俺と文哉と俺たちの母さん 




 <12>

「……王様ゲーム、再開するわよ。ね?だから……母さんのしゃべること、しばらく聞くこと」
「お……おうっ」

ヘンな返事しかできない俺に、母さんは話しはじめた。少なくとも怒ってはいない表情で、じっと俺を見て。だから俺は目そらして外見たり。もっかい母さん見たり。

「どこから、話したらいいのかな……じゃあ、みんなが寝たあとから。……聞いてよ?」
「……ちゃんと、聞く」
「そう……2時、頃?私が目を覚ましたの。なんか、部屋が明るかったから」
「ああ……アレ、ね」
「多分父さんだろうし、しょうがないなぁって消そうと思ったら……帯、掴まれた。文ちゃんに話聞いて、って」
「……そう」
「怖いから眠れないとか言うのかな?って思ったら「邪魔された」って。露天風呂で、兄ちゃんになんか邪魔された、って」
「……」
「聞いたら、せっかく気持ちよくなってたのに、兄ちゃんに止められたって……その、擦ってたん、でしょ?」
「ああ、まあ……」
「で、おっぱい?おっぱい触りも、その気持ちいいことも邪魔されて、なんか今までずっとムカムカしてる、っぽいことを言ってたの」

さすがに、自分で「おっぱい」って言う時は少し外の景色見た母さん。まあ、じっと俺を見ながら言われても困るけど、ね。

「……それ、で」
「うん……そこで、思い出しちゃったの。和樹との話。寂しいから、そうしたんじゃないかって言ってたじゃん。急にその話」
「……」
「だから……いいよ、って。でもお兄ちゃんが起きないようにね、って。ほら……父さんはああなっちゃったら起きないでしょ?」

母さんはそこまで言って、今度は俺を見てはっきりと笑った。俺も笑い返したね……でも、うまく笑えてたかは疑問ー。

「でもね……お風呂と違うからしかた?がわかんなかった、みたい……あと、おっぱいにも触りたかったっぽい」

自分から笑ってなにか吹っ切れたのか、少し前のめりになって俺を見ながら少し勢いついてしゃべり始める。

「だから、どうしたらいいん?みたいな感じでもぞもぞ体動かして……そしたら、ねぇ。当ったの。文ちゃんの、が、ね……」
「あ、あ……そう」

基本は、昨日俺が想像してたとおりの展開。俺は、一応顔は笑ってるっぽい。でも、なんか胃とか心は痛いね。

「まあ、急に慌てるのも違うし「そのままでいいよ、多分」って教えたら、そのまま……私の体に擦ってた」

王様ゲームからの流れで軽い気持ちで迫った文哉と、甘えんぼの次男をもっと甘えさせることを選んだ母さん。
でも、なんか……さっきから心の痛さが増してきてる。よくわからないけど……母さんの話と、昨夜聞いた話と……どっか、違う?

「それで……おっぱいも見たいって言うから見せてあげた、よ。まあ昨日は何回か、見せてたし。そしたら、急に、舐めてきて……あ、おっぱいをね」
「……分かってるよ」
「ああ、そうなんだ。ふーん……で、なんかこう、急にうれしくなっちゃって。「ああ、まだ子供なんだねー」って。だから、そのままにさせてた」

ただの子供は、母親のふとももにちんこ擦りながら乳首吸ったりはしないと思いますが。

「そしたら……そしたら、ねー。えっと、出しちゃった?けっこう、いっぱいね」
「……あー」

生まれて初めてのボッキ下のが昼。温泉で俺の阻止で1回ガマン。でそれから夜まで数時間……多分だいぶたまってたんだろう文哉の精液……なんの心配?

「マズイことしちゃったかな、ってのももちろんあったよ?でも、やっぱり……ちょっと、ちょっとだけど、うれしかった気もする」
「……」
「目の前の文ちゃんは、母さん母さんって必死に言いながらその……出してくれたわけだし。すぐいつもの文ちゃんに戻ってワガママ言ったのも、それはそれで母親としてうれしくて」

……ここまで来て、俺の理由不明の心痛の原因判明。気づいちゃった、昨日俺が聞いた会話と今の母さんの告白の、違い?
母さん、隠した?あの事、俺に言わなくてもいいって思った?勘違いなら、いいけど。

 

「でもすぐにね、むずがりだしちゃったの。『気持ち悪いー』って。まあ、私としてはおねしょくらいだって思ったんだけど、違うねアレは」

何の話かって、多分パンツの中の精液の話。そりゃおしっこ漏らすのとは違うでしょ。おまけに文哉は初発射。

「あんまり騒ぐから、外から少し触ったら……まぁ確かにベタベタしてるし。でね、母親としてはパンツのしみとかのほうを気にしちゃうの。あははっ」

たまに笑うな、母さんは。でも微妙に外見たり俺の首あたりを見ながらだし。明るく話したいのに少しやっぱりムリがあるっぽい。
……まぁ俺も、ずっと母さんの顔見られてるわけじゃないし。ってかこの話の内容で見てられるわけねー!

「だから早く洗おう、って。でもほら、洗濯なんてできないから水でジャブジャブするしかないし……だから、洗面台で」
「ああ、まあ」
「あ、そっか……この辺から、起きてた?」
「も少し、前から、だよ」
「……そ」

文哉がすぐいつもの調子になって、バカ口調始めたのも、起きてたから気づいてましたよ?あんまりいつもの事なんで母さんもはしょったな。

「アレって……落ちないよねホントに。自分の手についたのしばらく水流して洗ったんだけど、落ちない。すごいね、せ……まあいいけど」
「……」

エロい話を気楽に話したいけど、どこかでそこまで吹っ切れない母さん。まあ、多分、実際は悩んでるんだなっていうのはちょっと分かる。

「なのに、さっきまで気持ち悪いって言ってた文ちゃんはパンツ脱がないし。で、無理やり脱がして洗おうとしたら……その……」

……さあ!
いちばん扱いに困るであろう話題に入って来たぞ!同時に俺としては吐き気さえ湧いてくるくらいのところだ!
俺が音やシチュから妄想したものが事実かどうか、母さん本人の口から聞けるわけだ!やっほーっ!……だから胃が痛いって。

「……あんなに早く、もう一回なっちゃうもんなの?」
「なに、が?」
「……だから、その。おちんちんよ、その……ちんちんが」
「……なる。自分の好みの場面とかだったら、すぐに」
「ああそう、そうなんだ……ふーん」
「だいたい男は、お気に入りっぽいヤツがあって……最後はともかく、すぐその状態になる材料があって、最初はそれから始める」

なに言ってんだ俺は?まあAVなら男優が後ろから服脱がしてるとこ。エロマンガなら幼馴染が密着してデレてるとこ。
これはヌキどころと違うよね?あえて言えば「勃ちどころ」?……って、やっぱりなに言ってんだ俺。

「それが、文哉の場合は母さんのおし……うしろ姿だったってことでしょ、多分」
「そっか。ああ、もう起きて聞いてたんだね和樹は……どうしよう、隠しごとできないなもう。うふふっ」

不意に、このタイミングで母さんと目が合ってしまった。ひやーっ!
でも今回は耐えて、目をそらさなかったね俺。だから……うふふっ、のところで心臓が飛び出そうだった。相変わらず胃が痛いし。

「じゃあ……もう言うね。ぶっちゃけちゃう」
「……うん」
「その瞬間……可愛いって思ったの。文哉の笑ってる顔も、いつもの甘えた態度も、その……おちんちんも」

ぐえっ。

「ちょうど、その時……和樹が起きてきたじゃん?なんかねー、いろいろ思ったの。もったいない、ってのが近い、かな……」

ぐえっ。

「和樹は説明したら分かってくれるだろうけど、文ちゃんは違うし。実際さっきまで邪魔されてたことに怒ってたし。『あ、この可愛い文ちゃんしばらく見れないんだって』」

ぐえっ。

「だから……トイレに入って、ごまかして……しばらく、ヘンだよね。ちんちんばっかり見てたら……えっと」

ぐえっ。こりゃ、言うな母さん。衝撃発言を。

「うん……舐めた。や、これは全然、その……母親として、可愛いものを、その、アレしたかっただけだから。そんな気持ちで、全然アレじゃないよ?

吐きそうになる気持ちが抑えられたのは、この母さんのさっぱりわけのわからん言葉のおかげ。
多分しゃぶった、とかフェラチオ、とかそのへんのことしゃべられてたら、軽くおえええっ、っていっちゃってたかもしれんね。

「だから、すぐに出してあげようって思うよね?ヘンな気持ちじゃないんだから……うん」
「……」
「で……えっと。文ちゃんが出したから、すぐ後始末して、流して、おしまい。びっくりしたのは、もう和樹が戻ってきて寝てたってことだけで」

まあ、エロマンガみたいに精液飲まなかったのは、俺もトイレから聞こえた声で知ってる。
実際は(味はよう知らんけど)そう気軽に飲み干しちゃったりしないもんなのだ。いくら親子でも。うええっ……親子とか言うな俺。

「……」
「だから、文ちゃんも寝たし、私も寝た……起きてたの?やっぱり」
「……」

アレだ。もう返事もできないわ俺。あっさり可愛いおちんちんフェラチオを告白されて、話はオチまでいった。
自分じゃ分からんけど、多分微妙な笑い顔っぽいのを浮かべて、母さんを見てるんだろう俺。
起きてた起きてないは、多分俺のその顔で分かるだろうし。わかんなくてもそれは俺の責任じゃないしー。

 

「……ふうー」

母さんは、俺が質問に答えないのを気にしてない様子で、そこで1回深くため息をつく。いいなー、俺ため息も出せねえよこのシチュじゃ。

「……とりあえず話した。なんかこう、ずっと朝から気持ちが乗らなかったんだ。和樹に怒られるようなこと、もしかしたらしちゃったかな、って」

なんだよ、この期に及んで俺の名前?

「さすが父さんに相談するのも、違うような気がするしね……ビックリしちゃうでしょ?さすがに。だから……こういう時和樹がいてくれて、助かる」

また笑ったな?卑怯な笑顔で。いっそ……父さんに朝の露天風呂で話してやればよかったのに。あ、朝は別の用事で忙しかったわけだ。
まだ、どーも……便利に使われてるような気がする。物わかりだけはいい長男のひがみであってほしい、けど……ねえ?
しかしムカつくのは、文哉だけは今も全く悩まずにいるってことだ。
ムニャムニャ状態で、きっと家に帰ってからのエロ展開を夢の中で期待してるわけだろうし。キーっ!
結局、この観覧車タイムもゴール近し。他のアトラクションがだいぶ見えてきた感じ。
母さんは、俺にモヤモヤを話せて満足?俺は笑い顔ながらモヤモヤ増加……ありゃ、怒られてないだけで状況よろしくなってないじゃん。

「でもねー、やっぱりいけないことなんだよねー。さっきロビーで、和樹に怒られた時ハッとしたもん。ショックだったし」

……お?

「……昨夜のごはんの後の時は、悩みも小さかったし、酔ってたし。もう少し気楽だったんだけどね」

母さんは、まだ笑ってる。でも、俺を見ずに外の景色を見始めてる。なんか、トーンが変わった、か?

「『まだまだこどもだ、可愛いー!』とか思って、あんなことしちゃダメ、だよね。いろいろ悩んだんだけど……でも、そっかー。ダメ。ダメ」

ああもう、明らかにさっきまでとは違うわ母さん。窓のせまい所にひじついて、悩み顔。

「ふうー……どうしよ、母さん。うーん……」

ありゃ、完全なため息。見てたら、そのままほおづえは両手になって……うわあ、顔を両手で覆っちゃったよ!
少しだけ「2人きり」に期待して乗った観覧車で、結局母さんと文哉のフェラに至る話を聞かされて。俺がモヤモヤした上に、母さんはなんだか見た目モロ悲観モード。
もうだいぶ下に下りてきて、あと2分くらい?はい、ホテルのロビーの時より状況悪化です。……さあ、どうするよ堤和樹!?

「いやあの……怒ったとか、そーいうんじゃなくってさ」

……結局、悲しい顔してる母さんのフォローは、俺がするしかないんだわ。ロビーで俺が叫んじゃったことがえらくショックに感じちゃってるみたいだし。
とりあえず今は「話の分かる長男」に戻って、いつもみたいに冗談めかして母さんを笑わせて、この観覧車タイムを終わらせるしかない……あい、チキンっす俺。

「……?」
「まぁ俺も、文哉がうらやましかったし。昨夜は興味ないみたいな顔してたけど、ね」
「……」
「正直、あの……露天風呂で触らせたとか、擦って出させてもらったとか、その……最後は、口?だもん」
「う、ん」
「いやもうぶっちゃけ、『ひゃー!うらやましー!エロいー!』俺もしてもらいてー!みたいな感じで、ロビーで言っちゃっただけだから、ほら」

……まだ、全然言いたいことはある。
例えば、俺が昨日の夜に聞いたけど母さんが今ここで言わなかった「文哉と帰ってからエロいことする約束」とか。多分、文哉は「して」って迫るだろうし。
でも今は、こうするしかないみたいで。家に帰ってからは、今まで以上に俺がストッパー&バランサーになる覚悟で……。

「……うらやましい?」
「へ?」
「……和樹も、あんなことしたいとか、言うの?」

テンション上げてしゃべってたら、いつの間にか母さんは、俺を見てた。さっきまで隠してた顔を、俺に向けてた。
笑ってはいないけど、悩んでる表情でもない。ただじーっと、母さんは俺を見てる。

「したい、の……?」

もう一度その顔で、母さんはそう言った。


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