俺と文哉と俺たちの母さん 




 <9>
 
「……ふあああああーーーーーあっ」

なのに俺は。やっぱり気を遣って大きな声であくびのフリ。
どんなに熱中してても母さんと文哉が気づくように、大袈裟なあくびのフリ。情けな。

「……わっ」
「あ……もー」
「起き……」

父さんのイビキより数段大きな声を聞いたら、さすがに2人は気づいたようだ……遅えよ。
母さんの途切れた声。そしてしばらく、無音。
……おや、違うな。なんかかすかにゴソゴソ音が鳴ってる。

「……誰かトイレ行ってんのー?」

不自然じゃないよな?あくびして目が覚めて、気がつきゃトイレの前の電気が点いてる。
そう尋ねてもおかしくないよな?

「あ……えっと、うん。行ってる。ゴメン」

母さんの声。明らかに動揺してる声。俺がリアルに目覚めたばっかだったら、それにも気づかないだろうけど。

「……長くかかる?俺、トイレ行きたいんだけど」

これぐらい普段家でもしてる会話。メシ時にジュースもいっぱい飲んだし。不自然さナシ。

「あっ……ゴメン。もう少し」

ここで意外な展開。ドアが、パタンと閉まる音。母さんの慌てた声が、トイレの中に消えたってこと。
ん?
ん?
俺の予想としては、即手コキを中断して、まあなんとなくごまかしながらこっちに戻ってくると思ってた。
なのに母さんは、あっさりトイレに入っちゃった。おいおい、文哉はどうなった?洗面所にほったらかし?

「……マジっすか」

俺はさすがに体を起こす。のぞのそと起き上がって、トイレに向かう。
……いない。文哉はいない。もちろん母さんも、いない。

「……母さん」
「……な、に?」
「……文哉が、いないんだけど」
「あ、うん……この中に、一緒にいるから」
「……なんで」
「えっ……文ちゃん、漏らしちゃったから」
「違うよー」
「……しっ」

どー思う?
間違いなく、母さんと文哉はこのトイレの中にいる。
俺がトイレに行きたいと言っても、母さんはウソをついてまでダメだという。
……普段の文哉みたいに「漏れるー!」って大袈裟にガチャガチャとノブ回しながら騒いでやろうか?

「……外のトイレ、探してくる」

なのに俺は。チキンで気遣い過多な長男坊は。
母さんの意図を察することもできずに、すごすごとしたくもないしょんべんのために他のトイレを探すわけ。

 

「……」

部屋を出て、廊下歩いて、角曲がって、10数歩。
まあ、そこに共用のトイレはあるわけで。実は風呂行ったりしてる時から分かってたし。
まあ一応、入ってみる。別に深い意味はないけど、大のほうに。
んで、パンツも下ろして便器に座る。ちょっと大きめのため息とかつきながら。
……先漏れしてやがる。あんなただ聞かされるだけプレイで興奮してたのかよ俺。さらに情けなくなるわ。
マジメなハナシさー、なんでこうなっちゃったんだろ?
ちょっとしたバカバカしい王様ゲームだったじゃん。運悪くちんこネタになっちゃったってだけで。
母さんはなんでそれに素直に乗ったんだよ。普段なら冗談ですんだはずじゃん。
露天風呂でもそうだよ。文哉が恥ずかしがってるのをわかってておっぱい揉ませたり。
その結果が今のエスカレートなわけで。ボッキ恥ずかしくなくなった文哉のしたい放題。
酔った時、俺に相談してた時まではめいっぱい悩んでたはずだし。
……あれ、俺が戸惑っちゃったせい?俺が見えたおっぱいに動揺して相談に乗らなかったせい?
ってか微妙に「まだ文哉は甘えたいんだよ」とかそれっぽいこと言っちゃって勘違いさせたせい?
うわー、マジかよ。そんなんアリかよ。
……。
……。
……戻る。一応ちょろっとしょんべんして、ね。

「あ、あっ、あははっ」
「ん、う……んんっ」
「……いい、なんかヘンだしっ」
「……うっ、うんっ……」
「んはー……すげえ、すげえっ」
「んっ、んんっ……ん、ふっ」
「おー、おおー……ああ、あはっ、もうっ」

……おい。なんだこりゃ。
一応、様子うかがいでそっと扉を開けた結果がコレ。
相変わらずの父さんのいびきが重低音かつ大音量で響く中。
「さすがにもう始末しちゃって2人とも寝てるでしょ」って淡い期待を持って帰って来た結果。
妄想したら止まらない、トイレの個室の中から聞こえる文哉の抜け声と、母さんの……ヘンな声。

「あは、あはっ……うーっ、また、また来るよっ」
「ん……は、あっ……いいから、早く、ね……んむっ」
「あはっ……う、ううっ……すげえ、もう、来る……っ」
「……ん、うっ」

ちょこっとだけ開けた隙間から聞こえ続けてた文哉と母さんの声。

「おっ……あ、はあっ。はあっ。す、げえ……」

文哉の声は、はしゃぎきったあと、なんかもうかすれるようになってて。

「……んっ。ん、うんっ」

母さんの声は。結局最後まで「いいから、早く、ね」以外はずっとこもってて。
さっき布団の中で擦ってた時みたいなささやきも会話もなく。
ただ、ずっと、なんか……なんかを、口に入れたままみたいな声で。 

 

「……ねえ、ねえ」
「……ん」
「どーすんの、それ?母さん」
「ん」

3秒後くらいあとで、カランカラン。トイレットペーパーが回る音だ。

「あ。それに出すんだー。飲まないんだ」
「……飲まない。これでおしまい」

……。
……。
なんな聞こえたような気がする。よって、入る。

「あ」
「あ」

「……まだ入ってんの?」
「……うん。けっこう、文哉がね」
「うん……いっぱい漏らした。わははー」

……言葉を返してると、ムカついてとんでもないこと言いそうになっちゃいそうなんで。
俺は、そのまま自分の布団に戻った。んで布団かぶって寝た。
数分してから2人がトイレから出てきた音してたけど、あーもう俺は寝たね。
ムカついて寝れないかと思ってたけど、意外と寝られたね。
そのまた数分後に電気が消えて。そのまた数10分後に……多分母さんが。

「……聞いて、ないよね」

俺の背中に向かって小さくしゃべった気がするけども。あーもう、俺は寝た。ぐっすりね。


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