俺と文哉と俺たちの母さん 




 <19>  
 
俺が思う人物なら(夜食持って来てた人物って意味)、その後俺の名前を小さく呼んでたんだけど。今回はそれがない。
だから、起きてるって意思表示が怖くてできない。文哉のイタズラの可能性もあるし、父さんの可能性もゼロじゃないし。そうだったら超怖ぇ。
まあ、文哉はないと思う。あいつはまずこの時間に起きてられない。父さんも、まあ……疲れたら全く起きない人だし。
じゃあ……もしかしたら心霊現象!?ひえーッ!……どうしようか迷ってると、こんなバカなことも頭に浮かぶんだよ。

「……和樹?」

おいおい!返事しないのに入って来ちゃったよ!まだ目を開けてないから分かんないけど、声は……俺が予想してた人の声。

「……」

そのまま、ドアが閉まった音がして。もう文哉だ父さんだ幽霊だなんてバカ想像は吹っ飛んでた。そりゃそうだ。
その人物……まぁ母さんは、俺が返事しないのに黙って部屋に入ってくるような性格じゃない。よーく知ってる。
でも現実に、母さんは俺が寝てるかもしれない部屋に、承諾なく入って来ちゃってる。おいおいなんだこれ?エロマンガか?

「……うーん」

小さい母さんの声。俺はもうなんだかよく分かんなくなって来ちゃってる。体動かしてるつもりないのに、何か震えてるみたい。
その震えが母さんに見られて、すぐ起きてるってバレちゃうんじゃないか?その前に声出して意思表示したほうがいいのか?
待てよ、今部屋真っ暗だからさすがに気づかれないか?とか……だからってそのどれひとつも行動できないチキンな俺。

「……起きてないわけないと思ったんだけどなぁ」

……お?

「ま、いっか……おやすみ」

ちょっとそばまで来てた気配が、くるんと回ったような気がした。つまり、この部屋を出て行こうとしてる。

「……起きてる、よ」
「ほら、やっぱり……あははっ」

耐え切れなくなって、なんか上ずった感じの声を出した俺。その声聞いて、いつもみたいに笑った、母さん。
そのまま出て行くのかと思ったほどけっこう勢いよくドアのとこまで歩いて行って……おいおい、電気まで点けちゃったよ?
  


「和樹は寝れないって踏んでたんだよねー……さすが母親、でしょ?」

くそう。俺が母さんの性格を分かってると思ってる時に、母さんも俺の性格を完全に把握してたわけだ。さすが、あなどれん。
で……こうなって来ると俺も少し緊張が治まって。目も開けて、いつもの雰囲気の会話ができそうだと思って、母さんのほうを見た。

「おはよう和樹……って、違うか」
「何言ってんの」

少し明かりが眩しかったから、なんか自然に笑い顔になっちゃって。母さんも、やっぱり笑ってる。
いつもの、ダボっとした薄い茶色のパジャマだ。ニコニコしながら、俺の勉強机のイス引いて、そこに座る。

「さて……」

母さんが、そのイスをくるくる左右に揺らしてる。こっちからは視線を外して、ぼんやり部屋の天井を見ながら。

「……聞いてた?」
「あー……帰って来てからの、話?」
「うん」
「リビングの」
「うん」
「……聞いて、た」

見てた、とは言えない。まぁこの話題を出してきたからには、あんまり違いはないだろうし。母さんの中では。

「そっかぁ……また、ああなっちゃったんだよねー」
「……うん」
「文ちゃんが、ね……なんかこう、したがるし」
「うん、まあ……」

文哉がしたがった……まあ、これは間違いない。「して」なんつー直球をすぐ投げてたし。
でも俺としては、それにすぐ流されちゃう母さんのほうが心配なんだよなぁ。

……心配?母さんが?ちょっと俺、違うんじゃね?ホントは、悔しいんじゃね?うらやましいんじゃね?
流されてく母さんが全く心配じゃないって意味じゃなくて、その、相乗効果?でエスカレートするのが、ね。
なんかこう……すぐその先に行っちゃいそうじゃね?
手コキ解禁、フェラも経験済み。そしたらすぐ出したら飲んじゃいそうだし、おっぱい使ったりしたりも。
そうしたら……あの……最後まですぐっぽくね?よく分かんないけど。エロマンガとかAVの知識じゃあ。

「……ど」
「ん?」
「……どこまで、させんの?」
「あー……どこまで、か。あれ以上は、させないつもり、だけど」
「あれ?」
「うん。手を使うのは分かっただろうし。今度からは自分でするんじゃない?よく、分かんないけど」
「しないでしょ」
「え……そうなの?」
「っていうか、母さん手伝ったじゃん」
「……うん」
「手でしない、教えるだけ、って言ってたの聞いたし。でも、手伝ったでしょ?」
「……んー」

お、少し悩み始めたな。イスの左右運動が止まった。
俺としても正直母さんが何で手伝ってあげる気になったのか気になる。だってその直前まで文哉の甘えをはっきり拒否してたし。
あ……俺のことなんか言ってたな。「かわいそう」とかなんとか。
……あれでー?情けかけられた上に母さんはそれに乗っちゃってエロいことしちゃうのー?そんなん俺に全く得がないじゃん!

「だって……ほら、文ちゃんはその……可愛いじゃん」
「……へ?」
「そうそう、可愛いし」

確かに母さんはあの時リビングで「可愛い」とか「いい子」って何度も言ってたな。ふーん。

「まあ、俺は確かに可愛くないでしょうけど」
「……あ、違う違う。そんなんじゃない」
「違わないでしょ。母さんにとって俺は「可愛い」って対象じゃないって意味でしょ?」
「あー……違うって。うん、違う。あの……ちんちんのことよ」

……ああ、なるほど。

「……俺のは、可愛くないってことなんだ」
「うん。和樹のちんちんは可愛くない。ちょっと怖い」
「ふん。なんだよそれ」
「あははっ」

うん……分かってる。母さんの言いたいことは分かる。さすがに文哉のちんこと一緒ってわけにはいかんわな。ムケだし。
まあでも、あんまり「可愛い可愛い」を連呼されると、微妙な気分になる。
可愛いちんこを持ってないって意味じゃなく、まぁ同じ息子として……。

「あんな性格だからさ、困ることも多いけど……文ちゃんの場合、可愛いが先に立つ、かな?」
「……ふーん」
「私にとっちゃ、ついこないだまで赤ちゃんだったって感じだもん。あの性格だと特にねー」
「……ふーん」
「だから甘やかしちゃうだよね。昨日の午前中も話したけど「このままでもいいか」って思っちゃう」
「……」

深い意味がないのも分かる。イスは止まったままだけど、母さんはいつもどおり笑い顔でしゃべってるし。
多分母親として「文哉の可愛さ」を貴重なもんだと本気で思ってる。いつかなくなるものとして、的な?
……なくしちゃった俺は、その結果空気読みすぎる息子になっちゃった俺は、空気読みとしてどう反応したらいいわけ?
  


「まあ、あんまりさせすぎるのもアレだけど、自分でするだろうし、いずれ離れていっちゃうだろうし……」
「……待って、ちょっと」
「……ん?」

あんまり母さんの話しさえぎることないんだけど、何か俺、そうした。
何か言うぞ、俺。昨日のホテルのロビーの時みたいに、アタマ混乱したまま、わけの分からないことを。

「文哉が可愛いってのは、分かる。俺も少し、そうだし」

ウソじゃない、な。ムカつくことは多いけど、兄貴としては文哉は嫌いじゃない。バカだけど、可愛い。

「そう、そうだy……」
「でもさ」
「うん?」

またさえぎっちゃった。オマケに、ロビーの時より怒ってない自分が怖え。

「……離れなかったらどうするわけ?」
「……うーん、それは」
「文哉が甘えたままで、そんで可愛いままだったら、母さんはずっとさせちゃうっぽくない?今の話だと」
「……違うよ、きっと自分で……」
「させるね多分。可愛けりゃさせるよ。んで、無邪気に文哉は昼間みたいに「して」って言うんだよ」
「……あの、ね」
「いいんだよ、別に。可愛い弟は母さんに甘え続けてもいい。俺は別に、見て見ぬフリできるし」

……さあ、それはどうかな?俺。今の状況見てるとムリなんじゃないかなー?

「手でしたりとか、おっぱい見せたりとかも、別にさ。あと口もね。母さんなら、させるし文哉もしたがるし」
「……和樹、あの」
「それ以上だってさ、可愛いままならさせちゃうんじゃない?俺知らないけど」

あーあ。俺もう母さん見れなくなっちゃった。天井見ながら、思いつくことつぶやき続けてるわー。
どんな顔してるか分かんないけど、まあ……いい顔はしてないわな。
 

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