ダンゴールを残し、私は一人で彼の部屋に入った。
彼は微動だにせず、全裸のまま、ベッドの中心に横たわっていた。
風呂に漬けられたばかりだというのに彼の頬には涙の跡が幾筋もついていて、後で舐めて綺麗にしてやろうと思った。鼻先に香油の瓶を突き付け、覚醒を促し、足を開かせる。
瓶を傾けて中身を手に取り、塗り込める。
ぐ、と少し力を入れただけで彼の中に指が埋まった。
「……うう……」
彼が呻いた。が、痛みに引き攣った様子はなかった。
やはり雌ではないのでそれなりの下準備が必要だったらしい。ふむ。唾や血とは乾き方が違うな、と私は感心しながら指を蠢かせた。いやらしい音が響く。
「……良さそうだな、キッス君? では、喋って貰おうか。ビィトとかいう人間の事を」
彼の顔を覗き込みながら私は言った。
嫉妬と言いたくば言え。私は、彼の心を占めるその人物の事を知らずにはいられなかったのだ。
「ビ、ビィトは……」
割合に素直に彼は白状した。まあ、彼が口ごもる度、私が指を増やしたせいもあるだろうが。
ビィトとは、半年ほど行動を共にした、同年代のバスターらしい。
たった半年。私は呆れた。
「本当にそのビィトとやらとは何も無かったのかね? その程度の友人に、何故そこまで拘泥する!?」
ふるふると彼は首を振った。
彼が言うにはたった半年、ではなく半年も、らしい。
「ぼ、僕、は……何故だか、他人とうまくいかない事が多くて……だから友人関係も、長続きしなくて……ビィトは、初めて半年も長く付き合った友達で……」
「だがビィトとやらは去った」
「………!」
私は事実をぴしゃりと指摘した。彼の瞳が揺れた。
「私は他の人間とは違う。君をずっと重用する。君が、私に忠誠を誓い続ける限りだが」
彼は唇を噛み締め、考えていたようだったが、やがて新たな涙を零し、
「誓……います」
と言った。私は彼の足を両肩に抱えあげた。
彼は全身の力を抜き、抗わなかった。私と運命を受け入れる気になったのだろう。
私は彼の中心に自分をあてがい、貫いた。
「うあ……!!」
香油の助けがあったせいか、思いのほか深く入ってしまった。彼が痙攣した。恐ろしいほどの締め付けに、負けまいと私は腰を前後させた。
「お、願……! せめて、もっと、ゆっくり……!」
無理だ。
具合が良過ぎて止められない。折れそうに細い腰を掴んで密着させる。ああ。
私は嘆息する。彼の中に私が全て入っている。掻き回す。彼がまた悲鳴を上げる。私の好きな声。
彼の咽喉から更に悲鳴を絞り出させる。私は放つ。
しばらく彼の上にかぶさったまま余韻を楽しんだ。彼は啜り泣いている。
「……う……ひ、ひっく……」
彼の中に居座ったままの私がまたみなぎってきた。私は上体を浮かせ、突き上げを再開した。
「あーっ!!」
逃げようとする彼を押さえつける。忌々しいバスターの刻印に歯を立て、乳首を摘まむ。それはひと回り大きく、硬くなって、吸われるのを待っているようだった。舌先でコリコリとした感触を楽しむ。それにも歯を立てると、きゅっと下が窄まる。それが面白くて、何度も噛みついた。
私の腹は彼の放ったもので真っ白になった。
一方的とは言わせない、彼も楽しんだのだから。私が抜くと、閉じ切れなくなったつぼみから私のものがどろりと出てきた。私はそれを手で受け、彼の腹と言わず腿と言わず塗り伸ばした。匂いつけだ。私の持ち物だという証。魔物なら、腕輪を見ずともこの匂いを嗅いだだけで逃げ出すだろう。
「あ……あ……」
彼は意味がわからずに、されるままになっている。
虚脱したような彼を引っ繰り返して、私は再度、背後から挑みかかった。
無意識にずり上がろうとする彼を引き戻して、私は彼の耳もとで助けてと言ってみろ、とささやいた。
「た……す、けて……」
彼は訳もわからず繰り返した。すぐに必死の口調になった。
「助けて! 助けて、閣下……っ!」
「よく言えたな、ご褒美だ」
私は深く彼をえぐった。
「ひい……っ!!」
この程度で許してなどやるものか。私以外の者に助けを求めた、その罪は大きい。
それは自分の身で償うべきだ。手加減など完全に忘れていた。
結果、私はまたもロズゴート君の手を煩わせる事になってしまった。せっかく他の人間で実験したというのに、彼を前にしては全く役に立たなかった。理性を忘れさせる彼が悪いのだ。私は何事も冷静に、クールに行こうと決めているのに。
彼はまた絶対安静の状態に戻ってしまったので、私はまだ残っていた人間で憂さを晴らした。
足りなくなったので追加を依頼した。
ロズゴート君はちょっと呆れた様子だったが、私は知らぬふりをした。
……前々から思っていたのだが。
彼は特別な子供に思える。我々に暗黒なる瞳、ダークネス・アイズがいるように、人間どもの神が特別に贔屓して彼をつくりあげたような。彼が回復するまでのつなぎに何人もの人間を試したが、彼のような子供はいなかった。
容姿はまあ、彼に匹敵した者もいないではない。が、当たり前だが虫に好かれはしなかったし、向こうも忌避していた。何より大部分は私と相対すると固まった。会話も何もあったものではない。勢い、使い捨てになる。意思疎通が図れないなら、せめて穴としての役割だけは全うして貰いたい。
枕に顔を押し付けて口を塞ぎ、声をなくさせてから目を閉じ、彼の姿を思い浮かべる。
この下にいるのは彼だ、と言い聞かせながら腰を使う。
いつのまにか下の人間が動かなくなっている事もしばしばだったが、気にしなかった。
人間など、彼一人がいればいい。私は思う。
あの金髪も、白い肌も、私が愛でる為にある。天才の頭脳と完璧な外見、中身は普通の子供のメンタリティというアンバランスさが、私を惹き付ける。早く回復するといい。
ロズゴート君の許可が出た。私は早速彼を呼んだ。
彼はもう抗わなかった。
素直に身を任せ、体を固くしながらも受け入れる。
「閣下、あの……」
何度めかの夜、私の下で、彼は思いきったように切り出した。
「僕以外に、お相手を務める人間がいると伺ったのですが……」
「その通りだが、何かね?」
やはり、とばかり目を伏せ、彼は自分以外の人間を抱くのはやめてくれ、と乞うた。
「構わんが、相応の自信はあるのかね? 今は他の人間に分散している私との夜を、君が全て受け止めて、満足させられるというのかね?」
「……はい……!」
悲壮な覚悟をして彼は言った。私は口もとがほころぶのを感じた。
「そうまで言うなら、その証を見せて貰おう。今宵はとことんまで付き合って貰うぞ、キッス君」
私は彼に押し入った。
悲鳴を上げながらも、彼は必死で私と呼吸を合わせ、私の為に締め付けと緩めるのを繰り返した。
「あ……あっ、あ……っ!」
泣いている彼は、何と可愛らしいのだろう。
人間など、彼だけでいい。その彼が、人間は自分だけにしろと言うのだから、他の人間は皆殺しにしても構わないだろう。もちろん私とて、彼がそんなつもりで言ったのではない事くらいわかっている。むしろその反対だという事も。
だが、私は彼からお墨付きを貰ったような気分だった。
明日にでも補充した人間は処分しよう。ロズゴート君に払い下げてもいい。ロズゴート君もあれで、何やら人間を使って実験しているようだから、たぶん喜んでくれるだろう。ロズゴート君自身に献上させた人間ではあるが。
ロズゴート君は、彼の為に再生虫の孵化実験を行っていたようだ。
夜毎の荒淫に耐え切れず、調査にかこつけて彼がいったん私から離れた後、戻ってきた彼にロズゴート君は再生虫の卵を処方したらしい。再生虫の効果は絶大だった。やり過ぎたか、と内心反省している歯型や吸い痕で紫色になっていた肌が、元の白さを取り戻している。
締まりの方も、まるで初めての時のような固さだ。どれだけ手ひどくしても、一夜明けると元通りになっている。私は安心して彼を苛んだ。彼としては、たまったものじゃないだろうが。
だが彼は何も言わず、従順に、されるままになっていた。
だから私はまたも誤解してしまった。
彼にとって、私との行為は苦痛でしかないという事を。
好きで行っているのではないと、私は、酒を飲んで酩酊し、正常な意識が飛んだ状態の彼が嫌がって首を振り、シーツに顔を埋めて泣き伏すのを見て知った。
>>>2011/1/12up