接触/
母親の手を、息子の手はいずこかに導く。そこは、美希子が弄られている場所と同じくらい熱い、場所。
あ、ああ……熱い。徹、熱いわ……っ。
美希子は、直に触れたくなっていた。そして、それを実行した。濡れた指先は、まだ窮屈に衣服の戒めを持っている男と女の場所を、お互いに熱く愛撫し始めた。
「かあ、さん」
背後から徹が囁き。
「ああ、とお、るっ」
美希子が同じような吐息で応える。そして、口づけ。実の母と子が交わす、不道徳な口づけ。
唇を強く重ねたまま、下を強く絡ませたまま、母子の躰が少しずつ倒れていく。自然に、リビングの床に横たわっていく。2日前の夜、口淫の結果として噴出した精液の染み込む床に、あの時よりもずっと昂ぶった肉体が。
探り合う男と女の指先。男は、息子は母の潤いをさらにしっかりと感じようとし、女は、母は力の抜けゆく躰の預け先を逞しくいきった息子自身に求めようとしていた。
弄り、くねらせ、撫で、擦る。
どうしようもなく熱を持った互いの部分。それを先に解放させたのは、よりにもよって、母のほうだった。
ベルトは引かれ、外され、抜かれた。雨で重くなったはずのユニフォームのズボンは、娼婦のように巧みな指使いの末、ホックそしてジッパーまで緩められた。美希子はそうした事も無く、それはもはや、女としての本能が起こした技巧だった。
「熱、い……すごく、熱い……っ」
血を分けた息子の、それもエレクトしたペニスを握りながら吐く台詞ではない。しかし抱きしめられ、揉まれ、口づけられ高められた肉体や思考は、その台詞をごくごく自然なものとして吐き出す。
「ああ、母さんっ……好きだよ」
また熱い囁きが濡れた肌を撫でる。やがて徹の指はゆっくりと淫泉から抜かれ、母に倣う様にタイトスカートのホックをパチンッ、と外した。重なり合った体の間で、ズボンとスカートは当たり前のように足元へ下がっていく。改めて触れ合った互いの熱い太ももが、そして濡れた下着が、母と子の禁じられた抱擁感を更に煽り立てる。
「とお、る……あ、んふっ」
「あ……んんんっ」
口づけが、合図だった。ぬめり絡められた舌と同調するように、母の指と息子の指は相手の性器を触手のように探り、愛撫し始める。
繊毛を乱暴に掻き乱す。
その繊毛の潤い具合を感じる。
指の腹で秘裂の長い距離を擦る。
まるでじらすようにそれを続ける。
躰のくねりを悟って、挿し込む。
入り口だけで往復させる。
突然、深く突く。
曲げ、捻り、粘膜を擦り立てる。
若い男は、進むべき淫らな道を自ら見極め、実の母の中心を責めた。
すべすべの表面に似合わない血管の感触を味わう。
その筋を愛おしげに指先で辿る。
筋が行き着くえらに至り、唇から吐息を洩らす。
えらを手のひらで包み、摩る。
躰のくねりを悟って、緩める。
鈴口を中指で触れ、ぬめりを掬った後撫でつける。
突然、全体を握る。
幹を掴み、えらを握り、全てをしごく。
熟れた女は、禁忌であるこの行為の障壁を自ら破壊しながら、実の息子の怒張を愛した。
どれほど、愛撫は続いただろう。強く降り出した雨の音や、リビングに響く時計の音などまるで気にせずに、母は息子の、息子は母の、肉体の中で一番熱を持つ場所を更に熱する事に没頭していた。
もう少し、深く入りたい。
もう少し、強く求めたい。
だからすぐに、まだ僅かに手の動きを掣肘している下着の煩わしさに、気づく。
「んふ、んんっ……」
「う、んんっ」
絡まった舌を外す気などまるでない。惚けた顔に淫らな息を互いに吹きかけながら美希子と徹は、弄る手とは違うほうの手で、下着の戒めを同時に解いた。短い時間に衣服から布きれへと変化し、床に放られるショーツとブリーフ。
その刹那。
意識したわけではなかったが、際限なく密着していた二つの躰は、僅かに離れた。永遠に離れないのではないかとさえ思えた唇と唇も、朱よりも赤く染まった上で、糸引きながら隙間を空ける。
「……」
「……」
自然に、手も離れた。母の淫汁を纏った息子の手も、息子の先走りに塗れた母の手も、少しの間宙を彷徨って、辿り着くべき場所に降り立つ。
男の両手は女の、いや母の腰に。
女の両手は男の、いや息子の腰に。
恋人同士のように見つめあっていた視線は、距離を持った互いの体の中で、最も近距離にある場所に辿り着いた。
そして先に、美希子がそれに気づいた。
息子が、僅かに腰を進めれば、それは。
隔てる布はもはや無く、あれほど抗っていた自分の手もまるでこれからの行為を手助けするように添えられている。自分が潤んだ瞳で目視した女の場所は、男の侵入をこれ以上ないほど待ち望んでいるように見えた。
ゆかりの話を聞きた日から、狂い始めた母子関係。
微かな道徳観によって、これまで頑なに拒否し続けた、男と女の関係。
全裸の尻に精を浴びせられても、口で愛しても、その迸りを飲み下しても、乳房でいびつに包み込んでも、強引に奪われそうになっても、ただひとつだけ許さなかった、肉と肉のつながり。
しかし、今の自分は、まるでそれを否定していない。
むしろ、求めている。
実の息子に、満たされることを、望んで、いる。
美希子は、のどを鳴らして息をひとつ呑む。
そして。
「とお、る」
呼ぶ。
「かあ、さん」
応える。
息子の腰が、数ミリ進んだ。頭の中心が燃えるように熱い。
また数ミリ進む。元々僅かだった距離が、限りなく縮まる。
そして、触れた。
触れた、はずだった。