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「…………ッ」

 崩れた像を追う様に、ユーデクスも黒い髪を揺らしてその場に膝を付く。
 像の名残の小さな雪山を、行き場を失くした指でさらに崩す。

 同じ色。
 綺麗な、綺麗な、あの天使と同じ色。

 もう二度と戻らない……会うことも、触れることも叶わない、最愛の友。

 自分が手に掛けた……滅ぼした、唯一無二の半身。

 力尽きるように、ユーデクスはその場に横になる。
 そこに失った者を求めるように、温もりを求めるように、崩れた雪山に頬を寄せて。
 豊かな黒髪が、長く白い衣が、雪の上に揺らめくように広がる。
「……人間は、寒い場所で眠ると、死んでしまう……」
 ぽつりと、呟いた。
 いつか、【彼】が教えてくれたこと。
 雪山など、寒い場所で眠ると、人間は死んでしまうらしい。
 勿論、天使が死ぬ事はない。
 だが、もし、このまま雪の中で眠り、存在を潰えることが出来たなら。

「……私も、君のところへ行けるかい……?」

 遠い昔、不安を投げかけた自分に、かえる場所は一つだと、答えてくれた。
 けれど今、此処に君はいない。
 もう、二度と、この腕に抱くことも、あの腕に抱かれることもない。
 ならば、いっそ自分から会いに行ったなら。行けたなら。

 もう一度、……今度こそ永遠に、共に在ることが出来るだろうか。

「……アイゼイヤ……」

 堪えきれず零れた名前。
 胸の中で守るように抱えている、愛しい、愛しい、半身の名前。

 待っていた。
 ずっと、ずっと。
 笑顔を貼り付けて、現実から目を逸らすように。

 本当は分かっている。
 【彼】が永遠に失われてしまったことを。
 他ならぬ自分自身が、彼の存在を奪ったのだから。

 それでも、認めてしまうのはあまりにつらすぎて。
 胸が、痛くて。

 こみ上げるものを堪えるように、ユーデクスは瞼を閉じる。
 どんなに感覚を研ぎ澄ましても、掴めるのは何もないただの闇。

 広すぎる世界に、独りきり。
 ここは、半身を失って生きていくにはあまりに寒く、心が凍えてしまいそうだ。

「私を、独りに、しないでくれ」
 小さな、小さな、震える声。

 届かない願いを乗せた一粒の雫が、積もる雪に滲みるように埋もれて消えた。



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