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優しく……まるで愛を囁くような優しさで囁かれる、非道な言葉。
ここまでされて、まだ抵抗の意思を示せというのか。
サタンと呼ばれた魔人は、横暴な相手に更に憤る。
事実、彼の今の状況は、凄惨なものだった。
自慢の角は一方を無造作に蹴り折られ、それだけでは飽き足らず、手足と長い耳は荒々しく引きちぎられ、常人ならば死んでもおかしくない程の出血を強いられている。
それどころか、抵抗できないその体を無理矢理最奥まで暴かれ、散々体内の奥深くにその体液を注がれ、陵辱の限りをし尽くされた。
光と闇、神と魔王。
決して受け入れることの出来ない相反する力を孕んだそれは、体力も魔力も容赦なく削っていき、消耗しきった体はもはや限界に近い。
いっそのこと、壊れてしまえば楽になれるだろうに。
それでも決して屈することの無い……気を失うことさえ許さない強靭な精神と自尊心は、この状況において残酷なほど、サタンの意識を明瞭に保っていた。
だからこそ、彼は。
「……ッ!!」
この世の全てのものが視線だけで射殺せるほどの殺意を持って、否、それだけの魔力を込めて、目の前の憎い男を、その漆黒の瞳で睨みつけた。
瞬間、黒い炎に身を焼かれる感覚が、デウスを襲う。
「くくっ……そうでなくては面白くない」
咄嗟に防御壁を張っても尚、灼熱の憎悪に力を、存在を削られながら、しかしデウスはゆったりと笑みを吐き、魔力を放つ瞳に指を伸ばした。
細く華奢な白い指が、闇に焼かれて爛れ腐敗しても、彼の顔は一切変わらない。
徐々に顔との距離を縮める指。真っ直ぐに黒い瞳へと向けられたそれが、瞬きすらしない眼球に直に触れる。しかし、指の動きは止まらず、容赦なく瞼と球の隙間に潜り込んだ。
「……あ゛がぁ、ぁあッ……」
サタンの喉から上がる悲鳴。無理も無い。麻酔すらなく、眼を抉られるのだから。
デウスはその悲鳴にすら何も感慨を覚えた風なく、そのままその赤い眼を収まるべき場所から抉り取る。
そして、ぶちぶちと嫌な音を立てながら、神経を、血管を引きちぎるように無造作に己の側に引き寄せた。
手の中に納まる、赤に濡れた美しい宝石。人間ではありえない赤い眼球と、その中に置かれた吸い込まれそうな程深い闇色の瞳。
「あぁ……いつ見てもお前の目は美しいな……」
デウスは目を眇め、爛れた己の手を治す事も忘れて、それに口付ける。
緑の瞳が隠すことなく語るのは、愉悦と歓喜。
彼は、ぺろり、とまるで飴玉を舐めるように黒い瞳の部分に付いた血を舐め取り、うっすらと嗤った。
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