わるまで、まともな会話が交わされる事はなく。
男は若い肢体の全てを犯し付くし、胎内へと自らの欲望を吐き出し、その後も咥内へと己の熱を押し付けて。
抵抗を忘れた少年の躯はされるがままに全てを受け入れ、男の劣情を被る。

いつしか強気な眼差しは消え失せていたけれど、それでも壊れるには程遠く。
ただ早く終わらないものかと、己の身に起きている出来事を、少年は何処か他人事のように認識していた。


……そのまた、隅で。
物置の部屋の襖が開いている事を、忘れてはいない。









ほんの数刻前まで、無垢に笑っていた少年が挿した金の簪は、いつの間にか畳に落ちていて。

僅かな金に映り込んだ幼い顔は、既に光を失っていた。











 

こんな具合で、龍麻や八剣以外との絡みのシーンもがっつり書く気でいます。
そんでもって、話が続くに連れて京一の荒み具合も酷くなっていく可能性大です。

次回は八剣登場です。