俺と文哉と俺たちの母さん 




 <2>
「和樹ー」
「……なによ」
「よく文ちゃんを見といてねー。あ、それから……」
「あ?」
「私が先に入ってから呼ぶから、少し後で入って来てよ。お願い」
「なんで」
「だって恥ずかしいじゃん。あははっ!」

……じゃあ最初っから一緒に入らなきゃいいじゃないか!さっぱり母さんの考えてることが分からん。
分からんといえばこいつも。目の前の文哉は、もうすっかり機嫌が直って、口笛吹きながら服脱ぎ散らかしてる。

「なあ」
「ん?なに兄ちゃん」
「さっきさぁ、お前の股間を母さんに触らせてる時あったじゃん」
「ん」
「あれ、なんて途中で母さんを突き飛ばしたん?」

一応すぐ近くにいる母さんには聞こえない程度の大きさの声で。

「……知らん!」

おおおおいっ!最後の1枚だったブリーフを俺に投げつけて来やがった!
そのまま走り去る文哉。出口には逃げずに、当たり前のように戸を開け露天風呂のほうへと走ってく。

「……もう、文ちゃんもう来たの!母さんが呼ぶって言ったのにー!」

なんかもうはしゃいじゃったテンションの声の母さん。家族で一緒に風呂に入るのがそんなに嬉しいか……。
文哉が開けっ放した戸。その先の湯気の先に、誰かがゆっくり湯に浸かり始めてるのがちょこっと見えた。
文哉はその誰かのところにザブンと飛び込んでいく。あれが母さん、なのか。そっか、ふーん。

「こらー、体全然洗ってないでしょ。家でもダメって言ってるのにー!」

家でも確かにいつも言ってる。文哉はかかり湯?をまずしない。汚ねえ。
それは母さんと一緒に入ってる時でも、1人で入るようになった今でもおんなじ。よく怒る声が聞こえる。
しかし、今日のトーンはそんな普段とはまるで違う。なにしてんの、と言いながら笑ってる。
まあ、家族旅行のテンションってそういうもんか。母さんノリやすいし。

「うへやあ、熱い、熱いいいっ!ぎゃははは、母さん熱いーっ!」
「こら、こらっ。あーばーれーないの、文ちゃんって、こらー!あはははっ」

なんじゃありゃ。俺が横目でチラチラ見てる露天風呂のほう。そこでザバザバ波が立ってる。
そこで……母さんと文哉がじゃれてる。まあ、主に文哉がこっちにケツ見せて。
その向こうに母さんがいる、っぽい。見えん、ってか見えるけど、微かにって感じだ。
あ……タオル巻いてるな。白いタオルが胸のあたりに見えるわ。って俺見てるし。

「ああもう、お兄ちゃんが待ってるでしょ。はいじっとしてー……和樹、もう入っていいよー」

ようやく、入浴許可が母さんから下りた。湯船のほうもすこーし静かになった、かな?
しかし……母さんと風呂、かぁ。まあ、かなり久しぶりだなぁ……。

「……入るよー」
「よっしゃこーい」

なんじゃそりゃ。まあ俺も、なんか腰かがめ気味でゆーっくり進入。

「おー」
「……なにがおー、だよ」

俺も苦笑い。なんかちょっとだけ、俺も旅行テンションになって来た。旅の恥はなんとやらだ。

「で……母さん。タオルは湯船で使っちゃいけないんじゃないのかな?」
「あはは、和樹のえっち。まあ、今は恥ずかしいから巻いてるだけよ。あとで外すし」

ほほう。外しますか。ほほう。
……まあ、巻くとか外すとかはともかく、やっぱ久しぶりの家族の旅行ってイイわ。うん。
高校生にもなって、ってちょっと来る前はヒキ気味だったけどやっぱ楽しい。
少しだけ文哉に感謝だな。あのさっきの王様ゲームがなかったらこんなテンションじゃなかったかも……。

「え、やっぱりタオル外すんだー」
「そうよ、ほんとはタオルを湯船に浸けちゃダメなんだよ?さっきも言ったでしょ」
「そーだねー、タオル巻いてるとさっきの事できんもんねー」

ん?さっきの事?まあいいか、俺はバカ弟と違って先に体を洗うのだ。
ここら辺は物わかりのいい兄貴の雰囲気を母さんにアピールしておかんと。
ってことで俺は洗い場に移動。シャワー出して、洗面器にお湯入れて、頭からザブンと。

 
 「ほら文ちゃん、景色キレイだよー、あれなんて山だろうねー」
「知らん、山の名前とか」
「ムードないなぁ……木は?あの真緑の葉っぱの木の名前知らないの?」
「知るわけないじゃん。木の名前とか……父さんに聞いたら?」

そんなくだらない母さんと弟の中身なしトークを聞きながら、俺は洗髪開始。
そういや最近彼女に言われて髪伸ばし始めたけど、母さんは「何で伸ばすの?」って言ってたな。
「男の子は短いほうが似合うよー」とも言ってた……少し髪、切ろうかなぁ。

「そんな事よりさ……さっきの約束、早く守ってよー。母さんの言った通り指令変えたじゃんー」
「……バカ、声が大きいってば文ちゃん」

その母さんの言葉は、先のほうが小さくなってた。さっきの部屋のないしょ話くらいに。
って事は……俺には聞かせたくない話?それとも会話と同じくらい中身なしトークの一環。

「約束守ろうよー。ほら、ねえ、おっぱ」
「しーっ!分かった、分かったから、ね……?」

なんか、ドキッとしたぞ。イヤな単語が混じってなかったか?しかし俺今泡まみれ。上半身泡まみれ。
ちょっと待て、これは早く髪を洗ってしまって向こうの様子を見るべきか?
……くそっ、長い髪がこういう時ウゼえっ!母さんの言うこと聞いときゃよかった!

「……じゃあ、いいよ。ほら、そのかわりしーっ、よ。しーっ」

母さんのその一言で、確かに静かになった。なんかちゃぷんちゃぷんって少し音がした後に。
お湯が湯船に流れ込むチョロチョロ音だけしか聞こえない。う、めちゃめちゃ気になるっ!

「……そう、そう」
「……」

なんか……母さんがたまに小さくつぶやいてる。
俺に聞こえないくらいの小さい声で他にも言ってるかもしれないけど、つぶやきっぽいのしか聞こえない。
文哉は完全に黙っちまった。これが俺にはつらい。
あの文哉だよ?怒ってる時遺骸は3分も黙ってられない堤文哉がだよっ!?

「……」
「……」

うおーっ!気になる気になるっ!ちょっと探り入れちゃうよさすがに!

「あの、えっと……そっちの湯加減はどーよ?」

……ちょっと、どっちか返事してよ、もー。

「……あ。いいよ、うん」

1拍置いて、母さんのビミョーなトーンの返事。ううっ。

「うん……うん」

お、久々に文哉の声だ。3分突破。これもビミョーな声だ。全く元気さがないし。

「ん……うん……」
「うん……うん……」

こりゃたまらん。とりあえず洗えた感じがしないけど、泡流してしまうぞ!シャワーヘッド掴んで、ひねって、っと。

「……あ、ちょっ、ちょっと……文ちゃん!」

おっ?いきなりの母さんの慌て声。俺がお湯出そうとひねった瞬間に。

「も、もういいっ……もう終わるっ!」

文哉も同じ感じで小さく叫んだ。うおおっ、何が起こったっ!?
まだ泡が少し残ってる感じだけど、俺は気になりすぎて湯船のほうを見た。

「か、和樹……こっち見たらダメっ」

えええーっ!?

「和樹は彼女いるから、ダメっ!」

はああーっ!?マジでそんな声上げたかったくらい意味不明な母さんの発言。
……ただ、言うこと聞かなかった俺は、まだ泡の流しきれてない目で、そっちを薄目で見ちゃった。
母さんが、片手でタオルを持ってる。さっきみたいにちゃんと巻いてなくて、なんかへにょへにょ。
だから……片乳がばっちり見えた。明らかに慌てた感じだから、なんか体が上下してて、ぷるんぷるんっと。
それを一生懸命巻きなおしながら、隣に浸かってる文哉をチラチラ見てる。
で、文哉は……またこっちに背を向けて、どっか他のほう眺めてる。またなんか怒ってるのか?

「み、見てないよ……ってか、見えないから」

シャワー持って、少し顔をそらして。しかししっかり横目で湯船観察する俺。

「それは……しょうがないから、ね?母さん気にしてないから。男の子は、しょうがないから」

俺に呼びかけたんじゃない、母さんはなんか必死で文哉に話しかけてる。

「さっきの部屋でも、ね……母さん、嫌じゃなかったわよ。だから、文哉気にしないの」

さっきの、部屋?確かにそういえば、今の文哉とさっきの部屋で母さんを突き飛ばした感じが似てる。
同じような事が起こったのか……部屋ではちんこ触らせてた時だったっけ。

「どうかしたの?なんかあった?」
「な……なんでも、ないよ。うん、ちょっと、ね」

なんでもないわけないだろー。でも、もう横目で観察してる状況でもなくなってしまった。

「あ、和樹……母さんそっちで体洗いたいんだけど」
「あ、うん……」
「和樹、とりあえずこっちでお湯に入ってて、ね?」
「う、ん」

その声に続いて、ざばっと母さんが湯船から上がる音がした。タオル巻き直したんかな?
ゆっくりペタペタ、母さんの足音が近づいて来る。うっ……なんかちょっとドキドキするな。
そんな足音が、俺のすぐ後ろの背中で止まる。洗い場はあんまり広くないから、あの、その。

「和、樹」
「……う、ん?」

背中どころか、首筋辺りで声がするっ。母さんから垂れた水滴が、俺の体に当たるっ。
俺の声震えてなかったかっ?まだ、ちゃんと「物わかりのいい長男」でいられてるかっ!?

「……早く湯船に、ね?文哉が、心配だから」

……はいはい、そうすか。物わかりのいい長男は、わがままな弟をしっかり観察しますですよ。
母さんの気配が離れ、俺の隣の隣の洗い場に座る。まあ、4つしかないから数m。
一応……1回だけそっちチラッと見るじゃん。まあ、タオル巻いてる母さん。少しだけ見える足が生々しい母さん。
ちょっとの未練を振り切って、俺は立ち上がって湯船に向かう。
後ろではすぐに、母さんが体にお湯をかける音が。まあ、多分タオル巻いたままで。
で、俺の視界にはブーたれたままの文哉が近づいて来る。なんか、耳真っ赤にして向こう向いてる。

「おい、文哉」
「……」

返事しやしねえ。何で怒ってんのか知らないけど、あんまり母さんを困らせるんじゃ……。
あ。あ。あ。
……湯船に入り、文哉の横に浸かった俺には、さっきからの騒動の理由がなんとなく分かった気がした。
文哉は、勃起してた。揺れるお湯の中で、生っちろい皮かむりちんこが、見たくもないのに勃ってやがる。


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