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 漸く二人きりになった部屋で、ホーリィはほっと息を吐く。
 ユーデクスは、そんな彼の様子に笑みを深めた。
 自分の力が満ちた空間で寛いでくれる。そのことに、言い様のない歓喜が胸の底からわきあがる。
 ユーデクスは満たされた気持ちで、部屋に設置した柔らかなソファに身を預けた。
 そして、手招きをしてホーリィを呼ぶと隣に座らせ、、当然のようにその腕の中に収める。
 無意識だろう。甘えるように身を寄せてくる仕草が嬉しくて、ユーデクスは柔らかな白金の髪を指で遊ばせながらその温もりを堪能する。
「今日は随分とレイシオに突っかかっていたね」
「……すまない。自分でも、熱くなりすぎたと思っているんだ」
 古くからの馴染みで、他の天使たち以上に仲良くしていたといっても、やはり身分の差は歴然としている。
 レイシオの行動が目に余るとしても、智天使相手に突っかかるのは、座天使としてやはり拙い。
 今更指摘するほどのことでもないので、ユーデクスは黙っていたけれど。
「……レイシオ様は……大丈夫だろうか」
「なんとも言えないね。
 最近は、智天使クラスの天使が堕天したことはないけれど……何がきっかけで堕天するか、私には分からないから」
 そう、最愛の、魂を分けた友でさえ。
 神の身元を離れ、天界を去っていった。
 前兆がなかったわけではないが、それに対して何も対処できなかったのは確かだ。
 今思えば、もう少し……何か手があったのかもしれないけれど。
 少し寂しげなユーデクスの表情に、ホーリィは眉を寄せる。
 苦しげに。どこか決意を抱かせる表情で。
「少しでも、貴方の負担が減らせればいいのに……実際は、手間を掛けさせてばかりだ」
「ふふ。優しいね。
 だが焦らなくていい。此処は地上と違うのだから、時間はたっぷりとある。
 急いては事を仕損じてしまうよ」
 神妙な顔で頷くホーリィの頭をそっと撫でて、ユーデクスはその額に唇を寄せる。
 同時に祝福の力で優しく包み込みながら、その頭を膝へと導いた。
 頬に当たる暖かな膝と、優しく撫でる手の温もりに、少しずつホーリィの瞼が閉じていく。
「……ユーデクス……」
「うん?」
 ゆるゆると上がる細く形のよい指が、ユーデクスの頬に残る古傷を辿る。
 睡魔の波に揺れる白金の瞳が切なげに細められ、泣きそうに歪む。
「……あなたの隣に……戻りたい……」
 零された言葉に、ユーデクスの目が見開かれる。
 その真意を探ろうと、眠たげな友の顔を凝視するが、本人も驚いているようで。
 訝しげに瞳を揺らし、困惑しているようだった。
「……待っているよ」
 ユーデクスは、ホーリィの手に己の手を重ね、笑みを深める。
 泣きたくなるほどの、喜びを胸に。
「私の隣に立てるのは、君しか居ないのだから」
 小さく囁いた声は、僅かに震えていた。



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