第1章


 いつのまにか、気を抜くと汗をかいているような季節になっていた。志穂は、リビングのソファでエプロンをつけたままうたた寝してしまったようだ。

「あ、いけない……」

 首筋を細い指で軽くぬぐったあと、志穂はソファから立ち上がる。小学1年の一人息子、等が帰宅するまで、まだ少し時間がある。

「シャワー、浴びようかな」

 スポーツか何かでかいた汗ならともかく、こういう不用意の汗は不快な感じがしてならない。エプロンを外してソファに掛けた志穂は、そのままゆっくりとバスルームに向かった。

「ふう……」

 地味目のブラウスを脱ぐと、そこには真っ白な肌とそれに映える白いレースの下着姿が現れる。志穂はなにげなく自分の姿を鏡に映し、それを見つめた。

 26歳の志穂の躰には、美しさを損なうものなど一点も無い。19歳の時、愛する男と結婚してから、その夫 祐二だけに晒した裸体。子供を産んだ現在も、スポーツへの積極的な参加から均整の取れた体形を維持している。

 ごく普通の幸せな家庭に育ち、そして同じような優しい性格の祐二と結ばれた志穂は、まさに幸せだった。

「うん、変わってない」

 少女のような子供っぽい喜びを感じながら、志穂はブラとショーツを躰から外した。胸だけは、子供を育てて少しだけ大きくなったようだ。鏡に向かって微笑みかけて、志穂はバスルームの扉を開け、シャワーのコックを回す。

 勢いのある水流が、体から汗を洗い流していく。家族の誰もいない午後に、シャワーを浴びるのはやはり気持ちがいい。少しぬるめの湯が肌を滑るたびに、家事の疲れはゆっくりと癒されていく。

 そんな開放的な気分を突然中断するように、玄関のドアホンが鳴った。志穂は少し慌てる。玄関のカギをかけていなかったのだ。誰が訪ねて来たのか不安になって、志穂はバスルームのドアを開け、呼びかける。

「はーい!どちらさまですか?」

 その声に、訪問者は応える。

「お、おう。ワシだ志穂さん、義祐だ」

「あ、お義父さま。すみません、わたし今お風呂に入っているんです。どうぞ上がってらして下さい。すぐに出ますから」

「おおそうか。じゃ、邪魔させてもらうよ」

 風呂の方から聞こえる嫁の声に誘われ、義祐は家の中に入った。

 祐二の父 義祐はこの家の近所に住んでいる。昨年の初め妻を失ってから、田舎から一人息子の祐二を頼って近くのアパートに引っ越して来たのだ。

若い頃から林業に携わり、頑丈な体を自慢して来た義祐だが、連れ合いと死に別れてからはめっきり気力を無くし、最近は年金で酒を飲む毎日。真面目な祐二がそんな父親の様子を心配して、普段より家に来るように言い聞かせていた。

 先程まで志穂がまどろんでいたソファに腰を下ろし、義祐はアパートから持ってきた焼酎のミニボトルを二本テーブルに置く。そのうち一本を開け、一気に飲み干した。今は、緊張を酒の力で抑えなければならない。息子の帰りの遅い水曜日、孫にあたる等もまだ帰ってこない事を知っている。当然だ。今日義祐は、常識では許されない行動を行うため、万全の下調べをしてやって来たのだ。

「志穂さん、あんたがいけないんだ……」

 自分では枯れた、と思っていた。息子夫婦の近くに越して来るまで、十何年も妻との性生活もなく、お互いに性の発散など考えた事もなかった。妻が死んでも同様だった。寂しくはあったが、それは欲求の渇望から来たものではない。

 しかし、この場所には志穂がいた。志穂の純粋な、純粋であるがゆえの振る舞いや笑顔に、義祐の枯れたはずの性欲は奮い立った。男の前であまりに無防備に浮かぶ、清純で健康的な美しさに彩られた豊かな肉体。汚してはいけないと思えば思うほど、想像の中の志穂はその姿を淫らに歪ませてゆく。義祐の妄想は、爆発寸前だった。

 まだ、志穂はバスルームから出て来ない。義祐は重い腰を上げた。酔いは回ったのかわからないが、体には奇妙な高揚感が漲っている。

 他に方法があるのではないか、と自問するがなぜか答えは出ない。心の奥底ではやはり美しい息子の嫁を犯したいのだ。義理の父としての常識をかなぐり捨て、一人の男として義祐はバスルームに続く脱衣場のドアをゆっくりと開けた。

 シャワーの音がまだ続いている。急いでいるのだろうが、汗を流すため泡を全身にまぶしてそれを洗い流しているのだろう。一つ屋根の下に男と二人きりでいる事を全く警戒していない。魅力的な裸をすりガラス1枚のみに隠して、いままさに汚されようとしている肉体を洗い清めているのだ。

「……っ」

 唾を一つ飲み込んで、義祐は歩みを進める。ガラス越しの、あの美しい裸体に近づく。

 脇目もふらず、という行動が災いしたのか、義祐は脱衣場にある小物棚に腰をぶつけてしまった。ゴトン、と空のシャンプーボトルが音を立てる。その瞬間、扉の向こうの様子が変わった。志穂は、気づいたのだ。

「お、お義父さま……ですか?」

 義祐はもちろんすぐには返事が出来なかった。常識から考えれば、とても歓迎できる状況ではない。たとえ義理の父の立場とは言え、若い女がいると承知でここに入って来たのだ。下らぬ言い訳をしてこの場を取り繕うべきか、それとも本意を全うするべきか。未だその判断がつかぬまま、義祐はその場に立ちすくんで、唸りともつかぬ声を小さく上げる事しかできなかった。

「……あの、お義父さま?今すぐに上がりますから、もう少し待って頂けますか……?」

 間違いなく、義父である義祐がすぐそばにいる。その事を志穂は気がついていた。ビールの場所が分からないのか、それともテレビのつけ方が分からないのか。とにかく志穂は義父の行動を疑ったりはしなかった。まさかその義父が、自分の躰を奪おうとしているなど、考えもしないで。

 とにかく、今は早く風呂から上がらなければ。ボディシャンプーの泡を流す事もそこそこに、志穂は湯を少しだけ溜めたバスタブへ裸の躰を移動させようと、シャワーを止め全身を揺らめかせた。

「……っ!」

 その、ほんの数秒の動きに、義祐の心は完全に魅了された。志穂が脚をバスタブの縁に置き、後ろ姿をちょうど義父の方に向けた瞬間。色を求める義祐が凝視するすりガラスには、確かに魅惑的な尻と、その中央に茂る黒い曇りが映ったのだ。女を強引に抱こうとしている男にとって、これほど素晴らしい光景があるだろうか。体は、もう自然に動き始めていた。

「志穂さん……っ」

 それは、果たして声になっていたのか分からない。だが暴走し始めた義祐の、最後の嫁に対する呼びかけだった。

 カギをかけていなかったバスルームのドアは、その後に起こる事態に対して、あまりにあっけないほど軽く開く。そこには、美しい肉体をおおかたバスタブに沈めかけて、そして発生した事態に、振り向いて驚愕の色を浮かべる志穂の姿があった。

「あ、お……」

 声が出て来ない。こんな時のどんな言葉が出てこようか。口をぱくぱくさせながら、扉の所でこちらを凝視する義父の姿を眺めていた。

 先に体が動いたのは義祐の方だった。志穂が躰をバスタブに沈めてしまえば、義祐のこれからの行動はほとんど制限されてしまうだろう。義祐は素早くバスルームに足を進め、驚きから動けないままでいる志穂の裸の背中に飛びついた。

「ひ……っ!」

 義父の侵入を受けてから、やっと声を上げる事が出来た。しかし、まだ義父の意図を測りかねて、なんとか出せた小さな悲鳴だった。

「志穂さん、あんたが……あんたが……」

 義祐にもう自分の思考というのは無かった。今までの積み重ねた人生と、これから始まるであろう忌むべき道が頭の中で葛藤し、支離滅裂になっていた。そこにあるのはただ、目の前の美しい女を奪ってしまいたいという、動物のような欲求。

 志穂も決してその状況を許容したわけでは無い。義父の考えている事はまだ分からないが、裸の全身を義父の腕の中に任せている事など出来るはずが無い。掴まれた腰に力を込めてその皺の刻まれた義祐の腕から逃れようとした。

しかし、動かない。離れない。

「……ああっ!」

 嫁の唇から、悲痛なうめきが洩れ出した。老いた義父に、このような腕力が残っていようとは、志穂には思いもよらなかった。そして当の本人である義祐にも、同じ事が言えた。昔山に分け入って体を鍛えたとは言え、ここ何年かは本気で体を動かした事など無い。しかし今の義祐には、常識では考えられない歪んだエネルギーが、その体に確かに存在していたのだ。

「や、やめ……ああっ!」

 ずるずると躰を引き上げられ、やがて豊満な双尻が水滴に濡れて現れた。義祐は素早くその尻に、抱えた両腕を移動させる。目指す秘所は、目前であった。

「ひ、あっ、お義父さ……っ!」

 抗う声は、すぐに止められてしまった。なんの前触れも無く、義父の舌がヒップの裂け目を這ったのだ。

 なんとかそのおぞましき行為をやめさせようと、志穂は両手で背後に張り付く義祐の頭部を激しく叩き続けた。しかし、深く皺が刻まれたはずの義父の体は、離れるどころかさらに強い力で、息子の妻の腰を抱いていく。舌も、ひたすら奥へと侵入しようと巧みに蠢き続けていた。

 義父の舌がもし、もし自分の花芯に届く事があれば、この先起こる事がさらに恐ろしい悲劇を孕むであろうという事を、志穂は悲観的に感じていた。自分の躰が、いかに男の舌の愛撫に弱いか、夫 祐二との愛の営みで嫌というほど知っている。感じやすい自分の肉体を志穂はいつも恥じていたが、今この状況で義祐によってその秘密が明かされれば、はたして抗う行為に説得力を持たせる事ができるか、志穂には全く自信が無かった。

「……っ!」

 悲劇は起ころうとしていた。ついに義祐の舌先が、ほんの一瞬だが志穂の若い淫裂に到達したのだ。義祐はその事を記憶の奥底にある女の味で知り、志穂は全身を駆け巡った鈍い電流で知った。志穂はそれだけで、自分の四肢から力が抜けていくのを感じていた。

 ひとたび女の場所を知った老人の舌はあらん限りに伸ばされ、その熱き内部を目指して絶えず動き続ける。抱えた尻から緊張が抜けていくのも分かった。

 志穂の手もまた、知らず知らずの内に義父を叩く事を停止し、今はどこかに行ってしまいそうな自分の躰を必死につなぎ止めようと、バスタブの縁を力なさげに捉えているだけだった。他人がその様子を見れば、誰もが『男の舌愛撫に身を任せる淫乱な女』と表現するに違いない。

「んんっ……く、ふっ」

 切なげな呻きが、女の口から洩れる。抵抗したい。だが、力が入らない。それどころか、義父に舐められているあの部分から湧き出でて来るどうしようもない感覚に、身を任せ始めている。つらい。たまらなく、つらい。

 義祐はくぐもった呻きを上げながら、すでに力のこもっていない志穂の花芯を舌で蹂躙していた。先程まで固く閉ざされていたそれは、今はもう充分な蜜を湛えて義祐の舌を受け入れている。自分の唾液と女の愛液によって、義祐の顔面はべとべとだったが、それすら最高の悦びだった。

「く、ひいっ……ふあっ、んああっ!」

 次第に高くなっていく声が、狭いバスルームに反響する。自分の淫裂が義父の顔面に熱い液体を浴びせ掛けている事に気がついている。しかし、もう自分ではどうする事も出来ない。すでに昂まり始めている自分を省みて、夫の愛撫よりもそれが的確である事にも気がついていた。義祐があと数回、淫裂を舌で抜き差ししていたなら、志穂は悦びの声を上げてしまっていたに違いない。

「ん、んふ……っ?」

 しかしその瞬間、義祐は息子の嫁から体を離した。常識とは裏腹に、志穂はその義父の動きに切ない思いを感じた。夫の父によって絶頂を迎える事など許されないのに、志穂は間違いなく今、義祐の舌でのオルガズムを求めていた。

 支えを失った志穂の躰は、魂が抜けたように力無くバスルームの床に崩れ落ちた。全身が、たまらなく熱い。昇りつめる寸前に放り出された女の瞳は、目の前の立ち上がった義父の姿を、うつろな眼差しで見上げた。

「……」

 義祐は無言で何かしている。志穂の目の前に、なにやら忙しげに動く義祐の手が見える。

 そして、なにかが弾き出た。それは、予想もつかない物体。黒く、長く、太く……。比較するのは、夫 祐二のものしかない。しかし、たとえうつろな思考の中でも、それが正しい比較にならない事は今の志穂には分かる。あまりにも、違いすぎる。

「あ……っ」

 それが、ゆっくりと近寄ってくる。なぜかとても快い気持ちになって、まるで眠りに落ちるように、ふうっと意識が飛んでいった。

 

 

 まだ目を覚まさない若い女を、義祐は悦びに打ち震える全身で見下ろしていた。ついに、ついに志穂を手に入れる事ができるのだ。

 薄いブルーで統一された浴室の、そのバスタブに志穂の裸身が寄りかかっている。冷たいシャワーの水滴に濡れた裸は頭から脚の先まで、完璧なまでに美しかった。

 なにげなく、視線を自分の下半身に落としてみる。

「……くくっ」

 思わず小さな笑いが洩れた。さきほど志穂が驚愕した自分のモノに、義祐は初めて自分でも気がついたのだ。すべてが衰え切っていたはずの自分の体で、ただ一つその部分だけ若々しい力を漲らせている。

 十、二十代の頃は、このモノで村の若い娘を何人も悦ばせていた覚えがある。しかし、物静かな妻を嫁に迎えた時から、相手はその妻ただ一人となった。その妻も亡くし、分身が勃起する事などだた一度もなかった義祐は、自分の老いを恨みながらも諦めの気分を持ち始めていた。

 しかし、違うのだ。魅力的な女、いや性欲を刺激する女がいなかっただけなのだ。そして今、その女が義祐の前に現れた。

 脚を持ち、ゆっくりと志穂の躰をずり下げてみる。浴槽にもたれていた志穂の裸体が、そのままバスルームの床に横たわる。

 

 

光を湛えて、黒く輝く髪。

 瞼を閉じていても、印象の変わる事のない美貌。

 ほんの少しだけ開き、まるで男を誘っているかのような紅い唇。

 濡れた髪が数本貼りついて、その肌をさらに魅力的に見せる首筋。

 重力に負ける事なく、形良い曲線を呼吸に合わせてゆっくりと上下させる胸。

 些細な窪みなのに、肉体全てを淫らに感じさせるへそ。

 肉感を失わずに、それでいてしっかりとくびれている女らしいウエスト。

 流れる水を受けて、滑る水滴を輝かせている尻。

 あまりに美しく、あまりに淫猥な繊毛の茂り。

 語感から感じるままの魅惑的な迫力を男に与えるふともも。

 引き締まっているのに、適度に肉を湛えている脚。

 子供のような瑞々しい艶を持った、若々しい指先。

 

 

明るい日差しの下で、じっくりと女の裸を眺めた事などなかった。しかし、たとえ機会があったとしても、これほど美しい裸体には決して出会えなかったであろう。なにより、老いた肉体のただ一点の誇らしさが、それを証明している。

 義祐は嫁の体の前にゆっくりと跪いた。そして何故か、たった一度掌を合わせた。

 焦ってはいない。義祐は今、幸福だった。自分の股間の怒張と、志穂の茂みに隠された淫裂が相対した時、この世の事象はすべて自分の為にあるように思えた。だからこそ、このような反道徳的な行為さえ、ゆっくりと時間をかけて愉しもうという余裕さえ持てたのだ。

 体を、その恐ろしいまでに美しい志穂の裸の上に乗せていく。途中、分身の先がふとももに触れた。そんな些細な事でも、義祐の全身にこの上ない感動が駆け巡る。

「……おお」

 唸りしか出て来なかった。至近距離から見る息子の嫁の顔。いつも眩しいくらいの笑顔を湛えていた顔。しかし今は、自分の目の前で無防備にその美しさを晒している。引き寄せられるように、少しだけ開いた唇に口づけた。柔らかい感触が、痺れるような感覚と共に体に伝わって来る。初めての接吻と比べ、どちらが喜びに溢れていただろうか?

 左手を伸ばし、女の濡れた髪を撫でた。同時に右手は、それがまるで自然の動きのように若妻の豊かな双胸にあてがわれる。

「……おおお」

 くにくにとした桃色の突起が、手のひらの中心を刺激する。志穂は気を失っているのに、確かに欲情しているのだ、と義祐は感激する。

 髪の触り心地を味わっていたもう一つの手も、すぐに胸へと滑り降りてくる。そして義祐は、思う存分自分の両手を動かした。それは『揉みしだく』としか表現できない動きだった。強く指に力を込めても、それを柔らかく包み込むように弾く肉の感触。揉む、弾く。揉む、弾く。

「ふ……んっ」

 かすかだが、志穂の唇から声が洩れた。志穂の意識は、どこにさ迷っているのだろうか。肉体の本能的な反応と共に、虚ろな思考さえ次第に甦ろうとしていたのだ。

 時ここに極まって、義祐はついに決意した。志穂を、犯す。

 皺の刻まれた両腕が、信じられないような力で志穂の腰肉を抱えた。再び、怒張と淫裂が相対する。60歳と26歳。義父と嫁。男と、女。

 分身の先端が、繊毛を掻き分ける。掻き分けた先には、びっしょりと濡れた肉襞の感触。

「うう、んっ」

 志穂がまた喘いだ。先程よりもさらに大きく。男の逞しいものが自分の熱い部分に触れた事を、微かな意識の中で悟ったようであった。そして、その逞しいものの圧力が次第に増していくにつれ、自分の躰の熱さも実感できるまでになっていた。

「……おおおお」

 義父の感動の声に、志穂の瞼が少しだけ上がった。最初に感じたのは、自分の目の前で午後の日差しをさえぎる影。その影の主がすぐに義父だと分かる。優しい瞳で、組み敷いた自分を見下ろしている義父 義祐。志穂は思い出した。義父は自分とセックスしようとしている。そしてなぜか、自分はそれを拒否しようとしていない事に戸惑う。

「あ、あんっ」

 今までのうめきに近い声とは少しトーンの違う声が、美しき若妻の唇から発せられた。淫裂に迫る肉のこわばりは、先程よりさらに圧を増して自分の体内に侵入しようとしている。

 いけない、とは思っていても、思い浮かぶのは愛する夫との『比較』である。頭が混沌としているからこそ、そんな単純な事しか頭には浮かんでこない。そしてその単純な比較が志穂の、いや女の本能に直接訴えかけて来るのだ。

 義祐の分身がさらに狭洞を押し開いていく。男のモノは一気には侵入せず、まるで肉の細胞一つ一つを楽しんでいるかのようにゆっくりと進み、やっと張ったえらの部分が見えなくなった程度だ。さきほどなぜこのモノを見て失神したのか、志穂にはだんだん分かってきた。えらが、固い。幹が、太く長い。そしてそのモノが、自分が今まで経験した事のない『なにか』を与えてくれるような予感がしたからなのだ。

「……おう」

「は、あ……んっ」

 怒張が女の肉体に収まり切った瞬間、初めて二人の嗚咽が重なった。それはまるで、これから始まる忌むべき交歓の開鐘のようでもあった。

 義祐にとっては、何十年ぶりかの交わりである。そして相手が、この上なく魅力的な女である事が、何よりもの幸せだった。腰を動かすのが恐ろしいまでにもったいなく感じて、しばらく志穂の内部体温をゆっくりと味わっていた。

「く、うん……っ」

 対する志穂の方は、どうしようもなく切ない感情を抱いていた。男のモノがしっかりと躰に打ち込まれているこの状態で、なぜにこんなに不思議な感覚が湧いてくるのだろう、と。そして、その『不思議な感覚』というものが何であるかも、志穂には分かり始めていた。しかしそれを認める事は、今まで愛する夫 祐二と築き上げてきた幸せを、全て否定する事につながるのだ。

「ひ、いんっ!」

 瞬間、女の躰中に稲妻が走る。男が、動いた。動きに引き寄せられ、全身の神経が波打ったようだった。思わず、少女が急に出現した犬に驚いたような声を上げてしまう。義祐もまた、悦びに打ち震える猛った自分自身を包む女の粘膜に堪えられなくなったからこそ、ほんの一度だけ腰を突き入れてみせたのだ。

「おお、志穂さん……」

 何かを確認するかのように、義祐は息子の嫁の名を呼んだ。その声が、志穂の脳に篭りながら響いた。さらに思考を掻き乱す。

「あうんっ、お義父さま……っ」

 確かに、志穂は義祐を呼んだ。たまらなく甘い声で。ほんの少しだけ腰を動かされただけなのに、躰中が燃えるように熱い。流されそうになる肉体をなんとかつなぎ止めようと、志穂の白い腕はバスタブの側面を掻き毟る。義祐のたった一突きが、若い女の全てを奪い去ろうとしていた。

 もうためらいはない。老人は男となった。自分と同じように息子の嫁を、女とするために。

 志穂の柔らかな腰肉をしっかりと掴み、ぐっと自分自身を押し入れた。

「はあ……んっ!」

 夕暮れのバスルームに、志穂の叫び声が響いた。断続的に続く義祐の躍動に、志穂の躰はさらに高められる。さきほどまでバスタブを切なげに這っていた掌は、義父の体を押し返そうとはせず、限りなく声を上げてしまいそうな唇にあてがい、歯でその指を噛んだ。

「ひ、く、あうんっ!」

 誰かが聞いていればおかしくなってしまうような喘ぎを、志穂は必死で押し閉じているはずの唇から発していた。そんな女の痴態を眺めている義祐も、相手を悦ばせるという男の本懐に酔い始めている。こんなに魅力的な女を、こんなにも淫らに変えていける喜び。男にとってこんなに素晴らしい事があるだろうか。

「う、おお……」

「あ、あんっ……ああんっ!」

 声が、高くなった。指先は、もう唇にはない。冷たいタイルの床を妖しく漂っている。その手が、図らずも義祐の白髪混じりの頭に辿り着いた時、行為の当事者二人には全く不自然に感じられなかった。義祐もその動きに違和感を覚えずに、さらに激しく腰を動かした。

「あ……うんっ!は、ああ……っ!」

 義祐の額から志穂の白い裸体に汗が滴り落ちる。志穂の躰も、全身から来る熱さに炙られ透明な汗の粒を浮き上がらせていた。

 感じやすい躰を、夫婦の営みにおいていつも持て余していた志穂が、今自分に押し寄せてくるさらに強い感覚に必死に闘っていた。このまま義父との忌むべき繋がりが続けば、自分は間違いなく心も躰も激しく乱してしまうだろう。それが、何よりも恐ろしかった。

「お、おうっ、し……志穂さん」

 眉を反らせて耐える息子の嫁。この女が必死に耐えている物の正体に、義祐は気がついていた。事実、志穂は我慢していても、高い声を洩らし首を切なげに振っている。その女の仕草は、すべて自分が振るっている肉茎によるものだ。そして義祐は、今の志穂の状態が快感に崩れ去る寸前である事も悟っていた。あと一歩だ。あと一歩で女の一番美しい姿を見る事ができる……。

「ひ、あ……っ!」

 その瞬間、志穂の声のトーンが明らかに変わった。義祐の指先が、不意に密着した接合部に忍んできたのだ。目的は、あの性感突起だ。若い頃の経験から義祐は、志穂の自意識を破壊する鍵がその肉の豆だと踏んだのだ。

そして、その読みは的中する。

「あんっ、あんんっ!はあ……あっ!」

 一番触れられてはいけない場所、志穂にとってクリトリスはまさにそうだった。二人の絡みあう陰毛を掻き分けて侵入して来た義父の節くれ立った指。その指先が腰の躍動と同調して膨らみきったクリトリスを刺激している。自分の愛液が、その行為によって一段と溢れ出したのを、志穂は昂ぶっていく意識で悟った。義祐の頭に申し訳ないようにあてがっていた志穂の手は、今はっきりとした意志を持って力が込められた。

「志穂……さ……志穂っ、志穂ぉ!」

「ああんっ!お義父さまぁ……んっ!」

 頭の中で何度も火花が爆ぜる。二人とも、何かを求めて身体をぶつけていた。汗が、シャワーの水流と共にバスルームの床に流れを作り始めた。

「あ、ふうんっ……お義父さ、まっ……ひあ!」

「おおっ、志穂……っ!おおう!」

 60歳の老いた肉体に潜んでいた激しい欲望が、女の若々しい肉体をついに浚った。志穂の腰が、義父の突きに応えて、その時淫らに揺らめいた。志穂の心とは違う女としての本能が、やがて訪れるであろう最高の瞬間のために自然に動き始めたのだ。

「ふ……くううっ!あん、あん、ああん……っ!」

 自分の淫らな動きに未だ気づかぬまま、志穂はバスルームのタイルに喘ぎ声を反響させた。そして、何かが身近に迫っているのをはっきりと感じていた。その何かは、頭の中で光りの球となって志穂に迫ってくる。光球が自分に触れた時、それは自分が自分でなくなる瞬間なのだ。

 しかし、事態はある物音で急展開した。昂ぶり切った意識の中で耳に届いた微かな物音。金属の軋む音、軽い摩擦音、居間のドアの開く音……開く、音。

「あ……っ!」

 何が起こっているのか、そして何が起ころうとしているのか、志穂は気がついたはずだ。しかし、腰を巧みに繰り出す義父のテクニックに気持ちがすぐに浚われてしまう。

 もちろん、義祐も今の事態は理解していた。物音は、玄関ドアが開き誰かが廊下を走って居間に入った事を表している。誰かが帰宅した。それは間違いなく孫 等であるはずだった。きっと等は、居間にいつもいるはずの母親の姿を探し始めるだろう。もしも、そうなったら……。

「ああっ、お義父様っ……ひと、しが……あ、ああんっ!」

 辛うじて残っていた微かな道徳心で、志穂は義父に訴えかけた。しかしその声も、義祐の繰り出すペニスの心地よさに上げる自分の喘ぎにかき消されてしまう。義祐もまた、たとえ誰に邪魔されようとも、この美しい女との交歓を止める気はなかった。息子の嫁を犯す禁忌は、義祐の至上の悦びであったのだ。

「ああん……っ、もうっ……お義父さ、まぁ、等、ひとしがぁ……んっ!」

「……志穂さん、志穂っ!お、おうあっ!」

 声が、止まらない。腰は、動き続ける。光が、爆ぜる。

 まず、義祐が果てた。何年ぶりかの熱い迸りを、志穂のぬめった内部に大量に放出したのだ。

 そして、その迸りを膣奥に感じた瞬間、志穂のヴァギナはその義父のモノを最大限に絞り上げた。

そのまま、絶頂が訪れる。義父の肉茎に歓喜の愛液を浴びせかけながら、その時志穂は涙さえ流していた。

 自分の上の義父が、身体をがっくりと崩れ落ちとした。自分と義父の荒い息が交錯する。

 パタンっ、と音がした。志穂が虚ろな瞳をその方向に向ける。そこには、脱衣場の扉。

 続いて、先ほど聞いた廊下を走る足音……。

 シャワーの音が、嫌に大きく聞こえ始めていた。

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