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レイシオは、座ったまま俯くユーデクスの頭をそっと撫でる。
優しく、優しく。
そして、震える肩を見て、その頭を抱えるように抱きしめた。
「泣いて、いいんだよ」
「……っ……」
「ここには、僕しか居ないから。
泣いて、叫んだって、いいんだ」
促す優しい声が、ユーデクスのギリギリの理性を、最後の砦を打ち崩す。
受け入れるように抱きしめてくれる小さな体に縋り、濡れた絶叫を喘ぎ出す。
「……本当は、……本当は、行かないで欲しかった……」
それは、血を流す心の悲鳴。
決して取り戻すことの出来ない、過去を後悔する言葉。
「ずっと、傍に居て欲しかった……後を、追いたかった……っ」
何度、天を背にしようと思っただろう。
【彼】を蔑む心無い同族の言葉を耳にするたびに。
温もりを失った天界の、孤独な空気に晒されるたびに。
【彼】に会いたいと願っては、抗えぬ本能が……天使としての責務がその願いを殺した。
心は、こんなにも彼を求めていたのに。
「……傷つけたくなかった……滅したくなかった……!」
いつか、尋ねられたことがある。
生き返る薬と、復讐の剣。どちらか手に入るなら何人の人間が何を選ぶのか、と。
今なら言える。
たとえ禁忌であろうとも、薬が欲しい。
君を取り戻せるのなら、この翼など捨てても構わない。
「会いたい……痛い……胸が、痛いよ……アイゼイヤ……アイゼイヤぁ……ッ!」
実際は、どんなに望もうとも、何を犠牲にしようとも、その願いが叶うことはない。
叶うことは、ないのだ。
レイシオは、ユーデクスの言葉を、ただ優しく頷いて聞いていた。
許すように、受け入れるように。
聖母のような暖かさで、見守っていた。
涙が枯れるまで。
声が嗄れるまで。
泣いて、泣いて、泣いて。
子供のように泣きじゃくって。
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