獣弁~里の方言

獣の里には、日本はもとより世界各国から多種に渡る獣が集まっています。
日本国内ですら、多様な方言のため会話が通じない場合もあるように、里に来たばかりの獣たちは、なかなか正確なコミュニケーションが図れず苦労していました。
以前は古参の獣が共通語を教えていたものですが、最近はその手間を補うため、またIT技術の発展もあって、キーボードタイプによる翻訳と学習が主流になりました。
しかし、キーボードでの会話には、ミスタイプがつきものです。そのミスタイプが、やがて独自の意味を持ち、用いられるようになったのが獣弁です。
また、近年ではミスタイプが語源ではない、里独特の用語も獣弁と言われるようになっています。
【 タスマニアデビる/タスデビる 】
「内心ビビりながらの喧嘩腰」あるいは単に「見かけ倒し」の意味で用いられる言い回しです。
語源は比較的新しく、テレビの動物番組でタスマニアデビルが初めて紹介された時に遡ります。
悪魔と命名されるにふさわしい、ものすごい鳴き声とは裏腹に、実物は比較的小さな身体に短い手足、というビデオが流れた時のこと。その「ギャオオオー!」とも「ギョワワワワー!」ともつかぬ鳴き声に、スタジオにいた人間の方々は「鳴き声すごい」「こわーい」などと呟いていたのですが、テレビを見ていた里の獣達は茫然。何故なら画面に映るタスマニアデビルは、その恐ろしげな吠え声で「な、何だ!やんのか!こっち来んな!噛むぞコラ!」と言いつつ、じりじりと後ずさっていたのでした。
それ以来、「タスマニアデビル」は「見かけ倒しのヘタレアニマル」の代名詞となり、人里なら「お前ビビってるの?」と言うような局面で「タスデビってる?」などと言われるようになりました。
【 森のくまさん 】
広報や財政・獣民票などの管理を行い、人里との連絡口にもなっている、里の中核施設です。
自然豊かな里の山野では、秋になると色んな種類の果実や木の実がたわわに実ります。ただしそれは、必ずしも勝手に収穫していい自然のものとは限りません。果物の場合まだ解りやすいですが、自然に生っているような栗やあけびであっても、特定個人や団体が管理・栽培する果樹園であることはままあります。
役場では近隣地図を配布しており、現場にも「ここより○○団所有の××栽培林」等の標識が立てられていますので、居住地からの道に沿って山に入る限りは、間違えて入り込むことはまずありません。
しかし、まだ里の地理(及び山歩き)に不慣れな獣になりたての方などは、うっかり道に迷って他獣の所有林に入ってしまうこともしばしば。たまに「いきなり森で熊に追いかけられた!」という方が現れても、大体は「クマ団所有の栽培林に迷い込み、栗泥棒と間違えられた」というケースだったりします。
そんな訳で、里においては「森のくまさん」は、「他獣の所有地に迷い込んで、泥棒と間違えられる」という出来事を指して使われることが多くなっています。
【 カクサレル 】
「里伝説」にある「サラワレル」に似ていますが、こちらはそれほど不可思議な現象ではありません。つまづいて転んだりして、一瞬周囲の人の視界から消えてしまった時に「カクサレタよー」と言いながら立ち上がる時に使われる言葉です。
「サラワレル」はあくまで外部要因による浮揚や転倒の際に使われますが、こちらは100%自分の不注意で転んでいながら「転んだんじゃない、何かが自分を隠したのだ」という照れ隠しとして使われるのがミソです。
雪の日などは滑ってつまづきやすい上に、転んだケモノガタが雪上にくっきり残ってしまうので、言い訳としてもバレバレなのですが、あえてそこには突っ込まず、慣用句としてスルーするのがマナーとされています。
【 里ケモノ/外生まれ 】
行政の公式文書でも使われる、里独特の用語です。
元獣・元人間といった区別はなく、「獣の里」の結界外、人里や自然の山野で生まれ、里に移住した者を「外生まれ」、移住した親から里で生まれた二世以降のことを「里ケモノ」と呼びます。
そのことによる差別や優遇は特にありませんが、職業適性・選択には重要な要因となることも。例えば外生まれの元獣の場合、体質的に火を恐れる方が多いため、外食産業への就労を希望する場合、履歴書に「外生まれのため、火元・調理スタッフではなく接客係希望」等と書いておくと考慮されますし、「(火が苦手なため)火力源の探知に自信があります」と消防警備の仕事を目指すことも出来ます。
逆に、幼い頃から人里文化に馴染み、火を恐れない里ケモノの方は、「里ケモノにつき火力調理・火元管理も可能です」等との自己アピールが定番です。
【 しっぽハゲ 】
割と昔から獣の間でよく用いられる罵倒語です。
実際に相手のしっぽが禿げているかどうかは関係なく使われる上、爬虫類や一部のねずみ族など、元々無毛の尾を持つ種族も多いため、罵倒と言ってもさほど深刻な悪口としては成立していません。人里における「お前の母ちゃんデベソ」や「うっさいハゲ!」といった言い回しに似た、どちらかというと幼稚な切り返しとして使われています。
さほど悪意がないとはいえ、本来このような場でご紹介するべき言葉ではないのですが、元人間の方が勢いで「黙れしっぽハゲ!」と言われた際に意味が通じず、「え‥‥ハゲてないけど‥‥??」「元からウロコしっぽの種族だけど‥‥」とポカンとしてしまうことが多いため、あえて記載してみました。
元人・元獣を問わず、もしこう言われて罵倒された際はつられて激昂せず「ハイハイ、ふさふさモサモサー」等としっぽを振って軽くいなすのをお薦めします。
【 森 豚(もりとん) 】
里に住む知性を得た獣ではなく、蒙昧なまま森に住み、獣の里や人里の畑を荒らしたりする野生のイノシシに対する蔑称です。差別というほどではなく、どちらかというと、人間が猿を小馬鹿にするのに似ていますね。
(ちなみに、別に森○朗元首相が何となくイノブタっぽいという意味ではありません)
【 鼻の乾きは病の始まり 】
健康に関することわざです。人里で言う「風邪は万病の元」に似た意味合いで使われます。
花粉症の場合は別として、大体の種族の獣の鼻は、適度に湿っているのが健康なのです。人間の方で言う「顔赤いけど大丈夫? 風邪ひいてない?」が、獣の場合は「鼻乾いてない?」になる訳です。
似たバージョンとしては「肉球が硬いのは病の前兆」が、主に犬猫種族の間で使われています。猫救命丸広告バナー (ページ上部をご参照下さい)でもお馴染みの言い回しですので、種族によってはこちらの方が有名かも知れません。
【 太木漬(ふときづけ) 】
「ふと気付けば」のミスタイプから生まれた漬け物です。
ドリア絵図管理事務所(ネットカフェ)のお知らせフライヤーに掲載されたコラム中の「柿も真っ赤に熟し、太木漬けはもう食べ頃ですね」という一文に「それはどのような漬け物なのか」という問い合わせが相次ぎ、ミスタイプが発覚。初めのうちはミスタイプであることを説明し、謝罪していたのですが、結構な件数の問い合わせに答え疲れたイグアナ団が、やがてそれっぽい漬け物を作り出して販売を始めたのが発祥です。
なお、製品の詳細については名産品のコーナーをご参照下さい。
(ちなみに、発売当初の太木漬は、上記の急な経緯もあってほぼ一夜漬けに近いものでしたが、今では秋に柿の実を収穫し、じっくり熟成を待って漬け込んだのち、満を持して雪解けの頃に発売されるようになりました。
おかげさまで里の皆様には結構なご好評を頂いているのですが、しかし、イグアナ団の皆は大根や柿を刻みながら「何で俺達、ミスタイプのフォローで毎年漬け物漬けなきゃならないんだろう‥‥」「いや、でも美味いよ?」「そうだけどさあ‥‥」という、ちょっとした理不尽感にとらわれます)
【 ムスカ思想 】
「難しそう」のミスタイプから派生した言葉です。
名作アニメ「天空の城ラピュタ」に登場する悪役キャラクター「ムスカ」を連想させる語感から、到底実現不可能な計画や考え方そのもの、あるいはそんなことを考えつくような尊大な思い上がりを揶揄する時に使われます。
(用例‥‥他獣に迷惑をかけながらも無謀なわがままを通そうとする相手に「無理だよ」の意味を込めて「それってムスカ思想だよね」とチクリと言う時などに使います)
【 タイツ王(たいつおう) 】
非常に怪しい印象の言葉ですが、単に「体調」や「隊長」のミスタイプです。「taityou」と打とうとして、誤ってyの隣のuを打って変換するとこんなことになります。
最近は主に、何かの隊長に任命された獣に「タイツ王!」と呼びかけたり、病み上がりには「最近タイツ王はいかがですか」と話しかけたりと、会話に和やかな笑いを盛り込むのに使用されています。
(しかし、本当に体調が悪い時に誤って「最近タイツ王が悪くて‥‥」などと打ってしまうと、本気で鬱な気持ちになります)
【 ハイエナ飼った(はいえなかった) 】
これは「~とは言えなかった」と打とうとして「~とハイエナ飼った」となった誤変換から生まれました。
最初のうちは、元になった誤変換が「二度と来ないとハイエナ飼った」だったこともあり、「何かを心に誓った証として、庭で黙ってハイエナを飼い始める風習」と誤解されがちでしたが、現在は単に、漠然と「言いたかったけれど口に出せなかった・黙っていた」ことを指して使われます。
(用例‥‥「怒られそうだったから、あの時はついハイエナ飼っちゃったよ」)
【 ドリア絵図(どりあえず) 】
主に「MET-art」(※)製の、上品で美しい女体ヌードアートを指します。当初は「とりあえず」のミスタイプだったのですが、「絵図」という誤変換のイメージから、何か特殊なアートに違いない、というように解釈され、現在の意味になりました。
(※…海外のアダルト画像サイト。たいへんアーティスティックで美しい画像が多かったのですが、近年路線が変わったのかカメラマンが変わったのか、今ひとつ品がよろしくない感じになってしまい、獣達をガッカリさせています)
【 皿に楽しい 】
ごちそうを皿に盛り上げるような大騒ぎ、またはそういった行事を形容する言葉です。「更に楽しい」の誤変換から来た言葉ですが、言い得て妙ですね。
(用例‥‥「明日は運動会だって」「そりゃあ皿に楽しいね」)
【 すろっぷ 】
「シロップ」のミスタイプから派生した、果汁から作られる里の駄菓子です。製品の詳細については名産品のコーナーをご参照下さい。
【 無理試合(むりしあい) 】
当初は「無理しない」の意味でタイプされた言葉でしたが、字面の印象から、「どう見ても無理なスケジュール・課題、またはその無理に挑むこと」の意味で使われるようになりました。
【 すなると 】
「そうなると」のミスタイプです。これはあまり意味は変わらず、推測を表す言葉として使われています。
【 芋を冷やす 】
一見「肝を冷やす」のミスタイプのようですが、種族的慣習の違いから生まれた言葉です。
じゃがいも・さつまいも・里芋を問わず、ふかしたり茹でたりした熱々の芋類は美味しいものです。しかし、猫団を始めとする猫舌種族は熱い食べ物を苦手とする方が多く、ある程度冷ましてから食べるという慣習があります。
それを見た他種族の獣から「しかしそれでは熱さゆえの美味しさが台無しではないのか」という意見が寄せられたことから、「時期を逃すこと、また、そのために物事が台無しになること」を指して「芋を冷やす」と言われるようになりました。
ただし、猫舌種族の間では逆に「無理っぽいことも頑張ってやり遂げる」「身の丈に合わせて幸せを味わう」の意味で使われることも多く、同じ言葉が種族によって違う意味で使われる、珍しいケースの獣弁でもあります。この言葉を使う時・相手の口から聞いた際は、互いの種族を考慮して意味を解釈することをお忘れなきようご注意下さい。
【 猫っ早(ねこっぱや) 】
「行動が早いこと」「フットワークが軽いこと」を表す、里独特の用語です。
イエネコ・ライオンなどといった種族の大小にかかわらず、猫族は元来のんびりした性質の方が多く、切羽詰まってからでないと腰を上げないこともしばしばです。しかし中には幸猫のように「思い立ったが吉日」とばかりに、猛ダッシュで行動するタイプも。
その様子から、「幸猫のように早い」という言い回しが猫団内部で褒め言葉として使われるようになり、やがてそれが「猫っ早」と略されたのが始まりです。今では猫団以外の他種族にも定着しており、「うわー猫っ早だね!」「おう、幸猫並みだぜ!」というように使われています。
【 砂をかける・砂場に行く 】
猫団から発生した言い回しで、「トイレに行く」の意で使われます。猫にとっては「トイレ=砂かけ」なのですが、他種族の獣にはしばらく意味がわからず苦労しました。