直進/

「母、さん……あ、あッ、母さんッ」
「ん、んくッ、んんンッ、ダメ、よ……声、とお、るッ」

 ただひたすら、禁じられた密かな睦事のために、上げる事を耐えて来た声。突く男は本能的に次第に大きくなり、突かれる女は露見を恐れ必死にそれをたしなめる。女のほうも、相手の名前を知らずに呼んでしまっている事にさえ気づかずに。
 そして、そんな状態で美希子は思う。今まさしく血を分けた実の息子と成している正常位という格好は、なんと切ない体位であるのか?と。神に祝福された相手となら、向き合い抱き合い見つめ合い動き合い高め合える事こそが全て幸せに結びつくはずだ。だが咎を負った美希子と徹のような関係では、素直に添う事もきつく密着する事も潤んだ瞳を一致させる事も互いの一番奥を穿つ事も最高に気持ち良くなる事もできないのだ。神に背いて獣に堕ちてしまえば、別だが。

「母さん、あッ、母さん……まだ、くううッ」
「ダメッ、ん……ッ、徹、ダメ、よぉ……声、あッ、ダメ、えッ」

 愛している息子と、愛し合う事が許されない。獣に堕ちるという罪に必死に抗っている母 美希子。堕ちなくても、チラチラと視線は合い、相手の名を呼ぶ声は大きくなってゆく。犯してはならない罪だからこそ、母と子であるからこそ、本能的に溢れる性感にゆっくりゆっくり押し流されてしまう。声も動きも、大きくなる。

「くうッ……ん、んくッ、ああッすごい。母さん、すごい、よ」

 直線的でゆったりとした突きは、母親の芯の味を知ろうとますます奥深く侵入して来る。同じ日にレイプと紛う荒々しい攻めを行った男と同じ人物とは思えない。だから、女であり母親である美希子は乱れる。心も、肉も。

「とお、る……ッ、やッ、徹、うぅ……ダメ、あッ、ダメ、なのっ」

 声を出してはダメ。そう言う女の声のほうが、悲しきかな部屋に響き始めている。少しずつ、ダメと告げる意味が美希子の中で変わってしまっているのだ。ダメと囁いていないと、箍が外れてしまいそうな、躰の恐怖。シーツに爪を縋らせていても、前後に押し引きされて様々な柔肉が緩く揺さぶられるたびに、どこか分からない、きっと女のあの中心で小さな兆しが弾けてしまう。粘膜を怒張で前後されてるのと、すぐそばで同時に。
 母として悩み抜いて、薄いゴムの避妊具を隔てての性交を許容した。ひたすら静かに、世界中で母と子2人だけが知っている秘密を行い、やがて放出させ完結する。その限りなく些細であって欲しい秘密の行為では、女として悦んではならないはずだった。

「んンッ、んッ、あ……ッ、徹、とおる、うッ……は、あア、ダメ、えッ」
「あ、うッ、母さん……ッ!」

 直接的に、息子に伝えてしまった。あれほど意識して布の上に置いていた白い指先をきっと無意識に、同じようにどこにも触れないようにしていた徹の腕に触れさせた。起こってはいけない微かな変化が、母 美希子に起こっている事を知らせてしまった。何処かに触れていなければ、何かがどうかしてしまう事を、自らも知ってしまった。
 高められて、我慢出来なくなって、男の肌に縋る。それではただの、女ではないか。

「徹ッ、あッ、あッ……ダメ、なのッ、ああッ、んんンッ」
「母、さん……ッ」

 声を出してはダメだと言っているわけでないのは、もう明らかだった。徹は、集中するようにひたすら機械的なスライドを行っている。そして、母の崩れゆく表情を見つめていた。
 ダメダメと駄々っ子のように首を振っていた母は、息子に観察されている事に気付けず、数秒の後に目を合わせて、顔をまたあらぬ熱で紅潮させる。避妊して、合意の元で挿入させて、最終的に早めに放出させる。そんな甘い段取りの主導権は、男の攻めと女の弱さによって少しずつ移行していく。

「や、あぁッ……徹、うッ、あンッ、ダメなの……あぁ、あッ、ダメ、えッ」

 先端は、ずっとずっと最奥を目指すように動いている。深い、強い、しかし鋭くはない、相変わらずの往復。男が、そして女のどちらかが腰をほんの少し捻りくねらせれば、角度がついた「それ」が「そこ」を穿つであろう、直線運動。
 夫との比較が危険過ぎる事は美希子も気づいている。夫ならどこまで。徹ならどこまで。先程ふいにしてしまった妄想はあっさり母という立場を奪ってしまいそうだった。今自分の肉を満たしているのは、思春期の気の迷いで母を性愛対象と誤認してしまった可哀想な息子というだけ。夫も愛しているし、息子も愛している。コンドームの中に精液が出されれば、それで終わる。葛藤など無意なはず……。
 声を耐えられず顔を振り、惑う最中の美希子も、そこは譲ってはならなかった。

「徹ッ、あ、あッ……とお、るうッ」

 そうでなければ、全てが無駄になる。夫に気づかれぬよう息を殺し足音を忍ばせ、部屋を訪れ避妊具を着けたペニスを導いたのは、母と子のセックスが社会的に無価値極まりない物であると徹に、それこそ実の母として教えるためなのだ。

「母さん、かあ、さん……ッ、あ、うッ、母さんの中、いい、よぉ……すごく、いいッ」

 少しトーンが変わった息子 徹の声を聞き、美希子は再認識する。もう少し、耐えれば終わり。

「そ、う……ッ。徹、いいわ……もっと、よくなって……ッ、うンッ、あンッ!」

 朧げに設定した終幕が、見えた気がした。少しだけ違う自分になりそうで怖かったが、若い男は自分の先導によって、もうすぐ、出すはず。
 そうすれば、優しく諭して、抜いて、処理してあげて、そして最後に「おやすみ」を囁いてドアを出ていけば、終わるのだ。
 女としての顔が、今どんな表情をしているのか。それを鏡やガラスに映して見る事ができれば、そんな母としての終着点などまた消え失せてしまうはずだ。その表情は、徹だけが見つめている。

「母さん……ああ、母さんッ。気持ちいい、よッ……すごい、すごいッ、くうッ!」
「徹ッ、いいわ、そうッ……早く、早くうッ……とお、るッ」

 真夜中。シングルベッドの上で。母と実の息子が。セックスしている。
 眠りの浅い男が夫なら全てが無に帰してしまうほど、子供部屋に響く男女のこだま。荒い息。
 白い肌浅黒い肌双方にしっとり浮かぶ、無数の汗の粒。
 男も女も気づかない、湧き溢れる女の汁。
 出せば終わりであるはずなど、ないのだ。

「母さんッ、かあさん……ッ!あアッ、すごいよ……ッ、来る、出るッ、くうッ、くウウッ!」
「徹ッ、あァ徹……ッ!いいわ、イイわッ!母さんで、出してッ!来てッ!気持ちよく、なって……ッ!」

 その刹那。母と子の瞳はしっかりと互いを捉えた。子の急いた色の瞳。母の、いや女の潤んだ瞳。
 徹の腰は突然鋭くくねり上がった。熱く鋳された怒張の鰓は、たとえゴムの中でもしっかりとした存在感を持って、母の何処かの泥濘んだ壁を、洞を齧り上げた。

「……ひ、ああアッ!徹ッ、とおるうッ!」
「あッ、はあッ!母さん、出るッ……母さんで、かあさん、でッ……出す、うわアッ!」

 この行為では至らなかった場所をペニスで射抜かれ、美希子の女芯は歓喜してしまった。大きくも鋭くもない、しかし急すぎるオルガスムスに捕らわれ、息子の名前のみしか叫べなくなる。
 また当たる。何度も当たる。脳の裏側で火花が散る。喘いでしまう。中でゴムが膨らむ。なのにまた当たる。まだ、当たる。
 2人とも気づかない、濡れた接触音。潤滑の役目を終えたその液がシーツにも垂れていた。出すと言っているのにまだ出さない男と、絶頂してはいけないのにイキそうになっている、女。気がつけば母と子は、昼間のリビングルームと見紛うほどに激しく性器をぶつけ合っていた。

「……出る、で、るッ!」
「あ、あッ、あッ……とお、るッ!」

 瞬間。免罪符と信じてはいけない、限りなく薄いゴム膜の中で、徹の精液が大量に放出される。僅かな膨張。それを美希子のヴァギナはしっかりと感じ、受け止め、そして歓喜の涙をゴム膜に浴びせ続ける。
 母 美希子ははかろうじて崖の淵で耐え、絶頂に抗った。女の肉は、しかしまだ満足し足りないように潤滑愛液を垂れさせる。
 若い雄が長い夜を感じたとしても、パジャマのポケットに忍ばせたそれは、1つしかないのだ。




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