薫紫亭別館


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 ダンゴールに拠ると、気を失った彼は服を剥ぎ取って湯に放り込んでも、全く目を覚まさなかったそうだ。すーすーと寝息を立てていたというから、私が心配したような状態にはならなかったらしい。
 よくよく考えれば、彼は今日、クラッスラ遺跡でひと仕事して、徒歩で戻り、その後私と邂逅を果たしたのだから、緊張の糸が切れても仕方がないのかもしれない。しかし、私に供する為にダンゴールが頭から爪先まで磨き上げても眠ったままだったのは、見事と言うしかない。
 私は笑った。なかなか豪胆な所もあるではないか。
 ダンゴールの整いましたという報告を受けて、私は私の部屋へ向かった。
 彼は広いベッドに身を縮め、横向きになって眠っていた。シーツにすっぽり包まって、私からは彼の頭しか見えない。私がベッドに腰を下ろしても、起きる素振りもなかった。私は彼の肩までシーツをめくった。
 ――ふむ?
 私には、人間の美醜はよくわからないが……もしかして、これはかなり美形なのではないか?
 淡い金髪、乳白色の肌、薄紅色に色づいた指先。
 ついまじまじと観察してしまった。何も塗ってはいない……よな? それでこんな色が出せるのか。まるで細かく細工された砂糖菓子のようだ。角の有無を確かめる為に後頭部を探ると、水の中に手を入れた時のように髪が零れた。ちいさな頭。これだけの容量であの天才の頭脳が収まるのかと不思議になる。
 すり、と。
 私の手に、彼が頭を擦り付けてきた。もっと撫でろ、と言わんばかりに。
「………」
 フラウスキー君が拾ってきた仔猫を思い出す。彼の部屋は放っておくと小動物だらけにされるので、ある程度保護して気が済んだら、放すか貰い手を見つけるかさせるようにしている。その時、私にも一匹打診してきた。断ったが、一度、手のひらに仔猫を乗せられた事がある。あの感触を思い出した。
 ……あの時は、どうとも思わなかったが……。
 今ならフラウスキー君の気持ちがわかるような気がする。こんなに無力でちいさな生き物は、誰かに傷つけられないよう大事に保護しなければならないだろう。左手の腕輪が重そうだった。
 腕輪は単体で見れば艶やかな銀色で美しいが、彼の手にあると無骨で不格好極まりなく、そこだけ微妙な不協和音を奏でている。だが、これは私が彼を所有している証だ。外す事は出来ない。それに、外す事の出来ない腕輪の重みに耐える彼、というのもなかなか趣深いではないか。
 私は彼の肩を掴み、仰向かせた。
 その柔らかさにも私は一瞬驚き、次に、顔をしかめた。
 胸に、忌々しいバスターの烙印。舌打ちして、やはりこれは人間なのか、と思う。
 確かに天撃を使っていた。使っていたが、万にひとつ、魔人ではないかとも思っていた。魔物や虫に好かれる人間など見た事がない。が、頭の角も左腕の星も無い様だし、認めるしかあるまい。これは我々の敵、人間なのだと。
 私はガリッと胸の焼印に思い切り爪を立てて引っ掻いた。
「……痛……!」
 彼が目を覚ました。水色の目。さぞかし涙が映えるだろう。
「あ、閣……下……?」
 うろたえたように彼は首を巡らせた。今のシチュエーションが理解出来ていないのだろう。自分が全裸な事にも気付いたらしく、シーツの下で身をくねらせる。私はそのシーツを剥いで床に捨てた。
「あ……っ!」
 捨てたシーツを目で追う、その視線をこちらに向けさせたかった。
 私は彼の顎を捉え、正面から覗きこんだ。彼の目がおののいた。恐怖を感じているのだろう。私はぞくぞくするような昂揚を覚えた。笑いそうになる口もとに気をつけながら、私は宣告した。
「これから君を検分する。抵抗は無意味だ」
 私は首筋から胸まで手を滑らせた。蚊の鳴くような声で彼は言った。
「け……検分、って……」
「君の体の何処かに、魔人の形跡がないか探す。角と星は無いようだが、他にウロコだの棘だのが無いとも限らん。聞いた事もないが、魔人と人間の混血だのいう可能性も、無いとは言い切れないしな」
 違います! 僕は普通の人間です……、と彼は言った。
 自己申告通りなら、彼は幼少まで親と過ごし、その親が相次いで病気で亡くなったので、教会に入ったのだそうだ。そこで色々な書物に触れ、天撃を知り、天撃使いを知り、一日も早く身を立てる為に、バスターになった。孤児の子供が辿る道としては、どこもおかしい所はない。
 私はバスターの烙印の数を数えた。22本。
 この齢でレベル22なら、結構優秀な方ではないか? なるほど、彼は満遍なく天才らしい。
 私は彼の肌に舌を這わせた。彼の咽喉がひくついた。
「あ、あの、閣下……」
「……何だね」
「検分なら、その、目で見れば済む事では……き、汚いですよ、そんな、の……!」
「目と手触りでわからない部分を探している。汚くはない」
 で、ですが……、と、彼はまだごちゃごちゃ言っている。私は右手で彼の二の腕を掴みしめた。
 彼は短い悲鳴を上げた。
「うるさい。これ以上いらぬ事を言うと、折るぞ」
「……っ……!」
「黙って、大人しくしていたまえ。魔人でないと確信出来たら解放してやる」
 震えながら彼は押し黙った。ちいさくて無力な、可哀相なキッス君。絶対に逆らえない。
 私は彼の体の筋を、手と唇で余す事なく辿っていった。必死で声を噛み殺す彼が、思わず声を立て、震えた場所には、吸い痕や噛み傷をつけた。白く、薄い肌は鬱血しやすく、花が咲いたようだった。私は最初の一夜にして彼のポイントを知り尽くした。
 だが、この時はまだ、今後も彼の体をどうこうしようなどとは思っていなかった。
 何といっても彼は雄だったし、人間相手にそういう欲を抱くのは魔人には考えられない事だった。
 私は多少の好奇心と、どちらの立場が上かマウントを取る動物のような気持ちで彼を暴いた。
「………」
 上半身は裏表、検分が終わった。細い足に目をやる。その付け根。魔人なら体内に格納されている局部が人間は露呈している。急所だろうに無防備な事だ。私はそれを掴んだ。彼は懸命に声をこらえていたのも忘れて、叫んだ。
「や……っ! 離し、離して、ください……!」
 身を捩って彼は逃げようとした。私は彼に覆い被さり、体重をかけて、身動きを取れなくした。指を筒状にして擦り上げる。サービスだ。少しは気持ち良くしてやってもいい、ずっと啜り泣いていたからな。
 雄なら人間も魔人も反応は一緒だ。程なくして、彼は私の手に白い液を放出した。
「う……、あ……っ」
 放心したように呻く。私が身を起こして、自由を取り戻しても彼は動けずにいた。
 他人の手でイかされたのは初めてなのだろう。自分で弄った事も殆どなさそうだしな、と、私は指先と同じ薄いピンク色をした、先端だけ顔を覗かせて、後は大事に守られている花芯を見た。
 私はにやりとほくそ笑んだ。
 私の手で大人の容にしてやろう。私は彼のそれをもう一度手に握り、勢いをつけて下に引っ張った。
「痛ああっ!!」
 ひときわ高い悲鳴が上がった。
「痛い、痛いっ! やめて、閣下……っ!!」
 彼の悲鳴が耳に心地いい。
 私は彼を抱えて座りなおし、足を絡めて閉じられなくさせた。そうしておいて、よく見えるよう彼の腹と腿がつく程のふたつ折りにして更に浅く腰かけさせ、両手を使って剥きにかかる。少しでも長く悲鳴が聞けるよう、ゆっくりと。
 かりかりと、彼の手が私を掻いた。
 長い長い時間をかけて、完全に露出させた時には、彼の息は絶え絶えになっていた。
 私にぐったりと身をもたせかけて、滂沱の涙を流している。
 彼の初めて外気に触れた部分は濃い柘榴色をして、熱を持っていた。私はそれを弄んだ。その度、彼の体が跳ねた。剥いたばかりのそれは過敏過ぎて、触られるだけで痛みを感じているのだろう。
 事ここに至って、ようやく私は彼の最も奥まった場所に目を移した。
 雌ではないが、美童も一興かもしれない。
 私は彼の慎ましく窄まった部分に指を押し当てた。
 彼は狂ったように首を振った。
「嫌っ!! も、もう嫌っ。許して……!!」
 ――限界か。
 私は彼の状態を冷静に見て取った。
 拾った時、正気を失っていた彼は、正気と狂気の垣根が限りなく低いらしい。私の手でまたあちら側に押しやる訳にはいかない。はっ、はっ、と浅く早く息を吐き、目を見開いて、あらぬ所を見ている彼から私は指を抜いた。
「うう……っ!」
 解放してやると、彼はまろぶように私から離れた。
 私は鼻白んだ。確かに褒められるような事はしていないが、そうまで露骨に逃げようとしなくてもいいだろうに。
「明日の朝参には遅刻しないように」
 私はシーツを床に捨てた時のように、彼もベッドから床に捨てた。
 彼はしばらく声もなく、ショックと痛みに耐えていたようだったが、やがて立ち上がり、……失礼します、と言って出ていった。多分によろめいてはいたが。私は、退出の挨拶を忘れない所がしっかりし過ぎていて可愛くないな、と思った。
 あの時は風にも耐えぬ風情で、壊さないように、一応手加減してやったというのに。
 あれならまだ、行けるかもしれない。少しずつ、狂気の淵に落とさないよう、調教してやろう。
 あの体にはそれだけの価値がある。
 人間が、私を受け止められるまでになるのは容易な事ではあるまい。
 たった指一本にさえ、きつく抵抗を示していた。
 ふと、私はそこ以外にまだ、検分を済ませていない箇所があったのを思い出した。
 薄いが形のいい唇に、真珠のような歯が見えていた。あれに捩じ込めば、さぞかし具合いがいいに違いない。
 私は自分の雄が体内から隆起してくるのを感じた。
 が、彼を呼び戻そうとはせず、他の、性処理用の魔物も呼ばなかった。
 私は次の機会の為に、気を鎮め、一人寝と決め込む事にした。

>>>2010/12/27up


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