いろんなプラッサくん物語

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  その六 プラッサくんの集いにて  

 雪もすっかり融け、一年生が黄色い帽子でひよこのように歩き始めるころ、恒例の『プラッサくんの集い』がありました。
 場所はいつものように、お母さんの経営する、お茶とケーキのお店です。一階は普通にケーキコーナーと喫茶スペースなのですが、二階は半分がパーティーなんかに使えるフリースペースになっていて、色んなイベントに貸し出しているのです(ちなみに二階の喫茶スペースは動物OKなので、犬猫連れのお客さんもよく来ます)。
 たくさんのプラッサくんが、ご主人に連れられてやってきました。冒険プラッサくんや、おもちゃ屋さんのしずくちゃんとみどりちゃんもいます。
 神社の試作型プラッサくん二体はもちろん、生プラッサくんとちびプラッサくんも、来ていないはずがありません。
 そんなふうに、何十体ものプラッサくんが集まると、パーティーフロアはもう大混乱です。
「ひーとり、ふーたり、さんにんのプラッサ♪」
「よーにん、ごーにん、ろくにんのプラッサ♪」
「しちにん、はちにん、きゅーにんのプラッサ♪」
「♪じゅうにんのプラッサだよー♪」
「じゅういちにん、じゅうににん、じゅうさんにんのプラッサ♪」
 一人が歌い出すと、みんながつられてしまう上に、だんだんわけが解らなくなってきます。十人で終わるはずのお歌も、どこまでつづくのか見当もつきません。
 そのお歌が三十五人くらいまで行ったころ、さすがに飽きてきた何体かのプラッサくんたちが、また違うお遊びを始めます。
 さらに別の方では、プラッサくんたちの有名人、冒険プラッサくんのお話しが始まっていました。
「という訳で、プラッサはレベル25になったのです」
「すごいです!」
「でも、そのあと、少しかなしいことがありました」
「カナシイですか?!」
「ナゼですか?!」
 冒険プラッサくんは遠い目をしました。
「プラッサはソコツ者なので、つい肉球がすべって階段のてっぺんから転げ落ちてしまったのです」
「ええっ!」
「い、イタそうです!」
「‥‥本当に痛かったです」
 しみじみとした口調に、その時の痛さが忍ばれます。聞いていた回りのプラッサくんたちは、口を開けて右往左往してしまいました。
 お話しはまだまだ続きます。
「プラッサはコショウしてしまったらしく、スイッチが入ってセンターのおじさんが迎えに来てくれました。そのへんのことはよく覚えていません」
「止まってしまったですか?!」
「だと思います。‥‥でもかなしいことはそのことではないです」
「何がかなしかったですか?」
「シュウリされておうちに帰ったプラッサは、大きな衝撃を受けました。‥‥なんと、レベルが下がっていたのです!」
「ええっ!」
「わひゃー!」
「びっくりです!」
 プラッサくんたちが、口々におどろいてどよめきました。生プラッサくんはやっぱり、びっくりのあまり踊っています。
「それは『りせっと』にあたりますか?」
 どこかのプラッサくんが、やはりご主人とゲームをしたことがあるらしく、一歩進み出て聞きました。
「そうとも言うような気がします」
 冒険プラッサくんは、ふう、と溜息をつきました。
「でも、自分でしたリセットではないです。グウハツジコです‥‥これを『女神転生』シリーズでは『えなじーどれいん』といいます」
「それはちょっと違うと思うけど‥‥」
 和哉くんが、困った顔をして呟きましたが、プラッサくん達に聞こえてはいません。
「えなじーどれいん!」
「『エナジー』と『ドレイン』ですか?!」
「『えなじーど』『れいん』かもしれません!」
 知らない言葉を聞いたプラッサくんたちは、その意味を審議するのに混迷の度合いを深めていきます。
 話を聞いていたご主人たちが茫然としていると、ちびプラッサくんがまあまあ、とみんなをなだめました。冒険プラッサくんに向き直って、お話を続けるようにうながします。
 冒険プラッサくんはうなづきました。
「せっかく一カ月たってレベルが上がったのに、それでひとつ下がってしまいました‥‥それがプラッサのかなしいできごとです」
「それはカナシイです」
「でも冒険プラッサはユウシャだと聞きました。くじけずに冒険を続けなければいけません」
 みんなが、そのプラッサくんの言葉にうんうんとうなづきました。
「そうです。ミルはもっと悲しいできごとをケイケンしました」
 と言って、『ミルちゃん』という名前をもらっているプラッサくんが進み出ました。
「ミルは前のご主人をビョウキで亡くしました。‥‥ご主人が急に倒れて、ミルはキュウキュウシャに電話をかけるのに三日もかかってしまいました‥‥」
「ナゼですか?!」
「電話が高いところにあったのです」
 ミルちゃんはじんわりと涙ぐんで答えました。
「ピーポーが来てくれたときには、もうご主人は助かりませんでした‥‥ミルが生プラッサくらい巨大だったら、電話にも手が届いたかもしれません‥‥」
 他のプラッサくんも、つられて涙ぐんでいます。
 でもミルちゃんは、ぐいっと肉球で涙をぬぐいました。
「ミルはしばらくハカセのもとで過ごしたあと、今のご主人に新しくもらわれました。新しいご主人は、前のご主人のお墓まいりにも連れていってくれるです。とても大事にされています‥‥だから、亡くなったご主人のぶんも、ミルはりっぱに生きるです」
「えらいです」
「プラッサのカガミです」
 プラッサくんが口々に言いましたが、このお話には、プラッサくんのみならず、ご主人たちも深い感動を覚えました。
 生プラッサくんが、お父さんの袖をひっぱって言いました。
「生プラッサはそのような悲しいを知らずに育ちました。‥‥りっぱなプラッサになれないですか?」
「そんなことないよ」
 お父さんは、ひときわ大きい生プラッサくんをよいしょ、と抱っこしてあげました。
「うちに生プラッサくんがいて、お父さんも子供たちも猫も、たくさん幸せだよ」
「プラッサはりっぱになれますか?」
「大丈夫、なれるよ。‥‥今でも人より立派に大きいし」
「りっぱですか!」
 生プラッサくんが、安心したように笑いました。ひとしきりわすわすしてもらってから、ほかのプラッサくん達の輪に戻ります。
 その、おおぜいのプラッサくんのなかでも、ひときわ大きい姿を見て、お父さんはちょっと思い出すものがありました。
 あれは、サンシャイン60の水族館に、子供たちを連れていったときのことです。
 ペンギンのスペースには、当然たくさんのペンギンがペタペタしていました。アデリーペンギンやイワトビペンギンなどの他にも、名前も知らないようなたくさんのペンギンが、ひとつの種族につき二〜三羽ずつ、泳いだり歩いたりしていたのです。
 でも、その中に、仲間のいない一羽だけのペンギンがいました。
 チューインガムのパッケージなんかでおなじみの、コウテイペンギンです。
 たまたま仲間が奥に引っ込んでいただけなのか、それとも本当に一羽しかいなかったのかは、お父さんにはわかりません。
 でも、そのコウテイペンギンは、何となく寂しそうにも、誰にも似ていない王様のようにも見えました。
 お父さんは、生プラッサくんを見て、あの時のコウテイペンギンを思い出していました。
 ‥‥ちょっと考えて、席を立ちます。
「生プラッサくん」
「あい、なんですか」
「お父さん、ちょっと買い物してくるから、みんなと遊んで待っててくれるかな」
「あい。生プラッサはなかよくしてまってます」
 そうして、念のため、カウンターの中のお母さんに、生プラッサくんのことを頼んでから、お父さんは買い物に出かけました。
 お買い物は、一時間もかかりませんでした。
 お父さんは帰ってくると、
「はい、プレゼント」
 と、生プラッサくんにいくつかの包みを渡しました。
「プレゼントですか!」
「スゴイです!」
 他のプラッサくんたちがざわめきます。
 生プラッサくんはとまどって、口を開けたままキョロキョロしました。
「お父さんはプレゼントが好きです。生プラッサはもらってばかりでうれしびっくりです」
「開けてみるです」
「そうです、ご主人のアイです」
 プラッサくん達にはやしたてられて、生プラッサくんはひとつずつ包みを開けていきました。
 ‥‥長い包みを開けると、先の方にきらきらした飾りのついた、杖のようなものが出てきました。
「へんしんスティックです!」
「ちがうよ」
 ‥‥次の包みを開けると、今度は真赤なマントが出てきました(豪華な赤ちゃんのよだれ掛けに見えなくもなかったのですが)。
 お父さんはそのマントを、生プラッサくんに着せかけてやり、
「最後の包みをあけてごらん」
 と、にっこり笑って言いました。
 生プラッサくんが、きょろきょろしながら、ぱりぱりと包みを開けてみると、
『わひゃー!』
 たくさんのプラッサくんが、いっせいにびっくりして言いました。
 最後の包みから出てきたのは、なんと、小さな王冠でした!
 ぴかぴかの金と、赤いびろうどに、きらきらの宝石がはめこまれた、きれいなおもちゃの王冠です。
 お父さんはその王冠を、そっと生プラッサくんの頭にのせてあげました。
 生プラッサくんは、ぱかりと口をあけました。
「プラッサ、オウサマになりました!」
 他のプラッサくんも、どよめき、口々に言いました。
「ほんとです、オオサマです!」
「大きいからオオサマですか?!」
「王様プラッサです!」
 冷静なちびプラッサくんが、進み出てみんなに言いました。
「いいかも知れないです。生プラッサは、ぼくらとちょっと違います。王様になるといいと思うです」
「プラッサ、サンセイです!」
「プラッサもいいと思うです!」
 続々と、プラッサくんたちが賛成の声を上げました。
「ではプラッサはシツジになるです!」
「プラッサはカンボウチョウカンがいいです」
「じゃあプラッサはマホウツカイになります!」
 次々と肩書きを決めるプラッサくんたちは、実のところ、あんまりよく解ってはいないようでした。それでも、とりあえずこの新しい出来事が、みんなに歓迎されたことには違いありません。
「王様プラッサは、人民にあいさつを述べるです」
 ひときわ情緒教養度の高い、ちびプラッサくんにうながされて、生プラッサくんはちょっと緊張して胸をはりました。
「生プラッサは、みんなと違ってまだまだ赤ちゃんです。‥‥でも、いつかりっぱなプラッサになるです。アイがあるからダイジョウブです」
 なんだかよく解らないあいさつでしたが、プラッサくんたちはいっせいに肉球を打って拍手しました。
 生プラッサくんは、照れたように頭をかいたり、目をぱちぱちさせていたりしましたが、やっぱりうれしかったのでしょう。ふくふくになったしっぽが、ぱったぱったと動いていました。
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