真実の証明<4> −東くんと高橋くん−

 

 本当って、なんだろう?
 本当の自分、とか、本当の気持ちって、なんだろう?
 見えないし取り出せないものを、どうやって本物だって決めるんだろう?
 ――ぼくにとっての本当って……ぼくにとっての真実って、なんだろう……?




 ガラッ!
 もう2限目も終わろうかという頃、教室の戸が勢いよく開く。
 ずかずかと横柄な態度で入ってくるのは東だ。
「東っ!」
 先生の叱責の声が飛ぶ。
「今、何時間目だと思ってる!」
「あー3時間目?」
 教室のあちらこちらからくすくす笑いが漏れる。
「遅刻の理由は!」
「生理痛がひどくって」
 かばんを乱暴に机の上に放り出した東が、平然と言い放つ。
「東っ!」
 笑い声と冷やかしと先生の怒鳴り声が入り交じる中、
「なあ」
 後ろの席から斎藤がぼくの背中をつついてくる。
「東、どうしちゃったんだろ、荒れてるよな、最近」
 知るもんか、そんなこと。




 尻に指を突っ込まれた揚げ句に、目覚まし時計を投げ付けられて、「出てけ」って言われた。その後、東とは一言も口をきいてない。
 ぼくから話しかけないのは当然、東もぼくのほうを見ようともしない。
 そりゃ……落ち着いて考えてみれば、ぼくの言いようが悪かったんだろうとは思う。ぼくがなにか東の気にさわるようなことを言っちゃったんだろう。でも……それならそうと言ってくれればいいじゃないかって、ぼくは思うんだ。なにが気にさわって、ぼくのなにが悪かったのかきちんと教えてくれれば、ぼくだって謝ることもできたんだ。だけど、あんなふうにいきなり……上から押さえ付けて、にらみつけて、『犯す』とか言い出して。一方的にキレられて、謝るどころの騒ぎじゃない。
 ここ数日、東は遅刻早退ぶちかましで、昼もどこかに消えて一緒じゃなくて、正直、ぼくはホッとしていた。お互い、他人には気づかれないように無視しあってる相手と同席するなんて、気まずいことこの上ない。
 だけど……その日、東はなにを思ったのか、みんなと一緒に中庭に出てきた。
 そこでまた、いつもみたいにダベってたんだけど……。
「でさでさ、高橋、北女の女とはどうよ?」
 井上が言い出して。
「どうって、どうもないよ」
「明後日、テニス部試合なんだろ? 応援に来てくれちゃったりするんじゃねえの、カノジョ」
「別に、そんな、連絡も取ってないし……」
「今からでも遅くないじゃん!」
 そう井上が言った時だ。
「高橋はだめだな」
 東が割り込んできて、
「ニブ過ぎ。鈍感っての? 女、ガマンできねーぜ、アホらしくて」
 思いっきり嫌みな口調で言い放たれた。ムカッと来た。コイツ、嫌がらせが言いたくて出て来たのかと思った。なにか言い返してやろうと口を開きかけたところで、
「確かに、高橋はニブそうだよな」
 あっさり斎藤にまでそう言われた。
「誰でもみんないいお友達って思ってそうっていうか。高橋の見た目にキャアキャア言ってる女の子はいいけど、本気で高橋のこと好きになった相手ってかわいそうだよなって、俺、思う」
 斎藤にそうまで言われて黙ってはいられない。
「なんだよ、それは……」
 文句を言いかけたところを、
「斎藤」
 東にさえぎられた。
「なんかおまえ、訳知りじゃねえの。高橋に惚れてる相手に心当たりでもあんのか」
 口調は軽かったけれど、東の目が笑ってなかった。
 斎藤も、きちんと東に視線を合わせた。
「心当たりっていうか、俺、一年の時はテニス部だったから」
 確かに斎藤は一時期、同じ部だったけど。なんでそれが『本気の相手』とか『かわいそう』に結びつくんだよ。ぼくはしつこく聞き出したかったけど、東が、「ふうん」ってうなずいて、その話は終わってしまった。
 なんだよ、なんなんだよ、だから!




 その週の土曜日が、いよいよの高校総体地区予選だった。市のスポーツセンターで、個人戦、団体戦、ダブルスの各試合が行われる。
 これがけっこう忙しい。
 県大会出場常連の強豪校は応援も多くてにぎやかだけど、ぼくたちのような、三回戦まで進めれば上等、みたいな学校はギャラリーにも選手と選手の身内しかいないから、自分が出る試合ももちろん、仲間が出る試合も応援してやらなきゃいけなくて……進行表とコート配置図をにらんで右往左往してる間に、一日が終わる感じ。
 そうして走り回ってる最中に、ふと視線を感じて顔を上げて……応援席の中に東の顔を見つけたぼくは、心底驚いた。
 誰の応援? とか、素で思った。
 不思議そうな顔でもしちゃったんだろうか。東が、チッて感じで横を向いて。と思ったら、人込みをかき分けて近づいて来た。
「おまえ、今、誰の応援とか思ったろ」
 挨拶も抜きでいきなりそう来られて、思わず素直にうなずいてしまった。
「バカ」
 う。いきなりそれはないんじゃないかと思う。
「おまえの応援に決まってるだろ」
 …………ちょっと…………いや、かなり、驚いた。
「ぼ、ぼくの?」
 確かめたら、また「バカ」と言われた。
 その時、先に行ってた大輔に、
「秀!」
 呼ばれた。
「うん! 今行く!」
 大声で答えて、ぼくは東を振り返った。
「せっかく応援に来てやったんだから、がんばれよ」
 軽く頭をこづかれた。
 ……あ……え……なんだろ。ヘンな感じがした。
「東……怒ってるんじゃないのか」
 思わずそう言ったら、
「俺がなにを怒ったか、おまえ、わかってんのか」
 って、逆に聞かれた。東がなにを怒ったか……? そんなの言ってもらわなきゃ……。
「わかってないだろ。わかってない奴に怒ってても仕方ねえから、応援に来てやったんだよ」
 その時また、すぐる!って大輔が呼ぶ声がした。
「いいから行け。試合、がんばれよ」
 東に背中を押された。
 あ……なんだろ……まただ。なんか、ヘン。
 顔が勝手にゆるむ感じ……ヘンだよ、これ。なんでだろ。うれしい、なんか、すごいうれしい。ヘンだ。
 東が触れたおでこと背中が、熱いような気がした。




 試合は案の定、というか、予想の通り、惨憺たる結果になった。
 個人戦は準決勝まで進めた大輔が最高で、ぼくは三回戦負け。団体戦もダブルスも似たような成績だった。それでも、力いっぱい戦って、けっこういい試合内容も残せて。
 引き揚げるぼくたちの顔は決して暗くはなかった。
 応援に来てくれた人達に頭を下げて、ほかの部員たちはそこで解散。
 さりげなく応援の人達のなかに東の顔を探したけれど、試合中は確かに見えてたチャパツは見当たらなかった。
 ……帰ったのか。
 頭をこづかれた時とは逆の感覚が胸に広がる。がっかり。うん、それ。
 追いかけたら駅で追いつけるかなと思ったけど、ぼくと大輔は部室から持って来た備品を返しに一度学校に戻らなきゃならなくて。だいたい……追いかけて、ぼくはなにを話そうっていうんだろう……。ぼくは東になにを言いたいんだろう……。
 そんなことを考えてたら、つい、顔が暗くなっていたらしい。
「だいじょうぶか」
 部室で、大輔にそう声を掛けられた。
「あ、うん。……ここもさ、これで最後なんだよね」
 沈んでいたのは部活引退の感慨に浸ってたようなフリで、ぼくは部室を見回す。
 引き継ぎはまた別にあるけど……でも、もうこれで引退なんだ、そう思ったら、なんか甘酸っぱいものが込み上げてきた。
「……そうだな、最後だな」
 大輔も静かに言う。
「うん」
 プレハブ建ての、薄暗くて、埃っぽい部室。でも、ここで……ぼくらはいっぱい泣いたり笑ったりしたんだ……。
「秀とは……中学からずっと一緒だったな」
 感慨に浸っていたぼくは、大輔の噛み締めるようなその言葉に、また、うん、とうなずいた。
「これで……同じ部の部員じゃあなくなるけど、」
 思い出をたどりながら部屋を見回していたぼくは、その時になって、ぼくの真横に大輔が立っているのに気づいてギクリとした。
 いや。……立ってる、だけじゃない……。
 ぼくがもたれてるロッカーに、大輔は腕をつくようにして……上からぼくにかがみこむような態勢で……。
「これからは、別の形で、秀とは付き合っていきたい」
「大……」
 見上げたら、恐ろしいほど間近に、恐ろしいほど真剣な目をした大輔の顔があった。
「べ、別って……」
 しどろもどろになったぼくに、大輔はゆっくりと。
「好きだ。秀。ずっと、好きだった」
 そう、告げて。
 頭の中、真っ白になったぼくに、おおいかぶさってきて……。




 な、な、なにっ!
 だ、大輔が、なにっ!?
 別の形で付き合うって、ぼくのことをずっと好きだったって、それって、それって!
 意味わかんないんですけどっ!
 そう叫びたいぼくに、でも、大輔は、それはこういうことだって思い知らせるみたいに。俺の好きはこういう好きだって、ぼくに思い知らせるみたいに。
 ぼくの唇に、唇を重ねてきた。
「……だっ……!」
 叫ぼうとしたぼくのあごはいつの間にか大輔の手に捕らえられている。
 ぼくのあごを捕らえて、固定して、大輔は一度離した唇を、今度はさっきより深く、強く、押し付けてきた。
 吸われる。
「…………っ!」
 それでも、とにかく何か言おうとしたぼくの口中に、するり、舌まで滑り込んでくる。
 ――キスは、嫌いじゃなかった。……なのに。
 背筋をなにかがぞくりと這った。それは、東とキスしてる時に背中に走るものに、似ているようで、全然ちがった。
 ぼくのくちびるを覆い、吸い上げてくる、なまあたたかく、ふにゃりと柔らかいもの。ぼくの口の中に入り込み、ぬめぬめと舐め回して来る、べちゃりと濡れたもの。……気持ち悪かった。もうどうしようもなく、気持ち悪かった。背筋を這ったのは、嫌悪だった。
「……やっ、め……ろっ!」
 ぼくは渾身の力で、大輔の胸を押しやった。押しやろうとした。だけど、大輔の胸はびくともしないで……。自分の無力さに腹が立つ。
「い、やだっ!」
 唇だけはなんとかもぎ離して、叫んだ時だった。
 ドンドン。部室の戸を、誰かが叩いた。
 とっさに大輔の腕を振り払ったところで、スッと戸が開く。
「……なにやってんだよ」
 逆光に、毛先の光る、茶色の髪……。
「東っ!」
 叫んでぼくは駆け寄ろうとした。けど、足が動かない。
「どんだけ待たせんだよ、行くぞ」
 東が手を伸ばして来て。
 ぼくも手を伸ばして。
「待て」
 大輔が低く言う。
「待たない」
 ぼくの手をつかんで、ぐっと引き寄せてくれながら、東が返す。
「あんたには悪いが、俺が先約だ」
 ぐっと大輔の眉が寄る。
 東も、目に力を込めて大輔の視線を受け止める。
「早い者勝ちなのか」
 大輔の声が、一段と低い。
 二人はそのまましばらく、睨み合っていたけど……やがてゆっくり、東が首を横に振った。
「いや。こいつ次第だ」
 ぼくは東を見上げる。ぼくの手を包む、東の手、体温。傍らにいると香ってくる、もう覚えた、東のボディシャンプーの匂い……。
「……待たせて……ごめん」
 普通に言おうと思うのに、声が震えた。
「行こう、東。……大輔、お先に……ごめん」
 東が閉めてくれた戸の向こうに、大輔がうなだれているのが見えた。




 ぼくの腕をつかんで、東はぐいぐい歩く。
「ちょ、ちょっと東……」
 ラケットの突き出た、でかいスポーツバッグが邪魔で歩きにくい。そう言おうとしたら、
「なんだよ」
 東がすごい眼で振り返る。
「なにやってたんだよ。つか、なにやらせてたんだ」
「な、なにって……」
 やらせてたとか、やってたとか、なんでそういう不穏な言い方するんだ。抗議したかったけれど、その前に、
「唇が濡れてる」
 東にビシリと言われた。
「キスしたのか」
「したっていうか、されたっていうか……」
 言いかけた、次の瞬間。ぼくはぐっと東に抱き寄せられ、口づけられていた。




 休日とは言え、校庭の一角で。人気はないけど、校庭の隅で。
 ぼくは東にキスされた。
 まずい、と思った。誰が見てるか、わからないって。
 でも。
 いいやって、思った。
 誰が見てても、いい。誰に見られても、いいって。
 ぼくは東とキスした。
 背中に回った東の腕が心地よくて。
 重なった唇がうれしくて。
 どっちが誘ったかわからない舌を、絡め合わせた。
 東の唇も、やっぱりあったかくて、柔らかくて、東の舌も、やっぱりぼくの口の中でよく動いて、濡れてて。でも、それが、むちゃくちゃ気持ちよくて。
「……ふ……」
 久しぶりのキスを終えて、乱れかけた息を整える。
「……なんでだろ……」
 思わずぼくはつぶやいていた。
「なにが」
「すごい気持ちいい。さっきはものすごく気持ち悪かったのに」
 東がちょっと息を飲んで、「ジーザス」、天を仰いだ。
「……あー……おまえ、今、自分がものすごい誘惑かけてんの、自覚ある?」
 聞かれて、えっと目が丸くなる。
「これだもんな。おまえ、ニブ過ぎなくせに、天然で人を誘ってんだよ」
 そんなこと言われても。
「決めた。このままラチる」
 言葉は不穏で強引だけど。再び回ってきた東の腕は、柔らかくぼくの背中を抱く。
 その上に、なんかすごい優しい瞳でこっちの顔をのぞき込んできて。
「な……今から俺のウチ、来いよ。ダメ? まずい?」
 蕩けそうにあまい口調で聞いてきて。
 うん。
 ぼくは引き込まれるようにうなずいていた。
 うん。行きたい。
 もっと東とキスしたい。もっと東とイヤラしいことしたい。もっと東と……二人でいたい――。




 きちんと家に電話して、今日は友達の家に泊めてもらうからって言った。
「あまりご迷惑をおかけしちゃだめよ」
 母さんは言ったけど、もう何回も泊めてもらってるせいか、急な話にもダメは出なかった。
 東の家にはやっぱり誰もいなくて、ぼくたちは順番にシャワーを浴びて、ぼくは前に忘れてった下着とシャツに着替えて、その日はケータリングサービスもホームキーパーさんもお休みだったから、二人で夕飯を作った。と言っても、手際よくどんどん調理を進めるのは東だけで、ぼくは東に言われてお皿出したり、洗い物したりしただけだけど。
 そうやって一緒に夕飯作ったり、食べたりしながら、ぼくたちはいっぱいしゃべった。
「キスしちゃうとそっちばっかになっちゃうからな」
 って、東が最初に言ったんだ。
「今日はきちんと話そうぜ」
 って。
 その提案は、ぼくにもありがたかった。ぼくもきちんと、考えなきゃいけないことがあったから。
「だからさ」
 ネギを刻みながら東が言った。
「今こうしてるところに俺が橋田を呼び出したりしたら、おまえ、どーよ? 俺が橋田とキスしてても、おまえ、ホントにへーき?」
 改めてゆっくり、ぼくは想像してみる。
「……平気じゃない。……かなり、イヤかも」
 だろ?って、東はぼくをちらりと見る。
「時計投げつけたくなるぐらい、イヤじゃねえ?」
 ぼくは吹き出す。そうだね、確かに、それぐらいイヤだよね。
「山岡のこともさ」
 野菜炒めを取り分けてくれながら東が言った。
「気がついてなかったの、おまえだけだよ、多分。斎藤まで気がついてたってのに」
「だって、大輔、そんなことこれまで一度も……」
「そうかなあ。俺なんかすごい眼でにらまれてたぜ? おまえがニブ過ぎるんだよ。許せねーけど、キスまでしたのって、山岡もかなり思い詰めたんじゃねーの」
 そうなんだろうか……。大輔の、怖いくらい真剣な瞳を思い出す。大輔はずっとあんな眼でぼくを見てたんだろうか……。
「おまえさ」
 お皿を流しに下げながら、東が言った。
「男を好きな男なんて、そんないるわけないって思い込んでるだろ。男同士なんて友達にしかなれないって勝手に決めつけてんだよな。それがおまえの鈍感さの一番の原因だ」
「えー……でも……」
 それじゃあ男しか好きになれない自分は異常じゃないかって悩んでたのはどうなるんだ。ぼくは悩まなくてもいいことで悩んでたってことか?
「確かに、男にはぜーんぜん興味持てない男も多いけどな、意外とそういう障壁は低い気がするぜ? これからは気をつけろよ」
「気をつけるって?」
 お皿の最後の一枚を拭きながら、ぼくは聞き返す。
「だから」
 手を拭き終わった東が、くるりとぼくを振り返る。
「おまえ、綺麗で可愛いから。はっきり男好きするタイプだから。自覚しとけって言ってんの」
 ……面と向かって真顔でそう言われて、照れたらいいのか、怒ったらいいのか、わからない。対応に困ってうつむいたら、
「ほら。そういうところ」
 一歩、東が近づいてきて、頬を両手で挟まれた。
 ぼくのことを綺麗だって言うけど……東の彫りの深い顔立ちも、ブラウンのかかった瞳も、とても綺麗だとぼくは思う。間近で見るたび、ものすごくドキドキする。
 整った東の顔が、少し、近づいてくる。
 ぼくは目を閉じる。
 優しい、触れるだけのキスが、唇に落ちてきた。




「あのエロ本さ……」
 ベッドにぼくを座らせ、自分は床に膝立ちして、東はぼくを見上げる。
「おまえの反応確かめたくて、持ってったんだ」
 えっ!って驚きの声になるはずだったんだけど……東の指先にシャツの上から丸く胸の尖りをなぞられて、
「ひあっ!」
 変な声が上がってしまった。
 東は薄く笑って……なんだかちょっと、いや、かなり、いやらしい笑いを浮かべて、じわじわとぼくの乳首をこねるように指を動かす。
「言ったろ? おまえがゲイならいいなって思ってたって」
「しょ、証明しろ、なんて言うから……」
 シャツの上からでもくっきりわかるほどに立ち上がった自分の乳首に赤面しながら、ぼくは言った。
「あ、東、エッチなことしたくて……それで、へ、変な手を使ってるんだって、思った」
「エッチなことは確かにしたかったけどな、」
 シャツをまくりあげて、じかにぼくの胸に触れながら……指でいじっていないほうの胸にはペロリと舌を這わせて……東がくぐもった声で言う。
「それはおまえだからじゃん。俺、かなりきちんと言ってたつもりだぜ? おまえと二人でいる時間が好きだとか、おまえ、かわいいとか」
「ゆ、ゆってたけど、でも……っ!」
 東が胸から顔を上げた。
「ベッドでのリップサービスだとでも思ってた?」
 まさにその通り。
「ふうん」
 指で乳首をつままれて、アンッ! かなり恥ずかしい声を上げてしまったぼくに、
「お仕置き」
 東はさらに両側の乳首を同時につねるという責めを加えてきて。
「あっ……! やっ……んっ!」
 思わずぼくは身悶えた。
「同じ大学にまで行きたいと思い詰めて、マジメに勉強しだした俺の純情を本気にしなかった罰」
 つねられて、ジン、と来た乳首を今度は優しく優しく舐められて……。
「あ、東、東ぁ……」
 ぼくは多分、涙目になってたと思う。
「なに?」
 言うのも恥ずかしいけど。さっきから全然触ってももらってないソコが、もういっぱいいっぱい、パンパンに張っていた。そんなの、スポーツウエアなんだから、丸わかりのはずなのに……!
「ちゃんと言えよ」
 意地悪くうながされて、ぼくは唇を噛んだ。
「ほら」
「……さ、さわって……」
「どこを?」
 ぼくはぎゅっと目をつぶった。
「し、下……」
「ペニスって次はちゃんと言えよ?」
 ずり下げられたパンツから飛び出したものを、東はそう言って、パックリ口の中に収めてくれた。




 こっくん。
 東はぼくが放ったものを飲み下した。
「ま、まずくない……?」
 そう聞いたのは、東はまだぼくの口の中に出したことがないからで。
「ほかのヤツなら絶対吐き出してるけどな、おまえのは別」
 そう言って東はぼくの隣に腰を下ろした。
 落ち着いた顔で、深い眼差しで、ぼくを見る。
「好きだよ、俺、おまえが好きだ」
 ぼくは目を閉じて深呼吸する。同じ気持ちを、自分にきちんと確かめる。
「……ぼくも、東が好き」
 静かに、はっきり、ぼくも告げる。それがぼくの、真実(ほんとう)だから。


 素裸で抱き合った。
 何度も何度もキスをした。
 互いの首筋に顔を埋め、互いの胸に舌を這わせ、互いのそこを手にして……。ぼくは東のものを手にして、もう一度、自分に確かめた。ぼくの、本当……。
「ひとつになろうよ」
 言葉が自然に口から出ていた。
「東と、ひとつになりたい」
 なにがセックスかなんて、知らない、どうでもいい。
 ただ、ぼくは東とひとつになりたかった。
 それが、ぼくの、真実だった……。





 本当に、本当の、本当だったって!!
「わかったわかった」
 東は笑う。
「わ、わかってないよっ! ちゃ、ちゃんとぼくは、本気でっ……!」
 ぶわっとぼくの目から涙があふれだす。
 東は笑いながら、ぼくの背中をたたいてくれる。
 ああ。情けない。
 でも、知らなかったんだ。あんな痛いものだなんて。裂けるなんてもんじゃない、灼熱の棒かなにかで切りつけられたみたいな、とにかく、すごい痛みだったんだ!
「俺ももうちょっときちんと研究しとくからさ、な、そう落ち込むなって」
「だ、だって、ぼくは本気でっ! あ、東とつながりたいって……!」
「俺としてはもうその気持ちで十分なとこもあるし。それに、ホラ、全然だめだったわけでもないだろ? ちゃんと先っぽは秀の中にはいったぜ?」
 ぼくは涙目で東を見上げる。
「な、なんセンチくらい……?」
「ん……2、いや、3センチくらい、かな」
 また泣き伏したぼくを東がなだめてくれる。
 でも、ぼくの涙はなかなか止まらなかった。
 情けなさ過ぎる。ぼくは、ぼくの真実を、東にも自分にも、きちんと証明したかったのに。




 真実の証明、3センチ。




 ぼくは一晩中、東の腕の中で泣いていた。


                                                            完







大学生になった彼らの新シリーズはNextから
ただし、本作とちがいシリアス痛い系の展開になっています
苦手な方はお避け下さい

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