密着/

 「と、おる……っ」

 短い叫びが止まる前に、バスルームの扉が開いた。
 自慰一歩手前の忘我に陥りかけていた美希子は、息子の突然の侵入に全身を
こわばらせ、バスルームのそばに慌てて身を寄せた。

「そんなに、怖がらないでよ」

 股間をタオルで隠しただけの徹は、仁王立ちで躰を縮こまらせた母親を、
静かに見下ろした。

「いつもと一緒。ご飯の前に、母さんとお風呂に入りたくなっただけだよ」
「そ、そうなの……

 語尾が震える。確かに、息子と一緒に入浴する事に違和感を覚えた事は
なかった。今日が初めて。それも、かなり強烈に。

……躰、洗わないの?」

 股間を覆っていたタオルを、母親の前で取り去る。そこにあったのは。

……っ!」

 一度も見た事がない、息子の勃起。これまで入浴の際見てきた、幼さの象徴の
ような物とはまるで違う、包皮から剥き出された後の、逞しい勃起。

「母さん……洗ったげるよ」

 シャワーの水流にそのタオルをさらし、ゆっくりと近づいて来る徹。必死に
乳房や股間を隠している、美希子のちょうど目線の高さに迫る、ペニス。

「石鹸、貸してよ」

 小物入れは、美希子の躰の向こうに隠れていた。まるで遠慮なく迫る、徹の
夏に焼けた腕。それが自分の肩口に触れた時、美希子の全身に震えが走る。
 それが恐怖から来る物なのか、それとも他の物なのか、混乱する美希子には
判断がつかなかった。

 「そこどかないと、石鹸が取れないよ……

 そう言いながら遠慮なく、母親の躰を自分の腕で押す。そして今度は左手を
美希子の二の腕にあてがった。そこは、隠されている乳房に最も近い場所。
 本気で石鹸を取る気があるのか、徹はその逞しい腕の運動を何度も繰り返す。
美希子は張りのある肌を、息子の攻撃によって震えさせる。そのたびに水滴を
美しく弾けさせる。

「やめて徹……母さんが、取る、から……っ」

 やっと上げられた弱々しい声。刹那、徹の動きは停止し、そのままゆっくりと
母親の白い裸体から離れ、扉の所に腰を降ろす。
 しかし、応えた美希子も新たな混乱に突き当たる。胸と黒い草叢を隠している
両腕、どちらかを外せばどちらかが息子の視線に晒されてしまう。これまで
感じた事のない淫らな戸惑いが、美希子を襲う。

「母さん、石鹸どうしたの?」

 徹は、笑っている。震え続ける美しい母親を視界に捉えながら、笑っている。
いつもの無邪気な笑顔と同じはずなのに、視線の先にいる母親にとっては、
その視線はあらぬ想像を生む。

「やっぱり、僕が取ろうか……?」

 笑みを浮かべながら徹が立ち上がる仕草を見せた。その拍子に弾む、息子の
勃起。

「か、母さんが……取るわっ!」

 その生殖器が発する強烈な圧力に気おされ、美希子は思わず左手で石鹸を
掴んだ。その左手に隠れていた豊かな乳房がぷるんっ、と揺れた。

 昨日まで隠す気さえ起きなかった乳房。今は、息子の視線の先にそれがあると
感じるだけで、美希子は恥辱の炎に煽られる。

「はい、石鹸……

 射るような目を直視できずに、美希子は石鹸を持った左手を息子の方に
差し出した。小刻みな震えが、止まらない。

……

 しかし、徹はその石鹸をなかなか手に取ろうとしない。美希子は息子を見る。

……っ!」

 徹も、美希子を見ていた。いや、母親の美しく大きな乳房を見ていた。
昨日までとはまるで違う色で。

「み、ないで……っ」
「どうしてさ。昨日までは、全然隠してなかっただろ?」

 やっと、石鹸が美希子の手から離れた。すぐに乳房を隠すが、視線という
兇器に攻められた美希子は、鼓動の早鐘を抑える事が出来なくなっていた。

「じゃあ、洗ってあげるよ。母さん」
「ひ……っ」

 対面で遠慮なく洗いっこしていた母子の姿は、このバスルームから消えた。
いびつに躰を丸めて顔を紅潮させる母親と、そんな母親の躰を冷たい顔で
見下ろす息子がいるだけだ。

「母さんの肌、いつもきれいだね。白くて、細やかで」
「あ、ありがとう……

 努めて冷静に会話しようとすればするほど、声はビブラートする。なにより
美希子の心掻き乱すのは、タオルが上下するたびに、横腹に当たる、先端。

「ここも、洗おうか。いつものように……

 突然、乳房に徹の手が這った。確かにそこは、いつも洗って貰っていた場所。
しかし、いつもと違う変化を見せていた、場所。

「ひ、あっ!」

 小さな叫びを上げて美希子は躰をずらしたが、徹の手のひらは構わずそれを
追いかけた。

「ダメだよ、母さん。いつも『汗かくと胸の下がかゆくなるから、ちゃんと
洗って』って言ってたじゃないか。さ、洗お」
 そうだ。自分はいつもそんなあからさまな事を息子に話してきたのだ。白く
大きな乳房を、すでに性に目覚めていた息子に、隠しもせず晒して来たのだ。
ほんの昨日まで。

……分かったわ。じゃあ、お願い……

 観念して、美希子は躰を逃がす事をやめた。意識しすぎてはいけない。
昨日まで当たり前のようにしてきた行為なのだ。息子が逞しく勃起させて
いようが、昨日までのバスルームでの行為は「仲の良い母子」の確認の儀式
だったはずなのだ。美希子は、逆にそれに縋ろうとした。今なら戻れる、と。

……今日は、後ろ向きなんだね」

 徹がそうつぶやく。観念した美希子も、さすがに相対して躰を晒すのは
憚られた。隠す場所の多い、この態勢のまま洗われる事を選んだのだ。男にとって
それをどう感じるのか、考えもしないで。



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