生プラッサくん物語

もどる | すすむ | もくじ

  その二 生プラッサくんのお友達  

 ある日、生プラッサくんは、お父さんに連れられて、お家の近くに散歩に出かけました。
 お父さんはアパート経営などをしているので、毎日働きに出かけたりする必要はありません。時々は、お母さんの喫茶店を手伝ったりもしますが、普段はお母さんの家の犬や猫の世話などをして、家にいることがほとんどです。
 生プラッサくんは小さな子供と同じなので、一日中かまってもらえるのが嬉しくて仕方ありません。その上、おでかけともなると、おしゃれな蝶ネクタイなんかをつけてもらえるのでごきげんです。
「お父さんお父さん、ねこです!」
「ああ、いい配色の三毛だね」
「あっちにもいます! あれもいいねこですか?」
 いろんなものが珍しいのか、籐のバスケットから首だけ出して、生プラッサくんはもう大騒ぎです。きょろきょろと周囲を見回しては、報告と質問を繰り返します。
「あれは小さい犬だよ。ポメラニアンだね」
「いぬですか!」
「犬だよ」
「ねことどこが違って見分けるですか?」
「‥‥そう言えばそうだな。どうやって見分けてるんだろう、俺‥‥」
 お父さんは考え込んでしまいました。
 すると、
「‥‥あっ!」
 生プラッサくんが突然言いました。
「プラッサは発見しました! にゃあと鳴くのがねこです! いぬはワンです!」
「あ、うん、‥‥そうだね、大発見だね」
 嬉しそうに胸をはるプラッサくんに、お父さんはとりあえず頷きました。本当は、鳴き声を聞かなくても見分けがつくお父さんにとっては、あまり解決にはならなかったのですが。
 そうして、いつも散歩に来る公園で、生プラッサくんはバスケットから出してもらいました。
 普通、住宅地の公園は、犬猫の散歩は禁止されていることが多いのですが、この公園は特別です。動物が来てもいいように、噴水の横には水飲み場を、人間用トイレの横には犬猫用のトイレまで、ちゃんと作ってあるのです。
 生プラッサくんは、ここで犬や猫や、たまに来るアライグマなんかと遊んで、売店のタコ焼を食べるのが大好きなのでした。
 噴水のふちをぱたぱた走り、肉球を冷たい水につけたり、水を飲みに来た猫と話したりと、生プラッサくんは大忙しです。
 お父さんは噴水のふちに、濡れないように腰掛けて、遊ぶプラッサくんを見ていました。
 と、
「ずいぶん小さいプラッサくんですね」
 不意に、声をかけてきた人がいました。見ると、きれいに全部白髪になった、背の高いおじいさんが、バスケットを抱えて立っています。
「ええ、ちょっと特別なプラッサくんなんですよ」
 お父さんが答えると、そのおじいさんのバスケットから、ぴょこぴょこっ、と二体のプラッサくんが顔を出しました。
「わひゃー!」
 生プラッサくんが、びっくりして両手を上げると、
「わひゃー!」
 二体のプラッサくんも、びっくりして同時に言いました。それから、くるりと二体で顔を見合わせて、一緒に生プラッサくんに向き直り、えいっとVサインを突き出します。
 生プラッサくんはその意味が解らなくて、しばらくおろおろした後に、両手でえいっと大きな丸を作りました。
 二体のプラッサくんは、二度びっくりして、ぱかっと口を開けました。
 何かいけないことだったのでしょうか。生プラッサくんは困ってしまって、たたっとお父さんのかげに隠れてしまいました。
「生プラッサくん、大丈夫だよ」
 お父さんが呼んでも、そっと鼻先をだしてはまた引っ込んでしまいます。
 バスケットから出された、二体のプラッサくんが言いました。
「ナマって一体何ですか?」
「‥‥生なんだよ、機械じゃなくて」
 そのまんまの答えですが、他にどう言っていいのかよく解りません。
「もしかして博士の新作ですか?」
「普通のプラッサより小さいです。新型かもしれません」
 プラッサくん達が立て続けに言いました。生プラッサくんが、そっと後ろから顔を出します。
「‥‥生プラッサは生プラッサです。まだちょっとあかちゃんです」
「赤ちゃんですか!」
「ナマですか!」
「ぼくらは普通のプラッサです。こっちがプラッサの『みどりちゃん』です」
「こっちがプラッサの『しずくちゃん』です」
「二人合わせるとふつうのプラッサです」
 そう言ってお互いを紹介しあうと、ふたりのプラッサくんは笑いました。
 これこれ、と二人をたしなめて、おじいさんが言いました。
「開発の関係の方ですか?」
「‥‥まあ、似たようなものです。家族が開発してまして‥‥」
「お父さんははかせのお父さんです」
 そおっと顔を出して、生プラッサくんが言いました。お父さんの膝を乗り越えて、二人のプラッサくんに近寄ります。
「博士のお父さんですか」
「ハカセのおトウサン‥‥おじいさんですか?」
「おじいさんじゃないです! おとうさんはオトウサンです!」
 プラッサくんも三人そろうと、何だか混乱しています。お父さんとおじいさんは、並んで座って笑いあいました。
 話を聞くと、おじいさんは、大通りの大きなおもちゃ屋さんの人でした。と言っても、お店はもう、息子さんに任せていて、ときどき店番をするくらいなのだそうです。おじいさんは、その時、売り物として入荷したプラッサくんを見かけたのです。それがあまりに可愛かったので、つい二体分の購入契約をしてしまったのでした。そして、散歩に行く時以外は、客寄せも兼ねてお店で遊ばせているのだ、と云うようなことを、おじいさんはゆっくりした口調で話しました。
 聞いていたプラッサくんが身を乗り出します。
「しずくちゃんとみどりちゃんはおツトメなのです」
「いつもガラスの中でお店番します」
「でも、毎日ご主人と楽しくお散歩します」
 おじいさんはとすとす、とふたりの頭を交互になでました。
「こんないいものが側に居てくれるなんて、世の中まだまだ捨てたもんじゃないですねえ」
 そう言ったおじいさんは、とても幸せそうでした。しずくちゃんとみどりちゃんも、それを聞いて何だか嬉しそうでした。
 帰り際、お父さんは生プラッサくんに言いました。
「生プラッサくん、帽子、買っていこうか」
 生プラッサくんは、きらきらと目を輝かせてお父さんを見ました。
「お帽子ですか?」
「うん、これから暑くなるし。プラッサくんは生だから気をつけないとね」
「きをつけます」
「お友達も出来たし」
「おともだちですか!」
 生プラッサくんはぱかりと口を開けました。
 さっき出来たばかりのお友達、しずくちゃんとみどりちゃんも、目をきらきらさせて顔を見合わせます。
「おもちゃ屋さんで僕たちとあくしゅです」
「いまもあくしゅします」
 ちょっと小さい生プラッサくんの手と、普通サイズのプラッサくん達の手が、もにもにと肉球を合わせます。三人のプラッサくん達も、おじいさんも、何だかとても楽しそうです。
 今日、公園に連れてきて良かったなあ。
 ほのぼのとプラッサくん達を見ながら、お父さんはそう思ったのでした。
もどる | すすむ | もくじ
Copyright (c) 1997 yu-suke.sakaki All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-