案の定な答えが返ってきた。オレはうろたえた。
まずった。これはマジックアイテムなのだ。
ポップが庭づくりのシミュレートだけで満足するはずがないのに、オレとしたことが、目先の面白さだけにとらわれて、それがどんなアイテムなのか、考えてみることもしなかったなんて。
オレはあわてて言った。
「い、いいよ。オレはこの家の裏庭に不満があるわけじゃないし、ポップ一人で行ってきなよ」
「なんだ、エンリョすんな。ダイだって手伝ったんだし、それなら中に入る権利くらいあるぞ。自分のやったところの出来栄えだって気になるだろー?」
いとも無邪気に、ポップはオレの遠回しな辞退をしりぞけた。
ポップにしてみれば当然の論理なんだろうけど、ただ単に、オレは、中に入りたくないだけなんだよう。
ポップの持ってきたアイテムが、役に立ったことなんか一回も無いんだから。
「で、でも、どうやってこんなちいさい箱の中に入るのさ」
ムダと知りつつ、オレは最後の抵抗をこころみた。
「心配するな。そんなことに抜かりのある大魔道士だとでも思うのか。ちゃあんと、出入り口もつくってある。気づかなかったのか? ここにドアも取りつけてあるのに」
よく見ると、確かに、側面のひとつにマッチ箱程度のドアがついている。しっかしこの大きさじゃ、オレ達が入るのなんて不可能だ。
「だーいじょうぶだって! おまえは心配性なところがいかん、ダイ。いいからオレについてこいって」
言いながら、ポップはどしんとオレの背中を叩いた。
ポップは日当たりの良い台所の窓際に箱を移動させ、オレと手をつなぎ、なにやらもごもご唱えた。一瞬のことだった。
目の前にドアがあった。
あの、マッチ箱ほどの大きさだったドアだ。
それは今では普通のドアとしてそこにあった。
見回すと、ドアが大きくなったのではなく、オレ達が小さくなったのだとわかった。
目の前のドア以外のなにもかもがビッグサイズで、離れて見なければ、それが調味料の容れ物だの、壺だのいうことがわからないくらいだった。
「オレ達はちょうど、小指の先くらいの身長になってると思ってくれよ、ダイ」
ポップは続けた。
「お菓子の家、楽しみだなー楽しみだろダイ? どれだけ食ってもオッケーだぜちょっとやそっとじゃ無くなりゃしないから」
「………」
それを聞いて、オレはいつもの、なんとなくほわあっと胸があったかくなるような、そんな気持ちを覚えた。
悪気はないんだよ、いつだって。
いや、あるのかもしれないが、ポップが騒動に巻き込むのは大抵オレだけだから、どんな迷惑をかけられても、それがオレがポップにとって特別である証のような、そんな気がするのだ。
「行こうか、ポップ」
だからオレはポップを許してしまうのだろう。
「おう!」
勢いよく言ってポップはドアを開けた。
ドアの向こうには、本物とそう変わらない、緑の草原と林が広がっていた。
オレはポップについて、ゆっくりとドアをくぐり、注意深く一歩一歩、緑の大地を踏みしめた。
「はー……ここ、あの箱の中だよね?」
オレはポップに聞いた。
ポップはうなずいた。
「すごい。本物そっくりじゃん。ここまでとは思わなかったなあ……」
「ダイのおかげさ。ダイが手伝ってくれたから、こんなに早く、今日中に、陽のあるうちに出かけられた。まさか、ダイが手伝って
くれるなんて思わなかったから。だってダイ、オレがこーゆーことしてると、絶対イヤな顔するじゃん。よかった、やっとオレのシュミを理解してくれたんだなー」
思いがけず感謝されて、オレは照れくさいような、ちょっと申し訳ないような気分になった。
確かにオレは、マジックアイテムに理解を示しているとは言えなかったからだ。
どちらかというと敬遠ぎみで、迷惑がっていた。
ポップがそう言うのも無理からぬことかもしれないが、今までポップは、オレに不平を言ったことはなかった。
(理解したわけじゃないんだけどね)
オレは心の中でつぶやいた。
オレがポップに不満を持っているように、ポップもオレに対して言いたいことがあるんだろう。
まあそのへんは妥協ってヤツだ。許容できることならワザワザ口に出して、波風をたてることもあるまい。
「とにかくひとまわりしてみようよ。丘のほうかにぐるっと回って、最後にお菓子の家でひとやすみ、なんてどう?」
そうだな、楽しみは最後にとっておくもんだと言って、ポップはオレの提案にのり、先に立って歩きだした。
>>>2001/7/10up