声が消える先


 自分で一物を扱いていた男の一人が、スコールのシャツを掴み、たくし上げた。
露わになった胸の上で、ぽつりと膨らみが浮いている。
其処に男は、自分の膨らんだ凶器を押し付け、裏筋に膨らみを擦り当てながら腰を振り始めた。


「やっ、あっ、あぁっ!やめ、やめろっ!嫌あぁっ!」
「なんだよ、乳首コリッコリじゃねえか。苛めて欲しかったのか?」
「違う、違うぅ…っ!やぁっ、気持ち悪い……んんっ」
「そんならこっちも。お互い気持ち良くなろうぜえ」
「やぁあ…っ!」


 涙を零しながら頭を振るスコールだったが、男達はやはり気にしなかった。
寧ろ、いつも大人びた澄まし顔をしている少年の泣き顔に、男達の興奮は反って昂って行く。

 もう片方の乳首にも、男根が宛がわれ、乳首の先端に亀頭をぐりぐりと擦り付けられた。
家で睦み合う時には、其処を撫でられ舐められていたから、体はその時の快感を覚えており、与えられる刺激の元をそれと錯覚しているのか、スコールの意思を無視して快感を得てしまう。
ペニスに犯される乳首は固さを増して行き、亀頭の先端や竿をコリコリと引っ掻いて、男達を悦ばせた。


「あっ、あっ…!やぁ……っ!んっ、あぁ…っ!」
「イイ声してるじゃないか」
「俺もどっかねえかなあ」
「お前さっき素股したじゃねえか」
「見てるだけでエロくてよお、また勃っちまった。なあ、責任取ってくれよ」
「ひっ、やあっ!近付けるな…!」


 ずいっとスコールの目の前に、精液で濡れそぼったペニスが突き付けられる。
醜悪な形と匂いをしたそれに、スコールは目を閉じて顔を背けた。
頬にぐりぐりと亀が擦り付けられ、スコールはぶんぶんと頭を左右に振り乱す。

 スコールの尻を苛めていたペニスが、どくん、どくん、と大きく脈を打っている。
その持ち主もはあはあと息を荒げており、猿のようにカクカクと激しく腰を振り、絶頂が近い事を示していた。
男は、身を捩って逃げを打つスコールの尻を鷲掴んで固定し、尻の谷間にぴったりと竿を密着させ、カリの裏側をスコールの会陰に押し当てた。
そのまま腰を前後させて、ずりっずりっとペニスを擦った後、「くぉおおおっ…!」と唸り声を上げて射精する。


「うぅうっ……!」


 びしゃびしゃっ、と生温い液体が尻に降りかかるのを感じて、スコールは肩を縮こまらせた。
甲高い悲鳴だけは上げるまいと、血が滲む程に唇を噛む。

 射精した男が退くと、右の乳首を苛めていた男が其処に移動した。
新しい男は、スコールの尻を汚した精液に顔を顰めつつも、深くは気にせず、スコールの両脚を抱き抱えて、太腿にペニスを突っ込む。
直ぐに律動が始まり、汗と先走りで湿ったペニスが、にゅるにゅるとスコールの股間を犯した。
空いた乳首には、今射精したばかりの男が陣取り、精液塗れのペニスを乳首に押し付けて、拭うように擦り始める。


「んっ、んぅ…っ!あっ、ひぃ…っ!やめ…、もう、放せぇ…っ」
「いやいや、俺がまだだからな。ちゃんと平等に相手してくれよ」
「し、るか、そんな事…んぅっ!あ、あんた達で、ヤりあってれば、ひぃうっ!」


 顔を顰めながら言ったスコールだったが、最後まで声にはならなかった。
自身のペニスが誰かに強く握られたからだ。

 ふるふると肩を震わせているスコールの腹に、何か重い物が乗る。
何、とスコールが眉根を寄せて自身の腹を見ると、男の大きな尻が其処に乗っていた。
乗った男は、スコールのペニスと自分のペニスをぴったりと重ねて、二本まとめて自慰を始める。
どくどくと脈打つ太い肉竿と、男のガサガサとした手にペニスを扱かれて、スコールの腰がビクッビクッと跳ねる。


「ひっいやっ、やああっ!触るな、やめろ、やめろっ、あぁあ…っ!」


 男の手は確実にスコールの弱い部分を捉えていた。
海綿体のある裏筋の根本に爪を当て、コシコシと軽い力で引っ掻く。
びりびりと甘い痺れに似た感覚がスコールの下肢を襲い、スコールの鈴口からとろりと蜜が溢れ始めた。
それを見た男がにんまりと笑い、二本のペニスの先端に掌を当てて、ぐるぐると円を描くように動かす。
亀の首が右へ左へ撫で回されて、とぷとぷと先走りが量を増やして行き、スコールの竿を濡らして行く。


「あっ、あっ…!やめ…んんっ、くぅ…っ!」
「足、力入ってるな。太腿が締まって良い具合だ」
「乳首もすっかり固くなってるじゃないか。此処もいつも苛めて貰ってるのか?」
「んくぅ…っ!バカ…っ、む、胸、引っ張るなぁ……っ!ああっ…!」


 摘まみ引っ張られた乳首を、ピンッと弾かれて、スコールはぶるっと背中を震わせた。
じんじんとした痺れを残す胸を、切なげに震わせるスコールに、見下ろす二人の男の喉が鳴る。

 太腿をペニスに挟んだ男が、抱えたスコールの足を真っ直ぐに延ばす。
重力に逆らう格好を強引に取らされて、自然とスコールの腹や足先に力が入った。
ペニスを挟んだ太腿が、男の腕に抱き抱えられ、ぴったりと隙間なく揃えられ、固くなった肉棒の感触が露骨なものになる。


「い、やだ…んっ、あぁ…っ!はっ、ひう…っ、あぁっ!」
「ちんぽから白いの出てるぜ。これなんだろうね〜?」
「触、あっ、触るな…ああっ!や、だめ、うぅんん…っ!」


 ペニスを扱く男が、にやにやと笑いながら、スコールのペニスの先端を指で穿る。
穴の中を弄られるのを感じて、スコールは尿意に似たものが体の芯から上って来るのが判った。
それが決して尿意そのものではない事も判り、それだけは、とスコールは唇を噛んで衝動を堪えようとしていたが、


「イきそうって事は、お前も気持ち良くなってるんだな」
「違う…っ!そんな、訳……ひいっ!」
「ほれほれ、おちんちん辛そうだぜ〜」
「んぁっ、あっ、あぁあ……っ!や、あっ、ひぃっ」
「乳首もコリコリにしちゃってさ。素直になった方が楽だぞ」
「はっ、あっ…!やあ…胸…あっ、んぁっ!汚、い…ふぅんっ…!」
「ああ、ひょっとして物足りないのか?ケツ穴じゃないとイけないとか?」


 笑いながら言う男達に、スコールは唇を噛んだまま、無言で首を横に振る。
だが、スコールの反応など、彼等にとってはどうでも良い事だ。

 にゅるっ、と太腿からペニスが抜かれて、スコールのアナルに先端が宛がわれる。
ぞわっと悪寒がスコールの背を奔って、スコールは拘束で自由にならない体を目一杯暴れさせた。


「やめろ!やめろおぉっ!入れるな、触るな、放せ!」
「うおっ、意外と元気じゃねえか」
「イイ子にしてな、ホレっ」
「ひぃんっ!」


 左右の乳首を同時に摘まれ、スコールの体がビクッ!と跳ねる。
引っ張った乳首の先端に、爪が宛がわれて、コリコリと引っ掻かれると、快感電流が胸全体を襲った。
その刺激に耐えようと、スコールが体を固まらせたのを良い事に、アナルに凶器が押し込められた。


「─────っっ!!」
「うお、きっつ…!」
「あーあー、抜け駆け禁止って言ったのによぉ」
「ま、無駄だろうとは思ってたけどなー」


 碌に慣らしもせずに挿入されたペニスは、直ぐに肉の壁に阻まれ、みっちりとしがみ付かれて動けなくなった。
ぎゅうぎゅうと締め付ける肉壺に、男は一瞬顔を顰めたが、自慰をしている男がスコールのペニスを上下に扱くと、その締め付けが僅かに緩む。


「あぁっ、ああ…っ!や、だ…もう…や、め……っ」


 酷い男達によって、遂に秘所を犯された事で、スコールの心は完全に折れた。
乳首やペニスから襲う快感を堪える為のプライドも矜持も崩れ去り、ヒクッヒクッと体を戦慄かせながら、涙声で弱々しい訴えを口にするしか出来ない。


「やだ…もう……抜け、え……、レオ、ン……」
「レオン助けて〜って?残念だけど、あいつはいないよ」
「痛い思いさせて悪かったなあ。お詫びに、気持ち良くしてやるから、そう泣くなよ」
「ひっ、ひうっ…!んっ、うっ、うぁあ……っ」


 言うなり強引に腰を振り始めた男のペニスが、ずりずりとスコールの中を抉り擦った。

 スコールはふるふると首を振って、抜け、と涙ながらに訴えるが、男はスコールの体を拓かせようと躍起になっていた。
抜く時はゆっくりと、挿入時は勢い良く、緩急をつけて腰を前後に動かし、スコールの肉の抵抗力を削ごうとしている。
乳首やペニスを苛める男達も、スコールの体が思う通りの反応を示し始めている事に気付き、調子付いて行った。


「んぁっ、あっ、あぁ…っ!やっ、あっ、そこ…あぁ…っ!」
「やっぱりケツ穴に欲しかったんだな。一番素直じゃねえか」
「す、素直、なんかじゃ…ああぁっ!やっ、ひぃんっ!」
「どんどん我慢汁が出てるぜ。意地張ってねえでイっちまいな。そうすりゃもっと気持ち良くなるんだからよぉ」
「あふっ、あっ、あぁあ……っ!だ、め、やめ、んんっ!さ、先っぽ…ひぃっ、ぐりぐりって、ふくぅんっ!」


 スコールの縛られた足先がビクビクと震え、足首が仕切りに動く。
悶えるように左右の足の靴裏と甲を交互に重ね合わせては、爪先まで引き攣らんばかりに強張る。

 尻穴を犯す男の動きが激しくなって行き、スコールの体がそのリズムに合わせて大きく揺さぶられる。
左右の乳首にまたペニスが押し付けられ、ぷっくりと膨らんだそれを竿の裏筋に当てて、前後に動く。
敏感になった乳首をグロテスクな色をした性器に犯される光景を、スコールは熱に浮かされた瞳で、酷く近い距離から見せつけられていた。
その向こうでは、薄い腹の上に男の大きな尻が乗っている。
その所為で其処から向こうの光景を見る事は出来ないが、握られたペニスが痛い程に張り詰めていて、限界間近である事は判った。
男達の手で散々に苛められているだけだと言うのに、スコールの中心部には確かに血が集まっていて、精嚢で作られた精子が出口を求めて上って来ている。

 迫る限界を、スコールは必死に堪えていた。
しかし、折られた心と、若い身体がいつまでも続く凌辱に耐える事は難しい。
抵抗の術を奪われ、ただただ与えられる恥辱を受け止めるしかない躯は、得るようになってしまった快感を殺す事も出来ず、


「ふっ、ああっ…!だめ、や…、イ、んっ、ひくぅう…っ!」
「はっ、はっ…!っふう、そろそろ…限界だわ…っ!」
「あっ、あっあっ!んっ、ひっ、早い、激し…っ!あぁっあっあっ、あっ、」
「おぉおおおっ!」
「ひっ!いやっ、やぁああああっ!!」


 男が雄叫びのような声を上げて、スコールの中で欲望が弾けた。
どぷぅっ、と一気に濃い粘液が大量に体内に注ぎ込まれるのを感じて、スコールは遂に声を大にして悲鳴を上げる。
その瞬間、完全に身も心も無防備を晒したスコールの体を、限界を越えた衝動が襲った。


「ああっ、やっ、だめぇえっ!あぁあああーーーーっ!!」


 我に返った一瞬に頭を振ったが、体の反応は止まらなかった。
ビクンッビクンッ!と細い躯が大きく戦慄いたかと思うと、スコールのペニスから射精が行われる。
耐えに耐えた所為で、鈴口から飛び出した精液は、ホースの口を絞ったように勢いよく、びゅうううっと噴射された。
尿道と鈴口を内側から犯される様な快感に、スコールは背中を仰け反らせる。

 耐え抜いた末に射精による快感は強く、長く尾を引いた。
一気に襲った射精が終わった後も、スコールの若いペニスは萎える事はなく、添えられた男の肉棒の横で天を突いている。
その先端からはトロトロと白い涙を溢れさせており、男はそれを手で掬うと、自身とスコールのペニスに万遍なく塗り付けた。

 乳首を苛めていた一人の男が、勃起しきったペニスを手にしながら、尻穴を犯している男に言った。


「イったのなら代れよ。待ち草臥れた」
「ああ、ちょっと待ちな。今抜くから」


 男がゆっくりと腰を引くと、尻穴を犯していたペニスが抜けて行く。
未だ快感の余韻を残している秘孔を、カリ首で焦らすように撫でられて、スコールの唇から甘い音が漏れる。


「あ、ああっ……んぁ、あ……っ」
「へへ、締め付けてきやがる。そんなに寂しがらなくたって、また直ぐ突っ込んで貰えるって」
「あふ……っ!」


 にゅるん、とペニスが抜き去られ、拡がったアナルが露わになった。
直後に、また新しいペニスが其処に押し当てられ、


「よっ……おぉっ!」
「ひぃいんっ!」


 ずぷんっ!と太い亀頭が一息に捻じ込まれて、スコールは圧迫感に声を上げる。
ビクッ、ビクッ、と跳ねる腰を男は掴んで押さえ付け、激しく腰を振り始めた。
中に出された精液が、スコールの肉壺をべっとりと濡らしており、男はそれを潤滑油にして、じゅぽじゅぽと音を立てながら、スコールの中を耕す。


「うあ、あっ、あぁっ、ああ…っ!」
「なんだ、随分イイ貌してんじゃないか」


 今までアナルを犯していた男が、スコールの顔を見て言った。
精液と腸液で汚れたペニスを、スコールの胸に当てると、シャツで精液を拭いながらスコールの胸に押し付けて扱く。

 スコールの乳首を苛め続けていた男が、ぐぅっと唸り、乳頭に雄の先端をぐりぐりと押し付けた。
どろっとしたものが鈴口から溢れて来たかと思うと、びゅるるるっ、と射精して、スコールの胸に汚濁が飛び散る。
男は、はあ、と一息吐いた後、尻穴を犯している男に言った。


「なあ、早く変わってくれよ」
「んぁっ、あっ、ひぃっ!あっ、ああ…あふっ!ふぅんっ…!」
「ちょっと待ってろ。俺はようやく挿れたばっかりなんだ」
「はっ、ひ、んぁっ!や、また…あっ、ちんこぉ…っ!扱くな、んっ、あぁっ…!」
「ケツまんこ気持ち良さそうだなあ。俺も後で挿れるとするか」
「やだ、や、だめ、あふぅっ!ひっ、いんっ、お、奥、苦し……あひぃっ!」
「俺はしばらく、このおっぱいに相手して貰おうかな。ちょいと平らだが、肌はその辺の女より良い感触してるじゃないか」
「あ、あ…ん、はぁ…んっ…!やあ…もう、やだぁ……っ!だ、れか…ああ…っ!」


 意地もプライドも捨てて、スコールは助けを求めた。
しかし、帰って来るのは静寂と、それ以外には男達の低俗で卑猥な声だけだった。




 抵抗する術など、最初から無かったに等しいが、せめて心だけは折るまいと思っていた。
そんな決意も嘲笑うように、散々に好き放題にされて、中も外も汚された。

 舌を噛んで死ねたらどんなに楽だっただろう。
朧な意識の中で、そうしようかとも思ったけれど、骸になった自分を見付けた誰かが、どんな気持ちになるのかと思うと、出来なかった。
況してそれがレオンだったとしたら、本の事を頼んだばっかりに、と彼がしなくて良い筈の後悔をしそうで、嫌だと思った。
スコールを襲った悲劇について、彼が追うべき責など、何一つない筈なのに、彼はそう言う事を考えて、何もかもを自分の責任として背負って行きそうだった。
人の良い他のメンバーも同じで、死と言う最後の逃げ道は、スコール自らの意思で閉じられた。

 そうして、いつ終わるとも判らなかった凌辱は、男達の気が済むまで続いた。
終わった時にはスコールの躯は精液塗れで、服も汚れて皺だらけ。
全てが終わった後で、体の自由を奪っていたロープが解かれると、スコールの躯はぐったりと床に沈んだ。
すっきりした、と脂の下がった顔で言った男達は、動けないスコールをその場に残し、城を跡にした。
往路ではスコールの後を尾けていた為、ハートレスの心配をしなくて良かったと言っていたが、帰りはどうするつもりなのか───そんな事はスコールにはどうでも良い。
帰り道でそのハートレスに襲われてしまえば良いのに、と頭の隅で思った。

 男達が消えてから、どれ程の時間が経ったか、ようやくスコールは起き上がった。
汚れきった体が気持ちが悪くて、城のエントランスホールにあった小さな噴水で、体を洗い、汚れきった服も洗った。
濡らした服は出来る限り絞って、乾くのを待たずに袖を通す。
じっとりと湿った服は着心地の良いものではなかったが、外を見れば空が夕焼け色に染まっていて、これ以上遅くなったらレオンが心配して迎えに来そうだった。
その前に、せめてこの場所から移動して、濡れた服の事は適当に言い訳を考えておかなければならない。

 スコールの頭の中は、奇妙にも冷静であった。
何時までに帰らないと、その為には、と順序を立てて、その通りに効率的に行動する。
とにかく急いで帰ろう、とスコールが考えているのはそれだけだ。

 エントランスホールを出ようとして、レオンに頼まれていた本の事を思い出した。
ホールから書庫に戻ると、一階の出入口の前が本棚に塞がれていて、そう言えば二階から出て来たんだった、と遅蒔きに思い出す。
重い脚を引き摺ってホールの二階に上がり、書庫に戻り、一階へと降りる。
レオンに頼まれていた本は、隠し棚の前に散乱していた。
其処はスコールが犯されていた場所で、大理石の床の上には、凌辱の痕である白い粘液が飛び散っており、所々だけがカピカピと乾いている。
其処に落ちていた本を拾ったスコールは、古めかしい本の表紙にてらてらと光るものがある事に気付いた。


「………!!」


 それを見て、スコールの頭に数時間前の出来事が一気に甦った。
思い出すまいと、直視するまいとしていた、自分を襲った全ての記憶が、スコールの意識を真っ黒に塗り潰そうとする。

 スコールの頭が冷静だったのは、逃避行動に過ぎなかった。
自分がされた事を頭の中から追い出す事で、狂いそうになる意識を、辛うじて正気の中に留めていたに過ぎない。

 泣き叫ぼうとした口を、スコールは塞いだ。
此処で叫んだら、自分の意識が二度と戻ってこないような気がしたからだ。
がちがちと鳴る歯の根を、食いしばって無理矢理押さえ付け、スコールは散らばっていた本を掻き集めた。
表紙の汚れをジャケットの袖を擦り付けて拭う。

 本を腕に抱え込んで、ガンブレードを片手に握って、外へ出た。
偶々なのか、何か力でも働いているのか、帰る道中にハートレスは見なかった。
ずるずるとガンブレードの切っ先を引き摺って歩くスコールに、戦う為の体力など残っていないから、幸運ではあった。
それすら、スコールにはどうでも良い事だったが。

 街に入った所で、ユフィに見付かった。
ずぶ濡れの有様を見たユフィは、「どーしたの!?」と目を丸くし、スコールに有無を言わさず、シドの下へと連れて行った。幸い、其処にレオンがいる事はなく、スコールは「ハートレスの魔法にやられた」と適当な嘘を吐いた。
水や氷の魔法を多用するハートレスは確認されていたから、疑われる事はなかった。
憔悴しているのは、ハートレスに追い回されて疲れたからだと言えば、それ以上追及される事はなかった。
シドが何か言いたげな顔をしていたが、彼はスコールに対し、必要以上に踏み込まない方が良いだろうと考えているらしく、服の着替えだけを寄越した。

 借りた服の礼だけを言って、スコールは直ぐに其処を出た。
早く帰らないとレオンが心配する、と言うスコールを、ユフィとエアリスは心配そうに見送る。
シドは最後まで、何も聞かなかった。

 予定よりもずっと遅くなった帰宅は、19時を過ぎていた。
改修工事をしても尚古びているアパートの前まで着いた所で、迎えに行こうとしていたレオンに逢った。


「スコール!」


 のんびりして来て良いとは言ったが、夕飯の時間までに帰って来ないとは思っていなかったのだろう。
駆け寄って来た彼は、家を出た時とは違う服装をしているスコールを見て、目を丸くした。


「随分遅いから心配したんだが……何かあったのか?」
「……いや。これは、帰りにハートレスの魔法で水を被ったから…その後、ユフィに逢って、着替えてから帰れって」
「…そう、なのか?本当に?」


 顔を覗き込んで確かめるレオンに、スコールは目を逸らした。


「遅かったのは、本を読んでて、そのまま寝て……」
「………」
「……悪かった」


 謝ると、レオンは何かを言おうとしていた口を噤んだ。
暗に、聞かないでくれと言うスコールの言葉を、彼は明確に汲み取っている。
そうなれば、レオンは強引にスコールの口を割ろうとはしない。

 レオンの視線が、スコールの懐に抱えている本へ移った。
視線に気付いたスコールの肩が僅かに震え、レオンが眉根を寄せる。
また何か聞かれる前に、とスコールは本を差し出した。


「これ、頼まれてた奴」
「……ああ」


 物言いたげな表情を飲み込んで、レオンが手を伸ばす。
その手が本に触れた瞬間、スコールの脳裏を過ぎったのは、あの白く汚れた表紙だった。
競り上がる吐き気を飲み込んでいる間に、本はスコールの手を離れて行く。
レオンが表紙を見詰めているのを見て、スコールはそれを取り上げたいと思った。
そんな事など露知らず、「ありがとう」と言うレオンに、スコールは小さく首を横に振る。

 くしゃ、とグローブの手がスコールの頭を撫でる。
その手を甘受したまま、目を逸らしていると、肩を抱き寄せられた。
レオンの肩口にスコールの口元が押し付けられて、後頭部をぽんぽんと優しくあやすように叩かれる。


「夕飯が出来てる」
「……ん」


 スコールの小さな返事を聞いて、レオンは体を離した。
帰ろう、と促すレオンに、スコールは頷いて、その背を追ってアパートの外階段を上がった。

 レオンが外出すれば無人になる筈の家には、明かりが点いたままになっていた。
ひょっとして、とスコールが予想すると、思った通り、アパートには居候の先輩の姿があった。


「やっと戻ったのか。お帰り、スコール」
「……ん」


 リビングのソファを陣取っていた金髪の男───クラウド。
家を出る時にはいなかったこの男が、戻った時にはいると言う光景も、大分見慣れた。

 直ぐに夕飯の用意をすると言うレオンがキッチンに向かい、スコールは重い足取りでリビングに向かう。
フローリングの上に敷いたカーペットに座り、ローテーブルに寄り掛かる。
いつもならソファに座る所だが、今日はそんな気分にならない。
腕を枕にローテーブルに頭を乗せて、世界から隠れるように顔を伏せた。

 そんなスコールを見ていたクラウドが、同居人達に似た皺を眉間に寄せる。


「……スコール」
「………」
「お前、何かあったのか」


 直球で聞いて来たクラウドに、スコールの肩が僅かに跳ねた。
その反応を自覚して、しまった、とスコールは唇を噛む。


「おい、スコール」


 思った通り、クラウドは言及しに来た。
クラウドは、レオンのようにスコールが嫌がるなら、と引く事もなければ、シドのように一定の距離を置いてくれる訳でもない。
肩を強く掴まれて、スコールは俯せたままで腕でそれを振り払うが、直ぐにまた掴まれる。


「スコール」


 呼ぶ声が、鋭さに反して大きくないのは、レオンに聞かれないように抑えているからだろう。
スコールの態度から見て、人に言いたくない事がその身に起こった事は、察したと言う事か。
それなら、そのまま気付かない振りをしていてくれ、とスコールは思うが、見ている方はそうも行かないだろう。
見るからに常と様子の違う少年に、誰もが心配していて、クラウド一人が其処に踏み込んで良いか否かを迷わなかったに過ぎない。

 腕に押し付けた目頭が、じわじわと熱くなって行くのを、スコールは感じていた。

 自分の身に起こった事を、思い出したくない。
だから勿論、口に出したくもない。
けれど、クラウドの声は、いつもの何処か要領を得ないものではなく、語気も強い。
肩を掴む手の力は、言うまで離さない、と言外に告げていた。


(でも……言ったら……)


 何処で何をされたのかを聞いたら、彼等はどんな顔をするだろう。
汚れた体を、気持ち悪いと言われる事しか想像が出来なくて、スコールの全身から血の気が引いた。

 けれど、こうして黙っているのも、スコールには苦しかった。
喉奥に競り上って来た吐き気が、えぐい味を口の中まで運んできて、気持ちが悪くて堪らない。


(どうしたら────……)




話す(クラレオ×スコ)

言わない(モブ×スコ)