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 本来、悪魔や堕天使の討伐は、能天使の役目だ。
 強大な相手が対象の時は、能天使の統括を行うレイシオ自身が刃を握る事もある。
 当然、堕天前は智天使に属していたアイゼイヤの討伐は、レイシオが担当するはずだった。
 だがユーデクスの強い希望に、彼らは神に願って役目を交代したのだ。

 心優しい兄の言葉に、ユーデクスは微笑んで首を左右に振った。
「私は、自分の選択が間違っていたとは思わない。
 それに、私は君に感謝しているんだよ、レイシオ」
「感謝?」
「君が、私の願いを聞いてくれたことにね。
 もし、私に黙って【彼】を手にかけていたら……私は一生、君を許さなかっただろう」

 消すしかない存在なら。誰かに消されるくらいなら。
 自分の手で、終わらせたいと願った。
 誰にも、【彼】を奪われたくなかった。

 約束してくれたのだ。自分に黙って消えたりしないと。
 ならば、誰よりも近い場所で、その最期を見届けなければならない筈だ。

 その機会を作ってくれたこの天使には、感謝してもしきれない。
「でも、そのせいで君は自分を責めてるじゃないか」
 レイシオの言葉に、ユーデクスは再び首を左右に振る。
「責めては、いないよ」
 そう、責めていない。
 彼を殺した自分を、救えなかった自分を、責めてはいない。
 ただ……。
「……悲しい、んだ」

 一枚だけ、欠けた翼。消せない傷を残す肌。
 それ以上に、半身を失った心が、悲鳴を上げている。

 痛い。
 寂しい。
 悲しい。

 もう居ないのだと認めることを拒否して、耳を塞いで、血を流して叫んでいる。

 自分の皮膚と翼を裂いた、【彼】の攻撃の痛み。
 その隙を狙うように振るった、己の武器の重さ。
 【彼】の存在を、魂を裂いた刃の感触。

 何もかも、まだ、覚えている。
 忘れては居ない。この記憶から、失われては居ない。

 それでも……それでも。

「……会いたい、んだ……」

 ゆるゆると、ユーデクスの腕が持ち上げられる。
 崩れゆく笑顔を隠すように、両手で顔を覆う。

 どうして。
 どうして、彼は何処にも居ないのか。

 この世界の、どこにも気配を感じない。
 【彼】を失ったら、自分には何もなくなってしまうのに。
 後に残るのは、空っぽの心だけだというのに。

 この遺された記憶すら、少しずつ曖昧になって消えてしまうのか。
 かつてのように気軽に口にすることも出来ず、ただ胸に抱えて、必死に守っているこの名前さえ。
 忘却の彼方に消えて、この空っぽの心だけ残されてしまうのか。

「会いたい……」

 搾り出すように吐き出される願望。
 決して叶わない、夢。

 会いたい。
 会いたい。

 行き場のない気持ちばかりが心を埋め尽くし、今にも破裂してしまいそうだ。



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