Seaside school ]
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戻ってきた生徒を見て、マリアは卒倒しかけた。
姿の見えなかった生徒達は、皆揃って無事に帰ってきた─────それは良い。
ホテルで行方の知れなくなった子供を捜しに行ったと言う旨は遠野から聞いていたが、如何せん慣れない土地である。
その上、消灯時間も過ぎた夜の十時、ホテルの裏にある山は勿論、海岸も明かりなどない、真っ暗闇だ。
とかく学校でも無茶な行動の目立つメンバーであったので、マリアとしては気が気じゃなかった。
いっそ自分も探しに行こうかと思っていた所で、彼らは無事に子供も見つけ、戻ってきたのである。
しかし宜しくなかったのはその姿格好だ。
何せ、全員が頭の天辺から爪先まで、びしょびしょの濡れ鼠だったのだから。
「詳しい話は後で聞きます。着替えはホテルの方に用意して頂くから、今直ぐ、お風呂に行きなさいッ」
ホテルのロビーを過ぎた所にある大浴場を指差して、マリアは言った。
生徒達もそうして欲しいと願っていたのだろう。
着替えも寝巻きも、こんな惨状では、部屋に取りに行く間も惜しい。
はーい、と疲労の色を滲ませた返事をして、まだ気を失ったままの子供をマリアに預け、ぞろぞろと大浴場へと向かって行った。
それを見送ろうとして─────マリアは、最後尾を歩いていた女子生徒のタンクトップを背中から掴む。
「いてッ」
「……どうしてアナタが此処にいるのかしら」
赤茶けた色でざんばらの髪。
右手にはいつもの紫色の太刀袋があり、足元はサンダル。
蓬莱寺京子である。
この生徒が外に出ているとは聞いていなかった。
何度か彼女の班が宛がわれた部屋も見に行ったが、子供を捜しに行ったと言う二人の生徒を除いてはちゃんといた筈。
見落としたか、それとも誰か身代わりを置いて行っていたのか、いずれにしてもこのまま素通りはさせられない。
京子も全身びしょ濡れなので、本当なら先に風呂に入らせて、説教はそれからの方が良いのだろう。
しかし、ともすれば直ぐに逃亡癖のある彼女は、タイミングを逃してしまったら説教どころか捕まえる事さえ出来なくなる。
恐らく、いつものメンバーにいつものように混じって、さり気無くこの場をやり過ごそうとしたのだろうが、そうは行かない。
伊達にクラス担任を請け負っていないのだから。
京子はそろそろと振り返る。
顔が若干引き攣っているように見えるのは、気の所為ではあるまい。
「どーしてって…あー………」
「美里さん達の事は、遠野さんから聞いていたけど。貴方は部屋にいた筈よね?」
「お…おお。いたぜ。寝てた寝てた」
「で、それがどうして、外から皆と一緒に帰ってくるのかしら?」
「えーと……あれだ、最初はうん、寝ようと思ったっつーか、寝てたんだけど。探しモンって手が多い方がいいし、」
やっぱり気になったから、探しに行った。
その理由は確かに、友達思いと言えるものではある。
しかし、それとこれとはやはり別であって。
ゴツッ、と固い音が京子の頭から鳴った。
「いッ……ってェエエ〜! 教師が生徒殴っていいのかよ!」
「アナタが言っても聞かないからでしょう。アナタの部屋にいたのは、あれは遠野さん?」
マリアが見回った時、いなかった葵と小蒔を除けば、ちゃんと数合わせ出来ていた。
しかし京子達と仲が良いからか、遠野はこの臨海学校の間、よく部屋を抜け出して京子達の部屋に遊びに行っていた。
自分の部屋の布団にはしっかりカモフラージュを施して。
京子達と良くも悪くも連携を取る事が多い遠野だったから、マリアの発想はごく自然なものだった。
それを受けた京子は、誤魔化すのも最早面倒だったのか、そうだけど、と唇を尖らせる。
「オレが無理やり此処にいろっつっただけだから、あいつはどやさないでくれよ」
部屋に戻るタイミングを失わせたのは自分だと。
言って、京子はバツが悪そうに頭を掻いた。
「全く……アナタ達がお風呂に入っている間に、遠野さんの様子を見てきます。起きているようなら、注意して、部屋に帰らせるわ」
気付いている以上、何も言わずに見逃す事は出来ない。
遠野も京子達に負けず劣らず、言っても聞かない所があるが、一言二言は苦言を呈して置かなければなるまい。
溜息を吐いたマリアに、京子は濡れて肌に張り付くタンクトップを摘みながら、
「んで、オレももう行っていいか? そろそろ寒ィ」
「はい、行ってらっしゃい。引き止めて悪かったわ。ちゃんと温まるのよ」
「へーい」
欠伸を堪えながら返事をして、京子はふらふらとした足取りでロビーの向こうへと歩き出す。
その先には龍麻一人が待っていて、他の面々は先に大浴場へ行ってしまったらしい。
いつものように連れたって歩いて行く背中を見送りながら、彼女達が無事で良かったと、マリアはひっそりと安堵の息を吐いた。
マリアに引き止められていた間に、皆風呂へ行ったとばかり思っていた。
けれども、予想に反して龍麻が自分を待っていた事に、京子は特別驚きはしない。
一歩前まで近付いた京子に、龍麻はいつもと代わらない表情で訊ねる。
「マリア先生、なんて?」
「ちゃんと温まれってよ」
話の内容を一から十まで懇切丁寧に説明してやる必要はあるまい。
龍麻の事だから会話の内容なんて想像がついているだろうし、若しかしたらこの距離でも聞こえていたかも知れない。
かなり端折って最後の部分だけを告げてやると、そうだね、と眠そうな目で龍麻は頷いた。
龍麻の漆色の髪は、もう大分乾いている。
しかし被った────と言うか浸ったのは海水であったから、所々に白い塊が浮き出ていた。
多分京子も同じように塩分が結晶化しているだろうから、このまま長時間放って置けば髪が傷むのは間違いない。
傷む事に京子は大して抵抗はなかったが、不衛生にするのは気が引けた。
面倒臭いが今日はちゃんと頭を洗った方が良いだろう。
ああ、でもそれより眠ィな。
欠伸を漏らす京子の様は、このまま風呂場で寝てしまいそうだ。
目尻に浮かんだ涙を猫のように手で擦る京子に、龍麻は小さく笑みを漏らす。
「眠そうだね」
「当たり前だろ……大体、オレは一回寝てたんだ」
だと言うのに、この周辺にある妙な噂を聞きつけた遠野に叩き起こされた。
そのままあれよあれよと言う内にホテルを飛び出し、結果的に鬼退治部の課外活動をする羽目になった。
祭りの後から疲労を溜めていた京子にとって、頗る宜しくない経緯である。
「行ってみりゃ全員捕まってるし。なんかクソ面倒臭い奴だったし」
「本当に水だったもんね、核の部分以外は」
「……そういやお前。巫炎で吹っ飛ばせるんなら、あの時もやれば良かったじゃねえか。なんで大人しく捕まってたんだよ」
「…あんな状態であそこまで氣は練れないよ。京もそうだったでしょ?」
龍麻の言葉に唇を尖らせた京子は、図星を突かれたと心情を吐露している。
水に飲み込まれてあわや全滅しかけた龍麻と、水の触手に絡め取られて身動きできなかった京子。
敵は正しく水と言う厄介な代物ではあったが、確かに、二人の実力ならばなんとかなる範囲だった。
龍麻の巫炎は炎を纏う力で、本来なら水相手に使う物ではないが、“蒸発”させるなら一番効果的な手段だ。
京子の旋風の力は、ダメージを与えることこそ出来なかったものの、追い払うには十分だった。
だがどちらにしても、《力》をコントロールする氣を十分に練る事が出来ればの話。
パニック状態や集中できない状況に陥っていては、どうしようもなかった。
龍麻が捕まった京子を助ける為に巫炎を使った時も、龍麻は逡巡した。
霧散しても直ぐに再生する触手から彼女を救うには、京子の状況を省みずに巫炎を放たなければならなかった。
幾らか威力をセーブして打ちつけた炎の拳は、摩擦や弾力のない水の触手をすり抜け、案の定彼女にもダメージを与えた。
結果的に助かったものの、あれも龍麻としては苦渋の選択である。
大切な仲間であり、大好きな恋人を自ら傷付けるような真似は、出来ればしたくなかった。
「……部屋戻ったら寝る。今度こそ寝る。もう何があっても起きねェぞ」
「絶対?」
「絶対」
これ以上、安らぎの時間を邪魔されたくない。
臨海学校はまだ明日もあるのだ。
スケジュールは午前中が海女や漁師を呼んでの海岸線に置ける事故等についての講義。
午後は船に乗ってのクルージングだから、特別疲れる事がある訳ではないのだが、ホテルで優雅に寝倒すことは当然出来ない。
講義一つも京子にとっては体力を使うものだから、今日はもうこれ以上疲労を溜めたくないのだ。
だから、今日はもう何があっても、仮にこの後天地が引っ繰り返るような事件が起きても、絶対に起きない。
と言うかもう起きれると思えなかった。
風呂に入って、部屋に戻ったら、きっと三秒で寝れる。
それ位、今の京子は疲れているのだ。
(……半分は、こいつの所為で)
のんびり隣を歩く相棒を睨んで、音にしないで溜息を吐く。
─────と、そんな京子の手を龍麻が突然掴んだ。
「なッ、」
なんだ、と言う京子のごく当然の質問は、最後まで音にならなかった。
疲労と虚を突かれた所為で、手を引く力に逆らう事を完全に失念していた。
力の根源である龍麻は、京子の方を見る事もなく、すたすたと足早になって前へ進み、京子は踏鞴を踏みながらそれに従う。
龍麻は京子の手を引いたまま、暖簾のかけられた大浴場を通り過ぎて行く。
一体何処に行くのかとその時点でようやく我を取り戻し、京子は慌てて龍麻を呼び止めようとする。
しかし龍麻は返事もしないまま、真っ直ぐに廊下の突き当りへと歩を進めた。
龍麻は突き当たりを曲がって直ぐの所にあったトイレに入った。
男子便所の個室に、京子も連れて。
「ちょ、おい、龍麻ッ!」
今更ながらに嫌な予感しか感じられなくて、京子は龍麻の手を振り払おうと腕を捻る。
けれども案の定、龍麻の手はしっかりと京子の腕を捕らえていて、殴ろうが抓ろうが離れようとしない。
油断した、と京子が悟るまで、それから時間はかからなかった。
洋式トイレの蓋の上に座らされて、京子は龍麻を見上げる。
「何考えてんだ、この馬鹿!」
「んー……」
「首を傾げるな!」
何考えてるんだろうね、等と言うズレた発言が飛び出してきそうで、京子は自分の血管が切れそうになるのを自覚する。
個室トイレの広さなんで何処も大したものではない。
通常、大人一人が其処に入って用を足すことが出来れば十分だから、四方一メートルと少しあれば良い方ではないか。
障害者用のトイレなら、車椅子が入るスペースを確保しなければならないのだが、健常者なら其処まで配慮は必要ない。
だから、高校生とは言え体が出来上がりつつある人間が二人も入れば、狭くて当然だ。
これで京子が小柄な少女ならもう少し違ったかも知れないが、生憎、彼女の身長は170cmを越えている。
いや、身長がどうとか、トイレの間取りがどうとか、そんな事はどうだっていいのだ。
問題なのは二人で個室トイレに入っている事と、此処が男子トイレだと言う事。
京子は出入り口を塞ぐ形で、自分の目の前に立っている龍麻を睨む。
「退け」
「嫌」
「出せ」
「嫌」
それぞれ二文字だけの遣り取りだったが、京子の堪忍袋の緒が切れるには十分だった。
「いい加減にッ─────!?」
言葉と同時に手が出たが、そのどちらもが最後まで行き着かなかった。
振り上げた拳はあっさり受け止められ、言葉は口付けられてそれ以上が出て来ない。
その出来事のどちらもが把握する事が出来ず、京子は間近にある漆黒の瞳に見詰められたまま、瞬きを繰り返す。
咥内に何かが侵入してきて、そのぬるりとした感触に京子の肩が跳ねた。
身を離そうとした所で、貯水タンクが背中に当たり、それ以後ろに下がれない。
逃げられないのを更に追い込むように体ごと近付いて行く。
ガタン、とタンクかトイレかどちらかが抗議の音を鳴らしたが、二人の耳には聞こえない。
それよりもずっと小さな、ちゅく、と言う音の方が鮮やかに鼓膜を震わせた。
「ん、ん…ふ……ッ」
頭を振って払おうとしても、先読みされて後頭部を柔らかい力で押さえられる。
捕まれているのとは逆の自由な手で、龍麻の髪を引っ張った。
毛根から抜けてしまえと呪いをかけつつ。
しかし龍麻はマイペースなもので、思う様、京子の唇を堪能する。
「ふ、…ぅん……んッ……」
「ん……ふ…」
「ふぁ……ッ」
ちゅく、ちゅ、と音が鳴る。
水に濡れて、夜の海風に当てられて冷えていた筈の体が火照ってくるのが判る。
頭の芯がぼやけてくるのは、多分、脳に酸素が行き渡らないからだ。
水浸しになったタンクトップは、帰る道中で一度絞ったが、水分はまだまだ抜け切っていない。
薄手の白い生地は水に濡れると簡単に透けてしまい、肌に張り付くとその下の色を浮かび上がらせる。
形の良い乳房にも勿論張り付いており、その頂のピンク色が薄らと覗いていた。
龍麻はその濡れたタンクトップの上から、京子の柔らかな乳房に手を重ねた。
緩い力で揉むと、手の平の形に膨らみが歪み、口付けの合間から甘い音が漏れる。
ちゅ、と一つ音を立てて唇を吸い上げて、龍麻は京子の呼吸を解放した。
「ふ…あッ…んん……」
「乳首、もう勃ってるよ」
「あ、んッ…!」
薄い布地を押し上げる、薄桃色の蕾。
それを摘んで転がされて、京子の肩がふるりと震えた。
「あッ、あ…んん、ふッ…や…龍、麻……」
「京、可愛い」
「……やッ!」
赤く色付いた頬を舐められる。
しょっぱい、と言う呟きが辛うじて聞こえた。
「海、入ったんだから…んッく、当たり前だろ……ッ」
「うん」
「っつーか、…んッ…、なんで、お前……ッ」
逃げられないと判っていながら、貯水タンクに背中を押し付けて、京子は龍麻を睨む。
なんで、いきなり男子トイレに連れ込まれて、キスされて。
龍麻がこのまま行為に及ぼうとしているのは明らかな事だが、何故そんな事になるのかが京子には判らない。
本当なら今頃は二人とも風呂に入って、長風呂をする気のない京子などはもう部屋に戻っていたかも知れない。
祭りの余韻に加え、想定外の部活動までして、更には夜の海に投げ出されて、散々だけだった。
きっと布団に入って三秒もなく眠れるだろうと思っていたのに、何故こんな事に。
唇を噛んで漏れる声を殺そうとする京子。
龍麻はそれに構わず、やわやわとふくよかな乳房を揉みしだき、悪戯にその頂を摘んで遊ぶ。
「あッ、あッ…! ん…くぅ…ッ」
龍麻の頭がヘソの当たりに近付いて、タンクトップの裾を歯で噛む。
濡れたそれを噛んだままで引き上げられると、冷えた肌が外気に晒されて、京子は僅かに寒気を覚えた。
タンクトップは胸の上で引っ掛かり、京子の上半身は殆ど露にされてしまった。
寒さから鳥肌が立ちそうになる体を誤魔化そうと、自分自身を抱き締める。
「寒い?」
「……ったり前……んんッ!」
問いかけに笑みすら含まれているような気がして、京子は眉根を寄せる。
けれど、それすら与えられる刺激に流されてしまう。
龍麻の唇が京子の乳首に吸い付いて、生暖かい舌が肌の上を這う。
濡れて冷えた体には、それさえ熱の塊のように感じられて、京子は身悶えて龍麻のパーカーを掴む。
それもぐっしょりと濡れているのだが、そんな事はもう気にしていられない。
右の乳首を唇で、左を指先で弄ばれる。
膨らんだ先端を摘んで、コリコリと擦られるだけで、京子の唇からは甘い吐息が零れてしまう。
「ん、や…あッ、は…うぅん……ッ」
龍麻のパーカーに皺が寄って、京子の手が白くなる程に力が込められる。
ふるふると頭を振る仕草が、常の彼女とはかけ離れていて、それが龍麻に取っては可愛らしく見える。
もぞもぞと京子が小さく身動ぎする。
龍麻がちらりと伺えば、彼女はもどかしげに太腿を擦り合わせていた。
くすり、龍麻の口元に笑みが浮かぶ。
「京、」
「ん…ん、あッ……ふぁッ?」
「こっち、見せて」
茫洋とした京子の返事を待たずに、龍麻は彼女の膝を割り開いた。
祭りの時に来ていた浴衣から、寝巻き用の格好に着替えていた彼女は、タンクトップだけでなくボトムもラフになっている。
タンクトップが透けてしまっているのだから、当然此方も同じ状態になっていた。
短パンの薄い生地の下から、白いショーツが浮き上がって見える。
それも濡れている訳だから、クロッチ部分もやはり濡れていて、京子の双丘の形がくっきりと浮き上がっていた。
「ね、ここ」
「は……? って、バカ見るな、つか触るなぁッ!」
龍麻の指が丘の溝を滑り、京子はその手を押し退けようと慌てて掴む。
力任せに退かせようとするものの、爪先で狭間をピンと弾かれると、直ぐに力が抜け落ちてしまう。
意識とは別に、与えられる快感に従順な体。
いつからこんな風になったんだと、熱に浚われた思考の片隅でいつも疑問に思う。
けれど、そんな思考は直ぐに快感に埋もれて判らなくなる。
くにくにと双丘をなぞって緩やかな刺激を与えながら、龍麻は短パンのゴムに指を引っ掛けた。
京子がいやいやと頭を振るのが小さな子供の駄々のようで、常との差に龍麻は笑みが零れそうになる。
此処で笑った事がバレたら、間違いなく京子が完全に臍を曲げるので、なんとか堪えたが。
「や、や……」
「だーめ」
断固として嫌だと京子は訴えるが、龍麻は聞かない。
半ば力任せで短パンを引き下ろさせると、一緒くたにしてショーツも脱がせた。
直に座ることになってしまったプラスチックのトイレの蓋は、今までずっと座っていたからか、冷たくはない。
代わりに固い感触を直に感じるのが落ち着かなくて、京子は蓋に手をついて僅かに腰を浮かせた。
その所為で龍麻に秘部を差し出す格好になっている事に、京子は気付いていない。
目の前に晒された恋人の秘部に、龍麻は顔を近付ける。
吐息がかかるのさえも快感で、京子はふるりと体を震わせた。
「や、龍麻…ッ」
「ねえ、ここ。触られてたよね」
「何……ふぁんッ!」
ぴちゃ、とナメクジのようなものが秘部を這う。
京子の躯がビクンと跳ね上がり、腰が咄嗟に退こうとする。
逃げを打つ京子の腰を捉まえて、龍麻は京子の下部に顔を埋めた。
其処から鳴る卑猥な淫水音に、京子が顔を真っ赤にして叫んだ。
「バカ、そんなッ…ンなとこッ!」
「だめ。ちゃんと消毒するの」
「しょーどくって……ひぃんッ」
形をなぞっているだけだった感覚が、内部にまで侵入してきて、京子は思わず高い悲鳴を上げる。
「んぁ、あ、やめ……やッ、ひ、は…ああッ…!」
「む……ちゅ、ふぁ……」
「や、息、息がぁッ……あう、う、…んん…ッ」
くちゅくちゅと内部を舌で掻き回されているだけでも、京子には恥ずかしくて死にそうで。
その上丹念に舐められるものだから、龍麻の熱の篭った呼吸も秘部に吹きかかって、快感の一つになる。
ちゅ、にゅぷ、じゅるッ。
舌先で内壁を擦られながら押し広げながら、悪戯に吸い上げられる。
閉じようとする足を太腿を抑えて妨げて、龍麻はより一層激しく京子の膣を攻める。
「やめ、あ、ふ、んんッ…!」
─────いつもよりも、感じるような。
そう思ってしまうのは、その快感が気の所為では片付けられないからだった。
あの洞窟で水の鬼と対峙した時、京子は一瞬の油断で水の触手に捕らえられてしまった。
それ自体は自分の不注意以外の何物でもないから、悔しさはあっても、特別気に留めるような事ではない。
問題だったのはその後で、触手は何を思ったのか、京子や一緒に捕まってしまった葵達の躯を辱め始めた。
動きを封じる為だけでない胸や太腿への絡みつき方に加え、明らかな意図を持って少女たちの秘部を弄っていた。
龍麻の巫炎でなんとか助かったものの、あのままだったら何処までされていたのか、考えたくも無い。
あれで感じてしまった等と、京子とて認めたくない。
けれども現実とは空しいもので、京子の意に反して、彼女の躯はひっそりと熱を持て余していた。
「は、あッ…あ、……んんッ! や、め…龍麻…ッあ……」
寝てしまえば、もう気になる事もないと思っていた。
今日は疲れ切っているから、布団に入ってしまえば直ぐに眠れると。
明日になれば今日あった事など忘れているだろうし。
なのに、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかった。
ちゅう、と龍麻が一つ強く吸い上げれば、京子の躯がビクッと大仰に跳ねる。
広げられた足が硬直して、爪先がピンと伸びる。
絶頂が近づくのが判って、京子は無意識に更なる刺激を求めて、龍麻の頭を自身の秘部に押しつけた。
思いもよらぬ求め方に龍麻は一瞬驚いたが、恋人の珍しい甘えに嬉しくない訳がない。
ちらりと見上げてみれば、京子の瞳は熱に溺れて我を失い、口端からは飲み込めなかった唾液が垂れている。
祭りの途中で二人抜けて、廃寺でこの躯を抱いた。
それはまだほんの数時間にもならない以前の話なのだが、龍麻の下肢には既に十分に昂ぶっている。
もっと弄りたいと思う欲求をどうにか抑えて、龍麻は京子の秘部から舌を抜いた。
ちゅぽ、と言う小さな音がして、京子の太腿がヒクッと震える。
「ふ、ぁ……た、つ…ま……?」
もう少しでイけたのに。
虚ろな瞳が訴えるように龍麻を見て、そう告げていた。
龍麻は丸めていた背中を伸ばして、京子の唇にキスをする。
形をなぞって舌を這わせば、おずおずと京子のそれが開かれて、龍麻の舌を迎え入れた。
「……ん…ちゅ、…っは…むぅ……」
「ん……京、立って」
「…う……んん…ッ…」
低い声で囁かれて、京子は言われるまま、腰掛けていたトイレから立ち上がる。
とは言え、ろくに力の入らない足では、まともに立つ事すらままならず、龍麻の首に腕を回して縋り付く。
しかし、龍麻はその腕をやんわり掴むと、自分の躯から離してしまった。
京子は特にそれに逆らいはしなかったが、気を抜くとまた座り込んでしまいそうで、どうしたものかと迷う。
熱と快感に浮かされた頭では、思考も上手く纏まらず、外された手の行方を彷徨わせる。
龍麻は京子の躯を反転させて、貯水タンクに手を突かせる。
京子は震える足を叱咤して、そのまま屑折れそうになるのを堪えた。
さわりと胼胝のある手が尻を撫でて、濡れそぼった淫部に触れる。
掠めた指先でくちゅりと卑猥な音が聞こえ、京子はもどかしげにゆらゆらと腰を揺らめかせた。
「…っは…龍麻、ぁ……」
肩越しに背後の男を見れば、じっと黒い双眸が舐るように自身の秘孔を見詰めている。
まるで視姦されているようような気がして、京子は己の下肢がきゅうぅと切なく疼くのを感じた。
そのヒクヒクと伸縮する膣口に、太く固い熱の塊が宛がわれる。
「うッ、あ…っは…ん、あ、」
「ね、京……あれ、気持ち良かった?」
「…何の、はな、し……ッん…!」
肉棒は膣口に宛がわれたまま、其処から進もうとしない。
寸止めされた所為で熱を持て余している京子にとって、これは拷問にも等しかった。
恥も外聞もプライドも、既に今の京子にはない。
早くこの凶器に貫いて欲しくて、思考も躯もドロドロに溶かしてしまいたい。
疲れているとか眠いとか、そんな事はもう頭の片隅にも残っていなかった。
雄を招き入れようとヒクつく陰部を擦り付けて来る京子に、龍麻は益々自身の中心部が張り詰めていくのを感じる。
今直ぐにでも彼女の深部に打ち付けたい衝動を堪えて、京子の背中に覆い被さる。
抱き込むように前に回した手で、重力に従って垂れた大きな胸を揉む。
「あッ、あッ…や…あんッ」
「あの水。気持ち良かった?」
「は、あッ!」
くちゅ、と雄の先端が穴口を広げる。
けれどもそれは一瞬だけで、肉壁がそれを捉える前に、龍麻は腰を引いてしまった。
「あう…うぅん……」
「感じてたもんね」
「…っは…んん…!」
耳元で囁かれる言葉に、京子はふるふると頭を振って否定する。
「だって声、出てたよ」
「…る、さいッ…あッあッ、」
また雄が京子の秘部を割り広げる。
今度は出て行く事はなかったが、それ以上奥にも行かずに、京子は貯水タンクに額を押し付けて歯を噛んだ。
誰があんなので感じるか。
そう叫びたかったが、思い返せば確かに官能を感じていた自分がいる。
だから帰る道中にずっと熱を持て余していたのだ。
プライドを捨てても屈辱を認めたくはないから、龍麻の言葉に頷くなんて出来る訳がない。
それが益々京子自身の首を絞めていると、彼女は気付けなかった。
「ね、何処まで触られてた?」
「は……、あッ!」
「この辺?」
埋められた雄が侵入を進め始め、肉壁をゆっくりと擦りながら押し広げていく。
常の激しさとは違う快感に、京子の腰が切なく震えた。
「んぁッ、…あッ、あッ…ああぁ……!」
「もっと奥?」
「ひ、は、あ、やめッ、ふくぅうんッ」
「中、弄られたり、した?」
確かめるように一つ一つ問われても、京子には答えられる余裕がない。
辛うじて首を横に振るけれど、それが質問への否定か、もどかしい快感をやり過ごす為のものか、龍麻は勿論彼女自身も判然としなかった。
京子が一杯一杯になっているのは龍麻にも判るが、このまま流してしまう気にもなれなかった。
他人に取ってはそんなに躍起になる事かと言われそうだが、龍麻とて京子の恋人で、穏やかな性格をしていても男なのだ。
自分が傍にいたのにあんな状態になるなんて、────京子の所為ではなくても────どす黒い感情だって沸いて来る。
ゆっくりと腰を推し進めて行く内に、京子の表情はとろとろに溶け切って、虚ろな瞳が宙を彷徨う。
コリコリと乳首を擦られる快感を受けて、子宮口がもっとと強請って疼く。
「あ、あッ…んぁ、ふぁ……ひ、あッ…深、いぃ……」
「まだ奥?」
「ちが、違うッ…も、無理……んん…!」
焦らされるのも我慢するのも、もう限界だった。
貯水タンクに縋りついて、京子が腰を揺らす。
ぐちゅ、くちゅ、と水音が鳴った。
「んぁ、あ、あぅッ…は、くぅ…!」
「京、」
「あぅ、あ、あッ…んぁ、はあッ…!」
大胆さを増して行く京子の腰つきに、龍麻も息を呑む。
京子を焦らして、同じように龍麻も焦らされていた。
彼女を翻弄していたのは龍麻であるから、自業自得と言えばそうだが、それでもやはり辛かった。
其処へ来て、思わぬ京子の痴態だ。
血が凝固するのを感じながら、龍麻は京子の引き締まった腰を掴む。
ぐぅッと腰を進めて行けば、龍麻の雄がゆっくりと雌壁を押し開いて行く。
「あッ、はッ…ああッ、あぁう……」
「んん……ッ!」
奥深くに穿たれた肉棒に、京子の躯が震える。
コツ、と行き当たった事に気付いて、龍麻は細く息を吐く。
それに促されたように、京子も長い呼吸を吐いて、震える躯から少しずつ力が抜けて行った。
緊張の解けた躯を背中から抱き締めて、龍麻は覗く項にキスをする。
祭りの時のむず痒さを思い出したか、京子は小さく首を振って嫌がった。
構わずに舌を這わすと、内壁がヒクヒクと疼いて龍麻の雄を締め付ける。
貯水タンクに捕まる京子の手が白んでいて、赤い顔が肩越しに龍麻を見た。
もう無理、と色付いた唇が音なく紡いだのを読み取って、龍麻は腰を動かそうと試みる。
─────その時だった。
「あー、飲み過ぎたー……」
「祭りだからって浮かれ過ぎなんだよ。帰ってカミさんに怒鳴られても知らないぞ」
「平気平気、もう寝ちまってるだろうからさ」
「それが問題なんじゃないか?」
どやどやと騒がしいボリュームで押し寄せてきた大群。
野太く酔っ払っていると判る陽気な声に、京子の躯が一気に強張った。
「─────ッッ!!!」
思わず叫び掛けた京子の口を、龍麻が素早く手の平で抑えて塞ぐ。
ガタン、と貯水タンクが固い音を立てたが、それは外の騒がしさで響かずに済んだらしい。
二人のいる個室トイレの両サイドのドアの開閉音が聞こえた。
右のトイレからは何か訳の判らないメロディらしきものが響き、左からそれを煩いと注意する声がする。
熱に浮かされていた京子の思考は一気に現実に目覚め、理性も還って来ており、それが余計に彼女を追い詰めている。
自分が置かれている状況を思い出した京子は、真っ赤な顔で「離せ」と瞳で龍麻に訴えた。
心から解放を願ったその眼差しは、しかして逆に龍麻を興奮させてしまう。
耳まで真っ赤になって、目尻に涙を滲ませている京子。
龍麻の手の中では、熱の篭った呼吸が零れていて、時折濡れた舌が龍麻の指を掠めるのが、いやらしく思えて堪らない。
いっそ噛んでやろうかと京子が物騒な事を考えていようとも。
己の内部で固くなっていく一物に、京子もまた興奮している自分を自覚する。
こんな状況で有り得ないと何度も自分を叱咤しても、躯の熱は膨張して蓄積されるばかりで、戻って来た理性以外、この状況を悦んでさえいるようで。
「……ゃ…は…ぅ……!」
ともすれば零れそうになる吐息と声を、龍麻の凹凸のある手だけが塞いでいる。
早く出て行け、と体内に居座る男に心の中で毒づいた。
しかし胸中の叫びとは裏腹に、京子の秘部は龍麻を締め付けて引き止めるばかりで。
「京、欲しい……?」
「ッ……!!」
食い千切らんばかりの締め付けに、龍麻が問い掛ける。
耳朶にかかる吐息と、頬をくすぐる黒髪に、京子の躯が震えて子宮口がきゅぅと切ない悲鳴を上げる。
それを受けた龍麻の口元に薄らと笑みが浮かんで、くちゅり、京子の秘部で小さな音が鳴る。
「ん、ん……ッ!」
「えっち」
「………!!」
龍麻の囁きに京子が首を振って否定するが、まるで説得力がなかった。
京子の口を抑えたまま、龍麻が腰を動かし始める。
貯水タンクを掴む京子のてがビクリと強張って、掌にじわりと汗が滲む。
左右の一枚壁の向こうでは、相変わらず酔っ払いの男達の声が止まない。
「今年も祭りは盛り上がったなァ」
「なんかやけに可愛い女の子多かったなー」
「ああ、東京の学生だろ。臨海学校だってさ。このホテルに泊まってるらしい」
「マジか! なんとかして仲良くなれねェかな」
「今からか? ムリだろ、もう消灯時間とかだろ」
「でもさー、こっそり抜け出してる奴っていつの時代もいるモンだろ?」
ぐちゅ、くちゅ、ぬぷッ。
濡れた京子の秘部から鳴る淫らな音は、幸い、男達には聞こえていない。
右隣からしつこく聞こえる調子外れの歌のお陰だろうか。
気付かれないのを良い事に、龍麻は京子を攻め立てる。
くぐもった喘ぎ声が手の内側で零れている事に気付いていたが、構わなかった。
奥を突き上げる度、ビクッビクッと跳ねる京子は、取り戻していた理性もまた手放そうとしている。
散々煽られ、焦らされ続けた所為で、彼女の思考と躯は完全に別物になっていた。
「…ッ…ふッ…んッ、んッ…!」
「聞こえちゃうよ、京」
「んんぅ……!」
判っているなら今直ぐ止めろ。
声に出来ない代わりに、京子は龍麻の指に歯を立てる。
ぷつりと薄い皮を破る犬歯の感覚に、龍麻は一瞬眉根を寄せたが、特に気に障るほどではなく。
それでも意趣返しに一つ強く突き上げれば、仰け反らせた喉奥で悲鳴を飲み込んだのが判った。
「…! ッ、ッ…! ─────ッ!!」
今此処で声を出したら、気付かれる。
悲鳴を上げたが最後、此処で行われている行為を、外にいる誰だか判らない男達に知られてしまうのだ。
外にいる男達は祭りの空気及び酒の所為ですっかり酔っ払っている。
酔いどれ連中の思考回路など、素面の人間が理解も予想も出来る訳もなく、時にとんでもない行為を仕出かしてくれる。
もしも酒の勢いでモラルも常識もなくした彼らが、興味本位でこの個室を覗き込もうものなら────後には惨事しかない。
頼むからそれだけは、と京子はふるふると首を横に振って龍麻に訴える。
相棒の声なき叫びを気付かない彼ではないだろうに、何を考えているのか、龍麻は一向に京子の意に沿わない。
(も、やッ…ぅ、あうッ…! は、そこ、そこはぁッ…!!)
ぐちゅッ、ぐちゅッ、と弱い部分を押し上げられて、京子の腰がビクッと戦慄く。
(ひッ、…は、…んんッ…! ふ、ぅ、…んぁ、あ、あ、あッ…!)
肉壁を突き上げられる度に、京子の雌が歓喜している。
じわりと京子の内部から蜜液が溢れ出し、零れ落ちて糸を垂らす。
──────隣から聞こえていた、調子外れの音が止んだ。
ぐちゅん! と一つ大きな音が鳴った気がして、京子の躯が強張る。
(…あッ…うぁッ……! はぐぅ…!)
「おい、寝たか? ひょっとして」
「反応無いな。おーい」
「いいじゃねえか、ほっとけよ。俺、先に行ってるぞー」
(ちょ…待、待ッ……だめ、ん…! 連れて、けえッ…!)
連れ合いの男達が秘め事に気付いた様子はないが、あろう事か、仲間の一人を置いて行こうとしている。
それだけは止めろ、と京子は胸中で叫んだ。
最早逆らう力を失くした京子に、背後の野獣から逃れる術はない。
今の京子が出来る事は、出来るだけ早く、外にいる酔っ払い達がこの場から立ち去ることを祈るだけだった。
だと言うのに、眠ってしまったとは言え、自分達以外の人間がこの空間にいるのは、京子には耐え難い事だ。
ガタガタと隣のトイレで物音がする。
ちょっと肩貸せ、と言う声がして、個室を仕切るドアを登っているのが判った。
若しも─────若しもそのまま、この部屋を覗かれたら。
そんな思考が脳裏を過ぎって、京子の秘部が強く締まる。
(んくぅうぅぅぅう……!!)
自分の躯とは言え、既にその反応は京子の意志とは関係なく。
思考や熱に引き摺られて、悪戯に男を悦ばせてしまう。
「京、興奮するの? こういうの」
「……っか、ら…ち、が…うぅ……ッ」
「でも、」
引き抜かれた雄が、一息に行き止まりを突き上げる。
「ふッぅ…!!」
細い腰が跳ねて逃げようとするのを捕まれ、引き寄せられて、深く繋がる。
隣のトイレが開けられて、男達がぐちぐちと文句を言いながら仲間を引き摺り出す音がする。
調子外れの歌が再び聞こえだしたのは、彼らが廊下に出た後だった。
京子は下肢から背中を駆け上ってくる快感の信号に耐えるのに必死で、それに気付いていなかった。
途端に空間に静寂が落ち、聞こえるのは押し殺した京子の呼吸だけ。
龍麻は腰を動かすのを止め、汗を滲ませて赤らんだ京子の項にゆっくりと舌を這わして遊んでいた。
ピクッ、ヒクッ、と躯を痙攣させている京子に小さく笑みを漏らして、龍麻は彼女の口を塞いでいる手を外した。
同時に、ぐちゅんッ! と一際強く京子の秘孔が突き上げられる。
急き止めていた壁がなくなれば、弛緩した彼女の唇から、あられもない悲鳴が漏れた。
「ふぁあッ!!」
「もう我慢しなくていいよ」
「や、んあ、た、つまァ……んあぁあッ!」
我慢と一緒に、羞恥心も限界に達していた。
緊張状態から解かれた途端、躯の最奥をぐりぐりと抉られて、京子の膝ががくがくと笑う。
龍麻は、腰を打ち付ける音が響くほどに強く、激しく、腰を動かし始めた。
「ああッ、あひッ、ひッ、ふぁん! あッあッ、龍麻ッ、たつまぁ…ぁあん!」
「気持ち良い? 京」
「ふぁッはッ、はひッ! んぁ、あ、らめ、あ、ひ、ぃいん!」
龍麻の突き上げのタイミングに合わせて、京子の腰がゆらゆらと揺すられる。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音が狭いトイレの中で反響した。
「ね、さっき、ドキドキした?」
「ふッ、ん! ば、かぁ……!」
ドキドキとか、興奮とか、緊張とか。
全部がごちゃ混ぜになって、京子はもう何を言えば良いのか判らない。
ただ判るのは、この状況を背後の男は絶対に楽しんでいる、と言う事。
雄の形をくっきりと覚え込んだ秘部の奥で、欲望の塊は尚も京子を攻め立てる。
最早京子は立っている事すらままならず、腹筋にも力が入らない。
貯水タンクを掴む手は、指が引っかかっているだけで、首も据わらないらしく、角縁に額を押し付けていた。
「も、バカ、龍麻ッ…! 早、く、やめぇッ…!」
ぞくぞくと背中を駆け上ってくる快感に、京子は解放を求めて叫ぶ。
「こんな、トコで…ッひぃん!」
「でも京、興奮してた。此処、凄い締め付けてたし」
「して、な、ひぃうッ! んひ、あ、はふッ、はぁん…!」
ドロドロに蕩けて、雄を締め付ける秘口。
彼女の意思を無視して、何処までも快楽に従順な躯。
突き上げられる度に細い腰が跳ねて踊り、内部の肉が痙攣して龍麻の雄に絡み付いていた。
早く終われと願いながら、その心とは裏腹に、背中の獣を悦ばせてばかりいる。
もうやだ、と子供のように小さく呟いた京子に、龍麻は行為を始めてから、初めて眉尻を下げる。
少し意地悪が過ぎたようだと。
「京」
「ふッ……ぅ…ん、んむ……」
顎を捉えて振り向かされて、口付けられる。
後ろから貫かれたままで苦しい体勢ではあったが、もうその事で文句を言う気力はない。
龍麻はねっとりと京子の唇を舐り尽くして行った。
「ん、あ、ふぁ…はッ…は……も、死ね、お前……」
「嫌」
「ふぁあんッ!!」
行き止まりの更に奥。
最も敏感な其処を突き上げられて、京子の目が白黒する。
そのまま、龍麻は繰り返し其処をノックした。
「あッ、あうッ、あひッ、はうぅ!」
「気持ち良い?」
「ばか、あッ、んぁッ、はぅん! らめ、あ、う、あう、はうッ!」
頭の中がスパークする感覚に、京子は身悶えして頭を振る。
それが絶頂の直前にする仕種だと、龍麻はちゃんと把握していた。
ぐちゅッ、ずちゅッ、と淫音が響いて、京子の喘ぎ声が一層高くなっていく。
「あうッ、あ、んぁッ、イく、イくぅううッッ…!!」
熱に浮かされた眼を宙に彷徨わせ、はくはくと口を開閉させながら京子が訴える。
濡れそぼった秘孔の中、ヌルヌルと卑猥な蜜が滑りを助けている。
京子が一際高く喘ぐ度、彼女の内部は強く閉じ、其処に穿たれた欲望を締め付けた。
龍麻の眉根が寄せられ、京子の体内に熱い迸りが注がれる。
「んぁ、あぁあああ、あ……ッ!!」
甘い悲鳴は残響となって、ゆっくりと消えて行った。
意識を飛ばした京子が目を覚ましたのは、十数秒後の事。
それでも意識のリセットボタンが押されたのは変わりなく、目覚めた瞬間、京子は真っ先に背後にいた少年を踵で蹴り上げた。
「……痛い……」
「黙れ。いっそ死ね、この変態」
足元に纏わり着いたまま、床に落とされていた下着を短パンを引き上げて履き直しながら、京子は龍麻を睨んだ。
が、直ぐに襲ってきた腰の痛みに顔を顰め、トイレの蓋に座り込む。
京子が振り上げた踵は、見事に龍麻の向こう脛を蹴り飛ばした。
弁慶の泣き所と言われる急所に、見事なクリティカルヒットである。
流石の龍麻もこれは答えたようで、蹴られた箇所を抱えて京子の足元に蹲っている。
丸くなっている恋人にざまあみろと舌を出す京子だったが、それだけで彼女の虫が収まる訳もない。
京子としては早く風呂に入って、海水に浚われた身を温めて、部屋に戻って寝たかった。
だと言うのにこんな─────事もあろうに男子トイレなんて場所に連れ込まれて、情交に持ち込まれて、しかも途中で他者に気付かれるかも知れなかったなんて、笑えない。
「こンの……手前はマジでいっぺん死ねッ!」
「痛い痛い、」
げしげしと音がする程に乱暴に、京子はあらん限りの力で龍麻の背中を蹴る。
「オレは疲れてんだよ!」
「うん」
「祭りン時にもヤったろーが!」
「うん」
「な・の・に! なんでまたヤんなきゃいけねェんだよッ!」
繰り返すが、京子は疲れていたのだ。
昼はレクリエーションで遊び倒し、ビーチフラッグ勝負には負けたが、これは楽しめた。
夜になって浴衣に着替え、あまり気乗りしないのを仲間達には隠して、夏祭りに繰り出して。
帰ってきてようやく休めると思ったら、思わぬ騒動に結局人働きする事となってしまった。
─────本当に、今日は疲れていた。
ぎりぎり牙を見せて睨む京子に、龍麻はようやく痛みの治まった脛を摩りながら、京子を見返す。
「だって消毒しなきゃって思って」
「……なんのだよ」
行為の最中にも同じような単語を聞いた気がするが、京子は意味が判らなかった。
相棒の思考が読めないのはいつもの事だけれど、自分に降りかかった災難(少なくとも京子にとっては災難だ)の理由も判らないままでは、居心地が悪い。
眉根を寄せて問い返す京子に、龍麻は立ち上がってドアに寄りかかり、答える。
「京、触られたでしょ」
「だから何を………待て言うな。言わなくていい。言ったら殺す」
開きかけた龍麻の口を平手で塞いで、京子は早口に龍麻を脅す。
その顔が耳まで真っ赤になっているので、怖さは殆ど感じられない。
「だから、消毒」
「……死ね」
何処から何を言えばいいのか判らなくなって、京子はその一言だけを口にした。
風呂には入りそびれるし。
葵や小蒔は絶対に不審がる、どんな顔して部屋に戻れば。
そういえば、マリアからの説教も残っているのだった。
色々思う事はあったのだが、京子はもう何もかもが面倒臭い気がして、程なく考えるのを止めにした。
マリアの説教もサボってしまおう、どうせ明日の朝には倍乗せして怒られるのだろうけれど。
京子は長い溜息を吐き出し、便座の上で足を組む。
「男子トイレでセックスとかよ。入ってきた野郎共に見付かったら、下手すりゃマワされんじゃねェか」
酔っ払い集団の来訪を思い出し、京子は汚物でも見るかのように顔を顰めて言う。
と、龍麻は平然とした表情で、
「それはないから大丈夫」
「何処がだよ! そういう目に遭いかけたんだぞ、オレはッ!」
「だって京が僕以外の人に触られるの、嫌だから。だから、そういう事にはさせないから、大丈夫」
………何か今、とんでもなく恥ずかしい事を言われたような。
沈黙して目の前の相棒を見詰めていれば、不思議そうに傾げられる彼の首。
いやそうしたいのはこっちなんだがと、30度程傾けられた少年の頭を見て思う。
行為の最中、散々意地の悪いことをされたとか、そもそもこんな場所でするなとか。
やはり言いたいことは山ほどあるのだが、どれも言った所で大した効果はないだろう。
不思議頭の相棒の思考回路は、いつだって京子の想像の範疇を超えている。
結局は自分が振り回されるしかないのだと、溜息を吐くのが彼女の精々であった。
けれども、流石に今回のような事はこれきりにして欲しい。
「……次にこんな事しやがったら、そん時ゃ握り潰すからな」
何処をとは言わなかったが、一応、ちゃんと伝わったらしい。
眉尻を下げて苦笑いする龍麻に、京子は自業自得だと久しぶりに笑みを漏らすのだった。
\ ■ ]T
理不尽にやきもち龍麻。
私が「消毒」させたかっただけです(爆)。あとバックからと。