メロウ  ひとつ前の話>>08  ※テキストファイルにまとめた分から順に削除してます。話の最初は ここから 読めます。
>つづき/09

イギリスが一番好きだったなんて言い出すような、普通じゃない状態の今のフランスになら、これまでずっと胸の内に隠していた恋情をすべてさらけ出して素直になれるかもしれない。
そう思うものの、ばかにされてばかりだったフランスからいきなりそんなふうに言われても、どう反応していいものかわからなくて そうか、 と短く答えるのが精一杯だった。
羞恥心に負けて、こちらを見つめていた彼から目線を逸らすとフランスは小さく笑って言った。

「なぁ、俺の好みのタイプを教えてやったんだから、今度は俺が聞く番な。イギリスはどんな子がタイプなんだよ? あー……そういやお前って誰かと付き合ってたとか、そういう話聞いたことないなぁ。いないの、好きな奴とか」

好きな奴、と直球に聞かれてどくんと心音が大きく跳ねる。
それはイギリスの気持ちの核心に触れる問いだ。
彼のその問いに対して 「俺が好きなのはお前だ」 なんて本来なら絶対に言えない科白だけれど、この一週間のあいだだけはそれを言える。
長い間心の底に押し込めていた気持ちを今さら口にするのは勇気がいるが、絶対にこの機会を逃すわけにはいかない。
彼を好きだという思いを伝えられるのは今しかない、と気持ちを固めると、小さく咳払いをしてぽつりと呟くように答えた。

「い……ないことも、ない」

「えっ!」

イギリスの返事は予想外だったのか、フランスは驚いたように青い瞳を見開いて振り向く。
この態度から察するに、どうせイギリスは色恋沙汰とは無縁なんだろうと勝手に決めつけていたのに違いない。
そんな反応をされたらどう話を続けたらいいんだよ、と眉根を寄せてフランスを睨み付けると、じっとこちらを見つめていた彼の双眸が細められ、窺うような目線を向けてくる。

「……なんだよ、そんな話初めて聞いたんだけど」

なぜか不機嫌そうな顔つきと声音で発した言葉には少し棘があるように感じられた。
思いがけず雰囲気が悪くなってしまったことに戸惑いながら、なに怒ってんだよ、とイギリスは溜息を漏らして言った。

「……言ったことねえしな。そんなことお前に話す義理もねえし」

素っ気ない返事にフランスは不満げに唇を尖らせる。
それを見て、こいつはいい歳のおっさんのくせに、そういうかわいい仕草が似合うとでも思ってんのか、と呆れる一方、惚れた欲目かちょっとはかわいいような気もしている自分が恥ずかしい。
ガキみたいな拗ね方しやがって、と彼の唇を眺めていると、じんわりと自分の唇が疼きだした。
フランスの唇が触れることを想像して頬が熱くなり、イギリスはキスをしたい願望をごまかすように口を開く。

「と、とにかく俺にだって、好きな奴くらいいるんだからな」

「ふーん……イギリスの好きな奴って誰? 俺?」

軽い口調で言うわりに、冗談とは思えない真剣な表情で 「俺?」 だなんて聞いてくるフランスに、心の内を見透かされたような気がしてかーっと一瞬で頭に血が上り、考える間もなく思わず声を荒げてしまった。

「なっ、なんでお前だよ!!! そんなわけあるかバカ!!!!!」

普段どおりに太い眉毛をつり上げて全力で否定したあと、我に返ったイギリスは慌てて口を閉じる。
素直に自分の気持ちを伝えようと決めたばかりだというのに、フランスに対してはどうしてこうかわいげのない態度を取ってしまうのかと自己嫌悪に陥るが、頭ではそう思っても千年この調子だったのだからすぐに態度を改めるなんて簡単にできることではない。
ひとまずいったん落ち着け、と自分に言い聞かせていると、酷く残念そうなフランスの声があとに続いた。

「なんだ、違うのかよ? ……お前が好きになるなんて、どんな奴なんだろうなぁ。やっぱり、……アメリカとか日本とか?」

「はぁ? なんでそうなるんだよ、……アメリカは弟だし、日本は友達だろ」

なぜここでその二人の名前が出てくるのか、何ばかなこと言ってんだ、と首をかしげて答えると、フランスは少し安堵したように表情をゆるめてさらに問う。

「じゃあお前の好きな奴って誰? 俺は言ったのに、イギリスは……教えてくれねえの?」

「そ、……それは……」

俺は言ったのに、と言われてイギリスは答えに詰まった。
そんなわけあるか、とあれだけ強く否定してしまっただけに、 「さっきのは嘘で、ほんとはお前のことがずっと好きだった」 なんて言い出しにくいことこの上ない。
それでも言わなければ、とぎゅっと拳を固く握るが、なかなか言葉が出てこなかった。
するとフランスは痺れを切らしたように具体的に聞いてくる。

「なぁ、顔は? 俺より美しいの? 性格は俺より優しい?」

「なんで比較対象が全部てめえなんだよ……」

「だって俺はお前が一番好きって言ってるのに、お前はそうじゃないなんておもしろくないに決まってるだろ」

「……、……」

フランスがイギリス個人に対して、こんなにも関心を示したのはこれが初めてではないだろうか。
お前が一番好きという科白に羞恥心も薄れ、イギリスは大きく息を吐いてやっと自分の気持ちを口にした。

「わかったよ、そんなに知りたいなら教えてやる。……性格は自意識過剰のナルシスト野郎で、変に打たれ弱いしすぐ泣くし、人の顔見りゃばかにしてきて超うぜえ奴だよ」

さっきのフランスの言い方を真似て言うと、彼は自分のこととは思っていないのか思いきり顔をしかめて言った。

「なにそれ、ひでえな。そんな奴のどこがいいわけ? 趣味悪いな」

まるで気付いていないフランスの反応に、イギリスは笑ってしまいそうになるのを堪えて言葉を足す。

「……でも優しいんだ。誰よりも俺のことを理解してるし、……ずっと傍にいる」

フランスの方に目線を向け、青色の双眸をじっと見つめてそう告げると、ようやく気が付いたのか彼の目元がじわりと赤く染まっていく。