流花無残 三十二話

   
「おまえは俺の犬だから」第三部<輝良>








 職場で、「根気がありますね」とか「気が長いですね」とか、よく言われる。
 自分が多少他人より忍耐力があるとしたら、それは輝良のおかげだろうと熊沢寛之は思う。
 一目惚れして最初に想いをあふれさせてキスするまで二年以上、両想いになってから次に会うまでに九年、そして再会してからも会えたのは数えるほど……。これで我慢強くなれなければ嘘だろう。
 その熊沢にとっても。
 城戸邸での数時間は怖ろしく長い地獄の時間だったし、その後の時間も心をさいなまれる時間だった。
 輝良から連絡がなかったからだ。
 沢に寄り添われるようにして城戸邸を辞したあと、輝良からはなんの連絡もなかった。
 あれだけはっきり、仁和組重鎮である城戸翁が自分と輝良の仲を認めてくれたのだから、誰に遠慮する必要もないだろうに……熊沢から電話を入れても出てもらえず、メールをしても無視された。
――ただ、その心は理解できる気がした。
 数日待って……これ以上待っていては、かえって事態を悪化させると判断して、熊沢は連絡を寄越さなければ自分のほうから二葉組の事務所に会いに行くと宣言した。そこまでの言葉を留守電に残してようやく、
『サツがさあ、そんなかんたんにヤクザの事務所来るとか言うなよ。あそこはマッポとツーカーだとか噂立ったらどうしてくれんだ』
 と、輝良のほうから電話があった。
『おまえだって組織の中で生きてるんだ。変な噂が立ったら困るだろう』
「なら、おまえのほうから来てくれ」
 そう言ってやっとのことで、熊沢は輝良に会うことができたのだが、案の定、だった。
 熊沢のほうからよければ家に来てほしいと告げたのに、やってきた輝良は目の奥に不安を宿らせていた。
 その不安を、
「別に無理しなくていいからな」
 輝良は突き放すような、強気な口調で熊沢に突きつけてきた。
「俺が刺青入れたのも、総長とオヤジにいいようにされたのも、ぜーんぶ、俺の自己責任ってやつだから。おまえ、関係ねーから」
 輝良がそう言い出すだろうとは、熊沢は予想していた。輝良の言動の予測が立つようになったのは喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのかはわからなかったが。
 それでも目も合わせず、そう言い放つ輝良に、熊沢は苦笑せずにいられなかった。
「なにが関係ない。俺に関係なければ誰に関係あるんだ。だいたいおまえ、俺がおまえを好きなのも、俺自身に関係ないとか言い出すつもりか」
 反論に輝良は困ったように下を向いた。
「……つかさ。全身にクリカラモンモン入れてるヤツに、おまえ、勃つの? あんなさあ……前にも後ろにも男咥えてよがってたの見ててさ……おまえ、俺に勃つ?」
 関係ないと突っ張ったあとは、ストレートな下品さで来る。熊沢は声なく笑った。
「さあ。それは正直、その場になってみないとな。大丈夫だろうとは思ってるが」
 輝良がストレートに来たから、熊沢もストレートに本心を返した。
 輝良が愛しい。輝良に会いたい、抱きたい。だから呼んだ。
 だが、男の生理が繊細なのも熊沢は知っている。いざ輝良の肌に触れた時、その躯を貪っていた二葉と平の姿がちらつかないか、それで自分が萎えてしまわないか、それは本当に熊沢自身にもわからない。
「しかしもしダメでも……リハビリにはつきあってくれるんだろう?」
 あんな思いをしたのだ。自分にも輝良にも、幸せになる権利はあると熊沢は思う。もし自分が輝良に欲情できなくなってしまったとしたら、回復するまで、熊沢は輝良にもつきあってもらうつもりだった。
「はあ? なんで俺がおまえのリハビリに……」
「なぜって。俺が好きなのがおまえで、おまえが好きなのも俺だからだよ」
 それだけは輝良がなにを言おうと、揺らがせるつもりのない熊沢だった。ふたりが好き同士だからこそ、あんなつらい思いをしなければならなかったのだ。
「なに、その……わけのわかんない強気……」
 わけのわからない強気はおまえの専売特許だろうと思ったが、熊沢はそれは口に出さずにおいた。あまり図星をさすと、本気で輝良がすねてしまう。
「じゃあ、まず、試してみるか」
 熊沢は輝良を胸の中に抱き寄せた。
 心配は杞憂だった。




 ようやく、だった。引き裂かれた日から九年、再会してからも半年、ようやく熊沢は輝良と自由に会えるようになった。
 輝良につけられていた運転手という名目の監視役はいなくなり、輝良は自分で運転する普通車で熊沢のマンションを訪れるようになった。その時には、ニット帽や人民帽に丸眼鏡だったり、手の指も出ないようなぶかぶかのTシャツにサスペンダー付きのだぶだぶズボンだったり、とにかくいつものスーツ姿とはかけ離れた奇抜な服装でやってくる。
「おまえ、それは変装のつもりか。逆に目立つんじゃないのか」
 と熊沢は言ってやったが、
「目立つからこそ目立たないんだ」
 と輝良は平然としていた。
 それはようやくふたりに訪れた誰に遠慮もいらない恋人ととしての時間だった。
――が。
 その時間の中にさえ……ざらりとした異物感が混ざるようになったのはすぐだった。
 輝良が自分の肌をさらすのを拒むようになったのだ。一緒のシャワーも入浴も拒む。明るいところでの行為ももちろん拒む。ついには上半身のシャツを脱ぐことさえ嫌がるようになった。
 明らかな拒否ではない。さりげなく、着衣でのエッチや照明を消してのエッチに誘導されて、最初は熊沢は輝良が肌をさらすのを避けているのに気づくことさえできなかった。
 気づいてからもしばらくは、極彩色の刺青を見られたくないせいかと熊沢は勝手に解釈していた。
 初めて不審感を持ったのは、輝良の口の端に殴られたような痣と切れた傷口があるのを見た時だ。見咎めた熊沢に輝良は、
「喧嘩、喧嘩」
 と明るく笑ったが、輝良が平気で嘘をつける人間なのは知っている。
 さらに、熊沢は二葉組の内部事情もある程度は把握していた。今、二葉組は仁和組の中でもどんどんその勢力を増してきている。そしてその原動力となっているのが、輝良が稼ぎだす金銭だ。もちろん、二葉組の中枢として、輝良がパソコンの前だけでなくあちらこちらに顔を出しているのも知っているが、それでもその輝良がそこらのチンピラのように切った張ったの喧嘩をするわけはないのも、今や二葉組の金庫番でもある輝良が顔面を痣ができるほど殴られて、「あはは」ですむわけがないのも知っている。
 その次に、輝良が熊沢の部屋に来る予定をキャンセルしてきた時、熊沢の疑惑はさらに深くなった。カマかけのつもりで、
「痣が消えるまで俺とは会わないつもりか」
 と聞いてみたが、それにはそれこそ明るい声で『痣? なんの話? いやマジ、相場が目を離せないとこでさあ、わりぃ、ちゃんと埋め合わせはするから』とかわされてしまった。
 ならば、と熊沢は虚空を見据えた。




 警察に呼び出した沢は、熊沢が用意した取調室で、
「こうゆうん、職権乱用ちゃうん?」
 と、耳の穴をほじっていたが、熊沢が単刀直入に、
「輝良は誰に殴られているんだ」
 と身を乗り出すと、「あー」とすぐに顔をしかめた。
「あれなー……まあ、ホモの嫉妬は男女の比やないゆうけど、ホンマやなあ」
 隠すつもりはないらしい。
「……やっぱり武則か」
「ほかにおらんやろ」
「……俺のせいか……」
「自惚れんなて言いたいとこやけど、まあ、それもあるやろな。せやけど、大きいんは」
 沢はそこで、ぐっと机の上に身を乗り出してきた。
「総長や。あの日、輝良は総長とオヤジのふたりにツッコまれてえらいよがりよったやろ。まあ薬使われてしもたんやでしょうがないけどな。……あれや。あれが、オヤジには許せんねん」
「おい」
 熊沢は低い声を出して沢をにらんだ。
「あんまり勝手なことを言うな。誰が望んでああいうことになったと……」
「誰て」
 熊沢の怒りを沢は鼻で笑う。
「そんなんうちのオヤジかて同じこと言うで? ……もともと、総長は輝良に色気があった、そこに輝良が落ち度を見せた、そういうこっちゃ」
「…………」
 口惜しさに奥歯を噛み締めた熊沢に、「しゃあないやろ」と沢は真顔になった。
「オヤジにはオヤジの想いがあったんや。……おまえが聞いとるかどうかは知らんけどな、輝良は高校生ん時にも一度、総長からお呼びがかかったことがあったんや。そん時、輝良は自分の胸に二葉の紋を彫って、オヤジへの操を立ててん。……まあ、あれはなあ……輝良にしたら、オヤジに情があってのことっちゅうより、ヤクザになるんに筋を立てたっちゅうだけやろと思うんやけど……オヤジはそうはとらんわ。刺青いれてまで、総長を拒んでくれた、こいつにもそんだけの情が生まれたか、そう思ってもバチは当たらんやろ。……オヤジはうれしかってん。せやさけ、愛人扱いしとったんもやめて輝良を一人前の男として扱うてもやったし、アメリカ行くのなんの言うても好き勝手させちゃったんやないか。それがおまえ……初恋かなんか知らんけど、ほんまもんの間夫が現れたら、今度はそいつのために、総長にでもオヤジにでも抱かれます〜ゆうて……そんなん、オヤジにしたら口惜しいに決まっとるやろ」
 沢の言葉を聞き終えて、熊沢は気を静めるために息をついた。なにをどう説明されても、熊沢の立場からすれば、そもそも二葉が輝良に執着したのが悪いとしか言えないからだ。二葉がまだ中学生だった輝良を見初めなければ……大阪などへ連れて来なければ……自分の愛人になど仕立てなければ……自分たちはこんなに苦しむこともなかったのだ。
『いまさらだ』
 怒りを納めて、熊沢は目を上げた。
「……輝良は、どれぐらいの頻度で殴られてる」
「……最初は一週間に一度ぐらいやったかな。今はまあ……顔見たら腹立つみたいやな」
「輝良は抵抗しないのか」
「せえへん。……オヤジはオヤジやからな」
「…………」
「……エスカレートしそうな時は、俺が止めとる」
 そう言った沢の声は静かだった。
「オヤジはオヤジや。俺も逆らえん。けど、輝良は大事な弟分でもある。……火に油そそがんようにせなあかんけどな。俺は俺でがんばっとんねん」
「…………」
 熊沢は探るように沢の目を見つめた。沢も目をそらさない。その目の奥に確かに「真意」がある。沢は沢なりに本気で輝良のことを心配しているのだと、感じられる目の色だった。
「……武則は……輝良に手を出しているのか」
 聞きたくないが確かめずにもいられない。熊沢の問いに、沢は軽く肩をすくめた。
「殴る蹴るっちゅう意味ならそら出しとるわ。けどエッチがどうのゆうんやったら、それはない。せやさけ余計にこじれるんやろな」
「……なんとかできないのか」
「……そんなん」
 沢はふーと長い息をついた。
「俺のほうが聞きたいわ」


   *     *     *     *


 輝良は鏡に映った己の顔をのぞき込み、縦じわの寄った眉間を指で撫でた。ここしばらくずっとむずかしい顔をしていたせいだろう、指で撫でても眉間にはうっすらとしわの線が残っている。
「……老けたな」
 独り言を落として、今度は広げた両手に目を落とす。
 右も左もきちんと五本の指がそろった手。いたって「普通」な手だが、「普通」ではない「極道」の世界では小指はもちろん、薬指まで欠けている者も少なくない。
 彫り物と指詰めはわかりやすい極道の印だ。
 刺青は一年半前に入れた。
 いまさら、指の一本や二本、惜しむつもりもない。
――しかし。
『こんな理由で指詰めなきゃならないとかさあ』
 溜息は長く重くなる。せっかく伸ばした眉間にまた深くしわを寄せて、輝良は洗面所を出た。
 一年前――輝良は二葉武則から、二葉組と縄張りを接する安西組との騒動を治めるようにと指示を受けた。
 当時、同じ仁和組系列だった安西組のシマ内に太い環状線道路が走ることが決まり、その旨味を狙って、仁和組系列ではない別の広域指定暴力団高雅会が安西組への接近を図っていた。そこで安西組が穏便に二葉組の傘下に入ってくれればよかったのだが、そう力のない弱小組織であったにも関わらず、安西組は二葉組との戦争もやむなしという強硬な姿勢を取った。仁和組としても二葉組としても、安西組が高雅会に吸収されてしまってはまずいが、かといって、身内同士での派手な抗争もさらにまずい。
 そんな手詰まり感満載の、いやな膠着状態だったところに、輝良は武則から「安西をなんとかしろ」と指示を受けたのだった。
 もともと武則の意を受けて沢が動いていた事案だった。
 それを輝良になんとかしろというのは、一見、沢を切り捨て、輝良を買ったように見えるが、実際の手詰まり感を見れば、沢に泥をかぶらせず、輝良に火中の栗を拾わせる策だとも見えた。
 気は進まなかったが、安西組のシマを二葉組の掌中にする絶好の機会でもあった。
 輝良は安西組を弱体化させ、向こうから吸収合併を申しださせるために策を練ることにした。打てる手はすべて打つつもりだった。
 沢から安西組が高雅会からクスリの供給を受け、それを大きな組の収入源にしているとは聞いていたし、輝良は輝良でその事実を確認してもいた。クスリがカギだとわかれば攻めようはある。
 輝良は黄龍の力を借り、安価なクスリと中国系の売人が安西組のシマに入り込めるように手引きした。いくら高雅会がクスリの売り上げルートを確保していても、末端の使用者はより安い供給源があればたやすくそちらに流れる。
 その上、香港を拠点にする中華系マフィアである黄龍の売人たちは荒っぽかった。彼らは安西組のマーケットを横取りするのに暴力を使うのをまるでためらわなかった。大陸流の荒っぽさで、黄龍の男たちは安西組のシマに食い込んだのだった。
 高雅会からのクスリをさばいていた安西組の息のかかったチンピラたちが次々に消え、様子がおかしいことに気づいた高雅会が手を引くのに、半年あれば十分だった。
 頼みにしていたシノギがなくなり、高雅会にも手を引かれた安西組の組長に、輝良は何食わぬ顔で近づき、二葉組組長との会食を持ちかけた。もともと構成員三十数名の弱小暴力団である安西組が、中華系マフィアに入り込まれてシノギも細くなり困っているのは百も承知で、あえて輝良は礼節を尽くして、安西組組長に二葉武則と話してみませんかと切り出した。いくら困っていても居丈高に出れば反感を買う。たださえ同じ仁和組系列の二葉組ではなく高雅会へなびいていた安西組を二葉組の傘下に平和裏に収めるには、そこが肝心だった。
 安西組が困窮する原因を自分が裏で糸を引いて作ったのだなどとおくびにも出さず、輝良は武則と安西組組長の会席に同席した。武則も心得たもので、輝良が作った機会を逃さなかった。要所要所でにらみを利かせつつ、安西組組長と兄弟の盃を取り交わす約束まで持ち込んだ――それが三か月前のことだ。
 安西組を高雅会から引き離し、二葉組の傘下に入れること。
 輝良は命じられた通りに目的を果たした。
 なのに、武則は安西組との手打ちがすむとすぐ、仏頂面で輝良を呼びつけた。そして中国人たちを安西組のシマに引き込んだのはおまえかと輝良は厳しく問い詰められた。
 輝良がいくら、黄龍は二葉組のシマには手出しをしない、クスリの売人たちは安西組のシマ内から出てこない、そういう約束だと言い張っても無駄だった。
「おまえの大学時代のダチやらちゅうのが黄龍の幹部やからやゆうて、中国人が信用ならんのは変わらん。関東見てみぃ。新宿やら、もう中華系にやられてしもて、日本の元々の組はぼろぼろや。関西はそれでもなんとか俺らががんばっとるところに、おまえはなにをしてくれてんねん。あ? 自分から中国人手引きして引き入れて……ゆうたらおまえは仁和組の裏切りもんや」
 「裏切り者」という言葉に、輝良はさっと自分の顔色が変わるのを覚えた。極道にとってメンツは命以上に大切だ。いくら盃を受けたオヤジが相手でも、いや、だからこそ、「裏切り者」呼ばわりは聞き流せない。
「オヤジ……」
 ぐっと身を乗り出した。そこへ、
「オヤジ!」
 輝良より早く武則の前に身を乗り出したのは沢だった。
「いくらなんでも『裏切り者』はないんちゃいますか。これでも輝良は金バッジもろた二葉組の幹部です。まだ輝良の腹の内がはっきりしたわけでもないのに……」
 懐刀と頼む若頭筆頭にいさめられて、武則はごほんと咳払いした。
「……『裏切りもん』ちゅうたんは取り消す。しかし、こいつが仕出かしたことはそのまま笑って流せるようなことでもない。なんかの形で落とし前つけてもらわんことにはな」
「落とし前……ですか」
「せや」
 そんな会話があったのが一か月前だ。
 安西組のことだけではない、輝良が管理している投資会社の運用実績にも武則はいろいろと難癖をつけてくる。――わかっている。武則はまだ、自分が熊沢とつきあっていることも、さらに言えば、平に抱かれたことも許せないのだ。表面的には城戸翁の差配どおり、すべて認めねばならないとわかっていても、感情がついていかないのだろうとは容易に想像がつく。自分に暴力をふるう時の武則の表情から、武則自身も自分の感情を持て余しているのが見てとれる。
 少なからぬ年月を一緒に暮らし、濃密な愛人関係だった相手のことだ。武則の複雑な葛藤は輝良にも理解できた。
 だからずっと、黙って殴られてやった。蹴られても無言で従った。想いはなかったが、情はある。理解もできる。だから、武則の気がすむならと暴力も甘受してきた。
――しかし。
 武則はどこまで輝良を追い詰めたら気がすむのか。
 今回、指を落としたら、それで? 
 それで気がすまなければ、二本? 三本?
 武則自身にも引き際が見えなくなっているのだとしたら……どこまでいくのか。
「……そろそろ、かなあ」
 三ヶ月前から、実は投資会社の帳簿は二重にしてある。二葉組への資金として利益を回しながら、今は裏で別の運用資金にも回している。裏での運用で上がった利益は当然、二葉組へは内緒にしてある。輝良自身の資金だ。
 その資金以外にも、準備していることはある。
 人だ。
 子飼いの部下を、輝良は着々と育て、増やしてきている。
 ただ、こちらは金を増やすよりむずかしかった。沢の人脈は二葉組の内外に蜘蛛の巣のように張り巡らされていて、その網にかからずにいい人材を集めるのは至難の業だった。できれば、あのスキンヘッドの二人組・マサルとサトルのような、骨惜しみなく尽くしてくれる、気心の知れた子分が欲しかったが、二人は沢の手下だ。
 それでも金と地道なスカウトにものを言わせて、子飼いの手下はなんとか数十人になっている。
――もし、これ以上、武則が無理を言ってくるようなら……。
 二葉組を分裂させても、自分で自分を守る。
 輝良はじっと鏡の中の自分をにらんだ。





                                                  つづく






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