真実の証明<2> −東くんと高橋くん−

 

 ――なあ。今度いつヤル?
 軽く、なんでもないことのようにアイツが聞いてくる。
 ぼくはもう恥ずかしいっていうか、いたたまれないっていうか。
 聞こえないフリで行き過ぎてしまうんだった。


 ぼく、高橋 秀(すぐる)とアイツ、東 洋平がセッ……って言うんだろうか、アレは。
 よくわからない。
 とにかく、ぼくと東が、裸になって、お互いに出させあいっこするという行為を――ぼくが本当に男に発情するゲイなのかどうかを確かめるためという名目で行ってから、一週間がたつ。その間ずっと、ぼくはぼくと東の間に起こったことを、どう名付けて、どう解釈すればいいのか、わからないままだ。
 どこからが正しいセックスで、どこまでが相互オナニーなのか、正直、ぼくにはわからない。他人の手による刺激が心地いいからって男同士でこすりっこすることがあるのは、ホントかよとは思うけれど、聞いたことがある。東とぼくがしたことも、それに近いんだろう。で、でも……。
 そこまで考えて、ぼくはいつも、一人で赤くなる。
 結局あの時、東はぼくの手でイッた。でも、ぼくは……東に、フェ、フェラされて……東の口の中で達してしまったんだ。フェラチオ。なんてあからさまで直接的な行為。東の頭が自分の股間で上下していた様子を思い出すと、全身がカッと熱くなる。
 もちろん、一方的にやってもらうばかりじゃ申し訳ないと思って、ぼくも、東を、その、きちんと教えてもらったように口でって、思ったんだけど。
 『今日はいい』って東が言ったんだ。
 『俺、高橋のメロメロなとこ見て、今日はもう大満足だからさ。いっぺんにそこまではいいや』って。『一度は咥えてもらったし』って。
 だから、東はちがうんだけど。ぼくは東の口の中に出しちゃったわけで。
 それって、行為としてはかなり濃いというか進んだところまでやっちゃったことにならないか? でもぼくは、古いのかもしれないけれど、セックスっていうのはお互い相手に気持ちがあって初めて成り立つものなんだと思ってる。それでいけば、ゲイかどうかを証明する、なんて理由で出しっこしただけのぼくたちのしたことはセックスなんかじゃないことになる。そうだ。ぼくたちはキスもしなかった。
 じゃあ、あれは……あれは、『ちょっと過激な相互オナニー』?
 セックスではないと思う。けど、じゃあなんだ?って聞かれると、答えられない。
 そんなぼくの思い惑いを知ってか知らずか、
「なあ、今度はいつヤル?」
 東は平気で声をかけてくるんだ。
 ……ったく。


 その日は雨で、ぼくたちは教室で弁当をつついていた。
 別に仲良しグループってわけじゃなかったけれど、いつも外で一緒に食べるメンバーと、その時も一緒にかたまってた。
 そこへ、
「秀」
 教室の入り口から声をかけて来たのは、同じテニス部の山岡 大輔だった。大輔とは中学も同じで、今では部で、大輔が部長、ぼくが副部長を務め、ダブルスでも組んでる仲だ。
「今日の練習なんだが」
 雨天の練習場所の相談に大輔は来たんだった。
 席を立ったぼくが大輔と話を済ませて戻って来ると、
「すーぐーるー」
 東がからかうようにぼくを呼ぶ。ふだん、同じクラスの仲間には名字でしか呼ばれていないから、なんかヘンな感じだ。
 東の顔には、タチの悪い、いやな笑いが浮かんでいた。
「カノジョにもそうやって呼ばれてんの? すぐるク〜ンって」
 思わず眉間にシワが寄る。
 ぼくには彼女なんていない。そのことをここにいる誰より一番、その理由ごと知ってるのは東なのに。なんでそんな嫌がらせを言うかな。
「えーっなになにっ! 高橋、いつの間にカノジョできたのっ!」
 すぐに食いついて身を乗り出して来るのは斎藤だ。その上に、
「そういえば、おまえさぁ、」
 そう言って振り返って来た井上が、
「北女のオンナからラブレターもらったんだろ、ホームで受け取ってんの、みんな、見てんぜ?」
 なんて、追い詰めてくれて。
「あれはラブレターじゃないよ」
 ぼくはつとめて平静な顔を装って、席に座る。
「ファンレターかな。手紙くれた子もテニス部で、今度の試合は最後だからお互いがんばりましょうって、それだけ」
 実際それだけだった手紙だからなんていうこともないはずなのに、変に顔が強ばる思いがするのは、こっちを見る東の視線があまりに剣呑なせいだろう……
「でも北女なんだろ?」
 斎藤がしつこく食い下がって来る。
 ……わからないでもないけど。北聖学園女子部、通称北女は、この近辺では有名なお嬢様学校で、美人が多いって定評がある。制服もうちの学校のような昔から形の変わらないセーラー服なんかじゃなくて、ちょっと洒落たジャンパースカートに、ウエストがきゅっと細く見えるボレロタイプのジャケットっていう可愛いさだ。中高一貫の北女はレベルが高いかわりに生徒のプライドも高くて、北女のオンナのコを彼女にするっていうのは、うちの学校ではちょっとしたステータス扱いになってる。
「向こうから手紙くれたんなら、もう押せ押せじゃん?」
 いや、いくら押せ押せな条件でも、興味ありませんから、ぼくには。
 なんてはっきり言ってしまうこともできなくてあいまいに笑ってごまかしたら、斎藤が盛大なため息をついた。
「あーあ、もったいねえ! モテる奴って、ホント、もったいないこと平気でするもんなあ!」
「東もだよ」
 井上が今度は東に話を振った。
「1組の橋田 里香、おまえにベタベタじゃん。もっと優しくしてやればいいのに」
 東はぴくりと眉を寄せる。パンを頬張る仕草が、不機嫌そうだ。
「付き合ってんだろ?」
 井上のさらなるツッコミに、東はケッと吐き出した。
「ウゼエんだよ、アイツ。まだヤッてもいないのに彼女気取りで」
 そのセリフにギクリと来た。
 『ヤッてもいないのに彼女気取り』いや、でも、だいじょうぶ! 絶対にぼくは東に対してベタベタなんてしてないし、格別親しげに振る舞ってもいない! 彼女気取りなんてとんでもない! 逆に、「今度はいつヤル?」なんて聞いてくるのは東のほうで。
「えーでもそれってさー、向こうはもう『ヤルのOKよ〜』ってことじゃん! いいなあ、東も高橋も」
 斎藤がさもうらやましそうに言い、ぼくは苦笑いしながら、「東と一緒にするなよ。ぼくのはホントにただのファンレターなんだから」って斎藤の肩を小突いて。
 それでその場は終わったんだけど。
 弁当を片付けて、手でも洗おうと廊下を歩いていたら。
 トン。
 肩に肩をぶつけられた。
「なあ」
 振り向いたら、東の端正な顔が真横にあって、びっくりした。
「いっそのこと、二人でカミングアウトしちゃわん? 俺たちゲイですぅってさ。なんかもう俺、メンドくせえわ」
 小声とは言え、学校の廊下でなんてこと言い出すんだよ! ぼくは慌てて、唇の前に指を立てる。
「なんだよ、そんなビクつかなくてもいいだろ」
 東は不機嫌そうに言い、
「俺だって高橋が、そーゆーのバレたら困るってわかってんぜ」
 だからこんなおとなしくしてやってんのに、とかなんとか東は口の中でブツブツ続ける。だからってぼくに、『黙っていてくれてありがとう』とでも言えって? ぼくは対応に困って視線をそらせる。と。
 チッ! 鋭い舌打ちの音がした。
「ムカついた」
 至近距離で、ブラウンの瞳がぎらつく。東が怒っていた。
「顔貸せ、高橋。話がある」


 そこで思わず、
「でももうすぐ5限目が始まるよ?」
 素でそう答えて、なおさら東を怒らせたぼくは、やっぱりバカだろうか。


 連れて行かれたのは旧校舎の音楽室だった。
 木造の旧校舎は別名芸術棟とも呼ばれていて、音楽室、美術室、書道室、工作室などの芸術科目系の特別教室が入っている。
 入り口で思わず、ガランとした音楽室の中を右、左と見回したら、東が低く笑った。
「この時間は誰も来ねえよ」
 さすがに生徒指導室常連の東の知識はすごい。特別教室の空き状況なんて、ふつーの生徒は知らないだろう。
 大股に、ゆるい階段状になってる音楽室の奥のほうへと上ってゆく東の後に続きながら、ぼくは改めて東を見る。ブリーチされて白っぽい金色になっている髪は毛先が肩に軽くかかっている。これはもちろん、校則違反。あまり締め付けの厳しくないこの学校でも、先生に一度ならず注意されているはずだが、東は聞く耳を持たない。開襟シャツもわざとズボンに入れない、タイもルーズ。耳にはもちろん、ピアス跡。両耳で5個は下らない。夜な夜なクラブに通っているとか、いつも合法ドラッグを持ち歩いているとか、人妻からお小遣いをもらっているとか、東にはウソかほんとかわからない噂がいっぱいあるけれど、実際に東を見て、その雰囲気を感じたら……誰だって、どの噂も本当かもしれないと思えてしまうだろう。同級生を小馬鹿にしたような皮肉っぽい笑みが似合って、人をにらむ目付きに凄みがあって、崩れた口調がサマになる、東。
 そんな東をぼくはどこかカッコいいなって思って見てる部分がある。それは自分が東とは対照的なタイプだから。優等生でありたいとか、マジメでありたいとか、思ってもいないし、そうでなきゃいけないなんて絶対思ってないけど。根がカタイんだろう、ぼくは普通にしててもレールを踏み外すことができない。仲間内でも、『彼女が家に安心して連れて行けるタイプ』って言われる。おまえなら絶対、彼女の親、喜ぶよなって。そんな自分のカラーを知っていればこそ、ぼくは東の奔放な雰囲気に憧れに似たものを感じてしまう。
 それに、同じクラスになって一緒に昼を食べるようになってわかったんだけど。東はその外見や素行の噂はともかく、その考え方や人との付き合い方が崩れているわけでは、決してなかった。……そりゃ……ゲイだろうって東に見抜かれた時は、東がおもしろがって言いふらすんじゃないかって、ぼくも思っちゃったし……それに……『人のチンコ触れんのかよ』なんて、とんでもない挑発をしてくれて、さらにとんでもない行為にまで及んじゃったりなんかできるヤツでもあったわけだけど。でもでも、それでもやっぱり、東は基本的に人の大事なところは外してないんじゃないかなってぼくは思ってて……
「高橋」
 突然、物思いを破られてぼくは慌てて視線を東に当て直す。かすかに眉をひそめた東と目が合った。
「おまえさ……」
 そう言いかけて、東は気まずそうに言葉を切る。なにが言いたいんだ?
 東の言葉を黙って待っていると、
「……クソッ」
 東は自分の頭をガシガシかいて、舌打ちした。
「なんでぇ、これ。みっともねえ」
 なにがみっともないのかわからないので、ぼくはさらに黙っていた。すると。
「本当は気持ち悪かったんだろう」
 だしぬけに東はぼくの胸元をつかみ上げた。
「え?」
「言えよ。本当は、この前、気持ち悪かったんだろ。男に……俺に、触られたり触ったりしてさ。後でゲエゲエやってたんじゃねえのかよ」
 え……え? 気持ち悪いって、え? この前の、アレが……?
 目が丸くなる。気持ち悪いどころか……
「な、なんで? ぼく、そんなふうに見えた……?」
 混乱して、そう聞き返すのがやっとだ。
 東の目が、きゅっと細くなった。
「……見えなかったよ。俺はおまえも愉しんでる、そう思ったよ」
 かすかに頬が熱くなった。いや、胸元つかみ上げられてるこの態勢でテレてる場合じゃないんだけど。……けど……うん、本当に気持ち良かったんだ。ぼくは東の肌や性器にものすごくドキドキして……触れられるのがうれしくて……触れてもらって気持ちよくて……もうなにがなんだかわかんなくなるぐらい、ドロドロに気持ちよくて……。そんなふうに喜んでた自分を東が気づいてた、そう思うと、どうしても顔に血が上ってしまう。
「……なのに、おまえ……」
 また、東は言い淀んで言葉を切る。
 東がなにを言いかねているのか、わからなかったけれど。
「気持ち悪くなんか、なかった」
 ぼくはぼくの本当を口にした。
 今度は東の目が大きくなる。
 ぼくはその、光の加減でハニーブラウンに見える瞳を見つめ返す。
「そりゃ、初めてだったから……むちゃくちゃドキドキしたし……ぜ、全然うまく、できなかったけど……」
 ぼくはなにを言ってるんだろう? 恥ずかしくなって、つい視線をそらしてしまいそうになったけれど、ぼくは思い切って続けた。
「でも、気持ちよかった。むちゃくちゃ」
 実はその後、毎日、思い返しては自分で……っていうのは、さすがに口にできなかったけれど。
「東に触ったのも、触られたのも、ヘンになるぐらい、イイ感じだった」
 ぼくが言い切ると……東はゆっくりひとつ、深呼吸した。そろそろ胸元、離してもらえないかな。そう思った時だ。
「……じゃあさ」
 妙に低くて、重い声で、東が言った。
「キスしてもいいよな? アレが気持ちよかったんなら……いいよな?」
 ドキン。一度に心臓が跳ねた。
「いいよな?」
 たださえ近くにあった東の顔が近づいてきて……唇に吐息がかかった。
 もう返事のために口を動かせば、それだけで東に触れてしまいそうで……
 ぼくは返事の代わりに、まぶたを閉じた。


 柔らかくてあたたかいものが、唇に押し付けられた。
 そういえば、これ、ファーストキスだ……
 友達でしかないはずの相手と、キスしてる不思議。
 ああ……でも……唇って、こんな柔らかくてあったかいんだ……
 東とキスしてるっていうシチュエーションと、初めて重なった唇の感触でぼくの頭はいっぱいになる。
 と。重ねられた唇が、唇で唇をなぞるように、うごめいた。
 ……あ……
 なんだろ……ヘンな感じ……
 唇が唇の上をなぞってる。
 それだけのことのはずなのに。唇の湿り具合だとか、そのふくらみ具合だとか……それが、こんなにも……リアルに伝わってくるなんて……
 ゆっくり東の唇が離れる
 もう終わり?
 瞬間、ぼくは東の唇を追いそうになった。
 目を開いた。
 至近距離で、東と目が合う。唇は、今にもまた、触れそうなほどの距離。
 ――もう一度……もっと……
 たぶん、ぼくの目がそう言った。
 そして、同じ言葉と熱が、東の瞳にも浮かんでいて。
 今度は両方から近づいて、また、ぼくたちの唇は重なった。


 キスって、唇が重なるだけじゃないんだ……
 知識として知ってはいたけど。
 キスが、こんなにも、激しく濃く、そして……気持ちのいいものだなんて、ぼくは知らなかった。
 いつの間にか、ぼくたちは互いの腕を互いの首に、頭に回して、もっともっとって引き寄せ合っていた。
 どれほど唇を吸い合ったろう、どれほど互いの舌を絡めあったろう……
 東の口腔も舌も、驚くほど熱くて、うっとりするほど柔らかかった。
 ペニスをいじられるのとは、またちがう。
 舌を吸い合い、唇を甘噛みし、どちらのともしれぬ唾液をあごに滴らせる、それは……身をよじり、声を放たねばならない快感とはちがったけれど、頭をぼんやりさせ、背中をぞくぞくさせ、躯を熱くする、確かに官能のひとつの形だった。
 ぼくたちは何度も何度も、唇を重ね合わせた。
 どれほど繰り返しても、まだ足りない気がして……


 ようやく、むさぼり合うのをこらえて、ぼくたちは濡れた口元で乱れた息をついた。
 ……どうしてだろう?
 東の呼気が唇にかかる。
 すると、ぼくの唇は自然に開きそうになる。東の息を吸い取って、その口を吸い上げたくなる。
 キスって、こんな魔力のあるものなのか……
 東を見ると、やっぱり熱に浮かされたような瞳に見えて。
 よかった。こんなふうに感じてるのが自分だけじゃないとわかって、自然に笑みが漏れた。
 東の口元もほころぶ。
「なあ……」
 熱い頬を擦り寄せられた。
「この前と同じこと……やっちゃおうぜ?」
 うわ……! それはなんて魅力的な……でも、とんでもない提案だろう。
「ダメ、だよ」
 顔が熱い。たぶん、首まで真っ赤になってるのをぼくは自覚した。
「い、いくら人が来なくても……じゅ、授業中だろ……」
「じゃあさ、」
 ささやきがわざと耳に吹き込まれる。背中に快感に似たものが走って、腰が、ジン、と来た。
「今度、俺んち来いよ、な」
 ぼくはコクコクとうなずいた。もう頼むから耳たぶに唇がつくようなしゃべり方、しないでほしい。学校の中だってわかってても、なんかもう、熱が引かなくなりそうで……
 少し慌てて、ぼくは東の胸を押しやった。
「わ、わかった。今度、東の家に行くから……」
 そしたら、意外なことを言われた。
「そういう顔、してくれりゃいいんだよ」
 ぼくは顔を上げる。
 東が満足そうに笑っていた。
「秀、ちゃんとかわいい顔もできるんじゃん。今度いつヤルって、こっち誘ってんのに、済ましてツーンとされてシカトされると、マジ、キズつく。おまえ、ホントは嫌だったのかなって」
「はあ!?」
 東の言いように、思わず声が上がった。
「な……べ、別に嫌じゃなくても、ふつー、学校でいきなりそんなこと言われたら、どうしたらいいかわからなくなるだろっ! ぼくにはテレる権利もないのかっ!」
「そっか。テレか」
 東はますます嬉しそうに笑って、ぼくのおでこにおでこをぶつけて来た。……な、なんだろう、この、妙に胸がざわつく感じは。あまくて……恥ずかしくて、バカらしくないかって思うのに、なんか嬉しいような、ヘンな感じ……。
「そうとわかってりゃ、俺だってブスな女みたいにみっともないこと、考えずにすんだのに」
 おい。ブスな女みたいって、それは全女性に失礼だぞ。
 そう突っ込もうとしたぼくの声は、重なってきた東の唇にさえぎられた。


 6時限目はきちんと授業に出ることにして、放課の廊下を東と教室へと戻った。
 ……なんか、すごい、恥ずかしい。
 ついさっきまで、抱き合ってキスしてた相手と、教室戻るなんて。もちろん、濡れた唇はきちんと拭いたし、顔の火照りももう収まっているけど。
 せめて東と離れて歩こうと、足を速めたところだった、
「すぐる」
 並み居る生徒より頭ひとつデカイ大輔に声を掛けられた。そうだ、今日の部活で体育館が使えるかどうか確かめておく約束してたんだった。
「あ。悪い、大輔、まだ……」
 大輔に歩み寄って謝ろうとしたぼくに、ドン! また肩をぶつけて来たのは東だった。
「なあ。今度いつヤル?」
 わざとらしくねっとりとアイツが聞いてくる。大輔の目の前で。
 ぼくはもう恥ずかしいっていうか、いたたまれないっていうか。
「まだ確かめてないんだ。今から一緒に職員室に確かめに行かないか?」
 聞こえなかったフリで、大輔の腕を取り、足早にその場を立ち去ったんだった。


 もう。いいかげんにしろよ。東に腹を立てながら。



 

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