第8章前半
受話器を置き、義祐は笑った。電話相手の提案は、自らが願う理想にさらに近づけるものだったからだ。心に浮かぶ様々な妄想が、義祐の体に力を与える。粗末なアパートの玄関でサンダルを履く足取りも、まるで少年のように躍っていた。
「ほうら、綺麗にしましょうね」
「もー、ママ冷たいよぉ!」
まるで若い恋人同士のように、志穂と等はバスルームでじゃれ合っていた。真夏、真昼、子供部屋、等のベッド……熱い汗を交わし合い、今その汗を流しながら互いに幸せな気分を味わっている。
「ねえママ」
「ん、何?」
「もう、『ダメ』なんていわないでね」
まるで汚れの感じられない瞳で、等がまっすぐに自分を見つめる。志穂の心が、きゅんと熱くなる。
「……わかったわ、等。これからもずっとママが、等をあんなふうに愛してあげる」
きっと自分が今浮かべている笑顔も、等の瞳のように澄み切っているはずだ。こんな自信は、夫である祐二を愛していると確認した時以来だ。瞬間、祐二のやさしい顔が浮かんだが、志穂はもう戸惑ったりはしなかった。
(そう、わたしは今も祐二さんを愛してる。きっと、心から。だから、祐二さんと一緒に生み出した等を、祐二さんと同じように深く愛することができる……)
息子の全身にシャワーの水流をかけ、幼く瑞々しい肌に触れながら、志穂は母としての喜び、そして女としての喜びを同時に実感する事が出来た。
その時、まるであの日のデジャヴのように、玄関のドアホンさえ鳴らなければ。
「散歩、だけなんですね……?」
「ああ、そんなに疑わないでくれ。こんないい夏の夕暮れ、こんな日は綺麗な女と二人で歩きたい、そう思っただけだ」
義祐と志穂、二人は駅前の公園に向かう道をゆっくりと歩いていた。口づけを要求するでもなく、腰に手を密着させるでもなく、露出度の高い服を要求するでもなく、義祐はただ、志穂と並んでその道を歩いていた。
義祐が尋ねて来たのは午後4時頃。志穂は、冷たくなっていく心を押し隠しながら、バスタオル一枚を巻いて義祐を迎えた。しかし、今日の義祐は違っていた。志穂の露わな姿に一瞬も変わった様子を見せず、穏やかに訪問を告げた。志穂の後を追い裸のまま顔を出した等にも、義祐は優しい祖父の笑顔を投げ掛けた。そうしてしばらく、志穂の動揺をよそに義祐は、勧められたワインを飲みながら、等に若い頃の話などを語っていた。やがて等が、軽めの夕食を食べた後、眠気を母親に告げた。
「ママ、僕眠くなっちゃった」
「……え、ええ。じゃあ、もう眠る?」
「うん。今日はいっぱい体を動かしたから、すごく疲れちゃった」
その言葉にハッとして、志穂はあわてて義祐を見た。等の余りに無垢な言葉は、無垢であるがゆえに志穂の心を掻き乱す。
「そうか。なあ等、若い頃はいっぱいいっぱい躰を動かした方がいいぞ」
「うん!」
義祐はその時も、優しいおじいちゃんの姿勢を崩さなかった。志穂は胸をなでおろしたが、逆に今日の義祐の心がまるで読めなかった。
昼間互いにくねり合ったベッドに等を寝かしつけ、志穂はリビングへと戻る。しかし義祐は、まるで今日の午前中とは別人のように落ち着き、黙って残ったワインを飲んでいた。
「……お義父さま」
「ん?」
「……っ」
「どうしたんじゃ、志穂さん」
「あの……あのわたし、明日の買い物へ行かなければならないんです」
「ああ」
時計は午後6時を指していた。何も起こっていないのに、何かに怯え続けなければならないこの空間。志穂は勇気を出して、他愛の無い言葉を投げ掛けた。
「……そうじゃ、志穂さん。お願いがあるんじゃが」
ざわめく気持ち。志穂は息を呑んだ。
「散歩に、行かんか?」
戸惑いだけが、増して行く。
駅前は学生やサラリーマンの姿で賑わっていた。閑静な住宅地にある駅。その前にある、昼間は家族連れで賑わう美しい公園。義祐はそこに志穂を誘った。駅前の喧騒と違い、公園の中は静かな雰囲気だった。
「ふう……年寄りにはこの距離もつらいな。なあ志穂さん、ここで休まんか?」
「え、ええ」
公園のベンチに、二人は座る。義父はまだ志穂の躰を奪う前の、寡黙で優しい義父の姿勢を崩してはいない。しかし、志穂は疑いを拭い去る事は出来ないでいる。それはそうだ。つい10時間ほど前、義祐は志穂の肉体を犯した。電話の先にいる夫に愛の言葉を吐き続ける女を淫らに歪ませて、激しく肉欲を貪ったのだ。目の前にいる男 義祐がその10時間の間に、全てを忘れ去ったというのだろうか?
「なあ、志穂さんや」
「……はい」
「等も、だいぶ大きくなったなぁ」
「……もう、小学1年生ですから」
志穂は、隣に座る義父の横顔を見た。微笑みを浮かべ、どこか遠くを眺めている義父。もしかして本当に、昔の優しい姿に戻ってくれたのだろうか。改心して?後悔して?心に渦巻く困惑は、少しだけ沈静化する。
「……祐二も等と同じ歳ぐらいが、一番活発じゃった。田舎の野道を、そりゃあ元気に走り回っとったもんさ」
隣にいる義父の瞳に、懐かしさが宿ったように見えた。こんなに穏やかに夫の事を語る義父を、志穂はしばらく見ていなかった。もしかしたら、結婚を報告するために初めて実家を尋ねた時以来ではないか。今朝、その息子祐二を嘲笑していた同じ口で、義祐は息子の幼かった頃の想い出をゆっくりゆっくり語っているのだ。
「……そして、あんたのような綺麗で気立てのいい嫁さんをもらった。祐二はさすが、俺の息子じゃ」
「……はい」
義父の想い出話は、そうしてしばらく続いた。夕日は彼方に沈み、周囲はいつの間にか夜に染まっていた。駅前の賑やかそうな明かりに比べて、公園内はぼおっと灯る街灯が幾つか街路を照らすだけ。
「志穂さんも、この公園に昼間等を連れて来て遊ばせるといい。わしはよく昼間に散歩に来るが、ここはいい公園じゃ。緑が多くて、遊具も立派な物ばかり」
信じかけていた。志穂は義祐の言葉につられ、頭の中で明るい陽光の元、夫や自分とはしゃぎ合う息子の素晴らしい笑顔を想像していたのだ。義祐が何故こんな話をしているのか、考えもしないで。
「それにだ、志穂さん」
「え……?」
「この公園は、夜も素晴らしい。まだ、気づかんか……?」
「?」
立ち上がった義祐は、夜の闇に沈んだ公園を見渡すようにする。志穂もそれに倣い、ベンチに座ったままで周囲を観察してみる。
「……」
何も無い。ベンチの少し先には遊歩道。遊歩道の先には良く手入れされている芝生。その先には、刈り込みのされた植え込み。
いや、そこには何かあった。あったと言うより、何か、いた。植え込みのすぐ向こうに、誰かがいる。誰かがいて、何かをしている。
「……まだよく見えんか?なら教えよう。ここは昼間には管理員が見廻って、単なる綺麗な公園に過ぎんが、6時を過ぎると全く様子が違ってくる。寝床を探して集まってくるホームレス、場所も考えずにいちゃつく若いカップル……」
目がだんだん闇に慣れてきて、志穂は植え込みの向こうにあるものに気がついた。それは、二組の脚。二組の脚が、規則的な運動にくねり合っている。それが意味する事を理解できないほど、志穂は無垢であるはずが無かった。
「要するにわしも、その仲間に入りたかったというわけだ。……いつも家の中じゃ、つまらんじゃろ?」
振り返った義父の顔に、志穂は絶望した。ついさっきまでの優しい表情は完全に消え失せ、自分の肉体を隅々まで奪おうとする、あの恐ろしい表情に変わっていたからだ。
「ああっ、お義父さま……っ!」
「……淫乱なあんたも、さすがに外でやったことはなかろう?それと……人が見てる前でも、な」
体を飛びつかせるようにして、義祐はまるで硬直してしまったような志穂を、抱き締める。
「人が……見てる……?」
そんな恐ろしい事、想像したくも無かった。抱かれるのは、苦しみながらももはや仕方が無いと思っている。しかしそれは、限られた時間、限られた空間の中でこそ、耐えられるものだ。こんな人通りの激しい駅前の公園の、誰かが見ているというこの場所で抱かれるなど、志穂にはとんでもない事だった。
「昼間散歩に来るたびに、この公園に住むホームレスたちと仲良くなったんじゃ。彼らは、公園でセックスするカップルを陰から覗く事でストレスを発散している。だから……言ってやったんじゃ。『わしには、何でも言うことをきく若い女がいる』とな。ほら、よく見てみろ。そこの茂みにもあそこの茂みにも、わしらのつながりを今か今かと待っている出歯亀たちがいるぞ……」
耳元に告げられる囁きに、志穂の全身がこわばっていく。躰を無理矢理奪うだけでは飽き足らず、その禁じられた交接を皆の前に晒そうというのだ。この男は、どこまでわたしを堕としてゆくつもりなのだろうか。
「いや、いや……っ!」
志穂は首を振る。覗く瞳たちは、老いた男と若々しい美女との淫らなつながりを待ち望んでいる。それから逃れるため瞳を固く閉じても、そこには優しい夫や愛息 等の笑顔が煌く。どちらからも逃れることの出来ない二重背反に、志穂は囚われてしまった。
「さあ、見せてやろうじゃないか。あんたが他人に見られていても、躰を弄くられればすぐに感じてしまう淫乱女だということを……」
義祐は悪魔のような言葉を吐きながら、服の上からでもたわわに膨らむ志穂の胸を揉みしだき始めた。周囲にいくつもある植え込みに幾人の覗きがいるのか、志穂には分からない。しかし、確かに視線は感じる。その現実に、悪寒が皮膚全体を駆け巡る。
「ククっ……震えておるのか。よしよし、今度はわしの指で震えさせてやろう」
バストをしだく動きが、宣言通り激しくなっていく。指先、指の腹、手のひら、手首の捻り。老練な男の巧技が、志穂の奥底にたゆたう女の本能の泉をゆっくりと乱し始める。皮膚の表面は恐怖に震えているのに、躰の中心からは熱くてたまらない感情が湧き上がって来る。
「ほらほら、我慢せんであのいやらしい声を上げるがいい。ここにいる連中はみんな、あっち方面に飢えている。あんたがいやらしい声を上げれば、みんな喜んでチ○ポをおっ立てるだろうよ……」
卑猥この上ない囁き。羞恥に彩られる肉体さえも、指戯と相まってさらに高められていく。
志穂は霞んでいく思考の中で、また自分の淫乱な躰を呪っていた。激しく犯される事を拒否しながらも、無理矢理に抉じ開けられる悦びに染められていく、淫乱な躰を。
「くっくっ。さすがに外では我慢強いか……しかし、ここを弄くられたら、どうだ……?」
左手を豊胸に残したまま、義祐の節くれ立った右手は、もそもそと滑らかな手触りのスカートを降りていく。ウエスト、腰、太もも。素肌を今まで何度も味わったはずだが、今の志穂はこれまでと違う。衆人環視の中、恥辱に固く瞳を閉じながらも、その初体験の恥辱によって殊更強調されていく鈍い快感。志穂がその快感に、小刻みに躰を震わせながら耐えている事を、義祐は知っていた。
その堰を切ってしまえば、志穂は狂う。たとえ、誰が見つめていようとも。そして、その堰を突破する自信が、義祐にはある。
「ほうら、手を中に入れるぞ……振り払わんのか?」
「あ、うう……や、やめ、てっ」
弱々しい声だけの抗いは、義祐のてのひらに何ら影響を与えなかった。裾から指先を差し入れ、若々しく張りのある素肌の感触を味わう。太ももを撫でまわし、その動きをゆっくりと内側のほうへ移動させていく。
「んく、んんうっ……ふうっ」
今度は指先が、色熱を帯び始めた柔肌を攻撃し始めた。ショーツのクロッチを沿わせながら、義祐は志穂の唇から洩れる吐息を楽しむ。そんなもどかしげに責めてくる指先に、志穂は義父の望み通りの艶っぽい喘ぎを洩らしてしまうのだ。
「ふ、あっ、くうっ……ん」
撫でられ続ける皮膚から、びりびりと全身に電流が駆け回る。まただ。またこの男にじんわりと、狂わされていく。
「ひあっ……おとう、さ……っ」
唇から自然に洩れそうになった言葉を、志穂は唇に力を込め慌ててつぐんだ。自分の周りには、性に飢えた覗き魔達がいる。その人々に、二人の関係が義父と嫁であると知られた時、どんな謗りや嘲りを身に受けるだろうか。
節立った指先がついに、ショーツを越えて熱く高められている地帯に侵入して来る。
「あ、んくっ!」
自分のその場所が、当たり前のように潤っているのを、志穂は屈辱の中で感じていた。指の巧みさだけではない。わざと辱めを強調させる義父の囁き、周囲に確かに存在する顔も見えぬ人々の視線、公園の外から聞こえて来る賑やかな声……志穂は、性の悦びを最も感じてはいけない状況で、本能のままに愛蜜を滴らせてしまう。
「くっくっ……さあ喘げ。皆があんたの色っぽい仕草を待っているぞ」
「ん、く……い、やです……っ」
小さな声で拒否の言葉を搾り出すのがやっとだった。無論義祐は、それを心から信じてはいない。
義祐は、義祐本人が今一番見たい舞台を組み立てているのだ。第三者の目の前で志穂がどう乱れ、どう狂うのか。義祐が最後の最後に用意する、素晴らしい仕掛けに志穂を堕とすまでは、志穂を思う存分嬲ってやらねばならなかった。
「ココをこんなに濡らして……あんたはほんとに仕方のない女じゃな」
表襞を撫で回す義祐の指。志穂の全身から、躰を支えるための力が抜けていく。
「あんっ、ふう……んくっ」
粘るような呻きを残しながら、志穂は夜の公園の冷たい芝生に腰を落としてしまった。潤んだ瞳で、目の前の義父を見上げる。仁王立ちした義祐は、あの冷酷極まりない微笑を浮かべ、恐怖と恥辱に慄く志穂を見つめている。
「お願い……やめて、下さい……っ」
懇願の貌は、義祐の加虐の欲望に更なる興奮を与えただけだった。両手でゆっくりと、まるで志穂に見せつけるようにズボンのベルトを外していく。カチャカチャと擦れ合う金属の音は、目の前の若く魅力的で、この上なく淫らな女の耳にどう聞こえているだろうか?
「……あ、あっ」
トランクスから、あの恐るべき凶器が現れ出でた。初めて見た時、余りの存在感に気を失い、その後何度も激しく哭かされた、恐ろしくも逞しい、愛する夫の実の父親の、ペニス……。
「……わしが何をして欲しいか、あんたならもう分かるじゃろ?」
冷たく低い義祐の声が、志穂の心に響く。義祐の望む事、志穂が想像してしまった事は、おそらく同一だろう。この男は、ついさっきまで優しい老父の表情を崩さなかった男は、茂みの向こうからこちらを好色の瞳で眺める出歯亀達の眼前で、志穂に口淫をさせる気なのだ。
「い、いや……堪忍、してっ」
「……もっと利口になりなさい、志穂さん。あんたが拒否すれば、わしはあんたとの続柄をばらしたって構わないんだ。ここにいる連中は、昼間ここに来る奥様達の噂話にも精通しとる。噂の広がり方は、とんでもないぞ」
それが単なる脅し文句なのか、それとも事実を孕んでいるのか、混乱する志穂には定かではなかった。しかし、やはり、志穂は想像し怖れた。自分が普段なにげなく加わっている、若い主婦達の噂話に、自分の淫らな話題が上がる事を。
「さあ、志穂さん……どうするね?」
「は、あっ」
小さな吐息。抵抗を諦めた吐息かそれとも、目前に差し出されたモノに抱いた劣情の吐息なのか。
志穂の赤く細い舌が、ゆっくりと義父の熱い先端に触れる。
「おお、そうだ。いいぞ……くくくっ」
もどかしげに動く志穂の舌が、硬く張った肉先に沿うチロチロとした舌が、志穂本人の当惑を如実に表していた。積極的に舐めてはいけない。しかし舐めなければ、全ての幸せが砂上の楼閣のように脆く崩れ去るだろう。
「ほらほら、もっと熱心に舐めんか……今さら恥ずかしいとは言わせんぞ」
腰を突き出すようにして、義祐が怒張を若妻の顔に押し付けた。自分の唾液、義父の先洩れ汁が鼻先や頬に糸引く。そこから沸く男の性臭が、志穂の中心をどうしようもなく熱くざわめかせる。
「さあ、舐めろ……あんたの大好きな、わしのチ○ポじゃ」
志穂の頬の柔肉が、凶器の幹で淫らに歪む。きっと周囲の者たちは、声も出さずに嘲笑している事だろう。あんな恥ずかしい事をされて、拒否しようとしない若い女の事を。
「……ん、んふ、うっ」
強い圧力を逃れるためか、それともざわめきを抑えるためか。志穂は、義祐の怒張を美しい唇に呑み込んだ。
「そうだ、その調子……ほらほら、興が乗ってきたようじゃな」
義祐の冷たい嘲りが、志穂の心を打つ。しかし、義父のモノに絡み付いた舌はうねうねと蠢き続けている。あの日バスルームで義祐に抉じ開けられて以来、志穂の心と躰は女の本能によって乖離させられていく。
「ん、ふ……んんうっ」
くぐもった呻きに、唇から洩れた濡れ音が混じる。老義父の腰に両手を回し、激しく前後する美貌。志穂の上半身は今、義祐の怒張を舐めるためだけに存在していた。
「志穂さん……志穂さん」
義祐が半身を折って、禁じられた口淫に熱中する志穂に、低いトーンで囁きかける。そんな空気の微振動だけで、志穂の女の中心はこの上なく疼く。
「ココが淋しいのなら、あんた自分で弄くってみたら、どうだ……?」
指先がほんの少しだけ、志穂の秘所を突いた。
「んく……っ!」
自分が物欲しげに尻を振っていたなど、志穂はまるで気づかなかった。ほんの一瞬の義父の攻撃が、ほんの一瞬だったからこそ滾った亀裂をじんじんさせる。
「ほら、やはりたまらないんだろう……そら、自分の指で弄くれ。志穂さん」
受け入れ難い男の命令。なのに腰に回された志穂の指先は、何かに迷うように動く。
スカートの捲れ上がった尻は、もしもすぐ後ろで見る者がいれば、淫猥この上ない光景であったろう。淡いピンクのショーツは、あの熟れた場所を指し示すかのように、濃い桃色の染みを作っていた。
「うむ……っ、ん、んふっ」
そして、志穂は想像する。その濡れたショーツの中に、自分の手が滑り込み、自分の指が自分の熱い部分を、まさぐる自分を。
「さあ志穂さん……弄くれ、思う存分自分のいやらしい所を弄くれ……」
右手が、義祐の腰を離れた。駄目になっていく自分を、志穂はその時はっきりと自覚していた。そして、駄目になっていく自分を、志穂はその時確かに望んでいた。
「ん、くっ!」
ショーツの上から、志穂は自分の場所に指を沿わせた。中指の腹に、自分の愛液が冷たい。男の腰に縋り、唇に肉柱を含みながら、薄布越しに淫裂に指を這わす。あまりにも淫らな自分の姿。志穂は義祐の腰に残った左手の爪を、恥辱や黒い悦びに耐えるため、義祐の肌に立てた。
「くっくっくっ。そう、いい調子じゃ……どんどんおかしくなるがいい」
無論、義祐はそれを怒らなかった。女が男の肌に爪を立てる。それが男にとって苦しいはずがない。
「んふ、んんっ……んう、ん、んふう……っ」
義祐の言葉の通り、志穂はおかしくなっていた。始めは身分を隠すため、自ら淫らに振舞うつもりだった。しかし義父の囁きや覗き達の視線に浮かされ、志穂は猥褻な本性を露わにしていった。
額に美しい汗を浮かべながら、志穂は躰をくねらせる。
右手の指先は濡れたショーツを自ら下ろし、直に自分の花芯の潤いをしっかりと探り始めた。
「ん、んむ、んふっ!」
自分の指先で自分自身を玩ぶ恥辱。しかしその恥辱から出でる快感の声は、口に挿入された怒張によってさらに艶やかに発せられる。志穂は、自分が世界で一番淫乱なのではないかという錯覚に陥っていた。
「見事な乱れようだな、志穂さん……。そう、あんたは元々そんな乱れた女なんじゃ。あいつにおとなしく抱かれているような、そんなタマじゃない……くっくっ」
自分の夫であり、義祐の実の息子である祐二のことを、あえて義父が『あいつ』と呼んだ事に、志穂はさらに躰を震わせた。自分や等のためにどこか遠くの土地で一所懸命働いている夫を裏切って、その実の父親の怒張を咥え淫らな呻きを上げているのだ。
「ん、く、んふん……っ、んむっ」
唇から洩れる濡れた音、そして潤んだ女陰から洩れる濡れた音が、しっかりと呼応し始めた。志穂が心の奥から乱れ始めた証拠だった。そして、それはいちばん近くで聞いている義祐にはすぐに分かる。
「さあて……」
明らかに、女は淫業に没頭し始めた。義祐はそれを確かに実感し、さらに分身を逞しくさせた。それを合図にするように、義祐は男の微笑にすら気づかないほど尺八に熱中している息子の嫁の頭を荒々しく掴み、突然荒々しく突き放した。
「あう……っ!」
志穂は後ろ向きに崩れ、下半身裸の惨めな姿で尻餅をつく。唇から垂れた唾液と先洩れ汁の混合液が口元に糸引き、志穂のフェラチオへの没頭を表していた。
「ん、ふっ……は、あっ」
膝、太もも、ヒップ、そして女陰……。自分の躰でいちばん敏感な場所に、芝生の感触がちくちくと痛い。
「志穂さん……」
「あ……ん……っ」
潤んだ瞳に、義祐だけが映る。いや、義祐の逞しいペニスだけが、薄暗い街灯の微かな光の下で、はっきりと志穂の瞳に映っていた。
「……うんだ、志穂さん」
「……っ?」
義祐の唇から洩れた言葉を、乱れた思考に支配されている志穂は聞き取る事が出来なかった。
芝生の上に力なくへたり込んでいる志穂に、義祐が近寄って来る。荒い息を吐き続ける志穂の耳元で、義祐は悪魔の言葉を囁いた。
「這うんだ、志穂さん……四つん這いになってわしを誘えば、すぐにコレを入れてやる……わしとあんたが愛し合っている事を、ここの皆に見せつけてやるんだ……」
「い、や……っ!」
こわばりを目の前でこれ見よがしに誇示され、心のざわめきを隠せない志穂。しかし、この要求だけは弱々しくも拒否しなければならなかった。皆に見せつける事も恐ろしいが、なにより『愛し合っている』という言葉が、志穂の自我を殊更刺激したのだ。
「まだ躊躇するのか……いいか志穂さん、ここにいる連中は、あんたを単なるわしの愛人だとしか思っていない。わしはあんたの素性を、皆に言いながらあんたを抱いたっていいんだぞ。『この女はわしの息子の嫁で、わしに犯されてから色狂いになりました』とな……」
志穂の耳元から顔を離した義祐は、股間に嘶く凶器で志穂の横顔を何度も軽く叩く。脅迫の言葉と屈辱が、志穂の心にわずかに残っていた道徳を崩していく。
「……淫らになるんじゃよ、志穂さん」
最後通告だった。
「ああ……っ」
小さな溜息が、志穂自身の引き金であった。下半身を露わに晒したままゆるゆると腰を起こし、すぐそばの立ち木に添った。ざらついた木の肌の感触が、これからこの場所で義父に激しく突かれるのだという現実を浮き上がらせていた。
「さあ、なにをして欲しいんじゃ志穂さん……」
「あ、あっ……」
志穂の躰はゆっくりと裏返っていった。覗き魔達が潜んでいるであろう茂みの方に魅力的な尻を向け、その尻を後ろに立つ夫の実父のほうに差し上げる。
「……れて」
「ん?聞こえんよ志穂さん……」
「……入れて、下さい、ああ……っ」
「ふうむ。歳を取ると頭が回らなくなってな。志穂さんが何を何処に入れて欲しいのかが、わしにはよう分からんのじゃ。なあ志穂さん、わしに分かるようにもっと分かりやすく言ってくれんか……?」
分からないはずはない。義祐は志穂の尻の間に向け、自らの分身をしっかりと嘶かせているのだ。志穂が乱れた言葉を吐けば、すぐにでもその猛った分身を潤んだ秘裂に突き入れるだろう。
「ああ……ゆ、許して……」
「許しても何も、わしはあんたにお願いされている立場だ。どうにもできんだろう……?」
淫猥な微笑みが志穂を見つめた。志穂は、選択肢を完全に封じられた。
「い、入れて、下さい……わ、わたしの、ああっ……わたしの、ココに……くっ、おとう、んんっ……あなたの、それをっ……あなたの、おちんちんをっ……ああっ……入れて、く、下さい……っ!」
全身が、自分の淫猥な言葉に熱く火照った。
「『おちんちん』、か。もっと別の言い方もあろうに……まるで子供に言うみたいじゃないか」
恥辱に煽られる志穂の心に、また少し嵐が吹く。『おちんちん』という言葉、子供に言うみたいという義父の嘲り。
まるで自分と等の事を同時に嘲笑されたようで、志穂の秘口は複雑に歪み蠢く。しかしその変化さえも、その理由に気づかぬ義祐にとっては、素晴らしく淫らな変化だった。
「志穂さん、あんたのココは物欲しそうにまた汁を垂らして来たぞ。こりゃあ入れてやらんと生殺しだな。くくくっ……」
言葉と同時に、どろどろに熟れた秘裂に鋳された肉棒が接触する。それだけで志穂の全身に鈍い痙攣が駆け巡る。
「それっ」
「ひ……っ」
「くひひっ、それそれっ」
「あ、ひいっ」
「いいぞ、志穂さん……それいっ」
「ひ、いいっ!」
一押しごとに志穂が艶やかに喘ぐ。薄闇の中で義祐はほくそ笑む。やはりこの女は、淫らに振舞わせればするほど激しく乱れていく。自分の兇器が体内に分け入ろうとしているのに、『いや』だとか『やめて』などという以前常套句のように使っていた声は、もうまるで聞こえて来ない。その代わりに、以前にも増して艶やかな喘ぎで喉を反らせている。
「ほうら、わしのが入ってしまったぞ。……どうして欲しいんじゃ?淫乱な奥さん……」
耳にビリビリと義父の誘いが響く。体内に埋め込まれた熱いペニスを粘膜に感じ、淫液を浴びせながらそれを食い締めている自分。志穂はどうしようもなく狂い始めていた。
「さあ言え、志穂さん。あんたがして欲しい事をやってやるというんだ。さあ、言うんだ……」
「う、んっ……う、動かし、てっ、……ああっ」
「『動かす』……?ははーん、『おちんちん』をか。全く、困った奥さんだ。こんな老いぼれに、動いてくれと言うのか……くくくっ」
瞬間、ぐぐっと膣内のモノの圧力が増した。
「あ、んくう……っ!」
衆人環視の中、志穂は軽い絶頂に見舞われた。脚と脚の間からだらしなく汁が洩れる。
「さあ、皆の前でもっと乱れさせてやるぞ……それっ」
「ん、ひ……っ!」
義祐が鋭い突きを繰り出して来る。濡れた声を耐えようとする唇からも声が洩れるほど、男の捩じ込みは強かった。しかしその男は、その強い捩じ込みを繰り返してはくれない。全ては、地べたに這い乱れ始めた淫乱女をさらに辱めるためだ。
「どうだ……?一突きごとでは物足りんだろう。あんたが腰を出してくれれば、わしはそれに応えて何度も突いてやるぞ……」
言葉に誘われるまでもなく、志穂の腰はもぞもぞと揺らめき始めていた。志穂の意思とは別の本能が、体内にある牡器官の更なる激しい躍動を求めているのだ。
「ほらほら、尻はわしに突いて欲しいと望んでおるぞ……さあ言え、『もっと激しく突いて』とな」
「……っ」
今度は自分の意志で、志穂はヒップを動かさなければならなかった。腰に力を込め、淫らに義父の方へ下半身を押し付ける。
「……も、もっと、志穂を、んっ……激しく、つい、突いてっ、ください……わたしの、恥ずかしい、あんっ、場所……アソコを、ん、もっと……突い、てっ!」
「ようし……っ」
「ああ、うんっ!」
老体に宿った若々しい情念が、獣のような体勢で傅く若い女を、望み通り激しく突き始めた。
「ひ、いっ……い、んっ!」
望んでいた攻撃が、志穂の肉洞を襲った。猛々しく張ったえらは、全ての潤んだ粘膜をこさぎ落とす勢いで前進・逆進する。あまりにも激しい抽送に、志穂は低い呻きを押し留められないまま、顎をカクカクと揺さぶられるしかない。
「いいぞ志穂さん、もっといやらしく泣け……そら、そうらっ!」
「ひ、いんっ、ん、んんっ、あ、あく、う……っ!」
義祐が望み、そして誘導したように、志穂はすぐにその熟れた肉体を反応させた。義祐が激しく突き入れれば、志穂はもどかしげながらも腰を使い、その美しいヒップをくねらせる。
そう、こんな女に義祐本人が仕立てたのだ。初めて志穂の躰を浚い、激しく犯した夕暮れのバスルーム。その時義祐は本能的に、志穂の淫らな本性を悟った。志穂に恥辱と愉悦を交互に与え、志穂はその牝の本能をさらに開花させた。義祐は思う。志穂は、息子の祐一には勿体無いと。そして、もう志穂の肉体は自分の物だ。あとは心、祐一や等に囚われている心をも奪ってしまえば、志穂の全ては自分の物なのだ。