プラッサくん物語

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  その三 プラッサくん仲間と会う  

 ある晩、和哉くんとプラッサくんは、お父さんとお母さんに連れられて、レストランに来ていました。
 お庭ならよく一人で遊びに出ます。近所の公園と駄菓子屋には、和哉くんといっしょに出かけたことがあります。でも、こんな遠くの、人が大勢いるところに、お父さんやお母さんと一緒に来たのは初めてです。
 きらきらしたシャンデリアや、テーブルの上のキャンドルなんかを、プラッサくんはキョロキョロと見回しました。
 ずらりと並んだ、銀色のナイフやフォークやスプーンは、ぴかぴか光っています。グラスに注がれた、お父さんの赤いワインも、始めから飾ってあるもののようにきれいです。その上、テーブルの上に特別に敷かれた、きれいな模様のランチョンマットが、プラッサくん用の特等席なのです。
 プラッサくんはうっとりと目を細めました。勿論、プラッサくんは和哉くん達とおなじごはんは食べられませんが、そのかわりに、お母さんが持ってきてくれたお弁当があります。いろんな味の、いろんな色の、専用の固形食を駆使してお母さんが作り上げた、プラッサくん専用のお弁当です。
 人間用のごはんを食べながら、和哉くんが聞きました。
「プラッサくん、おいしい?」
「すごくおいしいです」
 プラッサくんはにっこり笑いました。
「おいしいは何だかしあわせです。プラッサ、大事にされてます」
「大事にしない人はプラッサくんを売ってもらえないんだもん。当たり前だよ」
 人間も、おいしいと幸せなのでしょう。お皿の上のお魚をつつきながら、そう言って和哉くんは笑いました。
「おや」
 お父さんが、ふいと向こうを見て言いました。
「何? お父さん」
「ほら、向こうのテーブルを見てごらん」
 和哉くんとプラッサくんは、いっしょにくるりと振り向きました。そうして、同時に言いました。
「あっ」
「わひゃー」
 ふたりは顔を見合わせました。
 ななめ後ろのテーブルには、さっき来たばかりらしい、にこにこした顔つきのおじいさんとおばあさんが座っています。そして、向かいあったふたりの間で、ランチョンマットをじゅうたんがわりに、ちょこんと正座しているのは、まぎれもなく同じプラッサくんではありませんか。
 向こうのプラッサくんも、お弁当をもってきているようです。ちいさなフォークを器用につかって、何かをおいしそうに頬張っていました。
「向こうのプラッサもおいしそうです。しあわせです」「お孫さんがわりって感じだな。いいねえ」
 お父さんとプラッサくんはうんうんとうなづきました。一方、和哉くんとお母さんは、初めて見る他のプラッサくんに釘付けです。
「やっぱり可愛いね」
「そうねえ」
「仔牛のロースト、グリーンペッパーソースでございます」
 不意に次のお皿がやってきました。プラッサくんに気をとられていたみんなは、はっとしていっせいにボーイさんの方を見てしまいます。
 何だかぎょっとした顔をされてしまい、一瞬あと、みんなでどっと笑ってしまいました。 その笑い声が聞こえたのでしょうか。向こうのプラッサくんが、あっという顔でこちらを見ました。
 どうやら、もう一匹のプラッサくんに気付いたようです。テーブルの上に立ち上がってぶんぶんと手を振ります。
 和哉くんのプラッサくんも、同じようにして手を振ると、えいっとばかりにVサインを出しました。
 向こうのプラッサくんも、ぷくぷくした肉球をいっぱいに広げて、いっぱいの笑顔と共にVサインを返しました。
「向こうのプラッサも大事にされてます。よかったです」
 和哉くんが、え? と小首をかしげました。
「わかるの? プラッサくん」
「わかります。指が二本出てました」
「え、あれは普通のVサインじゃないのかい?」
 お父さんも身を乗り出して聞きます。プラッサくんはうなづきました。
「大事にされてるプラッサは指二本出します。グーだったり指一本だとあんまり大事じゃないです」
「そういう決まりなの?」
「なんとなくおぼえてます。プラッサをつくった博士がきめておいたみたいです」
「へえ、解りやすくていいわね」
 お母さんも感心したようにうなづきました。
 和哉くんが、あっという顔で言いました。
「ねえねえ、じゃあさ、うんと大事にされてるプラッサくんは、指三本とか五本とか出すの?」
 プラッサくんはびっくりしたように口をあけました。それから、目をきらきらさせて立ち上がります。もう一度ぶんぶんと手を振り、向こうのプラッサくんがこっちを見るや、今度は指を三本、突き出しました。
 向こうのプラッサくんが、びっくりして口を開けます。それから、やっぱり同じようにきらきらの目で、えいっと指五本、パーそのまんまの手をあげました。
 それを見て、こっちのプラッサくんは両手をあげます。
 向こうのプラッサくんが、両手と足一本をあげました。
 和哉くんがぽかんと見ているうちに、こっちのプラッサくんは両手両足をあげようとして、ころん、とテーブルにひっくりかえりました。
『わひゃー』
 二匹のプラッサくんが、同時にそう言ったのがおかしくて、和哉くんは笑ってしまいました。
 こっちのプラッサくんが、えへへ、と照れ笑いに頭をかきながら起き上がりました。
 向こうのプラッサくんは、おじいさんとおばあさんに、いっしょうけんめい何かを話しています。その楽しそうな顔からして、きっとさっきの博士の話をしているに違いありません。プラッサくんを見ているおじいさんとおばあさんも、とても楽しそうで、幸せそうです。
 和哉くんは何となく、うちもあんな風に見えるといいなあ、と思いました。
 お父さんとお母さんも、幸せそうな和哉くんを見て、プラッサくんがいてよかったなあと、心の底から思いました。
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