俺と文哉と俺たちの母さん 




 <10>
 
んで……朝5時30分に目が覚めたわけだ。鈍ーい胃痛と共に。
また部屋の様子を見て、さらに胃が痛くなっちゃったんだけど。
まあ、薄ぼんやりと明るくなってる時間、薄目でも明かりがなくても部屋の様子はなんとなくわかる。
「誰がいて、誰がいない」くらいは、ね。

「……」

1人いて、2人いない……っと。
俺は、夜中2時の時と同じように、のそのそ起き上がった。とりあえずトイレ。
途中、布団かぶってぐーすか寝てる人間を1人、意識的にまたいじゃった気もするけど……これくらいは許されるでしょ。
それから俺は、夜中母&文哉のナゾの会話が聞こえた部屋のトイレをスルー。
扉開けて廊下に出て、外のトイレに向かった。なんでか。なんでか。

「ふう……」

……小をして、手洗って。そこで一瞬ぼんやりして、鏡見たり、手の水振って払ったり。
何してんだ俺的な感覚になったので、トイレから脱出。なのに……部屋には向かわず。
まあ……露天風呂に足が向く。や、深い意味はないと思うよ自分でも。
ほら、小さい頃隣に寝てた家族の姿が見えないとめちゃめちゃ不安になったりしたじゃん。アレよアレ!
4人家族の半分である2人が行方不明ってんだ。ミステリーだろ?真実はいつもひとつだろっ!?
……ウソです。昨日の夜から急遽芽生えた歪んだ探究心です。
王様ゲームで文哉のちんこ触った動機だとか。湯船でおっぱい触らせた時の気持ちだとか。
その結果の小学生ボッキを見た感想だとか。濡れたタオル1枚で俺に近づいてきた意味だとか。
酔って俺におっぱいさえ無防備で悩んでたあとの解決法だとか。
夜中どういう交渉を経て文哉のちんこをおっぱい触り付きでふとももで擦ってあげることになったんだとか。
結局トイレで、文哉のちんこをどうしてたのかだとか。
そういった疑問の数々を解消できないまま悶々としてる。ああそうだよ、全部母さんの話だよ。

「……」

露天風呂到着。男湯の暖簾をくぐった先の扉の向こうの脱衣所の明かりはついてる。
まあ、そりゃそうだ。朝風呂は5時から、とか聞いてたし。
ふと。扉を開ける前にすぐそこに人がいた場合の言い訳を考えたりする。けど、風呂入りに来た、で解決しちゃう話。
だから、とりあえずは全く他人がいるという状況だけを警戒して、ゆっくり開けてみた。
……誰も、いない。少なくとも、こっちの脱衣所には。ただ、1つの脱衣かごには、くちゃくちゃになった浴衣が入ってる。
誰かが、露天風呂に入ってるのは確か。そして多分、俺が予想してる人物。
ここで、少しだけ今後の展開を考えてみる。この時までは、普通に湯船に向かう戸を少し開けて覗くつもりだった。
でも今は外は暗い。ってことは、向こうからはこっちが異様に明るく見えてるはず。覗いたら一発バレ間違いなし。
だから俺はここから1歩も動けないのだ。勇気出して、風呂入るフリして中に飛び込む意外は。

「……っ」

だから。ヘタレな俺は結局。身を低くしてなるべく戸に近づいて(って言っても脱衣かご入れてる棚のそばから離れず)、聞き耳立てた。
中にいる人がどんな音立てるのか。それだけ聞こうとした。
なんで中に入って様子うかがわないんだって?あーそうですよ俺はチキンですよ。
……両親が露天風呂でセックス真っ最中だったらどーすんだよ?

結論から言えば……父さんと母さんは露天風呂でセックスしてた……と思う。多分、多分だけど。
扉まで限界に近づいて、見るんじゃなくってめいっぱい「聞いて」たら、声っていうよりも水が少し波立ってちゃぷちゃぷする音がずっと聞こえてた。
お湯が流れ込む音は別にじょろじょろと響いてたし、かすかに、かすかにだけど父さん母さん2人の「んっ」って声も聞こえてた気がする。
……ってわけで、俺は5〜8分後には脱衣所を退散。そのまま部屋に帰ろうとしたけど、まあまたあの廊下のトイレに向かう。そこでおしっこ……。

「……う、うっ」

なんでか自分でも知らないけど、俺はいつのまにか大の個室に入って……目いっぱい自分のアレをしごいてた。
父さんと母さんが夫婦間の愛あるH(場所は少々アブノーマル?)にいそしんでる時に、長男は1人寂しくトイレ個室でセンズリー。
材料と言えば、昨日のいろんな光景。露天風呂での横乳洗い場の母さん。タオル1枚の胸ポッチ母さん。酔ってフニャった乳見せ母さん。
……でも生で見たのはそれだけ。それ以外はもうあからさまに文哉が出しゃばってくる。
服の上から、それからすぐエスカレートして生乳揉みに移行。
それがなあなあで許可されだしたら今度はボッキさせたちんこを自分で擦るわ、母さんに擦りつけるわ……最後には「家に帰ってもする」宣言。
そのあとにもしかしたら母さんと一緒にこもったトイレの中で、フェ、フェ、フェ、フェラ……おええっ!
父さんはいいよ、さすがにしょうがないっしょ。俺的にも2人は仲良くしてほしいし。
昨日の酔った母さんの甘えっぷりとガッカリっぷり見てもわかるとおり、母さんは多分……したかったんだろうし。
……でも文哉はこれ以上はヤバイっしょ?ダメでしょ?そんな実の親子でこのまま旅行から帰っても・・イヤイヤ、それはやっぱり。
甘え慣れしてる文哉が、旅行から家に帰っても母さんに「してして」とねだる。
母さんは一応困った顔しながら、強く迫られて「しょうがないなぁ、甘えっ子は」って顔して……さあ、今度はどこまでやらせてあげるのかっ!

「く、うう……っ」

そこまで妄想しちゃって、シコる速度上げる俺。だってさぁ……文哉のちんこ擦るまでは確定だし、まさかのおクチパターンもあるかもなわけでしょ?
そりゃー俺のオナニーライフもはかどるっちゅーもんですよ!うひゃひゃひゃひゃひゃっ!
……ビミョーにウツ入ってきたトイレオナ。ふと、俺の心にがっつり入ってきた新手のウツ。

結局、マジメキャラの俺だけがわが家の、母さんとのエロイベントを経験できないんじゃね?

父さんは、母さんと仲良くするのがあたりまえー。
文哉はワガママ通してりゃ、母さんは多分母性本能エスカレートで行為もエスカレートしてもらえちゃう可能性大。
で、俺。この旅行に来て再確認した。俺ってば、完全に家族のバランサー。
父さんがハイテンションになりゃ笑いながら暴走を食い止める。
母さんが天然出したら子供あやすみたいにやんわり制止する。
文哉が駄々っ子になったら俺がちゃんと叱ってやる(父さんも母さんもたまにちゃんと叱るけど)。

このまま、俺が子供時代からの「物わかりのいいマジメなお兄ちゃん」キャラのままだったら。
文哉は母さんとエロ生活まっしぐらで、俺はそれをただ指くわえて、たまに悔しボッキして寂しくオナるだけ。今みたいに。

「……うっ」

出したさ、ああ出したさ。
ティッシュじゃなくって、かったいかったいトイレットペーパーにジェラシー?たっぷりの精液出したったさ。
最後の瞬間は、妄想の中の文哉のバカニヤケ顔を自分の顔に入れ替えたるって決意で。
母さんのフェラ妄想しながら。狭いトイレでフェラされてるのは文哉じゃなくって俺だっていう、情けなくも固ーい決意で。

 

何食わぬ顔で、部屋に帰って。20分ほど経った後で両親が戻って来たのを気配で悟って。
朝、7時半くらいにみんなで起きて。文哉がねむい、ねむいを連発してて。それを見て父さん笑って。俺と母さんは、多分微妙な愛想笑いで。
1階の広い座敷でなんかそれっぽい朝めし食って。納豆4人分俺1人で食って。それから部屋に戻ってダラダラして。さあ、旅行2日目だ。
俺が、マジメキャラを捨てることに決めた、新しい日だ。

とりあえず9時まではこの宿にいる。その後は車で山を少し降りて、金鱗湖周辺の観光予定。まずはどっかでとっかかりを作っておきたい。
もう正直、文哉に遠慮するつもりはない。父さんにはさすがにアレだけど。
母さんにとにかく話しておかなきゃいけないこともあるし、話せばなんか展開があるかもしれんし。

「おい、とりあえず荷物持って下のロビー行っとくか。土産物屋もあっただろ」

父さんの意見で家族全員この部屋を出ることに。文哉以外片づけが好きなんで、もうさっぱりしきってたこの和風の客室。
「母さんのおっぱい鑑賞」っていう、ここ数年最大のラッキースケベが起こった部屋。
でもそれ以外は文哉のおっぱい揉みやら擦りつけやらトイレの謎行為やらがあったんで、どっちかっていうとトータルではマイナスっ!
……や、景色やよかったし、お菓子やお茶はとってもおいしかったですよ?さすが「風寮○○○屋」さん!和菓子age!

さてロビー到着。とりあえずバッグ持ったままでおみやげ屋さんを下見。明らかにいらないだろう系は除外。
で、ロビーのソファーに荷物をまとめて置いて、あらためて財布持って突撃。
おお、母さんが部屋で出されてた「○○もち」、バラで4つ買ってる。うん、甘いものの好みは俺と母さん、文哉と父さんで似てる。2人は洋菓子系。

「……まあ、金鱗湖のほうが買えるか」

父さんのぶっちゃけ出ました。あの……もう少し声を落とさんと店員さんに聞こえますよ?父さん。
レジの前で言わんでも……悪い人じゃないんだけどド素直なんだよなぁ。

まあその一言の流れでいったんおみやげ屋さんを撤退。ソファーのとこに戻って、俺と母さんは座る。

「俺らはアイスかなんか買ってくるわ。文哉行くぞ」
「うん」

やはりとりあえず、まんじゅうやもち系ではない甘いものを口に入れておきたかったご様子の父さん。
文哉といっしょにさっきの店じゃなく、カウンターの隣の超ミニマムコンビニみたいな品揃えの売店に向かった。
……さて。どうしたもんか。決意してから初めて、母さんと2人きり。第1段階開幕、か……?

「あ……さっきのお菓子食べる?」
「食べる」

ありゃ。フツーの感じで母さんが○○もちを出してきた!そりゃ食べるでしょ。
はい、と渡され包装紙はがして、口に入れて……くそう、観察してるけど母さん大きな窓のほう向いて外の景色見てんな。
母さんもあっち向いたまま、口がもぐもぐ動いてる。表情観察ムリ。くそっ……俺がこれほど悩んで何言おうか考えてるのに、母さんってばお気楽な……。

「……ねえ、和樹」

……おおうっ!?これは予想つかなかった展開。なんかいつもと違うテンションで、母さんが俺を見てしゃべりかけてきた。
な、なんか母さんから俺に言いたいことあるんすかっ!?ヤバイ、ちょっと心臓が痛くなってきた。なに?なにっ!?

「……おいしいね、これ。もっと買っとけばよかったかな?」

あ。なんか久々に見た母さんのいつもの笑顔で。結局は食欲に根ざした限りなーく本能的な疑問で。

「あ……多分、下の店にもあるよ。けっこう有名なお菓子だから。多分」
「そっか、そうだよね。うん、今度は箱で買お♪」

その瞬間、なんかこう……逆に心が痛くなった。昨日の夜、文哉とあんなことがあって、散々悩んでた感じだったのに。
あれは、やっぱり酔っ払ってたから俺に相談してきたんだ結局。酔ってなけりゃ、素直でマジメな長男には黙っておく感じの事件だったわけだ。
……ムカつく。
そっから急に、なんか心がニュートラルになった。なに言おうかとかなに聞こうかとか吹っ飛んじゃって。
冷静に、父さんと文哉が遠くの売店で、いつものスポニチだけじゃなくニッカンとか報知にまで笑いながら手を伸ばすのを見て。ありゃ完全に旅行テンションだな。

 

「ねえ、母さん」
「……んー?」

まだ少しもちが口に残ってる感じで、母さんが俺のほう向いた。

「結局……どうなのさ?母親として、文哉にどうすることにしたの?昨夜」
「えっ」

うはは。言ってやったぞ。母さんの顔も明らかに変わったぞ。

「ん?どうすることって……なにが?」

ごまかす、気だな。また笑おうとしてるのがすぐ分かる。

「違うなぁ。じゃあ聞くけど……トイレでなにしてたの?」
「えっ……」

ああもう、完全に真顔の母さん。マジメに、こんな顔見たことない。高校受験の時ちょいとあったか?って感じの。
俺はこういう顔を母さんにしてもらいたくなくて、これまでずっとマジメに生きてきたんだよなぁ……ってちょっと思った。でももう遅い。

「いや、詳しく聞きたいんじゃないよ。それはそれで困るし」
「なにも……してないよ」
「俺が聞いた話じゃ、もらしたのを片づけてたんだよね?それにしちゃ長すぎ。少し前から起きてたから、分かるんだよね」

起きてたからって言葉が、少し痛かったようで。母さんは俺から視線を離した。少し優勢になった?だから考えなしで突っ込む俺。

「……それって、いいことなん?少なくとも漏らした時の会話じゃなかったよね、俺兄貴だから文哉のことよーくわかるもん」
「……」
「漏らしたって言うんなら、俺あいつに聞くよ?多分あいつ、漏らしたほうが恥ずかしいって思っちゃうから、正解言っちゃうかもよ?」
「……ちょっと、和樹」

ヤバイな俺。自分でも人生初のテンション。母さんがダメージ受けてるの見えるのに、遠慮なく意味のないこと聞いちゃってる。
文哉にいつも「うるせえ」って怒るくらいの声が出てる気がする。実際は、多分抑えてるんだろうけど。自分で感じるってことね。

「言ってよ、ねえ。今2人いないじゃん。ねえって。アドバイスしてほしいんでしょ?」

言ってすぐ見たら、おお。父さんと文哉が売店のレジで会計してる。タイムオーバー間近。ああでも、止まらん。

「でもさ母さん、文哉ばっかり」
「……和樹。今はいいって、もう」

あ。うわあ。こっち見た母さん超真顔。さっきの顔どころか、もっと怖い。マジメ長男に一番効く、怒る寸前の顔。

「……帰ってから、また聞くから。せっかくの、旅行だよ?」

一気に形勢逆転。怒られなれてない俺は、HP一気に減少赤ゲージ。
……で、やめときゃいいのに俺は。2人が帰って来る姿が見えてあせり尽くした最後に言ったおお振りのひとこと。
きっとこのまま帰ったら、相談もされずいつもの母さんの雰囲気に呑まれて忘れさせられちゃうんだろう、って思って。文哉のニヤケ顔が一瞬浮かんで。

「じゃあ、じゃあ……」
「……」
「あとで王様ゲームしようよ。旅行でも、それならいいんでしょ?」
「かず、き……」

もう完全に、けっこうな音量で。俺はバカみたいな言葉を叫んでた。ヤバい、聞かれた、とも思った。

「……俺、ジュース買ってくるから」
「……っ」

小さくそう言って、俺は立ち上がった。ひとつはここに居てられなくて、もうひとつは向こうから来る父さんと文哉の様子見たくて。

「おお、どうした?」
「……いや、お菓子食ったらのど詰まって」
「ふーん」

父さんも、んで文哉も別にそれ以上なにもなし。俺と母さんの声や様子より、マーやらサカモトやらヨシノブって人が今は大事らしくって。
対する俺は、人生最大の自己嫌悪。慣れてないことするもんじゃないねー。自販機で朝からペプシNEX。それくらいノド渇いてるし。人口甘味料マジいっ。
そのまま自販機の前でためいきついて。んでソファーのほう見てみる。
父さんが対面に座って、文哉が隣に座って。スポーツ新聞広げながらやっぱりマー君のこととか話してるっぽいけど、母さんは……小さく相槌打ってるだけ。
顔見えないのが、俺にとっちゃ痛い。さすがに泣いてはないよね?あの様子だと。でも笑ってるっていうんなら、それはそれで心痛いぞ犯人としたら。

ああ、俺……最悪の選択しちゃったみたいだ。堤家長男和樹17歳、もうゲームオーバーっぽいです。


ひとこと感想フォーム

戻る     進む