「……そういうわけでレオナ、司祭役は元通りフス長老がやるから」
マトリフに注意されて、ポップを捕まえて閉じ込めたことを話すと意外にもレオナはあっさり了承し、神殿に使いをやった。
「ダイ君にそんな思い切った芸当が出来るとは知らなかったわ。それに、よく学生達が協力してくれたわね。魔道士の塔は、ポップ君の崇拝者達の塔、といっても過言じゃないのに」
「この前、祭壇が壊されてたろ? あれも、塔の学生達の仕業だったんだ。塔のみんなもポップが司祭役をやるの反対だったんだよ。……みんな不安なんだ、ポップがどこかへ行っちゃいそうで」
「そして、ダイ君もそうなのね」
レオナは少し皮肉っぽい口調で言った。
「ポップ君が隣にいないと不安なのよ、ダイ君は。気持ちはわかるけどね。ダイ君がくじけそうなとき、いつだって横にいて奮い立たせてくれたのはポップ君だもの。私じゃなくて。……でも、随分手際がいいのね。わざわざ魔法のアイテムまで借りてくる必要があったのかしら?」
ぎくっとしてダイはレオナを見た。
「……冗談よ。そんなに真剣に受け取らないでよ。もう行って、ダイ君には勉強があるでしょ。しっかり勉強して、いい王様になってね」
レオナが何故そんなことを言ったのか、ダイにはわかるような気がした。
きっと、レオナにはダイが心の一番奥に住まわせている人物が誰か気づいている。レオナは釘を刺したのだ。いずれ、ダイは自分と婚姻を結んで、この国の王となるのだと。
しかしレオナはダイを止めなかった。余裕か自信かプライドかはわからなかったけれど、今はこの恋を追いかけてもいい、ということだ。
(ごめん、レオナ)
心の中で謝ると、ダイは報告をしたレオナの自室から出ていった。
※
毛布を一応二枚。
中をいっぱいにした水差しと、灯り取りのお皿と油壺。
手を拭くためのの布を数枚と日持ちのしそうなお菓子。くだもの。
食事は学生達が差し入れてくれたはずだ。
手にそれらのものをかかえて、ダイは素早く、夜の闇にまぎれてポップを押しこめた廃墟の建物へ向かった。
かちりという音をたてて、部屋の鍵を開ける。
「………!」
灯りの必要はなかった。前見たときと同じように、ポップの廻りに青白い光が揺れている。
「おせえぞ、ばか」
眠っているかと想われたポップは、ゆっくりと身を起こしダイを見据えた。
「寝るのもアキちまったよ。ここじゃ、本も読めないしな。いや、読書なんざまっぴらごめんだが、もーヒマでヒマで。いつダイが来るんだろうって待ちくたびれちまったよ」
不敵にポップは笑った。笑顔が凶悪だ。怒っているのは間違いないが、でも……。
「寝るのもさー、床が硬い冷たいわで全然寝れやしねーの。毛布持ってきてくれたかだろ? 早く貸せよ」
それでも、待ちくたびれたとポップは言ってくれた。それが毛布目的でも構わない。ダイはポップが自分を待っていてくれたことに心があたたかくなった。
「遅くなってごめんね。はい、毛布」
ダイが毛布を手渡すために近付くと、青白い光はまた薄くなって消えた。
まだ妖精はこの部屋にいるのだろうが、見えなくなってくれた方が気が楽だ。
「ひゃーぬくぬく。ダイも入れよ、寒いぞ」
毛布にすっぽりくるまって、ポップは自然にダイを誘った。ポップに他意が無いのがわかるだけに、今のダイには刺激が強すぎる。
「ポップ……あのね、マトリフさんに言われたんだけどね、このままじゃポップが妖精の国に連れていかれちゃうから、閉じ込めてでも阻止しろって言われて……」
「あのなあ。それくらいオレだってわかってるって。オレが大丈夫と言ったら大丈夫なんだよ。それとも何か? おまえ、オレより師匠の方を信用するってーか?」
ポップがそう言うならたぶん大丈夫なんだろう。
だがダイは、今回に限りマトリフの言葉に従った。
「それでね、もう半分くらいポップはあっちの世界に行っちゃってるから、力ずくでもこっちの世界に引き止めろって……!」
息が熱い。これから自分の取ろうとしている行動に恐れおののいて、言葉がうまく出ない。
「ダイ?」
「だ、だから、ポップを穢せって。オ、オレはこんなこと、本当はしたくないんだけど、でも、マトリフさんが、言う、から……!」
「お、おい。穢すって……」
ポップはうろたえた声を出した。
「だ、からポップ。怒らないで、オレを、許して……!!」
毛布ごとダイはポップを石畳に押し倒した。激しく口づける。
ポップは枷でいましめられた両腕を突っ張って、ダイを引き剥がそうともがいている。
ごめんね。
しょせん体力で劣る魔法使いの抵抗を封じながらダイは思った。
マトリフさんに、こうしろって言われたから。
違う。別の声が否定する。
自分が、ダイ自身がこうしたかったのだ。たぶん、ずっと好きだった。
アリオーナ、という女性の名前をポップの口から聞いたときに初めて気づいた。
ポップ。アリオーナって誰? 恋人なの? ひどいよ。そんな人がいるなんて話してくれなかったくせに。
「あ、ああ! やめ……ろ、ダイ!!」
手枷がジャマだった。でも仕方がない。これがないとポップは逃げ出してしまう。
ダイは緑色の長衣だけを引き裂いて、中のシャツをはだけさせた。
「ダイ、嫌だ……嫌だよ。何で、こんなことするんだよ……」
ポップが訴える。泣いている。せつない気持ち。
「好きだよ、ポップ……」
そっと耳もとでささやいた。ポップには聞こえただろうか?
ポップはダイの与える感覚に翻弄されて、身も世もなく泣き叫んでいた。
>>>2003/1/22up