俺と文哉と俺たちの母さん 




 <1>
部屋に着いた途端、文哉がうるさい。
俺と母さんが茶でも飲んで落ち着こうとしてるのに、バカ弟はギャーギャーと。
まあ旅行先だからはしゃぐのは理解できる。しかし問題はその叫びの内容だ。

「王様ゲームしたいー!王様ゲームしようよー!」

バカか。
母さんと俺、お前で王様ゲームしてどうなるっちゅうんだ。
ちょっと前にバラエティでやってたのを覚えちゃったらしい。
その番組では芸人たちが「わざと」エロネタを避けるって進行。飲み物もソフトドリンク。
しかしちゃんと賑やかに笑えてたので、どうやら文哉はカン違い。
王様になって命令したい!それだけ。

「……まあまあ和樹。旅行でテンション上がっちゃってるだけでしょ」
「でもねー。風情ってもんがないよ」
「お父さんが到着したら、おとなしくなるって」
「まあね」

俺が「怒ろうか?」って文哉がトイレ行った隙に母さんに聞いたらそういう返事。
仕事でがんばってて少し着くのが遅れる父ちゃんが来る前に雰囲気悪くするのも、ね。

で。露天風呂の時間が来るまでに、親子3人の王様ゲーム。
わりばし3本。先に印もついていないわりばし3本。
俺と母さんが空気読んで「印がついていないのが王様」という予定。
つまりは、文哉が絶対に王様になる準備が整ったわけ。

「……すぐに飽きるから、文ちゃんは」

ちょこっと母さんは笑い、俺も同意した。確かに文哉は何をやるにも飽きっぽいし。
ところが、ところがである。
時間は午後3時10分くらい。メシには早い。
母さんとしては露天風呂が用意できる数10分くらいをやり過ごせたらいいと思ってたんだろう。
俺もそう思ってた。
「印がないのが王様」という俺の言葉を疑いもせずワクワク顔の文哉。
当然最初の結果は文哉が王様。これからもずっと文哉が王様。
「うおっしゃーーーー!」みたいな叫び声を上げる。「すごーい、文ちゃん王様ー」微妙な演技の母さん。
なのに文哉はしばらく「えっと、えっと、えっと」で固まる。
あれだけやりたがってたのに、指令に関してはまるで考えてなかったらしい。
迷ってる間俺と母さんは「王様ー早くー」とか言いながら目と目で苦笑い。
まあエロネタ外し&家族と王様ゲームってことはこういう展開も予想できたわけで。
「こりゃ意外と飽きるの早そうだな」と、うまくいかないとすぐゲームをやめてしまう文哉に対してそう思った。

「よし、決めた」
「はい、何?」

あれだけ慌てていたのに。なぜか文哉は自信満々に。
いや、まだテンパっているから、思いついたことをただ思い切り言うことに決めたようだった。
あ、そういや1番2番決めてないや、と俺が思ってどうしようかと一瞬考えた瞬間。

「母さんが僕のちんこ触る!」

自分が知ってる王様ゲームにはなかったはずの直接的エロネタ指令。
消防らしいっちゃ消防らしい、うんこちんこネタがいきなり飛び出した。

「はあ?」
「母さんが僕のちんこ触るっ!」

いや、聞こえなかったんじゃなくて。俺は「そんなのでいいのか?」って意味で聞き返したんだよ。
こいつバカだな……。そう思ってため息ついた瞬間。隣の母さんが動いた。
えらそうにバカ発言のままで仁王立ちする文哉のそばに寄って。

「わかりました王様。ちんこ触ります」

おいおい、と思いつつも。母さんはあっさり文哉の股間を触った。

「いえーい、僕王様ー!」

なんかもうバカ丸出しで。腰に手を当てて股間を突き出す文哉。
母さんは、この温泉旅行のために買ってやった某○ニクロのカーゴパンツの上からナデナデ。
まったく……。母さんはちょっと俺のほうを見てウインク。
バカな指令にも素直に応じてやって時間を進める作戦らしい。
俺納得。俺もそんな指令されてもよほどじゃない限り従うか。

「ちんこ、ちんこ。母さんが触るちんこ」

突き出すだけじゃなく、歌まで歌いだした。
母さんもバカ正直に、そこを丁寧に何度も何度も手のひらで触る。
どこまでガキっぽい動きなんだ。
それに付き合う母さんも、ただ見せられるだけの俺もどうしたらいいんだよ文哉。
……ってか、そもそもこれいつまで続くんだ。

「まだですか?王様……」
「もう少し、もう少しだっ」

どうやら母さんが先に飽きてきたらしい。俺も飽きた。いやずっと飽きてる。
なんかもう母さんがいたたまれなくなって、俺はし損ねてたお茶の用意をすることにした。
こりゃ次も危険だな……。バカエロネタは恥ずかしくなってすぐ終わるかと思ってたけど。

「……あ。もういいっ」
「えっ」

なんか突然、文哉の大きな声。ポットから目を向けると、何か知らないが母さんが突き飛ばされてる。
突き飛ばした文哉本人は、なんか窓の方向向いて。ん?
母さんは微妙な苦笑い。なんじゃ?よくわからん。

「どうしたん?」
「んん?なんか、ねー」

母さんも理由がわからないのか、曖昧な返事。
文哉は窓のほうに歩いてって、そこのイスに座る。こっち見ないで外の光景ガン見。
さっぱりわけがわからない俺。なんか母さんのちんこ撫でに気に触ったことがあったのか。
まあとにかく、バカバカしい王様ゲームは突如中断されたらしい。
俺はお茶の準備続行。ここらは物分りのいい、年の離れた長男の気遣い見せ所。

 
 「はい、母さんお茶」

ん?

「……あ、和樹ありがと」

なんかぼんやりと、テーブルの下で手のひらを眺めてた母さん。ん?どういうこっちゃ?さっぱりわからん。

「おーい、文哉。お前はお茶飲まんのかー?」
「ほら、文ちゃん。もうこっち来なって。ゲームもう飽きたの?」

あーあ、母さん。そこ蒸し返さんでもいいのに。

「……まだする」

なんか微妙にふてくされた表情で、文哉はイスを立った。
立ってすぐこっちに走って来て、なんか勢いよく畳にスライディング。

「ほら、早くクジ出してっ」

何で俺に怒ってるんだ。まあ俺はお茶を一口飲んですぐ準備。母さんも笑顔復活。
後風呂まで1回くらいか。今度はエロくないのがいいんだけど。
で、再開。あっさり決まる王様。2回目はなぜかバカ騒ぎしなかった文哉が出した指令は。
「あのね……王様が、母さんの……」

さっきまでとうって変わって、なんかモゴモゴしたままの文哉。なんだよ、って聞きかえそうとした時に。

「王様が、母さんのおっぱいを触る」

思わず天を、ってか旅館の天井を仰いだ俺。母さんまたこっち見て苦笑い。

「あのさ……もっと他のないの?母さんだけじゃなくて、俺もいるんだけど」
「兄ちゃんもおっぱい触りたいの?」
「違うわっ」

そんな感じで、少し険悪になりかけた時。母さんが俺の手の先を指でつついた。

「王様の言うことは絶対、ね」

……ううむ。相変わらず文哉に甘い。甘いってか、ちょいわがままな文哉に家族が合わせてきた結果なんだけど。
母さんがいいならいい、としか言いようがないなぁ。
まあさすがに生々しい感じにゃならんだろう。つい去年まで母さんと文哉は一緒に風呂入ってたし。

「じゃあ母さん……服まくってよ」

はああ?とりあえず視線そらそうと後ろ向こうとした俺が思わず振り返るほどの発言。

「おいおい、それはなんだよ。服の上からでいいじゃん」
「服の上からだったら服触ってることになるじゃん」

普段はバカなくせに、こういう時は微妙にうまい屁理屈をこねやがって……。

「和樹……いいから。王様、じゃあ服上げますね……あ、それから、和樹は、あっち向いててね」

改めて言われた言葉に、なんかドキッとしてしまった俺。そっか、文哉には触らせるけど、俺には見せないんだ。
俺は母さんの言ったとおりに、あっち向いた。部屋の掛け軸がある。枝に鷹。意味不明。
今日の母さんは、クリーム色のニットの上にダウンジャケット着てた。でダウンは部屋に入った脱いだ。
……まあ、おっぱいは大きなほうなんだろうな母さん。俺はもう一緒に風呂入らなくなって10年くらい経つけど。
いやマジで意識したことなんかないよ?ただ、ニットをまくり上げた母さんが、文哉におっぱい触らせるんだ、って思うとちょい、ね……。

「あはは……なんかちょっと恥ずかしいです王様」

おいー。さらに意識させるようなこと言うなよ母さんー。

「じゃあ……触るぞおっぱいを。僕は王様だからな」

なんかえらそうに声を作ってる文哉。鼻息がちょっと荒いぞ。
多分、多分俺の想像では。俺のすぐ後ろで母さんがブラを露出させて。
んで文哉がその母さんの目の前に座って、手を伸ばしてるところだ。
……俺の数10センチ後ろで、なんかどーもモヤモヤするゲームが行われようとしてるのだ。

リーン!

おおうっ!突然部屋の電話が鳴った。ナゾの掛け軸のすぐ前にある電話。
俺はもちろん出る同意を得ようと無意識に後ろの母さんを振り返った。
一瞬!一瞬だけ、母さんの下乳が見えた。すぐクリーム色ニットに隠れちゃったけど。
なんかもう、かなり恥ずかしそうな表情で笑いながら、俺を見てる母さん。
一応同意を得たつもりになって、受話器を取る俺。

『堤さま、露天風呂の準備ができましたのでお知らせいたします』

まあ、俺と母さんが待ってたお知らせが届いたわけ。
というわけで家族3人の寂しい王様ゲームはこれにて終了……だよな。
当然文哉はブーたれ顔。いやだ。まだする。まだ終わってない。王様の言うことは絶対。などと。
そんな文哉を余裕の笑みで無視する母さん。さすが!下乳マニアの俺、一生ついて行きます!

「ほーら、時間もあるんだからわがまま言わないの文ちゃん……さて、和樹も一緒に入るよね?」

はあ?それは全く予想してなかったお言葉。
いや露天風呂の使用時間が決まってるのは知ってるし。ほぼ同時に入る気はあったんだけど。
改めて「一緒に」って言われると……17の俺にとっちゃ、ねえ?

「あ、えっと……俺はいいわ。母さんらが入ったらすぐ後で行くから」
「えー、なんでよー。せっかく家族で来たのに。久々に一緒に入ればいいじゃん」
「いや、さすがにちょっと」

クールを装いながらなんとか食い下がる俺。母さんも負けじと食い下がる。

「ほらー、前は和樹も一緒によく入ったでしょ?やめる時なんか泣いて嫌がったくせにー」
「えー、兄ちゃんそうなん?」

ブーたれてた文哉がなんか憎たらしい顔で話に乗ってきた。くそう。

「そりゃ昔の話でしょうが。今更一緒に風呂とか入れんよ……」

慌ててる心を何とか見せまいと、俺は少しぬるくなったお茶を飲む。
母さん、お願いですから早く文哉と一緒に風呂行っちゃって下さい。そうすりゃ俺もすぐ……
ん?あ、そうか。文哉は一緒に入るんだ。そっかそっか。ふーん。

「もー……あ、文ちゃんちょっと耳貸して」

お?母さんが文哉となんかゴニョゴニョないしょ話を始めやがった。
こういう展開はあんまり俺に有利じゃないな……母さんの押しって意外と強いし。
なんだ、なに話してんだ?……あ、終わった。なんか文哉がえらくニコニコしてんなぁ、おい。

「兄ちゃん!」
「……なに」
「さっきの指令中止したから」
「……はあ?」
「王様ゲームの!新しい王様の命令は……母さんと僕と兄ちゃんで一緒にお風呂に入るっ!」

10数分後。俺と、母さん文哉は露天風呂の脱衣所にいた。
母さんは女湯のほうにいる。しかし、脱衣所を出たこの先の露天風呂は混浴。ということは必然的に。

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