指揮官様の潜入任務U SAMPLE 1 2(注意) 3(R-18)
今日の内に処理するべき書類に一通りサインを書いて、午前中に仕事を終えて帰って来たセルフィが土産だと言って置いて行ったクッキーを昼食代わりに齧っていた時である。
一足先に休憩を終え、仕事に戻っていたキスティスが、一枚のプリント用紙を手に席を立った。
キスティスは向かいのデスクに座っているシュウに声をかけ、プリントを見せて何かを話し合っている。
その後、近付いて来る気配を感じてスコールが顔を上げると、端麗な顔を判り易く顰めている幼馴染の顔がある。
厄介な気配を感じたスコールの表情も、伝染するように顰められるが、キスティスは構わずに言った。
「ガルバディアから依頼よ」
「誰からだ?」
「カーウェイ大佐名義───ではあるけれど、事実上はガルバディア政府かしら。他にも軍絡みの人の名前が連名になっているわ」
「見せてくれ」
面倒な気分は変わらなかったが、無視する訳にも行かない。
スコールが手を出すと、どうぞ、とプリント用紙が渡された。
プリントアウトされた依頼書は、確かにキスティスの言う通り、依頼人に『ガルバディア政府』と明記しつつ、フューリー・カーウェイの名と共に、幾つか他の名前も綴られていた。
カーウェイ以外の名前は、聞き覚えがあるような、ないような、その程度にしかスコールの記憶は震えない。
何処かの会合で会ったのかも知れないが、恐らくそれだけだろう。
依頼内容は、現在ガルバディア大陸で横行している、人身売買組織の調査だった。
ガルバディアで暗躍する人身売買組織の存在は、デリング政権以前、遡れば十七年前のガルバディア〜エスタ間が戦争をしていた更に以前から確認されていると言う。
戦争によって親を失い、孤児となった子供や、夫を失った女性をかどわかし、金銭と引き換えに何処かに売る。
当時は戦争中であった事や、それと同時にガルバディア軍が他地域を不当に占領していた事もあり、子供は政府への抵抗組織の一員として教育されていたと言う記録もあった。
女性の多くは娼婦として売られたり、貴族趣味の成金に奴隷として買われたと言う。
先の魔女戦争によって急死したビンザー・デリング前大統領が就任した時にも、こうした人身売買組織は変わらず生き残っており、ガルバディア国の闇の部分を支配していたとされている。
現ガルバディア政権にとっては、国が放置し続けていた膿(うみ)と言う訳だ。
ガルバディアの警察機構にとって、こうした犯罪組織は早急に撲滅しなければならない。
しかし、余りにも長い間放置を続けていた所為で、その膿は国の内部深くまで侵食していた。
ガルバディアで名の知られた権力者や、世界的に影響力のある財団、会社のトップがこの人身売買組織と繋がりを持っているだとか、敵対すべき警察機構にまでパイプが繋がっていると言う噂もある。
───この噂が事実であるが故に、現ガルバディア政府は頭を抱えているようだ。
「人身売買組織の調査と……ガルバディア軍内部のスパイの炙り出し、か」
また面倒な、と呟くスコールに、キスティスも同意見だと溜息を吐く。
「正直、自分の家の汚れなら、自分達でケリを付けなさいって言いたい所だけど、そう言う訳にもね……」
「現ガルバディア政府の事実上のトップである、カーウェイ大佐の連盟付きだからな」
キスティスの言葉に被せるように言ったのは、シュウだ。
シュウは自分のデスクに広げていた書類を片付け、スコールのデスクへと向かう。
「報酬は破格だ。そう言う意味では、引き受けない理由はないんだが、ガルバディアは一枚岩ではないからな。軍に入り込んだ間者を探すとなると、依頼があるからと言って、誰も彼もが此方に協力するとは思えない」
「…この連盟者の中に、例の組織と繋がりを持っている奴がいるって言う可能性も」
「なくはないでしょうね」
スコールの呟きに、キスティスだけでなく、シュウも頷いた。
この場にいないサイファーに重ねて聞いても、きっと彼も同じ事を言うだろう。
彼の場合、自身がガルバディア軍の指揮官として属していた事もあるので、ガルバディア軍の体質については、スコール達以上によく知っている。
その悪辣ぶりは、魔女戦争の煽りを食らって尚、いやだからこそ、簡単には直らないと言うに違いない。
とは言え、それはそれとして、依頼である。
人身売買組織と言うものが存在している事は勿論、それが本来ならば人を守るべき警察機構や、国を守るべき軍事機構に潜り込んでいる事は問題だ。
魔女戦争の煽りで色々と他国に対して疚しい所の多いガルバディア軍としては、事を内々で納めたいのが本音だろう。
しかし、昨今の人身売買組織の問題は、ガルバディア国内だけでなく、国際的な問題として取り上げられつつある。
フリーのジャーナリストが組織の末端に潜り込み、内部の実情をアンダーグラウンド系の雑誌を通じて報じた事で、その存在が他国にも明るみになったのだ。
それを成し得たジャーナリストについては、後にガルバディア国内で行方不明になったとか、なっていないとか、不確かな噂が飛び交っている。
ともあれ、この働きにより、ガルバディア政府は只隠しにしてきた膿と向き合わざるを得なくなった。
逆に大々的に組織撲滅の為に動けるようになったとも言えるのだが、真にその働きをするには、問題が多い。
だから、島国バラムに拠点を置き、ガルバディアとは遠からず近からじと言う位置にあるバラムガーデンが選択肢に上がったのだろう。
バラムガーデンは、ガルバディア国、引いてはガルバディア大陸に蔓延る犯罪組織の網の外にいる。
ごたごたとして、碌に身動きの取れない内部監査よりも、傭兵の方が動きが取れると考えたのか。
カーウェイ大佐───と言うよりも、ガルバディア政府が何処まで真剣に取り組むつもりで依頼をしてきたのかは、スコール達には図り様もない。
この場で自分達が考えるのは、先ず第一に、依頼を受けるか否かであった。
----指揮官様の潜入任務U p5〜p8