俺と文哉と俺たちの母さん 




 <6>

「……和樹。和樹」

さあ、どーしたものか。目が覚めたのと同時に、完全に俺はエロモードを思い出し始めてた。
ここで目を開けたら、母さんがどんな反応して、どんな会話になって、どんな展開に向かっていくんだろう、って。

「かず、き……ねぇ……」

どんどん母さんの声が、俺を誘ってるように聞こえて来る。これはもう、意思表示するしか……っ!

「……ほらぁ、兄ちゃん寝てるよー」
「……う、ん」

小さいけれど、鼻にかかったような特徴的バカ声。それが聞こえた瞬間、俺は目を開けられなくなった。
それに続いた、母さんの少し申し訳なさそうな声。
という事は、さっきのは寝言じゃない。どうやら、母さんと文哉の会話だったようだ……え?え?え?

「……だから、ねぇ」
「なら、いいけど……眠くないの?」
「眠くない、ずっと起きてた……ね?こうするだけだからー」
「……もうっ」

ゴソゴソと、音がして。それは俺のすぐ前の音で。目を開けてないけど、それは多分母さんで。

「でも……母さん何もしないよ?文ちゃん」
「うん」
「じゃあ、いいけど……弱ったなぁ」

この会話はヤバイ。単に子供っぽい文哉のわがままっぽくも聞こえるし、エロっぽく勘違いするのも簡単だし。
だから俺は、思い切って目を開けた。もちろん薄目だったけど。母さんと文哉が、何しようとしてるのか。
母さんは、黒い影のまんま。向こうの出口の照明の逆光?逆光でただの影にしか見えない。
頭があって、首があって、肩があって、体があって、んで少し下がって腰あたりに布団がかかってる。
……ううむ、いつのまにかむこうを向いちゃってるな。
俺に囁きかけてた時間は終わって……あっち、文哉のほうを向いてるわけだ。
で……文哉もこの時間まで起きてる。普段は10時過ぎにゃムニャムニャし始める文哉がだ。

 
 

「ああ、うん……気持ちいい」
「そう……甘えんぼさんね」
「違うよ、甘えんぼさんじゃなくって、王様なんだよ」
「そう、だね。文ちゃん、今日は王様」
「今日だけじゃないよ。今日だけだと、寝たら終わりじゃん」
「普通はそうだよ。終わりじゃないの?」
「やだ!だから寝ないでがんばって起きてたんだよ。だからずっとずーっと王様」
「……ふうん」
「だから母さん、家に帰ってもこういうことしていいんでしょ?」
「……」
「ねえってば」

気持ちいい、と来やがった。あっち向いてる母さん。文哉を見てる母さん。
……文哉は、母さんの向こう側で何してんだ?
それは家に帰ったあとでも、続けたいくらいのことなのかっ!?

「ねえって、母さん」
「……文ちゃん、声が大きいってば」
「なら言ってよー」
「しーっ、しーっ、よ……ね、文ちゃん。聞いて」
「うん」
「……こうなってることは、男の子としてしょうがないの。だから母さんは怒らない」
「うん」
「でもね……人に言っちゃいけないし、父さんやお兄ちゃんに言ってもダメなの。わかる?」
「……言わないよ」
「そう……それからね、母さんはなんにもしない。手を出したりとか……まあとにかく、しない」
「いいよ、別に」
「……なら、いいよ。他の誰にも言わないんなら、家に帰ってもしてあげる」
「いえー!」
「だから、文ちゃんうるさい」
「あーい」

これはいかん。もう完全にエロい話だ。
ってか母さん、あれほど寝る前「文哉にはまだ早い」って話したばっかじゃーん!
何してんの今?何させてんの今?わがまま息子の要求に従って、何させちゃってんの!?

「あ、う……やわい」
「もう、困ったな……ああもう、どこに当たってる?」
「……多分、ふともも?」
「うん、そう。そんなにやわいの?」
「うん、やわい。気持ちいい」
「そう……ふうん」
「王様だから、してるんだよ」
「そうね」
「王様だから、していいんだからね」
「……うん」
「お父さんとか、兄ちゃんとか……しないんだよね」
「……お父さ、えっと、お兄ちゃんは、そんなことしないよ。したがらないよ」

どうやら、だけど。気持ちいいと言ってやがる文哉はどうやらだけど。
母さんのふとももに、ちんこを擦りつけてるらしい……うへえ!
まだ王様気分のわがままバカ弟の要求を、母さんは仕方なく?受け入れてる。
母さんが文句言わないから、この状況に陥っちゃってるわけで。
……あと、母さん。したがらないとかはとりあえず別にして。
……俺、擦りつけオナ派です。ふとももはうらやましいけど、布団オナ派です。

「う、ううっ……ああ、母さん」
「……声出さないと、ダメなの?」
「だって……出るもん」
「そう……じゃあ、静かに、ね」
「んっ……ね。ね。母さん」
「しーずーかーに」
「いや、お願い。王様のお願い」
「……なに?」
「……ねえ。聞く?」
「だから……なに?」
「おっぱい、見せて」
「……もー」

エロバカの王様と化した文哉は、ふともも擦りオナニーに飽き足らず、よりにもよって。
露天風呂&この部屋で、俺の心をかき乱しまくった母さんのおっぱい露出を希望ー。
……いやでも、さすがにこれは。だってさっき、なんにもしない、って。

「……ねえ、って。おっぱい、おっぱいー」
「しーっ!」

けっこう強めの、しーっ。文哉、黙る。母さんの顔が少し動いたから、多分文哉の顔をじっと見てる。
まあ後ろ向きだからわからんけども。

「ふう」

しばらく後のため息に続いて、静かに母さんがゴソゴソ動いた。
数秒後、俺の視界に入って来たもの。母さんの肩口に今まで見えなかった浴衣の襟の部分。
まあつまり、それは。前にあった襟の部分を開いたから見えたわけで。つまりは。
あちゃー……。


「うわお」
「静かに」
「うん」
「……」
「……」

マンガみたいな感嘆詞と短めの言葉が交わされて、母さんとその向こうにいる文哉は静かになった。
わが家では、いつもうるさい文哉が黙るのはなにかに熱中した時だけって家族全員が知ってる。
3DSとか、父さんから奪ったケータイのゲームとか、まちがい探しだとか、イオンのチラシのおもちゃ部分とか。
……文哉の目の前に、なんか3DSなみに熱中できるもんが出現したようだ。
さあ俺なら、黙って見ていられるかどーか。

「……」
「……」
「……」
「……」

文哉と、これまたどっちかっていうとおしゃべり好きな母さんが、けっこう長い時間静かになってる。
まあ真夜中だし、父さんや俺が起きちゃまずい状況なんだろうけれども。
そもそも起きてしまっちゃってる俺にはこの時間はツライ。なんかもう、どうしようもなくノドが渇くくらい。
だから、数分後にひさびさに言葉を聞いた時、なんかもうヘンな話ほっとしちゃった。
まあ、その……あんまりいい言葉じゃなかったんだけれども。



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