DOLLS
- 3 -
日が暮れた、夜に近い夕方。仕事を終えた二階堂は車に戻り、01豪炎寺の様子を伺う。
「“豪炎寺”……?」
後部座席で丸くなっている01豪炎寺からジャージを取るが、彼は眠っていて反応しない。
「おい」
揺らしても起きない。
二階堂に焦りの冷や汗が滲む。このまま駐車場にいては01豪炎寺の存在が見つかってしまうので、早い判断が必要だった。
「もしかして……」
閃くままに、01豪炎寺に口付ける。
すると、ぴくんと瞼を震わせて目を開いた。
「にゃ…………かんとく……」
ふああ。伸びをしてあくびをする01豪炎寺。二階堂は安堵の息を吐き、運転席に回って車を走らせた。
二階堂の勘はあたった。どうやら距離が離れて活動を停止していたようなので、口付けて再起動させたのだ。
「退屈だったか?」
「眠っていたので……でも、寂しかったです」
「いい子に待っていて、偉いぞ」
ぴょこん。01豪炎寺の耳がひくつく。“偉い”に反応したのだ。
「なら監督、ご褒美が欲しいです」
「ご褒美って……一体なにをすればいい?」
「久しぶりにあの場所、行きたいです」
“あの場所”とは、二階堂と豪炎寺が付き合いたてで泊まる仲まで進展していなかった頃、逢引にしていた場所。海に近く、木が多く塀が高い駐車場があり、夜は人気もないので秘めやかな愛の囁きを交わしていた。
「……そんな場所でいいのか?」
「そんなって、俺たちには大事な場所じゃないですか」
「わかったよ」
家の方向から“あの場所”へ道を切り替える。
いまいち乗り気ではないが、断る理由もなかった。“あの場所”で交わしていたのは囁きだけではなく、二人が初めて身体を重ねた場所でもあった。今後部座席に乗っているのは“豪炎寺”であって豪炎寺ではない。記憶を所有しているだけで、彼との思い出の地ではない。
「ほら、着いたぞ」
車を停める。まだ夕日の光は残るが、木が覆うこの場所は既に夜の雰囲気を醸し出す。
「懐かしいです」
薄く微笑む01豪炎寺。車の明かりを消して、薄闇にする。
「二階堂監督。こっちに来て、俺と遊びましょう?」
「遊ぶ?家には他の二人もいるんだから、少しだけだぞ」
「わかっています」
二階堂は腰を上げ、一旦車を出て後部座席の01豪炎寺の隣に腰掛けた。
「さ、なにをすればいいのかな?」
問うなり、01豪炎寺は二階堂に抱きつき、身を傾かせて窓際に寄りかからせる。
「これ、してください」
そういって豪炎寺が取り出して見せてきたのは、プラスチックで出来た楕円形の物体。一見、なにかわからなかった二階堂だが、目を凝らせば理解して顔を熱くさせる。大人の玩具であるローターだった。
「お前っ!こ、ここ、こんなものを、どこに」
動揺する二階堂はどもりそうになる。子供が持つには破廉恥で、家に置いた覚えもない。
「お忘れですか?調教セットに入っていたものですよ」
――――調教セット。
言われて思い出す二階堂。確かに生体ドールと一緒に、そんなようなものも同封されていた。
「俺と遊んでください、監督」
スイッチを押し、ローターがぶぶぶ……と電子音を鳴らす。
「か ん と く」
一文字一文字を唇に刻み、迫って上目遣いでおねだりする。
く。二階堂の喉が鳴った。かじかむように感覚のない指先が伸びて、ローターを受け取った。
01豪炎寺に背中を向かせ、後ろから抱き込んでローターを寄せる。
まずは胸の中央にあわせ、片胸の突起へと移動させた。豪炎寺に、子供に、元生徒に、性で遊ぶ道具を突きつけるのは背徳感で後頭部がぞくぞくと寒気を走らせた。
「は、ああ…………」
震えて反応する01豪炎寺。崩れた体勢で股は開き、ずれたシャツから性器が見え隠れする。
「ひあ」
突起周りに円を描けば、思い通りの反応を起こす。
上半身の隅々にローターをなぞらせば、01豪炎寺は口が閉じられず、赤い舌を覗かせて濡れた声で鳴きだした。弄ぶかのような行為、愛らしく鳴いてくれる“豪炎寺”に、朝に芽生えた悪い心が再び疼きだす。欲望のままに、大事で守らなければならない“豪炎寺”を好き放題に滅茶苦茶にしたい――――。
「ひぃ……ん……!」
シャツを捲し上げ、無防備な性器に直接あてがって強い刺激を与える。
電撃に撃たれたような衝撃を受ける01豪炎寺の口を塞ぎ、声を押さえ込ませた。
「ん―――――っ…………んぅ、う……!」
涙を零してびくびく震える01豪炎寺は、性器から白濁をはじけさせた。
まがい物のそれはとろりと伝って窄みを湿らせ、次に容赦なくローターを挿入させる。生体ドールの窄みは排泄の機能はなく、受け入れるもののみの器官を化しており、昨夜容易く二階堂自身を呑み込んだ02豪炎寺のように、01豪炎寺もローターを難なく咥え込む。
「にゃ、……ああ……!」
足をばたつかせ、嫌がる01豪炎寺。本物の豪炎寺の持つ記憶が、二階堂自身以外の侵入を拒んでいるのだ。
「暴れるなよ」
片腕で閉じさせた足の膝裏を上げ、もう片方で両手を身体ごと抱きこんで動きを封じる。
「にゃあっ…………にゃああ!にゃあ!にゃあ!」
感情が昂りすぎて、人を捨てて猫になって足掻く01豪炎寺。
ぶぶ、ぶぶぶ……。振動するローターがある一定の波長で01豪炎寺の内側を掻き乱し、すぐに二度目の射精をしてしまう。
「ふあああ……っ!」
白濁は座席を汚すが、ティッシュで拭えば簡単に綺麗になる。後始末が楽なように造られていた。
「ひぃ……、ひぃ……ひ……」
鼻を啜り、流れる涙をぐすぐすと手の甲で拭う01豪炎寺。そんな彼の頭を撫でて二階堂は声をかける。
「さあ、戻るぞ。ご褒美はこれでいいだろう?」
「え…………」
二階堂はローターを引き抜かず、三人のドールの為に用意した予備のユニフォームの入った紙袋から靴下を取り出す。
「家に帰るまでも大人しくしているんだぞ」
そう言って、靴下で手首を縛る。
「かんとく…………?」
「いい子にするんだぞ」
優しく唇に口付けし、二階堂は運転席に戻ってしまう。
01豪炎寺は大人しく姿勢を正し、ローターの振動に耐えようとする。膝の震えを手で押さえ込もうとした。瞳は不安そうに揺れて、二階堂の後ろ頭を凝視している。
二階堂のこのような態度は“豪炎寺”の所有する記憶にはなく、戸惑いを覗かせているが新たな一面に鼓動を高鳴らせていた。
対して二階堂は、01豪炎寺の反応を気にかけている。“豪炎寺”らしく、大人しく耐えている様子が哀れに感じるのに、一方で彼の真っ直ぐな一面をからかいたくなる思いが葛藤した。本物にだったら絶対に出来ない真似を生体ドールにしてしまっている。
ますますこれでは、豪炎寺本人に言えなくなってしまう。
そんな悩みでさえ、二階堂だけのものではなかった。
同時刻より少し前。稲妻町の鉄塔小屋。
豪炎寺は02、03二階堂を呼び覚まし、三人と戯れていた。彼らの衣服もやはり父から借りるしかなかったが、フクが察してくれたのか適当な言い訳で父勝也を納得させてくれる。
生体ドールたちにズボンは尻尾が引っかかってしまっているが、無理やり押し込んでいた。
「あ………っ……う」
豪炎寺は掠れた切ない鳴き声を漏らす。
「我慢するなよ、俺たちだけだろ?」
顔の横で、後ろから01二階堂が囁く。彼は座り込む体勢で豪炎寺を後ろから抱き、学ランを脱がせたシャツ越しに胸の突起を指で転がして愛撫を施していた。
「くう…………ぅ」
だが胸の刺激は些細なもので、もっと大きな快楽を02二階堂が送り込んでいる。
豪炎寺はシャツより下は下着すら履いておらず、投げ出された足は股を割られて02二階堂が入り込み、身を屈めて口で性器を舐っていた。
二階堂の舌遣いは豪炎寺の快楽を的確に突き、上目遣いで試すようないやらしい視線を注いでくる。
唾液の滑りに絡んだ舌と口内の熱に、豪炎寺の膝はがくがくと震えた。
「ひあ、…………っ………ひぃ、ん……っ!」
口を紡いで声を抑えようとするが半開きで閉じてくれず、その横から溜まった唾液がとろとろと流れる。
にゅぷ、ぬぷっ。淫らな水音に包まれた豪炎寺の性器はむくむくと形を変えて快楽を示す。
「ごうえんじ」
01二階堂の横に座る03二階堂が豪炎寺の顎を捉え、顔を向けさせた。
「気持ちいいか?」
「かん、とく。かん………、とく。かんとく……」
口をパクパクとする動きは言葉の数と食い違い、訴える豪炎寺の瞳は熱に潤む。
「可愛いなあ、お前は」
03豪炎寺の太い指が口内に入り込み、口を割らせて唾液を水のように流させた。
「あ……っ…あう、あ」
喋れない豪炎寺に03二階堂は優しく微笑む。
「愛しているよ。大好きだ」
愛の告白の中で02豪炎寺が性器の先端を吸いつけ、豪炎寺に射精をさせる。放たれた白濁02二階堂の口内に注がれ、呑み込めず唇の端についた汚れを指で掬って舐めた。
「豪炎寺が気持ちいいと、俺たちは嬉しいんだよ」
指を引き抜き、03二階堂は愛情をこめて豪炎寺に口付ける。02二階堂は身を起こし、豪炎寺の性器を片手で固定させて片手で扱く、第二波を促せようとさせた。すでに一回精を吐き出した性器はしっとりと濡れており、ぐちゅぐちゅと水音もより一層高まった。01二階堂の突起を愛撫する手も、きつく摘まんで刺激を強める。
「あっ、くあ、あううっ、ああ」
跳ねそうなほど豪炎寺は反応し、すぐにまた達してしまう。
「豪炎寺は相当溜まっているみたいだからな。いっぱい出すんだぞ。なにかしたい事があったら、正直に言いなさい。なんでもしてあげるから」
“なんでも”に豪炎寺は反応し、03豪炎寺に視線を送る。
「なにかあるのか?」
「俺も、したい、です」
快楽に流され、腰をかくん、かくんと揺らしながら豪炎寺は言う。
「なにが、したいのかな?」
「監督がしてる事、俺もしたい……」
上気させた頬をさらに染め、豪炎寺は放つ。
「俺も、かんとくの、しゃぶりたい。舐めたいです」
「ごうえんじ」
03豪炎寺に戸惑いが走る。豪炎寺の口での愛撫は二階堂本人が避けたがる行為。けれども豪炎寺の愛を欲する生体ドールは本人の願いを折る。
「いいよ。じゃあやってみなさい」
01、02二階堂は豪炎寺を解放させ、彼は四つんばいになった。その先に03二階堂が腰を置き、衣服が汚れないようにズボンと下着を下ろして豪炎寺と同じシャツだけの姿になる。
「さあ、おいで」
豪炎寺を呼び、己の性器を持って彼に向けさせた。雄々しい大人の男の性器――――二階堂の性器に豪炎寺は息を呑む。こうして目の前ではっきり見るのは初めてだった。これが、二人が愛し合う時に豪炎寺の身体を貫き、気持ち良くなるものかと意識すればよくこんなものが入ったと、どぎまぎしてくる。
「歯を立てずに上手に舐められるかな?まあ、俺たちは人形だから、少しぐらい失敗しても大丈夫だから、思うようにやってごらんなさい」
「はい…………」
二階堂の性器を受け取るように手で包み、唇を寄せた。
「…………あ」
口を開けるが入りきらない気がして一度首を引っ込めてから再挑戦する。
「ん」
かぽ。口内に入るが、それからどうしたらいいのかわからず、また引き抜く。唾液が糸を引き、とろりと伝う。
「…………んっ………んっ……」
咥えるのをやめ、舌先での愛撫に代える。チロチロと舌先で突けば性器がぴくんと反応し、その先の反応を伺うように手で擦り、一心に舐った。
頭を沈めれば腰が浮き、めくれたシャツから窄みが後ろで見守っていた01、02二階堂の目に留まる。窄みはひくひくと震え、二人の二階堂を誘う。彼らは大きくなってしまった欲望を抑えきれず、ズボンと下着を脱いだ。二人の視線と性器の方向の気配を悟り、豪炎寺は己の窄みを手で隠して振り向く。
「監督の、すけべ」
唇を尖らせるが、03二階堂に頭を抑えられて戻される。
「豪炎寺、余所見は駄目だぞ」
「は、はい」
返事をして、再び舐る。一生懸命になり、ぺろぺろと夢中でしゃぶった。
目の前にある二階堂の性器を愛撫しながら、背後で視線と性器を突きつけられる気配に身を焦がす豪炎寺。この異質な空間は、我に返れば卑猥に満ちて狂っていた。だがやめられはせず愛おしい"二階堂"を求めてしまう。
この姿を本人に見つかってしまえば、幻滅されるかもしれない。こんなにはしたなく、浅ましい姿を本人は知らないし、嫌悪さえ抱かれるかもしれない。
悩み、動きがぎこちなくなる豪炎寺の前に白濁がはじける。03二階堂の放った精は豪炎寺の顔をどろどろに汚す。
「あ…………ああ……」
放心しかけるのに、瞳は恍惚に細められていた。剥き出しになる本能は、より直接的に二階堂を貪欲に求めていた。
「あ!」
頭を床に押し付けられ、腰を上げさせられる。我慢できなくなった01二階堂の仕業だった。
そして02二階堂が窄みを指で開かせる。もう一つの口のように、それはぱくぱくと餌を欲している。
「駄目、です」
「っ」
豪炎寺の拒絶に、手を離し、うつ伏せから仰向けに転がった。
「かんとく、落ち着いてください」
自ら股を開くが、羞恥で顔は真っ赤で緊張で声が上ずる。
「する時は、顔、見たいです」
お願いをすれば、三人の“二階堂”は欲望を剥き出しにして豪炎寺に乗りかかった。
二階堂が家であるマンションに着く頃には、すっかり日は暮れてしまっていた。
「おうちだぞ」
車から降り、後部座席側の扉を開く。01豪炎寺はじっと俯いており、その視線の下にあるシャツの布がぐっしょりと濡れてしまっていた。どうやら運転中に達してしまったらしい。
「……………………………」
二階堂は手首の拘束を解き、ローターを引き抜いてジャージを羽織らせて身体を隠れさせて部屋に向かう。中に入っても反応はなく、01豪炎寺と同様に02、03豪炎寺は居間で猫が眠るように丸くなって動かない。
「二階堂監督、こいつらも起こさないと」
「わかっているよ」
二階堂は背を屈め、01豪炎寺の額に口付けを施す。驚いたように目を丸くさせて額を押さえる01豪炎寺。
「さっきはごめんな、意地悪して。お前が我慢するのわかって、挿れたままにした。ついお前を試したくなって」
「監督……俺は、いい子でしたか?」
「ああ、いい子だったよ」
ぎゅうと01豪炎寺を抱き締める。
「さあ、先にシャワーを浴びてきなさい。着替えは持ってきた木戸川のユニフォームと、コンビニで下着も買ってきたから。ユニフォームは捨てる予定だったものだから、尻尾の穴を開けても大丈夫だぞ」
「はい。自分で開けますので、ハサミを貸してください」
「わかった。怪我するなよ」
「はい」
着替えとハサミを受け取り、ぱたぱたと浴室へ向かう01豪炎寺。彼が湯を浴びている間に、二階堂は口付けで02、03豪炎寺を再起動させる。
「ん……監督……。お帰りなさい……」
「今、何時ですか?お仕事終わったんですか?ご飯、作りますね……」
「ご飯はお弁当買ってきたから、それを食べるよ。今、一番がシャワー浴びてる。お前たちも身体を流しなさい。着替えもあるぞ」
02、03豪炎寺も浴室に入れさせ、二階堂は一人で夕飯を食べた。一人になり、本当の豪炎寺にどう説明するかを考える。まず二人で答えたアンケートの話題でも出すかと思考を巡らす。
「二階堂監督、あがりました」
時間もそう経たず、生体ドールたちがあがってくる。木戸川のユニフォームを着て、尻尾穴を開けた姿を三人で披露させた。
「おお、上手いもんだな。自分たちで布団はひけるよな?今夜はもう寝てしまいなさい」
はーい、と行儀良く返事をする“豪炎寺”たち。二階堂は入れ替わりに浴室でシャワーを浴びた。なんとなく、携帯も一緒に持っていく。そうして上がって脱衣所で着替えると、本物の豪炎寺宛てにメールを打ち始めた。そっと居間の様子を覗けば、明かりは消されており、布団を敷いて眠っているドールたちが見える。
どこか安堵をして、メールを打ちながら脱衣所を出て、居間を通って寝室へ向かおうとする。その時だ――――。
「かんとく」
布団から腕が伸びて、二階堂の足を掴む。
「ひっ」
転ばずには済むが、思わず携帯を落としてしまう。
拾い上げる動作と共に、被っていた布団を剥いで出てきたのは全裸の“豪炎寺”たち。すぐさま衣服をどうしたかを見れば、枕元に綺麗にたたまれていた。
「かんとく」
にゃあーん。三人の“豪炎寺”が甘えた声で鳴く。横に転がり、足とぱたぱた、尻尾をふりふりさせながら声を揃えて放った。
「監督、セックスしましょう」
→
←
Back