芳香/

「すご、い……香り」

 小さな囁きさえも、脚と脚の間に存在するあらゆる細胞を刺激する。動作的には僅かであるはずなのに、その戦ぎは全身に紅潮とあらぬ昂奮を与えて来るのだ。

「い、嫌……そんな事、言わない、で」

 毛に、襞に、肉に、肌に息子の息遣いを受けている母親は、ますます声を弱く震わせていく。息子 徹に嗅がれ、徹に観察され、徹に感嘆されている……母の、美希子のいやらしい性器。

「あ、あッ……母さん」
「あ、うンッ……とお、る」

 無意味に交わされ合う言葉。開脚する娼婦を蔑んでみたが、その娼婦であっても秘すべき陰部を実子の目前に晒す事など殆どない、はず。むしろ開いていない脚だからこそ、密着感は禁忌的だ。だからこそ震え、だからこそ躰があらぬ熱を帯びる。
 見せるだけ。
 見るだけ。
 ジリジリとした緊張の時間は、美希子が感じる緊張や昂奮だけで終わるはずがない。
 肉を経験した男が、その女の肉の目前で、耐えられるはずがないのだ。

「あ、ひいいい……ッ!」

 それは、真夜中の秘めたる行為の最中に上げるには、あまりに甲高く鋭かった。すぐに唇を固く閉じたが、女の芯を駆け巡った衝撃は美希子を覆ったままだった。
 徹が、そこを、舐めたのだ。

「くあ、ンッ、あ、あ……んううッ!」

 先が挿され、外され、小さく突かれ、離れ、また挿される。動きの中で頬が腿を撫でたり鼻が肉芽に触れたりする。直接的間接的性感が、美希子の母肉を女肉へと変えてゆく。
 夫に、舌で愛された記憶など、あっただろうか?
 思い出せないのは、無いと同じ。そんな記憶は、息子との禁忌ですぐ上書きされる。
 美希子は、息子の舌技で身悶える母となった。まるで初めての経験のように、甘く幼く。

「ん、ちゅ……ッ、ん、ふ、ちゅ、ちゅッ……ふ、ンッ」
「あ、あッ、アーッ……とお、る、ンッ、や、嫌……舐めちゃ、あ、くう、うンッ!」

 すぐに美希子は、混乱の中でやれる事をした。小刻みに絶えず密着して来る男の頭を、両の手で抑え、そして押した。ビリビリと弾ける火花のような感覚に耐えながら、力のこもらぬ手で息子の頭を押した。

「うンッ、んん、う、ちゅ……ッ、んむ、んふッ」

 しかし禁断の蜜を舌先で味わった徹は、どこかに強く縋っているわけではないのに、母の熱い粘膜から離れなかった。

「や、あッ……んン、とお、るッ、舐め、あアッ!やめ、て……んンンッ!」

 それどころか母の抗いを合図とするように、ずっと所在なさげだった徹の両腕が母の開かれたふとももに宛がわれる。強く割り開く力はこもらないが、あの激しく傷ついた右腕さえも、遂に舌で捉えた母の秘泉から離れまいと意思を持ってそこに留まる。
 母が辞めてと求めても、声も発せず挿し込みそれでそこを舐め続ける。単純作業をひたすら、続ける。

「んんン……ちゅ、ちゅ、ンッ……んむ、んくウッ」
「あア、はアンッ……と、徹ゥ、ああ、そこは、そこ、はアッ!やッ、はッ、舐め、たら……ふうんンッ!」

 舐められてはいけない場所を、濡れた舌で挿され弄られ弄くられている。美希子はその場所から絶えず沸く感覚に身を捩っていた。あれだけ不道徳な行為にひたすら抗おうとしていた手も、今は息子の責めにただただ力を失い、むしろ息子の黒く短い髪に柔らかく置かれ、まるでその舌戯を進んで受け入れているように見える。

「くう……ッ、んん、あっ、ああッ、はあア……ん、ああアッ!」

 緩く、鈍く、じわじわと。強烈ではないからこそ、美希子の心と躰は千々に震える。見せるだけだったはずの枷はゆっくりと広がり、非難や拒否の言葉さえ消え失せてゆく。
 秘裂を丹念に舐められ続ける、それだけの事がいかに単純に女の芯を蕩かせるのか。それに不道徳のエッセンスが加わるとどうなるのか。美希子は今身をもって感じている。
 きっと、もっともっと、感じさせられる。

「あう、く、ンッ!ふン、うン、あ、う、ン……ッ、徹、とお、るぅッ、あ、い、イッ!」

 抑え切れなくなる喘ぎが、しばらく続く。子供部屋の暗い内部を振動させる母 美希子の声は子 徹の勢いに更に油を注いでいる事だろう。喉奥から、いや躰の奥底から漏れ出でている熱い声は、もう滑り紅潮した唇に留める事は出来ないのだ。
 突然そこに接触されてから、美希子はひたすら若い男に舌責めを食らう熟れた肉と堕ち始めていた。もう10数分間、ずっと堕ち続けている。

「……かあ、さん」
「あ、うン……ッ?」

 永遠に溶かされてゆく時間を遮ったのは、母親である美希子ではなく、徹だった。
 母の脚と脚の間から静かに顔を上げ、そのままその母の顔を、見つめる。

「とお、る……ッ」

 美希子はその顔を見た瞬間、躰中が羞恥に灼かれた。憂うような瞳の下。鼻先から口元まで、暗い部屋の中でも息子のそこは、ぬめ光って見えたのだ。
 意識していなくても、母は女の汁を溢れさせ、それを実の息子に遠慮なく浴びせていた。そして息子はその禁忌極まりない母の淫液を、当の母に気づかせないほど静かに啜り干していたのだ。

「……つらい、よ」
「……ッ?」

 戸惑う表情が疑問を探している隙に、すぐに美希子の視界が変わる。声変わりを経たはずなのに少し幼い甘えを残した声。そんな声を発しながら徹は、その切ない表情を立ち上がらせた。幼さに心揺らせた美希子の眼前に次に現れたのは、濃いグレーの布地だった。

「……あッ」
「……母さんのあそこ、舐めてたら。いつもより、辛い」

 徹が感じている違いは、美希子には分からなかった。入浴、口淫、胸戯、交姦、手に直接握り確かめた事もあったそれは、柔らかいボクサーブリーフをしっかりと押し上げている。押し上げているだけでなく、その中でヒクヒクと女に向かって嘶いている。

 これまでより、熱いのか。
 これまでより、硬いのか。
 これまでより、太いのか。
 これまでより、ああ、なのか。

 してはいけないはずなのに、美希子はその布の端を自分の指先で勢いよく引き下げる光景を妄想してしまった。耳の裏が鼓動に合わせて痛いほど痺れて、淫らな感情を否定したい自分の理性を非情に茶化す。

「僕もするから、だから……母さんも、また」

 徹が何をし、自分が何をまたすればいいのか。美希子がその判断が全く出来ないほど素早く、相手は動いた。

「きゃ……ッ!」

 柔らかく伸ばされた腕が静かに、しかし素早く母の腰に回されたのだ。それは、ついこの間まで何の気兼ねも無く行っていたじゃれ合いに少し似ていた。
 お互いにキャッキャキャッキャと嬌声を上げながら胴に腕を回し合い、床をゴロゴロ転げる。それこそ幼き頃よりずっと続いていた、母子の愛情行為。
 だがゆかりをきっかけにして、徹の無邪気さは母の期待していた物とは違う物だと気づいてしまった。幼い行為の内側で、母をきつく抱きしめたいとずっと思っていたに違いないのだ。だから、傷つきながらも母を追い、雨に打たれ濡れた母を捕らえ、その母の尻を剥いたのだ。

「とお、る……ッ!」
「かあ、さん」

 しかし、やはり腰に手を優しく回されると、どこかに懐かしさを探してしまう。名を呼ばれながら少しずつベッドに押し倒されても、美希子は強く押し返す事ができなかった。
 顔が近づき、暗い部屋でも輝く瞳がつらくなり、母は息子の顔から目を逸らした。無理やりキスを求めるわけでも、乱暴に挿入を迫るわけでもないと、なぜか美希子は確信している。
 そして。ゆっくりとあの腕が離れていくのを感じ、美希子は僅かな寂しさを感じてしまった。すでに秘裂さえ熱心に舐めた子が、ただ自分と抱き合いたかったのかも、と母親は思う生物なのだ。

「母さん……」

 自分に触れぬままゴソゴソと動く気配を震えながら過ごした、10数秒後。ほんの少しだけ、意思のこもった声がしばらくして聞こえた。その声の位置が、瞬時に美希子の肌をざわめかせる。

「……ッ!」

 目を開けた、先。暗い部屋の、更にグレーの視界。先程同じ物を見ていたはずなのに、やはりゾクリと女の心臓を撫でる。

「もっと、舐めたいから……母さんも、お願い」

 笑っても怒ってもいない、嫌に落ち着いた口調が自分の股間から聞こえて来る。そして自分の口も、恐ろしいくらいに布を圧し出させている場所に再接近している。気のせいかもしれない、だが牡の匂いさえ感じられるほどの、距離。

「ああ……嫌ぁッ」

 徹が言っている意味が分からぬほど美希子は初心ではない。ただ、母と実子が相舐めする行為が、女が行う口淫や息子だけする舌戯よりずっとインモラルである事も事実だ。躊躇わない、はずはない。

「お願い……ねえ、して」

 困惑しながらも、肉が作る布の盛り上がりから瞳を離せないでいた。もちろん、してと乞われても出来ないのも変わらない。

 その引き金は、乱暴に引かれた。

「あ、あア……ッ!」

 パチンッ、と渇いた音を立てて、それはあっさりと現れ出た。徹は自分の手でボクサーブリーフを引き下げ、母の眼前に猛狂ったペニスを晒したのだ。

「……母、さん」

 それまでとさほど違わない徹の小さな囁きも、今の美希子にはまるでサイレンのように激しく鋭く心を揺さぶる。血流を激しく循環させながら鼓動に合わせて激しく嘶き、先端が猥褻な予告かのような先漏れに濡れ光っている、自分の息子のモノ。きっと同じくらい淫猥この上なく蠢いている場所が、徹の眼前にも存在しているに違いない。
 口淫は、この数日間で幾度も経験した。つい数時間前もバスルームで、自ら進んで唇を差し出し奉仕した。
 しかし、だからといって息子に求められるまま目の前の逞しいモノを呑み込んでしまってもいいのだろうか?深夜、夫が静かに眠る丁度真上でそれを行ってもいいのだろうか?いやらしい秘すべき裂け目を露わにして、実子の生殖器を咥え込んでもいいのだろうか?
 それが、自分がこの部屋に来る前に予想した最悪の事態を呼ぶきっかけとなるのではないだろうか……?

「あ、ひい……いイインッ!」

 状況は、美希子に逡巡する機会さえも与えてはくれなかった。
 こちらが問いに応えるより先に、徹の舌が再び母のそこを這い始めた。
 あまりに魅力的な実母の淫裂の誘惑に、子が負けたのだ。

「や、やアッ……おね、がい徹ッ、そこは、そこはァ……うン、はう、ンンンッ!」

 久々に舐められ、長く舐められ、そして数分間焦らされ。美希子のそこの細胞は葛藤し続ける思考とは裏腹に、素直に男の舌撫を受け入れ熱く鋭く反応していた。襞はもどかしさに悶え、裂け目はもっと深くと肉汁に潤い、粘膜は積極的にうねうねと蠢く。
 また上げさせられる惨めな女声。固く閉じても甘く喘いでしまう、唇。

「あう、はうンッ……やめ、やめッ、ああアアッ!ひい、ンッ、うンンッ、とお、るぅ……ッ!」

 耐えるために眉間に力を込め瞼を閉じても何も変わらず、母がどう振舞おうと徹はきっとまた長い時間母のそこを舐めるのだ。母である美希子が愛情と激情のままに、男らしい腰に腕を回す事ができないのならば。他に縋る物があるとすれば。


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