「固いな……」
グリニデはキッスの秘所に指を埋め込ませながら呟いた。
「すみま、せ……っ!」
咽喉を引き攣らせてキッスは謝った。呼び出されてからこちら、ずっとそこだけを責められている。指一本でも、乱暴に掻き回されるせいでそこはとっくに裂けていて、鉄の匂いが鼻をついた。
「……っ、ああっ!」
自分の中でグリニデが指を鍵型に折り曲げたのがわかった。立てた膝の間からグリニデが聞いた。
「本当にそれほど苦しいのかね? 私から逃れようと、演技しているのではないのかね?」
「……違……本、当に……」
痛みに意識を飛ばしそうになりながらキッスは答えた。
「もういい。興が削がれた」
荒っぽく指を引き抜かれる。その感触にキッスはまたも悲鳴を上げ、ベッドに突っ伏した。
開かされた足はそのまま、腰を捻って上体のみシーツに伏せて顔を埋め、浅く息を吐くキッスを、グリニデは冷たく見下ろした。
「一体、いつになったら私を受け入れられるようになるのかね? この私がここまで手をかけてやっているというのに、君は一向に固く、開花の兆しすら無い。これでは演技と疑われても、仕方なかろう?」
「……申し訳……」
ぐい! と髪を掴んでグリニデはキッスの顔を上げさせた。
「謝罪なら、私の目を見てしたまえ! ……私を失望させないでくれたまえ、キッス君。君にはその義務がある。わかっているね?」
「は……、はい……」
キッスは息を呑んだ。グリニデがベッドの上に悠然と座り直したからだ。
興が削がれたと言われた時に、今夜はこれで解放されるかと淡い期待を抱いてしまったが、やはりそんなものは打ち砕かれる為にあるらしい。グリニデはあぐらをかき、局部を突出させながら、呼んだ。
「来たまえ、キッス君」
キッスはのろのろと体勢を変え、四つ這いになってグリニデに近付いた。
グリニデの中心に顔を伏せる。グリニデの外皮は緑色なのに、そこだけは赤紫色のそれに舌を這わせる。
青草と腐葉土が入り混じったような匂いにむせそうになりながら、キッスは懸命に舌を使った。
――初めて口を汚されたのは二回目の時だ。
研究室にいた所を、寝室に引き摺りこまれた時だ。検分自体も二回目で、泣き叫べば許されるだろうか、などと多少の計算もしていたが、いざ、グリニデが体に触れると、それ所ではない嫌悪感が沸き起こった。
「嫌……!!」
もう理屈じゃない。生理的な嫌悪、だ。
自分より力も体格もある人外の者に犯される事は、キッスの精神を恐慌に陥れた。ましてやキッスはまだ、子供で……こんな事、女性相手にすらした事がなかった。女の子は好きだったけど、もう少し先の事だと思っていた。自分の身にこんな事が起こるとは想像もしていなかった。
だからグリニデが指を引き抜き、自分を後ろに押し当てた時、キッスは必死になって懇願したのだ。
グリニデは恥もプライドもかなぐり捨てて泣きながら訴えるキッスを目近で凝視していたが、やがて上体を起こして座ると、未だ半泣きのキッスの手を取って起き上がらせ、己の股間を指し示した。
「舐めたまえ」
命令だった。キッスは目を剥いた。
額の角と同じように、それが内側から押し上げられるように突き出てくる。その時になって初めて、キッスは魔人の局部は普段は体内に格納されているのだと知った。考えてみれば当然かもしれない。闘争が日常の魔人にとって、急所をさらけ出す事は弱点を自ら増やすに等しい。
キッスに示して平気なのは、何も出来ないと侮られているのか。
いや、違うな……。キッスは思う。キッスが逆らうなどと、夢にも思っていないのだ、グリニデは。
キッスに人格があるとすら思っていないかもしれない。
グリニデにとってはキッスは替えの利く頭脳で、たわむれに体を開いてみたものの、それが人間の体にとってどんなに負担か、興味も関心も無いらしい。いや、少しはあるのか? 少なくとも無理な挿入はやめてくれたし、口を強制したとしても、まだマシな事に代わりはない。
おずおずと、キッスは顔を近づけた。
思い切って口に含む。赤子の腕ほどもありそうな太さと長さに内心恐怖する。
これが時間稼ぎでしかない事はわかっている。
だがその時のキッスには、一刻も早くグリニデが自分に飽きて、ただの頭脳、辞書か計算機扱いに戻ってくれる事を、祈らずにはいられなかったのだ。
自室に戻ってキッスは吐いた。
呑まされたものが胃の腑を焼いて、内側から自分がグリニデに乗っ取られるような気がする。
部屋の中にはダンゴールが湯を運ばせてくれていたが、既に冷めて、ぬるくなっていた。大きめの壺に入ったそれを構わずたらいに張り、身を沈める。といっても、膝を三角に組んで腰から下がようやく浸かるくらいだが。何度も何度も叩きつけるようにして湯を自分に浴びせる。グリニデの感触が去らない。
気が狂いそうだ。
「………」
ここまでされて、自分は何を我慢しているのだろう。
誰かを逃がす為の交換条件だったとか次の犠牲を出さない為だとか。頭が痛くてそれが誰だったかも思い出せない。今、救われたいのは自分だというのに、グリニデ城には誰もいない。人間はキッス一人きりだ。
誰か……一人。一人でいいから。
自分の境遇をわかって欲しい。そうすれば、自分はまた明日に立ち迎える。
そこまで考えてキッスは意識を手放した。湯は、キッスを包んだまま、しんしんと冷えていった。
次に目覚めたのは、誰かの言い争う声が聞こえたからだ。
「……おやめください、グリニデ様!」
「下がっていろダンゴール。この馬鹿に、誰が主人か思い知らせてやらねばならん」
自分はベッドに寝かされているらしい。らしい、というのは、体がふわふわして、現実感が無いからだ。すると、自分は熱を出しているのか……? ああそういえば、湯浴みの最中に気絶したのだった。冷めた湯に体温を奪われたんだな、と朦朧とした頭でキッスは思う。
それにしても……この声はダンゴールと、閣下……? 珍しい。閣下は呼び出しこそすれ、自分の部屋に足を運んだ事はなかったのに。見舞いにでも来て下さったのだろうか。それにしては何やら不穏な空気が漂ってくる。キッスは状況を把握しようと、ベッドの上で身じろぎした。
「……う……」
途端、部屋の空気が重みを増した。
何故……? と思う間もなく、つかつかと足音がして、シーツを剥がされる。キッスはなんとか瞼をこじ開けた。グリニデの、怒りに燃えた顔が飛び込んできた。
「閣下……!?」
反射的に顔を背けると、頬を張られた。二度、三度と張られる内に、無意識に自分はグリニデの胸を押し返して、逃げようとしてしまっていたらしい。グリニデはキッスの両腕を鷲掴んで、縫い止めた。
「私が寛大なる慈悲を持って接している内に、調子に乗り過ぎたようだなキッス君。だからこれは罰だ。呪うなら、君自身を呪うがいい」
「何を……っ!?」
訳がわからない。だが、グリニデがダンゴールが着せてくれたと思しき夜着を引き裂いたのは現実だった。
簡単に足を開かれ、足首を両の肩に抱え上げ、胸に着くほど折り曲げて、熱で思うように動かないキッスの上に覆い被さる。
――まさか。
血の気が引いた。押し当てられたそれが、火傷しそうなほど熱を発している。
「……嫌……無理……」
張り付いたような声でキッスはこぼした。
「無理です! どうかやめて、許して……! 閣下……!!」
利く耳持たず、グリニデは一息に恐怖に震えるキッスの体を貫いた。
意味のなさない叫びをキッスは発した。
痛みにキッスが気を失うと、グリニデはダンゴールに命じて、頭から水を浴びせかけた。
キッスは意識を保ったまま、グリニデの勘気が解け、満足するまで犯され続けた。
>>>2010/7/5up