俺と文哉と俺たちの母さん 




 <21>  

「でね」
「……?」
「もうひとつ、呼びかたの問題」
「……ん?」
「和、ちゃん」
「ひいっ」

マジ、かよ。大げさでもなんでもなくて、全身に震えが走った!マヌケな声も出ちゃった!

「ちょ、ちょっ」
「あ……ダメだった?」
「それは……カンベン」
「今からほんの少しだけで、いいんだけど……昔みたいに、ダメ?」
「ダ、メ。顔真っ赤になりそう」
「なってもいいのに。ふふっ」
「いやマジ、カンベン……お願いします」

すでに顔真っ赤になってたかもしれん。それくらい数年ぶり?の「和ちゃん」は衝撃的だった。

「そっかー、ダメか」
「ダメダメダメダメ」
「少しだけなのに」
「いやだって……恥ずかしいし」
「少しだって」
「それ、に……文哉を文哉って呼んで、俺が、その、和ちゃんだったらおかしいでしょ?」
「……だーかーら、今だけだって」
「あ、でも……カンベンして下さい、お願いします」

ああもうっ!
完全にみっともない姿晒しちゃってんなぁ俺。
母さんが必殺技出してきちゃったからしょうがなんだけど、これはあまりにみっともないし恥ずかしい。
まあ、でも……仲直りできた感はあるな。
結局母さんに主導権握られちゃったけど、さっきあのままお互い険悪なままで過ぎてたら、ちょい怖かった。
あとで母さんに「ごめん」って言えば、とりあえずは明日からの関係はなんとか……。

「よし」
「……ん?」
「じゃあ、交換条件」
「……何よ」

少し余裕が出て来て、冗談っぽい口調で返事できてる俺。顔もまあ、多分真っ赤だけど笑顔だと思う。

「こっち向け」
「向いてんじゃん」
「顔じゃなくって……全部。体」
「……は、あ?」
「母さんのいう事聞くの。好きなカッコがあるんだから」

好きなカッコ、で心臓が弾んだのはナイショだ。多分向こうは深い意味ない。
 

「何でよ」
「和ちゃんって呼ばせないのが悪いんでしょー?こっちは超母親モードなのに」
「まだ言う」
「あ。それに」
「……?」
「……まだ私が王様じゃん」
「……まだ言うか」

……あー。全部王様ゲームから始まったんだっけか。旅館での文哉の「ちんこ触り」から始まって。
最後の命令は何だったっけ……あ。母さんの「アレ舐めるから出して」だ。うわあ。

「ほらー……王様の言う事はー?」
「……くじ引きしろよー」
「時間ない!黙って聞け!……ほら、体こっち向くだけ。和樹」
「……ああもうっ」

和ちゃん攻撃とか、王様ゲーム攻撃とかを連続で繰り出されて、俺は鼓動が早くなりっぱなし。
んで車内のアレまで思い出したもんだから、いろいろ他の部分もプチヤバい。
でも、改めて「和樹」って呼ばれたのがきっかけで、俺は仕方ないポーズをとりつつ、体全体を母さんに向ける。
……顔見ながらとか恥ずかしいんで、布団に顔埋めて向けてやったぞ。ふふん。意味ナシ。どうせ顔も向けるし。

「……よし」
「何がよし、だ」
「……覚えてない?」
「?」
「えっと……そっか、文ちゃ、文哉が生まれる前でやめちゃったから、覚えてないかも」
「何を」
「んー?私ね」

母さんが俺の頭の後ろに手を回して、ぐいっと自分のほうに引き寄せた。何っ!?今度は何攻撃っ!?

「……子供の頭の匂い嗅ぐのが大好きだったの。何かちょい安心する匂いでさ」
「……はあ?」
「子供特有の……和樹は分かんないか。でもそんな感じの匂いがすんの。ちょっと牛乳……乳くさいっていうか」
「……」
「すんすんしながら頭撫でてたら、私も和樹もいつの間にか寝てたの。だから毎日してた感じ。あ、父さんは別の意味ですぐぐっすり」
「……それは知ってる」
「だよねー」

笑いながら、言葉の端で本人が言ってた「すんすん」って音が聞こえる。俺の頭の頂点から聞こえる。

「……今そんな匂い、しないよ。多分」
「……ん」
「……それって、ガキの匂いって事でしょ?」
「……ん」

おーい。すんすんばっかになって言葉が少なくなってきたぞ母さんって!
 

「……文哉は、どうなん」
「……あ。アレ不思議だよね。文哉は、しないの。あの匂い」
「……へえ」
「文哉が生まれた時ぐらいに、部屋が移動したじゃん。だから当然、和樹と同じみたいに文哉の頭匂ったのね。イイ感じで寝れると思って」
「まぁ、母さんはするわな……」
「うん。でもねー、赤ちゃんの時はともかく、あんな感じなのに、文、文哉はミルクくさくなってないの。アレはもう、和樹の匂い」

……うわあ。天然発言、ってか母親モードの発言って生々しいわぁ。向こうにそんな気がナッシングな分だけ余計に、ねえ。
それに。それにだ。

「……でも、やっぱ、もうそんな匂いしないでしょ。どっちかって言うと、男くさい、っていう、か」
「……ん。んー?」

母さんはまた鼻すんすん鳴らして俺の頭を嗅いでる。頭にやさしく手を置いて、自分のほうに近づけて遠慮なくすんすん。
だから、俺は。母さんのほう向いてる俺は。目の前に。

「あーでも」
「……?」
「近いよ、近い。確かにいかにもな男子の匂いっぽいのもあるけど。どっかに昔の匂いみたいなの、ある」
「……へえ」
「んー……そうだ、これこれ。安心する。和樹の、頭の匂い。ふふっ」

そっからは、黙って。多分ニコニコしながら、すんすん鼻を鳴らして匂いを嗅ぎまくってる。手はもう両手俺の頭。
俺は、ね。
目の前に、母さんのおっぱいがあるわけですよ。暗い部屋だけど、パジャマだけど、目の前に母さんのおっぱい。
横向きだから少ーしだけ下に形が歪んでる、おっきなおっぱい。それがまあ、10cm前。
昨日から、まあ数回生で見てるおっぱいだけど。近いわ。ヤバいわ。心臓も、下半身も。

「……ん。いい、匂い」
「……」
「……っ」
「……」

また鼻鳴らし熱中モード。俺はもう完全に下のほうが危機状態。
じーっくり血が流れ込んでて、パンツの中でちんこがもそもそと立ち上がり中。
頭と違って下半身は接触してないから何とかなってるけど、今後どうなるか分からん。母さんが動いたら一発で即バレ。
……母さんが母親モードなのに、俺がちんこ勃起させてる場合じゃないでしょ?だから、悟られないように体勢変更ー。

「……」
「……」

いかん。母さんも俺の不自然な動きに気づいたか……?なんかすんすん音が停止中。
しかしそれどころじゃない。母さんの腰がちょっとでもこっちに近づいたら、俺のヤバい棒に接触してしまう。
……うしょ、うしょ。ひー、ごそごそ動くのはけっこうツラし。

「……なに、してんの」
「うっ……別に」
「……そう」

今顔見てないから、母さんの質問の意図が読めん。しかしなんとか、母さんとちんこの距離を離す事には成功。うん、成功。
要は……「U」のカッコから「八」のカッコに移行……違うな。頭くっついてるから「八」じゃなくて「入」的な?
そんな体勢で腰を引いてって……もう俺のケツは窓のほうの壁までくっついた。とりあえずの危機は回避の模様。
母さんも……またすんすん鼻を鳴らし始めた。よしよし。よーしよし。

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