(起きて、ポップ……起きて!)
よく知っている声。誰かが激しく肩を揺すっている。
(……ポップ……)
何かなまあたたかいものが唇にふれた。
呼吸をからめとられる。
するり、と誰かが寝台の中に入り込んだ。
「ポップ……」
耳もとで誰かがささやいた。同時に、忍び込んできた指。
「……ダイ!?」
イッキに目が覚めてポップは叫んだ。何故、ダイがここにいるんだ!?
「起きた? ポップ。あ、大きな声出さないで。ここの壁薄いんだから、隣に聞こえたら恥ずかしいでしょ?」
服を脱がせながら言っても説得力など皆無だ。
「ばっ、ばばば馬鹿やめねーかっ! 何やってンだっ!!」
「ポップを犯そうと思って」
平然とダイはとんでもないことを口にした。
「ポップ自身、オレへの気持ちがよくわかってないようだから、それに方向付けをしてあげる。オレを好きになるように。大丈夫、体から入っても、心もすぐに追いつくよ。だから、安心して身を任せてね」
「勝手なこと言ってンじゃねええっ!!」
冗談じゃないとポップは身をよじった。だがその頃にはもう、ダイの手が急所をとらえ即物的な愛撫を始めていた。
「あう……!」
駄目だ。ここで流されてはいけない。
流されては……。
「ダイ! はっ、やめ……ろって……!」
ポップは切れ切れに抗議した。
「嫌なら抵抗してもいいよ、ポップ」
これにもダイは動じずに、
「それで逃げられると思ってるなら。だって、オレ、見つけたろ? どこに行ったかわからないポップを。どこに隠れてもきっとオレは見つけ出せるよ。……それより……あの、オレ、もう限界なんだけど。まだ始めたばっかりで悪いけど、一回入れさせてくれる? 二回目からはちゃんとやるから」
「あ……あほかっ! 何回やる気だっ!!」
ポップの罵倒を聞き流してダイはポップの足を抱えあげると、そのまま体を進めた。
悲鳴は──、
声にはならなかった。
挿入と同時に、ダイの手がポップの口を塞いで声が漏れるのを防いだからだ。
「……う、くっ……ふ……」
意味のない音だけが咽喉から漏れる。苦しげな。
ポップは弱々しく口を押さえているダイの手をもぎ離そうとした。息が出来ない。苦しい。ダイ。
痛い……!
「……ダイ……っ!!」
ようやく解放された唇が陵辱者の名前をかたちづくった。
「ダイ、痛いっ……痛い、やめて、もうやめて、ダイっ!!」
「やめない」
ダイも荒い息を吐きながら答えた。
「やめない! やっと捕まえたんだ。そしたら絶対、こうしようって思ってた……オレから逃げないで、ポップ。お願いだから、オレを嫌わないで……!」
言ってる事とやってる事が矛盾してるじゃねーかよ、とポップは沸騰した頭の隅で思う。
暴行しているのは確かにダイの方なのに、どうしてそんなに苦しそうな顔をしている?
ダイはじっとポップの顔を見つめている。
あ……まずい。ポップは思った。
ダイの目。仔犬のような目。置いていかれた子供の目。
この目に弱いんだ、自分は。誰よりも強い勇者のくせに、誰かに頼りたい子供の部分を残した視線。
この目にほだされて、幾度世話を焼いてきたことだろう。
(もしもダイが本気で望めば……)
どうしてポップに拒むことが出来ただろう?
ポップは静かに目を閉じた。
そうして、そっとダイの背中に手を回した。
「ポップ……?」
ダイの、不安と期待の入り混じった問い掛けに、ポップはちいさく頷いた。
朝。
腰の鈍痛で目覚めたポップは横に至福の表情で眠るダイを発見した。
(気持ち良さそーに寝やがって……!)
ほんの少し恨めしい気分で、ポップは寝台から下り、その部分に回復呪文をかけた。
昨夜の痕が目について、頬を熱くしながら体全体にも回復呪文を巡らせた。こうすれば痕は綺麗に消えるはずだ。さっさとシャツを身につける。さて、これからどうしよう?
ほとんど強引に押し切られたとはいえ、ポップもダイを受け入れてしまった。パプニカやアルキードの未来の為に、それだけは避けたい選択だったのだが。
今後のことを考えてポップは途方に暮れる。
(大体、何でオレばっかり考えなきゃいけないんだ! こうなった責任の半分はダイのせいじゃねーか。ダイが大人しくレオナとくっついてりゃ、オレがこんなに悩むことも無かったのに!)
満足そうなダイの寝顔を見るほどに段々腹が立ってくる。
ので、ついダイの寝ているシーツを引っ張って、ダイを床に叩き落した。
その痛みでダイは目を覚まして、
「あにすんだよおおっ!」
と、怒鳴った。
「いや、なんとなく」
床に座り込んだまま文句を言うダイにポップは背中を向けたまま答えた。
「なんとなくでこーゆー事するのっ!? ひどいよポップ。やっぱり昨夜のこと怒ってるんだね!? 二回目からはオレも頑張ったのに! ポップはオレが嫌いなんだあ!」
たわごとを聞き流しながらポップははた、と気付いた。
「……おいダイ。どうやってここを見つけた?」
もしかして、ダイもリリルーラを身に付けたとでもいうのだろうか。
「え?」
「だからー、どうやってオレの居場所を突き止めたんだって事」
これはかなり重要な問題だ。もう逃げようとは思わないが、もしもの時の逃走手段は残しておきたい。
「宿屋の窓を覗いて」
ポップはがっくりと肩を落とした。世界を救った勇者ともあろう者が、たった一人の人間を探し出すために、宿屋の窓をひとつひとつ覗いたというのか!?
「それっていわゆるノゾキ……」
「い、いや全部が全部覗いたワケじゃないよ! ちゃんと宿屋の主人に聞いたのもあるし、入り口から出てくるのをチェックした時もあるし……」
さらなる脱力感に襲われてポップはダイのそばにへたり込んだ。
「何やってんだよ、まったく……」
片手で顔を覆ってつぶやく。
「ポップを見つけるためだよ」
つい、とダイはポップの肩を引き寄せて優しくひたいに口づけた。
そのまま唇に移行してもポップは抗わなかった。
ダイが調子に乗って、せっかく着たシャツの裾をたくしあげようとした時、非常に気持ちのいい音を立ててポップはダイを殴っていた。
「い……今、こぶしで殴ったあ!」
「おまえに平手で殴っても、ほとんどダメージを与えられないだろうが。いい加減にしろ、朝っぱらから。おら、服着ろよ。ここ引き払うんだから」
ばさっとダイの服を放る。
ぶつぶつと袖を通しながら、それでもダイは嬉しそうだった。
「やっぱりメルルの言う通りにして良かったな」
「メルル?」
いやあな予感がして、ポップは聞き返した。
「うん。ポップがどこにいるか占ってもらいに行ったんだけど、ついでに恋占いもしてもらったんだ。相手の名は言わなかったから、メルルはレオナの事だと思ってくれたみたい。実力行使あるのみ、って随分積極的な啓示をくれたよ」
ポップは皆まで言わせずに、更に二、三発ダイを張り倒した。
>>>2004/6/8up